※香澄視点です。
……生徒会室でのやり取りから、数日が経ちまして。
事前に伝えられていた、交流試合の日になりました。
新生徒会の1年生と上級生のバトル、ということで、放課後であるにも関わらず、かなりの数の生徒たちが、観客として集まっているようでした。
「……今からあんたたちを代表してバトルをするってなると……流石にちょっと緊張するわね……」
……雪菜さんも、さすがにこれだけの人数の前で試合をするとなると、そういう感情もあるんですね。……ちょっと、意外です。
「……まあ、代表っていうか交流のための試合やけどな。代表試合とはまたちょっと違うし、みんなもそのくらいはわかってるはずやから、肩の力抜いて大丈夫やで!」
雪菜さんの言葉が聞こえたのか、理音さんが、さりげなく寄ってきて、そんなことを言ってきました。
……ちなみに、今この瞬間とはまるで関係のないことですが、理音さんの喋り方は、別にどこかの方言というわけではなく。
昔見たアニメか何かのキャラクターの喋り方が、クセが強すぎて移ってしまった……ということらしいので、だから双子の姉妹である舞さんは同じような喋り方をしない、とのことです。
「そうそう。むしろ楽しむくらいの気持ちで行こう!」
……関係ないことを考えている間に、有栖さんも、元気付ける言葉をかけています。
あたしも、何か考えたほうがいいのでしょうか……。
「……えっと、その……雪菜さんなら、大丈夫だって……思ってます。……なので、その……頑張ってください!」
勇気を出して、どうにか、言葉を絞り出すことに、成功しました。
「……そうね。交流試合と言えど、そして、相手が上級生と言えど。……勝ってくるわ」
……雪菜さんも、気持ちが固まったようで、前を……目の前にいる、奈々実さんを、見据えました。
奈々実さんは、いつも通りののんびりとした自然体で、胸ポケットから取り出したココアシガレットを、咥えることなく口に放り込みます。
そして、噛み砕いて飲み込んだ後、口元を手で抑えながら、大きな欠伸をすると、いつも薄めている両目を、少し開いて、口角を上げました。
「じゃあー……。始めよっか」
……それから、奈々実さんが手を翳すと、森林のような影が現れまして。
そこから覗く無機質な瞳のようなものが見えた──と、思ったら、それらはいつのまにか消失し、そこには、カードの束。……奈々実さんのデッキが、ありました。
「──ええ。……よろしくお願いします」
そして、対する雪菜さんも、同じように手を翳しまして……。
そこに白い光、氷の結晶が、現れた後。
……雪菜さんのデッキが、そこに姿を現しました。
「……はい、それでは。新生徒会1年、湖織雪菜さんと、同じく生徒会の3年、奈々実菜々さんによる……交流試合を、始めます」
ジャッジ役は、天柄さんがされるようです。
……まあ、『ファントムビルド』において、ジャッジの必要性はあまりないのですが……。
それでも、こう言った、試合開始のタイミングを合わせる際などには、必要です。
ちなみに、あたしたちは今、野次馬……ではなく、観客の皆さんよりも、少し手前の辺りで、試合を見ています。
……えっと、それで、コイントスの結果。
先行になったのは、雪菜さんのようです。
……そして、両者とも、お互いに、最初の手札の引き直しも、済ませたようで。
交流試合が……雪菜さんによる先行1ターン目が、始まります。
……。
……手札の引き直し枚数で言うと、雪菜さんが3枚、奈々実さんが4枚の引き直しでしたので、初動はやや雪菜さんのほうが動きやすそう……なのでしょうか。
……隣にいる有栖さんに声をかけようかとも思いましたが。
こういった、観ている人の声が、バトル中の人によく聞こえるような試合では、試合の内容についてあまり喋らないようにする、というのがマナーだそうですので。
……大人しく、黙って試合を、見つめることにします。
「……まず、私のターン、です」
雪菜さんは、静かに、手札のカードの1枚に、手を触れます。
「コスト1を支払って、【雪山の地図】を使います」
使用されたのは、コスト1の、マジックです。
……手札のカード2枚をコストの低い順にデッキに戻して、そして、デッキから、最もコストの高いカードをランダムに1枚、手札に加えます。
──この効果で持ってきたのは……もちろん、アレでしょう。
雪菜さんは、続け様に、今し方手札へと加わったカードに、手を触れます。
「そして、手札のカードの公開を宣言します。【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】」
宣言の直後、辺り一面が真っ白な猛吹雪の只中となり、そして、そんな周囲がよく見えない中で。
……縦長の瞳孔が特徴的な、2つの巨大な瞳が、見えた気がしました。
……こうして、まずは3枚もの手札を減らしてしまったものの、手札にレジェンダリーのカードを加えて、そして、公開時効果によって、フィールドも設置しまして……。
パッと見では、かなり悪くなさそうな、動き出しに思えます。
「……これで、ターンを終了します」
……コストも使い切りましたし、他に、コストなしで出来ることもないようで。
雪菜さんは、ターンの終了を、宣言しました。
「んー……じゃあ、うちの番だねー……」
そして、それに対して。
……相変わらずマイペースに、奈々実さんが、ターンの開始を宣言します。
「うーん……とは言っても、出来ることがないかなー……。パスでー……」
……そしてそのまま、ターンをパスしてしまいました。
「──私のターン、ですね」
……2ターン目の、ターン開始時。
雪菜さんは、公開されている手札の【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】の効果によって、手札に【銀の双眸】と【銀の抱擁】を、それぞれ1枚ずつ加えまして。それから、カードを1枚引きます。
これで、一気に手札が増えて、3枚だった手札が、6枚になりました。
「……そうね。【レリック・タービン】を召喚します」
召喚されたのは、コスト2の、エンティティです。
……攻撃力が0、体力が2のエンティティで、戦闘が一切できないという制約があり、攻撃されたら無抵抗で破壊されてしまうエンティティではありますが、ターン終了時に、自分の手札の最もコストの低いカードをランダムに1枚捨てるのを条件に、次のターンに、そのターン中のみ使用可能な追加コストを1得ることができる、加速カードです。
今は、奈々実さんも何もしていませんし、急ぐ必要はないように思えますが……コストが多ければ、いざという時にそれだけ柔軟に対応することができますし、その必要がないにしても、多くなっているコストで、やりたい動きを早くにできるメリットはあります。
カードを捨てる効果については……毎ターンに【銀の双眸】と【銀の抱擁】が手札に入ってくる分を考えると、あまり致命的なデメリットにはならないということでしょう。
……どうでしょうか。
あたしも、大分『ファントムビルド』がわかってきたのでは、ないでしょうか……。
……いえ、まあ、実のところ、今のお話は以前雪菜さんと『イミテーション』でバトルしたから知っていた、というだけであって……その、残念ながら、この場で考えた、というわけではありませんが……。
「……ターンを終えます」
その宣言と同時に、雪菜さんがカードを1枚捨てて、次のターンの、追加コストを、予約します。
「……なるほどねー……。じゃあ、うちの番だねー……」
……そして、ターンはまた奈々実さんへと移りまして……。
「うーん、2ターン目はねー……やることないかなー……。パスするよー」
……ターン開始時のドローだけして、また再び、あっさりと。
奈々実さんはマイペースな態度を崩さず、パスをしてしまいました。