※香澄視点です。
60話 旅行あるいは休息
夕方。
あたしたち3人は、電車に、乗っていました。
たまたま席が空いていたので、テーブル席みたいなところに、腰をかけています。
学校が終わってすぐに電車に乗りましたが、かなりの距離があるみたいなので、到着までは、多分、まだもう少し時間がかかりそうです。
……そういえば、先日奈々実さんからいただいたゲームについては、その日の夜に少しやってみましたが、結構、面白かったです。
『イミテーション』をしている時と同じような、何かが足りていない……というような、そんな違和感はありますが。
それでも、何となく、『イミテーション』ほど本物に近い形になっているわけではないからか、『ゲームはゲーム』という風に考えることで、気にならない程度ではあります。
……えっと、それで、内容としましては、β版なので、ストーリーは少しやったら製品版をお待ちくださいという画面が出てきまして、NPC戦はまだ数回しかできていませんが。
あたしのような知識の少ない人でもやりやすいよう工夫がされていたような感じだったので、なんとなく、『ファントムビルド』についてかなり理解が深まった……ような気がします。
実のところ、今も、少しNPC戦をやっていまして。
……ようやく、コンピュータレベル4くらいなら、ある程度勝てるようになってきました。
ちなみに、コンピュータレベルは現状最大が9みたいでして……そっちの方は、まだまだ、勝てそうにありません。
そして今は、レベル5のNPCに挑んでいるのですが……。
8ターン目。
──こちらの勝ちがあったみたいなのですが、時間内に見つけることができず、中途半端な動きをしてしまい、時間切れによってターンが移り……負けました。
……ゲーム性を高めるため、ということで、こちらのゲームには、制限時間、というものが設けられており、何をしようか考えていると、無情にもどんどんタイマーが進んでいくので、中々、難しいです。
ただ、これがあることで、時間内になんとかしないといけない、という意識が出てきたのか、始まる前よりも、知識が身についた……ような気がします。
あと、ついでに言うと、『AIによる戦況分析』という機能がありまして。
こちらを使うと、盤面や領域のカードや、墓所に送られたカード、公開された手札などの、『見えている情報』だけで、戦況について教えてくれます。
……今、あたしはこの機能をONにした状態で遊んでいるので、『このターンでソーサラーの体力を削りきれますよ』みたいなことを教えてもらったりしているのですが……それでも、今回みたいに、うまくいかないことが多いです。
……実戦では、こんな機能は当然ないわけですが、皆さんは、果たしてどうやって戦っているのでしょう。
……まあ、いつかこの機能をOFFにした状態でコンピュータレベル9に勝てるようになったら、その時は、明確にうまくなった、と、言えなくもなさそうな気がします。
……ともかく、コンピュータレベル5とのバトルを、敗北という形で終えたので。
何となく、顔を上げますと、ちょうど、電車のアナウンスが聞こえてきました。
……どうやら、次の駅に着くそうで、アナウンスが終わると、少しずつ、スピードが緩んでいくのを感じます。
「……お、この駅だね!」
電車がスピードを落とし終え、止まりますと、電光掲示板のようなところに、現在停車中駅というものが表示されまして、そこに表示されていたのは、ちょうど、あたしたちが降りる予定の停車駅でした。
「さて、降りるわよ」
……電車が停止したタイミングで、雪菜さんが椅子から立ち上がり。
同じタイミングで、有栖さんや、あたしも、立ち上がります。
「……忘れ物とかはないかしら?」
雪菜さんがそう言い、あたしたちも確認をしますが、大丈夫そうです。
……まあ、元々、それぞれ荷物は1個のケースにまとめて来ているので、各々がそれをちゃんと持っている以上、大丈夫でしょう。
……椅子から立ち上がった瞬間に思ったことは、思ってた以上に、人が多くなっていた、ということでした。
ずっと、座って、画面を見つめて『ファントムビルド』のゲームをしていたので、気が付いていませんでしたが、この辺りまで来ると、人が、かなりの量に、なっています。
……そして。
