カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点ですが、途中で視点変更があります。



66話 吐血あるいは失敗

 

 気がつけば、試合が終わりを迎えたのは、あっという間でした。

 

 ──なんと言いますか、一言で言うのなら、釈然としない試合だった、というような……そんな感じです。

 

 ……多分気のせいか、あたしの理解が足りていないだけだとは思うのです。

 

 特に、なんだか、凪宮選手のミスが目立ったような気がします。

 

 

 ……攻撃することができない、という効果を持つエンティティを、毎ターン味方をバフするエンティティよりも優先して処理したり、『防衛』を持つエンティティに気付かず、ソーサラーに直接攻撃をしようとしたり……。

 

 あまり自信はありませんが、これらは、多分、流石にミス……だと、思います。

 

 

 ……振り返って考えてみますと、なんと言いますか。

 

 まるで、カードの効果も攻撃力や体力も、見えていない状態で戦っていたかのような、そんな感じでした。

 

 そして、さらに振り返るなら、それまでに朽木選手とバトルしていた他の選手も、同じようにミスを重ねていたように思いました。

 

 

 ……まあ、釈然としない気持ちはありますが、結果は結果として。

 

 実際にそうなった以上、それはもうそういうものと思うしかありません。

 

 

 ……今は戻ってきていますが、有栖さんも雪菜さんも、途中で席を外したりしていましたし、楽しみにしていたひと時だっただけに、ちょっと残念な気持ちが拭えません。

 

 

 ──と、まあ、こんな感じの試合内容でしたが……。

 実は、試合の内容よりも、その後のことで、大きな騒ぎになりました。

 

 

 ……それは、試合が終わって、すぐのことでした。

 

 

 そこには、荒い息を吐き、膝を突く凪宮選手と、それを、いまいちどこを見ているのか未だによくわからない目で見下す、朽木選手の姿がありました。

 

 

 ──経過ターンは、8ターン。

 

 具体的な話をすると、小型のエンティティの処理にリソースを吐きすぎたのか、中盤から終盤にかけて、朽木選手が連投する大型のエンティティの処理が間に合わず、あっさり轢殺された……というような、決着でした。

 

 

 ……。

 

 

 「……けっ、決着です……!勝者は、朽木選手だーっ!」

 

 

 ……。

 

 ……一拍、いや、それ以上の間をおいて。

 ようやく、ジャッジが、結果の宣言を、しました。

 

 

 「いっ、いまのお気持ちを……一言、いただけますか?」

 

 

 ……そして、優勝者への、簡単なインタビューのため、朽木選手の方へと、マイクが差し出された、その時でした。

 

 

 ──世界が、割れたような、気がしました。

 

 

 ……いえ、割れていたのは、スピーカーから聞こえて来る音だったのですが、それはともかく。

 

 

 音割れした、耳を塞ぎながらも聞こえて来るそれが、狂ったような笑い声だということに気がついたのは、少し後のことでした。

 

 

 笑って、のけぞるほどに笑い声を上げて……。

 ──そして、声が掠れて。

 

 最後には出血して咳き込む様子は、やはり、とても正気とは思えませんでした。

 

 

 ……そして、咳がおさまってから。

 掠れきった声ではありましたが、ようやく朽木選手は、意味のある言葉らしきものを、発しました。

 

 

 「がっだ……っ!がっだんだ……ヒヒッ……ヒヒヒ……オレは落ちこぼれなんがじゃないんだ、じょうめいでぎだ……ハァ……ハァ……闇の……カードのぢがら……ヒヒッ……ようや、ぐ……」

 

 

 ……そして、また、吐血しまして。

 

 

 受け身を取るような様子もなく、頭から、直立姿勢そのままで、朽木選手は、倒れ込みました。

 

 

 ……激しい疲労と消耗があるようで、動けない様子の凪宮選手を除く、それ以外の、近くにいる人たちが、慌てた様子で駆け寄り、少しして、担架で運ばれて行きました。

 

 

 ……えっと、あたしが、朽木選手の姿を見たのは、その、担架に運ばれる姿が最後でした。

 

 ──それから、イベントは、突然、終わりを告げられまして。

 あたしたちは、顔を見合わせて、何とも言えない気持ちで、会場を後にしました。

 

 

 ……えっと、それで。

 どうにか一命は取り留めたものの。

 

 倒れた時に、朽木選手の心肺が停止していたというお話を知ったのは、後で見た、ニュースからの、情報でした。

 

 

 ……。

 

 

 ────────

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 「はあ……」

 

 ……薄暗い空間に、ため息が響く。

 

 

 「……今回の実験は、失敗だ」

 

 白衣を纏った女が腹立たしげに呟くと、その近くにいた同じく白衣を纏った男が、言葉を発した。

 

 「──所長、お言葉ですが、まだそのように判断されるのは早いのでは……」

 

 

 ……しかし、その言葉を聞いて。

 それが気に障ったのか、更に不機嫌そうな様子を隠そうともせず。

 

 所長……と呼ばれた彼女は、肩をすくめて、わざとらしくため息を吐く。

 

 

 「……ああ、確かに、奴の命はぎりぎり助かった。ソーサラーとしての活動も……これ以上出力を上げなければ、なんとか継続可能だろう」

 

 

 「──では……!」

 

 

