カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



55話 猫耳あるいはヘッドホン

 

 「……さて、こちらが生徒会室です」

 

 ……どうやら、生徒会に加入するために必要な書類が生徒会室の中にあるそうでして。

 

 あの後そのまま、3人揃って天柄さんに、ここまで案内されました。

 

 

 ……何と言いますか、別に逃げるつもりがあるというわけではないのですが……まるで、絶対に逃さないとばかりの即断即決です。

 

 

 ──別に、明日とかでも良かったのではないでしょうか……。

 

 

 ……あたしは心の中で、こっそりとそんなことを思いながら。

 開かれた扉を、通ることにします。

 

 

 「……おお」

 

 先に部屋に入った有栖さんが、声を漏らしました。

 

 

 ……後に続いて、あたしも入ってみますと、そこには。

 

 まずお金持ちの人の家とかにありそうな、絨毯が、目に入ります。

 ……芸術品の良し悪しなんてさっぱりですが、細かい刺繍がされていて、とても、高そうです。

 

 続いて、よく手入れがされているのか、青々としていて葉にツヤのある、あたしの背丈よりも大きいくらいの、立派な観葉植物なんかもありまして。

 

 他にも、いかにも座り心地の良さそうな革の椅子や、おしゃれなカーテンに彩られて並ぶ窓ガラスに、天井でぐるぐる回る謎の木製のプロペラと……。

 

 

 ……その、とにかく、雰囲気のある空間でした。

 

 

 ……そして、そんな、学校の中とは思えない、高級感あふれる一室の、教卓のような、独立した1つの机に。

 

 ──頭に2つの三角形を生やした、中学1年生くらいと思われるの背丈の女の子が、寝そべって、ポテチをつまみながら、完全に脱力した様子で、ゲームをしていました。

 

 

 「……水無川会長。何を、しているのですか?」

 

 声に温度があったなら、確実に温度計が氷点下を指し示すであろうと思われるような声色で、天柄さんが、その、水無川会長……?という方に、声をかけました。

 

 

 ……会長、というのは、まさかとは思いますが、生徒会長、ということなのでしょうか……?

 

 だとしたら、と言いますか、だとしなくても……ではありますが。

 

 その……たしか、校則でゲーム機類の持ち込みは、禁止だったと思うのですが……。

 

 

 「んぇ?いーじゃん別に、誰か来るわけでもないん、だ……し?」

 

 

 ……その、水無川さんは、寝そべった姿勢はそのままに、頭だけを動かして、こちらに視線を向けると。

 

 ──途中で、固まってしまいました。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……そこには、気まずい空気が、流れていました。

 

 

 ……。

 

 

 ……頭から生えた2つの三角形──つまり、ネコミミ型の2つの三角形が付いたヘッドホンをつけたまま。彼女は、ゆったりと、椅子から立ち上がりました。

 

 

 「……1年か。よく来たな。歓迎しよう。わしは生徒会長の水無川 焔夏(みなかわ ほのか)じゃ」

 

 

 周りに、うっすらとポテチの食べカスをくっ付けていることに気がついていないのか、水無川さんは、堂々と胸を張って、名乗ります。

 

 

 ……もしかして、あのファーストコンタクトを、無かったことにしようとしているのでしょうか……?

 

 

 「……水無川会長は、少しでも威厳を出すために、去年頃から、お祖父様の口調を中途半端に真似ているのです。……本人は威厳のある態度が作れていると思い込んでいますので、仮に、奇妙な口調だな、と思ってもあまり触れてあげないでください」

 

 

 ……あたしたちが固まっていると。

 

 天柄さんが、どう考えても水無川さんにも聞こえるであろう声量で、あたしたちに、形だけは内緒話のような格好で、ひそひそと、補足をしてくれました。

 

 

 「え、どうしてそんなこと言うの……?」

 

 

 水無川さんが、悲しそうに呟きますが、天柄さんの耳には入っていなかったようで……。

 

 

 「──改めまして、副会長を務めております。天柄由依です。天柄副会長、では長いと思いますので、ご気軽に会長、と略して呼んでくださって構いません」

 

 

 改まって、自己紹介を始めてしまいました。

 

 

 その言葉を聞いて、水無川さんが異議を唱えようとしたようですが、それよりも先に、天柄さんが胸ポケットから取り出した、一本おおよそ10円くらいの棒状のスナック菓子によって、口が塞がれてしまいました。

