※香澄視点です。
……生徒会に入ることになりましたが、正式に入る形になるのは、もう少し後なのだそうでして。
放課後、あたしたちは3人で集まっていました。
……場所は、学校から少し歩いたところにある、ちょっとおしゃれなカフェという、あたしが普段行かないようなところです。
あまりお腹いっぱいになると夜ご飯が食べられなくなってしまいそうなので、少し小さそうなやつを選んで、注文しました。
具体的に言うと、ミニサイズのパンケーキに、ソフトクリームの頭の部分みたいなのが乗ったやつで、最近、少しずつ暑くなってきたような気がするので、ちょうど良いような気がして、選びました。
ついでに言うと、有栖さんが選んだのは、パフェみたいなやつで、雪菜さんは、クレープを注文していました。
飲み物は、あたしがオレンジジュースで、有栖さんが、何かの呪文みたいなカタカナの並んだよくわからない飲み物で、雪菜さんがアイスコーヒーです。
……有栖さんのはどんなやつが来るのかわからないのでなんとも言えないですが、あたしはコーヒーの苦味が苦手なので、雪菜さんがコーヒーを頼んでいるのを見て、すごいなあと思いました。
「……で、当日、どうする?」
注文を待っている間に、あたしたちは、顔を突き合わせて話します。
その議題は、テーブルの上に乗る、2枚の紙──チケットについて、です。
……これは、近日行われる、『ファントムビルド』のプロの大型大会決勝のペア観戦チケットで、なんと、雪菜さんが、知り合いの方から2枚もいただいた、とのことです。
……ペアチケットが2枚なので後1人誘うことができる……というのは一旦置いておきまして。
当日、会場周辺は混み合うことが予想されますし、交通手段についても、考える必要があります。
あとは、当日は連休なので、どうせなら行って帰ってくるだけ、ではなく、せっかくだから観光もしたい、というお話もありまして……。
……それで、こうして予定を立てよう、というお話になったのです。
「……やっぱり、新幹線と電車で行くとして、金曜の夕方ごろに出発して前日のうちに現地の近くに行くのが良いんじゃないかしら?」
雪菜さんが、提案します。
……それはつまり、どこかに泊まる、ということでしょうか。
家族以外でそういったことをするのは修学旅行以来なので、考えただけで、緊張しそうです……。
「ボクも賛成かなー。香澄ちゃんはどう?」
前日入りして朝まで泊まる、ということについては、有栖さんも、同じ意見みたいです。
「……え、えっと、はい。あたしも、それがいいと思います」
あたしとしても、緊張こそせよ、嫌がることはないかなと思いましたので……賛成に、票を入れたいと思います。
「オッケー、じゃあ、そうするとして……」
有栖さんが、会議を進行するようです。
「予算とかって、どうする?あんまり高いところにするのも、どうかなって気もするし……」
……予算は、確かに、ちゃんと考える必要があります。
特に、このイベントが行われるのは、かなりの都会で、お高いところは、本当にお高いのです。
それこそ、一度あの『全国中学生大会』で行ったことがありますが、あまりの人の多さと、物価の高さに、圧倒された記憶があります。
優勝した日の夜に食べたお寿司の、お値段『時価』という謎の概念と、翌日以降の1ヶ月くらいの間、夕飯のおかずが一品分程減ったことが、特に印象的でした。
「──うーん、ここなんかいいんじゃないかしら」
……あたしが前の記憶を思い出している間、有栖さんと雪菜さんは、各々スマホで宿泊先を探し始めていたみたいで、あたしも、慌ててスマホを取り出しました。
それから、雪菜さんの見せてくれた画面を見てみたのですが……。
「……ちょっと、お高いかなぁ……」
有栖さんが、難色を示します。
……あたしとしても、そこは少し高級そうで気が引けてしまったので、有栖さんに同意しました。
「……そっか。そうね……」
雪菜さんは、特に強くそこがいい、と思っていたわけでもないみたいで、あっさり意見を引っ込めました。
「……別に泊まれないことは全然ないだろうけど、学生の身でそういうところに行くのって、こう、場違い感……?みたいなのがない?」
……確かに、『イミテーション』の収入やら何やらで、泊まろうと思えば泊まれはするでしょう。
しかし、その『場違い感』という有栖さんの意見には、激しく同意します。
「やっぱり、こういうところでいいんじゃない?」
そんな有栖さんがスマホで見せてくれたのは、いわゆる、ネットカフェ、みたいなところでした。
……まあ、確かに、1泊泊まるだけなら、アリではある……のでしょうか?