扉が開き、その外側が、見えてきます。
……そこには、電車の扉を待つ、たくさんの人がいました。
今から降りるので、まだいいですが、ただでさえ人が多いあの車内に、これだけの人が押し込まれたら……と思うと、少しだけ、恐ろしく思えてきます。
……それで、乗車する人よりも降車する人の方が優先、というルールがありますので、それのおかげで降りること自体はスムーズに行きまして。
ついに、到着、です。
「ふう、とりあえず、第一目標は達成ね」
……雪菜さんが、安心したように、息をつきます。
「見てみて、夜景、すごいよ!」
……そして、有栖さんが、指を指す先を見ると、そこには、たくさんのビルが、光を灯していて、幻想的と言いますか、なんだか、圧倒されるような、感じがしました。
「……あれ、多分オフィスビルだから……電気付いてるのはまだこの時間でも働いてる人がいるよーっていうことなんだよね」
指を指しながら有栖さんはそんなことを言いました。
「……えっと、大人の人って、こんな時間まで、働かなきゃいけないん、ですね……」
……そのようなことを言われると、景色の綺麗さ、なんて、どこかに吹っ飛んでいってしまいそうです。
大人になるって、怖いんですね……。
「……まあ、全部が全部そうとは限らないし、もしそうだとしても、誰かしらいなきゃいけない決まりがあって交代制でやってる、とかかも知れないじゃない」
あたしがたくさんの電気のついたビルに、一種の恐怖を覚えていると、雪菜さんが、バッサリと、そう言いました。
……まあ、そうですね。
わからないことをわからないままに決めつけて、ああだこうだと考えるのは、まあ、あまり良くないこと、ではあります。
「えーっと、ホテルは……ここからあっちの方に歩いて15分くらいだね」
……それから、迷路のような駅から、どうにか、出て来まして。
有栖さんが、次に指差したのは、夜の道の向こう側でした。
……夜の道、ではありますが、あちこちで電気が付いていますので、まるで、昼間のような明るさです。
ごくり、と、駅を出る前に買ったジュースを、一口飲みます。
炭酸が口いっぱいに広がり、少しだけ……頑張って歩こう、という気持ちに、なれた気がしました。
「……よし、行こう」
アウェー感、と言いますか、慣れない雰囲気に物怖じするような気持ちを抑えて。
……あたしたちは、歩き出します。
……。
……そして、ようやく、着きました。
時間としては、確かに15分程……ではありましたが、慣れないところだったことや、荷物を持っていたこともあり、それ以上の時間を、歩いて来たような、気がします。
中に入って、チェックイン、というものを済ませて、鍵を受け取ります。
……入った時からずっと思っていたことではありますが、ここもまた、ビル街の夜景のような、圧倒されるような、光景でした。
──大きな、床と天井に、大きな、芸術的な絵画のようなものが描かれていまして。
そして、室内であるにもかかわらず、川や池のようなものがあり、おそらく鯉と思われる魚が、何匹か泳いでいます。
……そして、鍵を受け取った後に、エレベーターに乗りまして、
エレベーターの中は、床と扉、天井以外がガラス張りで、外側の景色が見られるように、なっていました。
オレンジがかった灯に照らされた、各層が、建物の外……おそらく庭と思われる場所の、薄い光でライトアップされた竹などのちょっとした植物が、なんだか、高級感のある雰囲気を感じさせます。
……何と言いますか、こんな立派なところに、あたしなんかがいても、いいのでしょうか……。
……。
……えっと、それで、エレベーターが、目的の階に到着しまして。
鍵に書かれた名前の部屋──どうやら、部屋1つ1つに名前がついているみたいです……を見つけ出しまして、中に、入ります。
「……おお」
「ふう、ちょっと疲れたかも……」
「いやー、やっと、ついたって感じだねー」
……思い思いの言葉が、それぞれの口から出てきます。
第一印象は、大きな部屋、と言ったところでしょうか。
既に布団が敷かれていて、ようやく、ゆっくりできそう、と言った感想です。
……夕飯までは、まだ時間があり、建物の中を見て回ることもできるかと、思いますが。
少し疲れた気がするので、それは一旦、ここで少しだけ休んでからにしようと、思いました。