※香澄視点です。
いよいよ試合が始まるという段になり、両者が、向かい合います。
あたしから見て、右側の方──決勝戦に勝ち進んだ選手のうち、あたしでも知っているくらいに有名な方が、凪宮さんという方で、もう片方の選手が、朽木さんという方なのですが、その、朽木選手の方……は、何やら、試合が始まる前から、焦点の合わない目で、ずっとニタニタと笑っています。
こういう言い方をするのは、あまりよくないとは思いますが……その、なんだか、不気味な方だと思います。
……えっと、それで、試合の方ですが。
先行になったのは、その、朽木選手の方みたいです。
お互いに、最初の手札の引き直しも済ませたようで……。
マイクを握る、司会の、試合開始の宣言と共に、バトルが、始まります。
──そして、その瞬間。
……いきなり、朽木選手の盤面に、1枚のエンティティが、現れました。
一応、途中の試合も見てはいたので、知ってはいました、が。
何度見ても、とても……不気味な光景です。
……突如として盤面へと現れたそれには、決まった形がなく。
実体というよりも、何かの影のようなそれは、常に、泡立つように蠢いていました。
そして、それが盤面へと現れたと同時に、まるで、足元が消え失せて宙に漂っているかのような、感覚がありまして。
そこは、一言で言うのなら、宇宙のどこか……いえ、常に膨張を続ける、宇宙の、中心地点。……みたいな感じです。たぶん。
……そして、どこからか、太鼓やフルートのような楽器の音色が聞こえてくるようですが。
それらは、決して、楽しげなものではなく、一層、不気味さや不安を掻き立てるような、そんな音でした。
もちろん、突然宇宙に打ち上げられた、とか、誰かが楽器を鳴らしている、とか、そういうことではなく。
あくまで、カードによる幻影によって、一時的に景色が塗り替えられている、というだけではありますが。
……これだけ離れていても、こんなにも影響を受けるのは、その……。
いくらフィールドカードが展開されているということであるとは言え、1枚のカードが、ここまでの影響力をもつようなものでしたでしょうか……と思わずにはいられません。
……あ、えっと、すみません。
試合の方に……まあ、これも試合の一部ではありますが、行われているバトルそのものの方に集中しないと、ですね……。
今、盤面に、自動召喚されたのは、【白痴の魔王アザトース】、という名前のエンティティで、レジェンダリーの、カードです。
えっと、効果も、一応、見ることはできますが……その、あまりにも長過ぎるので、正直、ちゃんと理解しよう、という気になれません。
……が、とは言え、そういうのは、やめにしようと決めたばかりです。
何度か、途中の試合で見てはいますが、それでも、まだまだ理解できている気はしませんので、もう一度。
……ちゃんと、しっかり、読んでみます。
【白痴の魔王アザトース】
コスト0。エンティティ。攻撃力1、体力1《分類:外神の狂瀾》
自分のターン開始時、それが1ターン目で、これがデッキにあるなら、これを自動召喚させ、自分の領域に【無限の混沌】を1枚設置する。
自分のターン中、手札にあるこのカードは任意のタイミングで公開してよい。
手札にあるこのカードが公開されたとき、領域に【無限の混沌】を1枚設置する。その時、墓所に【無限の混沌】が3枚以上あったなら、その代わりに相手の盤面のランダムなエンティティ1枚の体力を、手札にあるこれのコストと同じ値だけ減算する。
盤面にあるこのエンティティは、自分のソーサラーがダメージを受けた時、そのダメージと同じダメージを受ける。
これは攻撃できない。
召喚時、これのコストの半分の値(端数切り捨て)だけ、自分のコストを回復する。
盤面に出た時、これのコストと同じ値だけ攻撃力と体力を加算する。
自分のターン開始時、これが、『これは攻撃できない』効果を持っていないなら、この試合に勝利する。
自分のターン終了時、これの攻撃力と同じ値までのダメージを、相手の盤面のエンティティへと、古いエンティティから順に割り振って与える。その後、これの攻撃力が11以上なら、お互いの盤面と手札にある全てのエンティティカードは、『これは攻撃できない』という効果を失う。