「……3人で一室ってこと?まあ無理ではないでしょうけど、せっかくあっちの方まで行ってそれって、少し寂しくないかしら?」
……別に現状お金に困ってるってわけでもないでしょう?と、雪菜さんが反対します。
……確かにそれもそうなのですが、うーん、どうしましょう……。
あたしも、スマホで適当に調べてみますが、いまいちこういったことを調べたことがないので、よくわかりません。
とりあえず、地名を入力して、間にスペースを入れてからホテル、と、入力します。
せめて、何か案を出さないと、という焦りもありまして、値段だけパッと見て、詳しいところは見ずに、スクロールして行きます。
……そして。
全然よくわからなかったので、適当なとこで止めて、お2人に、スマホの画面を見せます。
……値段は、まあ悪くはなさそうです。
……が。
何故か、2人とも、固まってしまいました。
雪菜さんに至っては、珍しく言葉がうまく出てこないみたいで、口を中途半端に開いています。
「……うーん、そういうのは……大人になってからじゃないかな……?」
有栖さんが、何故か少し気を遣っているようなやんわりとした言葉選びで、拒否してきました。
……大人、とは……?
差し返されたスマホの画面を、ちゃんと見てみると、そこには、いわゆるキングサイズのベッドが写っており、ムーディな薄明かりに照らされているのがわかります。
……。
……もしかして、ですが。
……これが俗にいう、カップルがよく行くと言われる、ところ……なのでしょうか。
「……あ、えっと……すみません……」
急に湧いて出てきた、顔から火が出てきそうなくらいの羞恥心に襲われながら、なんとか声を絞り出します。
「あはは……まあ、そんなに気にしなくても……」
……それは、有栖さんが、フォローしようと口を開いたその時でした。
「むむっもしや今、えっちなお話してるー……?」
──隣のテーブルから、あたしたちと同じ制服を着た、知らない人が、急に声をかけてきました。
「え、いやしてないですけど」
反射的とも言える速度で、雪菜さんが否定しました。
「あれぃ?そっかぁ……」
否定されたその人は、残念そうに、肩を落としました。
……その、一体、この人は何なのでしょうか……?
「……ん、あー……いやぁー……急にごめんねぇ……。うち、
……なるほど、そうなんですね……。
……。
……そうなんですか?!
「……えっ、生徒会の、書記……?」
……誰の言葉かはわかりませんでしたが、この場にいた3人の全員が、同じように、驚きました。
「そそ。そーなの、で、君たちが1年ずとして入ってくれるっていうのは聞いてたんだけど、まあ、たまたま隣の席だからと言って声かけるのもなぁ……って、気にしないことにして、いつも通り今年の同人誌のアイデア出ししてたらー……なんだか面白そうな話が聞こえてきた気がしたんだよねー……」
何だか眠たそうに、あくびを噛み殺しながら、奈々実さんは、話します。
……。
……奈々実さんのお話に、なんとも言えない空気が漂い、しばらく、沈黙が流れました。
「……まあ、気のせいだったみたいだから、ごめんねー……」
沈黙に耐えかねたのか、奈々実さんは、マイペースに、目の前の真っ白なノートに、向き直ります。
──そのテーブルの上には、パフェやパンケーキ、クレープにプリンなど、1人で食べる分とはとても思えないくらいの、たくさんのデザートが、乗っかっていました……。