 

 

 もがもがと不満そうに抗議する水無川さんを見て、あたしたちは、困って顔を見合わせましたが、もはやそういうもの、と受け入れたのか、有栖さんが、3年生2人の方へと向き直って、口を開きました。

 

 

 「──えっと、ボクは夢園有栖です!よろしくお願いします!」

 

 有栖さんの元気のある一言に、あたしたちも、ようやく「自己紹介をしなければ」と、気持ちが切り替わりました。

 

 

 「湖織雪菜、と申します。よろしくお願いいたします」

 

 有栖さんに続いたのは、雪菜さんでした。

 

 気品、と言いますか、礼儀、と言いますか。

 ……どことなく、慣れを感じる、姿と口調でした。

 

 

 「……あ、えっと、雲田、香澄……です。よろしく、お願いします……」

 

 ……対してあたしは、元気さもなければ、言葉もつっかえつっかえで、ダメダメでした……。

 ……ごめんなさい。生きててすみません……。

 

 

 「……うむ、よろしくじゃ!……しかし、なるほど、な。……ふぅむ」

 

 口の中に突っ込まれたスナック菓子を食べ終えた水無川さんが、あたしたちの挨拶に対して返事をして。

 

 

 ……そして、何かを考えるような姿勢を見せました。

 

 

 「……なんて言うか、早くない……?まだ歓迎会の準備もしてないし、なんなら、わし以外の生徒会役員、もうみんな帰ってるぞ……?」

 

 そして、改めて困惑したような様子で天柄さんに尋ねる水無川さんの姿に、また再び、空気が弛緩しました。

 

 

 「……えっと、他の人たちって、その、忙しいとか、ですか?」

 

 有栖さんが、率先して、会話を試みます。

 

 

 ……と言いますか、あたしのことは一旦棚に上げますが……その、雪菜さんも、こういう時あまり喋らないんですね……。

 

 

 心なしか、あたしたち1年生組は、今のところ、有栖さんしか自発的に喋っていない気がします……。

 

 

 「……んぇあ、それはわしが1人だけ暇をしていると……?普通、逆ではないのか……?定時で帰る方が暇そうに見える側では……?」

 

 

 ……ポテチの袋に手を伸ばしながら、水無川さんは抗議をしますが。

 

 頭につけたヘッドホンの線が伸びる先にあるゲーム機と言い……その、説得力がまるでないです……。

 

 「まあ……ちなみに言うと、他のメンバーは特にやることもないし、時間的にもそれなりに遅いしで、普通に帰った」

 

 水無川さんが指を指す先に目を向けると、そこには時計がありまして、確かに、下校時刻のギリギリのあたりを指していました。

 

 

 「……今のところ、生徒会のやることといえば……まあ、1年生からの生徒会新規加入者を募るくらいしかなかったし……それにしたって、手当たり次第というわけにもいかないから。……今の時期って本当にやることがあんまりないんじゃよね」

 

 

 ……椅子に座り直して、地面に届かない足をぶらぶらと揺らしながら。

 水無川さんが、教えてくれました。

 

 

 「……ところで、本当に、生徒会入ってくれるっていう話であってるの?わしらとしては、その、実力の程は聞いているから文句はないし、むしろ仕事が減って嬉しい話じゃが……いや、本当にありがたい話なのじゃけど」

 

 

 「え?うーん、それで合ってる、かな……?」

 

 何故か、有栖さんが、急にこっちを見てきました。

 

 

 ……まあ、生徒会に入りたい、という気持ちが最初からあったわけではないので、何とも言えないところはありますが、元々、『チーム』を探していたので、都合の良い話では、あります。

 

 今更否定する理由も、特に、ないでしょう。

 

 

 「……えっ、えっと、は、はい……」

 

 

 ……あたしが、不安な気持ちを抱えながらも、肯定すると、水無川さんが、嬉しそうに……と、言いますか、安堵したように、柔らかい表情を見せました。

 

 

 

 ……こうして、生徒会に入ることになったのですが。

 

 ……返事をするのは、別にもう少し考えてからでも良かったんじゃないか。と、いうことに気がついたのは。

 

 ……お家に帰って、夜ご飯を食べ終わった後の、ことでした。

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