※香澄視点です。
軽く1時間程度の休憩を挟んで、それから、夜ご飯を食べました。
夜ご飯は、1階の、学校の体育館よりも大きいくらいの部屋で、食べ放題形式でのご飯でした。
……そこでは、刺身やお肉、蟹や、麺類、パン類。それから、デザートや飲み物まで、たくさんの種類の料理が、ありました。
残念ながら、と言いますか、途中でお腹がいっぱいになってしまいましたので、せっかく色々あったのに、あまり多く食べることはできませんでしたが……。
一応、明日の夜もここに泊まるので、その時こそ、リベンジを果たしたいと思います。
……それから、なんでもこのホテルには温泉も付いているみたいですので、今から、そこに向かおうということに、なっています。
ホテルの方で、タオルや、お風呂に入った後に着る用の浴衣の貸し出しが、無料で、部屋に1人1セット分用意されてありましたので、そちらも、お借りしまして。
……3人で、大浴場へと、向かいます。
「……夜ご飯美味しかったねー」
有栖さんが呟く言葉に、あたしも、首を縦に振って、同意します。
「そうね。……それにしても、流石に2人とも食べ過ぎじゃないかしら?」
雪菜さんが、呆れたように言います。……が、あたしに言わせれば、むしろ、せっかくの機会なのに、ここで食べ過ぎちゃうくらいに食べないでどうするのか、と聞きたいところです。
……あ、いえ、もちろんそんなことを面と向かって言ったりはしないですが……。
「そうかなー?そんなこと言って、雪菜ちゃん、デザートはいっぱい食べてなかった?」
有栖さんの言葉に、雪菜さんは、うぐ、と、言葉が詰まりました。
……確かに、そう言えば、あたしたちがお肉やら蟹やら取って食べて取って……ということをしている間に、いつの間にか……割と早い段階で、デザートに移行していましたが、食べ終わったタイミング自体は、同じくらいだったような、気がします。
「……雪菜さん、って、そんなに食べてたんですか……?」
あたしが聞くと、雪菜さんが口を開くよりも早く、有栖さんが反応しました。
「そうだよー?案外こう見えて、雪菜ちゃんは結構食いしん坊だからね」
……有栖さんの言葉に、雪菜さんは、不服そうに顔を逸らしましたが、そのおかげで、耳が赤くなっていたのが、よく見えました。
「……甘いものは別腹なんだから、いいじゃない、別に」
……考えてみると、あたしたちは、お腹がいっぱいになって脱落したような形でしたが、雪菜さんは、それに合わせるような形で食事を終えました。
あの時は、単にすぐお腹がいっぱいになってデザートに移って、あとはのんびり1つ1つを食べていた……と、思っていたのですが。
もし、食べていた量自体はそう変わらないものとしたら、有栖さんの言う通り、この中で1番多く食べられるのは、雪菜さんなのかも知れません。
「……食べ物の話はやめにしましょう。ほら、大浴場って、ここでしょ」
……本当は、食べてすぐにお風呂というのは良くないそうで、先にお風呂に入ってからの方が良かったみたいなのですが、先に食べてしまったものはもう仕方がありませんし、消化のために時間を置くことが必須と思えるほどにはお腹いっぱいにはしていませんので、まあ……よし、ということにさせていただきます。
……赤い色の暖簾をくぐり、脱衣所を通りまして。
必要なものをロッカーに入れて、鍵をかけたら、その鍵を手首の辺りに付けて、浴場へと、足を踏み入れます。
足裏に伝わる濡れた石の感覚と、硫黄のような匂いが、視界一面に広がる湯気が、自分が今、おうちのお風呂ではなく、温泉に来ているのだということを、実感させます。
……それから、体を洗い、いくつかの種類に分けられた温泉に、浸かりまして。
……すっかり、日々の体の疲れや煩悩が、綺麗さっぱり洗い落とされたような、そんな気持ちで。
あたしたちは、浴衣で身を包んでいました。
……。
……そして、温泉から出ての、借りている部屋に向かう途中。
……雪菜さんが、突然、ボソリと呟きました。
「……香澄、あんた今まで知らなかったけど、意外と着痩せするタイプだったのね……」
──えっと、急に何の話でしょうか……?
あたしが困惑していると、雪菜さんは天井を見上げて、「裏切られた気分だわ……」と、続けて呟きます。
……もしかして、食べ過ぎでお腹が出ていたということでしょうか。
……だとしたら、急に面と向かってそんなことを言われたあたしは、一体なんて返せばいいのでしょう……。
……いえ、その、だとしたら裏切られたという言葉の意味がわからないのですが……。
……あたしが困って有栖さんの方をみると、有栖さんは、肩をすくめて、苦笑いをしていましたので、あたしもつられて、曖昧に、笑いました。
雪菜さんは、その様子を見て、さらに気を悪くしたのか、無言で途中にあった自動販売機に立ち寄ると、コーヒー牛乳を1本、買っていました。
お風呂上がりのコーヒー牛乳は美味しいと聞くので、あたしと有栖さんも、それぞれ1本ずつ買いまして。
……それで、そのまま、3人で、部屋へと向かうことになりました。
……。
……部屋に着いてすぐに飲んだコーヒー牛乳は、温泉で温まったばかりの体には、とてもひんやりとしているように感じて、噂通り、とても、美味しかったです。
雪菜さんも、それは同じように感じたそうでして。
……なんだか気まずい雰囲気でいたのが急にバカらしく感じて、誰からともなく、笑い出したり。
有栖さんの持って来たパーティーゲームで、気付いたらそのゲームに慣れている有栖さん対あたしと雪菜さんの2対1になったり。
電気を消して、突然ホラーゲームでリレーみたいなことを始めたと思ったら、あっという間にゲームオーバーになったり……、そのままゲーム機の電源を落として、横になってのんびりと明日に向けてのお話をしたり……。
……そんな感じのことをしていたと思ったら、いつの間にか、眠っていたようで……。
──朝の日差しが、カーテンの間から差し込んでいました。
……いつの間にか眠っていたので、目覚ましのセットをし忘れていましたが。……慣れない場所だったからか、思いの外、早い時間に目が覚めました。
お2人はまだ寝ている様ですので、部屋の中の、別室……?に移りまして。
この前に買ったばかりのイヤホンをつけて、スマホに入れてある、ラジオ体操の音を流して、日課をこなします。
……ラジオ体操を終えると、すっかり目が覚めまして、今度は、少し、お腹が空いていることを、実感します。
ただ、まだ元々の起きる予定の時間までは1時間程度あり、急に起こすのも気が引けますので。
……大人しく、適当に見かけた、座り心地の良さそうな椅子に腰掛けまして、スマホのゲームを立ち上げます。
いつの間にか眠ってしまったというお話ではありましたが、部屋に戻って、割とすぐの段階でスマホを充電器に接続していたので、充電は、バッチリです。
……そして、あたしが腰掛けた椅子は、いわゆるマッサージチェアと呼ばれるものでして、体にフィットするように作られているものですから、想像の3倍くらい、快適でした。
……そして、しばらくその快適環境でゲームをしていましたところ……。
けたたましい大音量で、アラームの音が、鳴り響きました。
そのあまりの音の大きさに、耳を押さえて、雪菜さんが飛び起きまして。
……それからゆったりと、有栖さんが起き上がりました。
目覚ましの音が消え、カーテンが開け放たれます。
……カーテンの向こう側に広がる景色は、当たり前ではありますが、いつもと、違っていまして。
──そんな風に、普段とは違う1日の始まりを強く感じたせい、なのか。
……なんとなく、心が浮つくような、そんな気持ちになりました。