 「……気持ちはわかるがな、このプロジェクトは失敗したんだ。──プロのソーサラーを使うというお前の発想は……まあ、今でも悪くはなかったと思っているし……それに、事件性のない方法で実行に漕ぎつけたお前の交渉能力についても──高く評価している」

 

 

 不機嫌な様子を隠そうとしないながらも、ある程度、表面上は、穏やかに。

 ……諭すような声色で、彼女は語る。

 

 

 「……だが、結果は結果だ。……まあ、学んだことはある。まず、我々の目的を達するには、必要となる呼び水としての性能は、現状での計算上の要求値では足りなかったということがわかったな」

 

 彼女は、指折り数えるように、指を折り曲げる。

 

 「……そして、その上で。呼び水としての要素だけを強化しても、足りないということもわかった。……我々の目的には、器の持つ容量も、莫大なものが必要になる。……より大きな断片を、受け止め、飲み込める容量がな」

 

 

 彼女の言葉に、男は顔を俯ける。

 

 

 「……おそらく、理論上、その容量──器としての性能は……最終的に、40枚を超える断片を一身に宿せる程度は、必要になるだろう」

 

 

 しかし、続いた彼女の言葉に、思わず、と言った様子で、男は弾かれたように顔を上げた。

 

 

 「──そして、これもまた理論上だが……再計算の結果、呼び水としての性能は、最終的に、レジェンダリーを複数枚単独で所持しているくらいのものが……必要になると考えられる」

 

 

 「むっ……無茶です……!そのような者、存在するはずが……」

 

 男は、反射的、といった様子で、口を挟んだ。

 

 

 「──当然、分かっている。だから我々の技術でソーサラーを改造して、要件を満たそうという計画を立てているんだろう」

 

 ……男の反応に対して、彼女は肩をすくめて首を振る。

 

 

 「……まあ、とは言え。やはり現状の技術では、強化幅の狭さから鑑みるに……素体の時点である程度それに近い要件を満たしている必要があるという話では、あるのだがな」

 

 彼女がそうこぼすと、沈み切ったような空気が、その場に満ちた。

 

 

 「……はぁ、そうだ。いいタイミングかも知れん。……久々に、我々の目的の再確認でもしようか」

 

 

 ……彼女は、突然、目線を動かして、周囲を見る。

 そこには、同じように白衣を着た人が、何人か立っていた。

 

 

 「……お前、お前でいいや。言ってみろ」

 

 

 彼女はたまたま目線があったその1人に、言葉を促す。

 

 

 「……はい!えっと、我々の目的は、大いなる進歩、です。深め、広まる知識こそが、全てを先へと進めることを信じ、あらゆる未知の解剖に、取り組んでいます!」

 

 まるで、決まりきった台本でも読み上げるかのように、迷いなく、言葉が紡がれる。

 

 

 「……そして?」

 

 

 「そして……えー、そして!──我々の現在の使命は、カードを介して、『異世界』に干渉し、『レジェンダリー』と呼ばれるモノの大元たる存在を顕現させ、その力、その原理を利用するべく、観測することでございます!」

 

 

 返ってきた言葉に満足したのか、彼女は一度静かに目を瞑って、視線を外した。

 

 

 「……そうだ。現状、我々人類は、多くの課題を抱えている。そして、その上で、それらの解決に直接的につながるような新たな知識の糸口を、我々は掴めずにいる。故に、我々は未だ解析されぬ未知へと、挑む必要があるのだ」

 

 そして、滔々と、言い聞かせるかのように、語り始める。

 

 

 「──そして、『ファントムビルド』は未知の塊だ。……だが、それでも研究の末、デッキと呼ばれるものが、『異世界』とでも仮称すべき、宇宙規模で異なる次元の……その要素を抽出したカケラであることが分かった。……そして、我々は。器となるソーサラーの呼び水としての能力を引き上げることにより、そのカケラの抽出量を強制的に増大させられる技術を得た。そして、その技術を用いることで、本来ならば呼び水としての才能を持たない人間にさえ、カケラを持たせることが、できる」

 

 ……それは、ある種の、確認作業と言えた。

 

 今までに、どの程度自分たちが歩みを進めることができているかを、そして、無駄な道を歩んでいるわけではなく、成果は確かにあるのだということを、思い起こすための。

 

 

 「……『レジェンダリー』が『ファントムビルド』の中にあってなお、異例の存在であることもわかっている。通常、カードは『ルール』に対して、絶対的に従うはずだ。だが、あれらは時に、『カードの精霊』という形で、試合中でなくとも、その姿を表すことがある。『カードの精霊』など、『ルール』には、まるで関係がないはずなのにも、関わらず」

 

 

 ……。

 

 

 ……それから、彼女は自分自身に言い聞かせるように、小さく、言葉を続ける。

 

 

 「……今更、立ち止まるわけにはいかない。全てを諦め……袂を分った妹に、我々の道には、何ひとつ間違いなどなかったのだと……証明しなければ」 

 

 

 ……そのようなことを小さく呟いた後。

 彼女は顔を上げて、気持ちを切り替えたかのように、改めて周囲に目線を向けた。

 

 

 ……。

 

 

 「……さて、わざわざ手を止めて集まってもらって、悪かった。……そろそろ、我々の偉大なる未来への研究を、再開しようか」

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