※香澄視点です。
夜ご飯を食べた場所と、同じところで、朝ご飯を食べました。
朝も、夜と同じようにバイキング形式でしたが……夜の時と違って、ソーセージやハム、野菜やお味噌汁など……そんな感じの、朝食っぽいものが、並んでいました。
その中でも、あたしの、個人的なお気に入りはと言いますと。
……目の前で、お願いしたものを入れて焼いてくれた、オムレツ、です。
半熟で柔らかく、中に好きなものが入っているというのが、とても良かったと、思いました。
……そうして。
夜には戻ってくるので、必要なものや貴重品を身につけて、嵩張るものは置いておいたりという準備も、時間にそこまで余裕があるわけでもないため、テキパキとこなしまして。
……あたしたちは、既にホテルの外に出て、駅の中にいます。
雲ひとつない晴天、というほどではありませんが。
その、よく晴れた……天気、です。
日差しが強すぎるというほどでもないため、むしろ、このくらいが1番いいと言えるかも知れません。
……そんな清々しい天気も、人がたくさんいる屋内の駅の中では、あまり関係がありません。
あっちへこっちへ。
それから、どこそこで乗り換えがあって……と。
「……えっと、たしかここで買う切符はこれだっけ?」
「──違うわ。それは次の駅で買うやつ。ここで買うのは、この250円のやつよ」
……駅の中は、昨日感じたのと同じく、やはり、迷路みたいだという気持ちが、強いです。
この辺りで暮らしている人は、いつも、こんなところに通っているのでしょうか……。
……まあ、逆に、慣れてくれば、慣れないうちよりは楽なのかも知れませんが……。
……とにかく、有栖さんも、どの切符を買えばいいのか、迷っているくらいですから、あたしには、わかるはずがありません。
……しかし、それが予想できていたあたしは、既に、雪菜さんに教えてもらいながら、必要な切符を買ってあります。
──いえ、まあ、本当のことを言いますと。
……雪菜さんが自分の切符を買うより先にこっちに来て、「──どうせあんた、どれ買えばいいかわかんないでしょ」……とか言いながら、いきなり一方的に教えてくださった、ということなのですが……。
……えっと、それから、いわゆる満員電車、というものを、体感しまして。
なんやかんやとあって、ようやく、目的地に到着しました。
大会の会場は、駐車場の時点で人の数が多く、会場内に入るだけでも、結構、並ぶ必要があります。
とは言え、ただチケットを見せて会場に入るために並んでいるだけなので。
……列自体の進みは早く、思っていたよりは、すんなり、会場内へと、入ることが、できました。
さて。今日のイベントの目玉は、なんといっても、『ファントムビルド』のプロの大型大会の、決勝戦です。
……まあ、決勝戦とは言いつつも、今日のイベントは正確には決勝トーナメントなので、文字通りの決勝戦までは、まだまだ大分時間はあるのですが……。
……それでも、既に、なかなかの盛り上がりです。
会場の中は、試合をする場所と、その外側、という風になっていまして、今いるのはその外側ですから、『ファントムビルド』のプロの方々のグッズがたくさん売られていますし、試合観戦用の、飲み物やお菓子なんかも、沢山あります。
クリアファイルや、Tシャツ、キーホルダーやら、その他もろもろ……。
……すごくバリエーションに富んでいて、どから目を向けたらいいか、わかりません。
あたしが、目を回していると、すぐ隣で、有栖さんが口を開きました。
「──あれとかいいんじゃない?雪菜ちゃ……」
有栖さんは、言いかけましたが、しかし、すでに両手が紙袋で塞がっている雪菜さんを見て。……途中で、口を閉じてしまいました。
……当の本人である、雪菜さんは、よくわからない、とばかりに、首を傾げています。
「……ん?ああ、あれね。いいんじゃない?私も買ったし」
……一体、いつの間に買ってきていたのでしょうか……?