被破壊時、これが盤面で受けたダメージの合計と同じ値だけ、自分のソーサラーを回復する。
これが盤面を離れるとき、これは必ず手札へと加わる(その時、手札枚数が上限ならランダムなカード1枚を捨てる)。その際、これのコストを、これが盤面に出た時のコストの値に+1した値(最大値10)にする。
……そして、領域の方に設置されたフィールドはと言いますと……。
【無限の混沌】
コスト8。フィールド。ファントム。《分類:外神の狂瀾》
これが領域にある限り、お互いのソーサラーは、自分のターン中1度まで、自分自身に2のダメージを与え、そのターンの間のみ、レジェンダリーでない自分のカード1枚のコストを-1して良い。
お互いのソーサラーは、盤面に、本来のコストと異なるコストのカードを召喚した時、それが減算されていたなら、1のダメージを自分自身に与え、加算されていたなら、その差分だけ回復する。
本来のコストから10以上加算されたエンティティが召喚された時、それは『不可侵』を持つ。
……えっと、つまり、何なのでしょう。
その……あっと……。
あのエンティティが1ターン目に必ず自動召喚される、というところまではわかりました。
あとは、それから……。
……と、そんな風に、あたしが、どうにか整理しようと思っていたところで。
今度はどうやら、手札のカードの公開が行われたみたいです。
……公開されたカードの名前は、【這い寄る無貌ナイアーラトテップ】という、エンティティカード……みたいですね。
──さらに、あたしが【白痴の魔王アザトース】とそのフィールドの方の理解をまた一度諦めて、一旦今公開されたカードの効果の方を先に見るだけ見よう、と、思ったところで。
……今度は、【窮極の空虚ヨグ=ソトース】という、カードが公開されました。
……まあ、実のところ、わかっては、いました。
決勝戦に至るまでの試合でも、同じように、濁流のように情報が次から次へと開示されて、目を回していましたので。
……その上で、結局、何が何だかわからないまま、ここまで来てしまったのです。
決勝戦だからと、本腰を入れてちゃんと理解するぞ、と意気込んだところで、こうなるのは必然と言えるでしょう。
……もちろん、あたしが、そんな悟りの境地へと至っている間にも、試合は進んでいます。
どうやら、さらに加えて【深淵の蜘蛛アトラク=ナクア】という名前のカードが公開されて、そして、そのまま、ターンを終了した……みたいです。
……えっと、とりあえず、公開されたカードの方を、諦めまして。
一旦、盤面に存在しているエンティティの方に集中しましょう。
【白痴の魔王アザトース】は……つまり、被破壊時に回復して、そして、盤面から離れる時に、コストが上がった状態で手札に戻って……。
……えっと、それで、あのエンティティは攻撃することができなくて……。
それから、ソーサラーがダメージを受けると自分もダメージを受けるみたいで、あとは、勝利効果と手札での公開効果もある、という感じ……ですかね……?
それから、フィールドの方は……その、最後の方に書いてある『不可侵』は『不可視』と名前が似てますが結構違って、その効果は、『あらゆる効果による影響を受けず、ダメージを受けない』っていうものでして。
──ですが、えっと、それを付与する効果が発動するまでには……えっと……。
……ごめんなさいやっぱり無理です!
こうしている間に、もう凪宮選手はターンを終わらせていますし、次の朽木選手のターンが始まっていて……で、そして、その朽木選手はというと……。
……ターン開始のドローに加えて、公開されているカードの効果で2枚のカードを新たに手札に加えていて、そして、さらに、もう1枚の公開されているカードの効果で、盤面にエンティティを出現させています。
──あたしには、わかります。
このままだと、確実に置いていかれる、と、いうことが。
……あたしにはまだ、この試合はとてもレベルが高かった……と、いうことでしょう。
この試合は、テレビで放送されていますし、お家のテレビで録画予約もしていたはずなので……。
カードの効果は、後ほど、お家で見ることにします……。