「……あ、あの、有栖さん……えっと、あ、あれとか……どうでしょうか……?」
有栖さんが、苦笑いを浮かべながら、困ったように視線を向けてきましたので。
……あたしも、何となく浮ついた雰囲気に乗って、ちょっと欲しいかも……と思ったものに、指をさしてみました。
「おっ、どれどれ……」
……あたしの言葉を聞いて、有栖さんは、一転、ノリノリで私の指の先に目を向けました。
──そして、そこには。
『戦神の槍』と、やたらカクカクした文字で書かれた旗がいくつか立っていまして……。
その出店で陳列されていたのは、手のひらサイズの槍に、かっこいい蛇が巻き付いたデザインの、グッズでした。
今日の決勝トーナメントに出現する、ある有名選手の方のデッキをモチーフとした……とてもセンスのいい、グッズです。
「……いる?あれ」
有栖さんが首を傾げるので。
……あたしは、つい、ムキになってしまいまして……。
1つ、買ってきてしまいました。
……よくは見ていませんが、多分、きっとすごくオシャレだと思いますので、お家に帰ったら、自分の部屋に、飾ろうと思います。
……それから、飲み物や食べ物、そしてまた、よくわからないグッズなどを買いまして……。
……そろそろ、第一試合が始まる頃だそうなので、会場の観客席へと、向かいました。
……。
……そうして始まった、試合は。
知識の乏しいあたしが見ても、やっぱりレベルの高い戦いなんだなあ、と感じることが、できました。
……。
……それで、えっと。
……何試合分の、時間が経ったでしょう。
今回こそは、カードの効果もしっかりと理解しながら、試合を見ようと、心に誓いましたが……。
……いつの間にか、気が付けば、決勝戦に、なっていました。
……完全に置いて行かれていた、というわけでもなく。
ついて行けそうだったけどやっぱり厳しい……という感じでしたので、これまでの試合を見ていた分で頭に入っている情報と、元々あたしの知っていた情報も組み合わせれば……。
多分、今度こそは、何とかついて行けるのではないでしょうか……。
一応、決勝戦に出るソーサラーのうちの1人は、あたしでも、テレビや動画で見たことのある人で、おまけに、つい最近、『ファントムビルド』のスマホゲームでそのデッキを少し使ったりもしたので……ある程度、そのデッキについては、知っています。
……逆に、デッキの強さが直接的に結果につながる分、こういう大会は、大体同じ人が勝ち進むことが多いので。
その、むしろ、もう片方の人が、あたしの全然知らない人なのは、少し気になります。
……いわゆる、ダークホース、というものですね。
まあ、ホース……つまり、馬……ではありませんが。
「……意外な結果よね。あの人って、全然結果出せなくて、つい最近まで活動休んでたんじゃなかったかしら」
あたしはさっぱりの人でしたが、雪菜さんは、どうやら、ご存知のようです。
「うん、たしか、最初に契約したところからは契約切られてて、別なところと契約してるみたいだね。えっと……ファントムワールドラボラトリー……だって、聞いたことある?」
同じく、有栖さんも知っていたみたいで、より詳しい情報を、スマホを使って、調べているみたいですが、どうやら、そっちは、よくわからなかったみたいです。
「……ま、なんでもいいじゃない。プロなんて、強いか弱いか、でしょ」
──もう試合が始まる、ということもあり、雪菜さんが肩をすくめて議論を終わらせますが、有栖さんは、少し、釈然としない様子です。
「……まあ、そうかも、だけど……」
眉を顰めて、有栖さんは、その選手を、見つめます。
……あたしとしても、気になるお話ではありますが。
その、試合が始まってしまいますので、気持ちを切り替えます。
……えっと、ここからでは、実際に試合をしているところからは、結構な距離がありますので。
選手の声は、聞こえません。
ただ、大きなモニターに映し出されているので、状況自体はよくわかるようになっていますし、そうでなくても、カード自体は、見える距離です。
物理的に文字が書かれている、というわけではないからなのですが、そういう点でも、やはり、『ファントムビルド』って、不思議ですね……。