※雪菜視点ですが、途中で視点変更があります。
──ターンが、回ってくる。
それは、11度目の、私のターン。
同時に、奈々実先輩の盤面の【色欲の原生ルクスリア】が、お互いの盤面へと【原生の幼樹】を2枚出して……。
それらの、ターン終了時の効果を発動させるから。
前のターンの終了時に、奈々実先輩が【怠惰の原生アケーディア】から出現させた【適応した捕食者】の効果も合わせて。最終的に、私の盤面には【原生の幼樹】が2枚と【原生の捕食者】が3枚、奈々実先輩の盤面が、【怠惰の原生アケーディア】が1枚と【色欲の原生ルクスリア】が1枚と【原生の幼樹】2枚、それから【原生の捕食者】が1枚、という形になっていた。
……まあ、もう奈々実先輩の【侵食の大地】のカウントが稼ぎ切られている以上、もはや盤面そのものはあまり意味を持たないのだけれど。
はっきり言って、これはもう、私の負けだ。
【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】は、ターン終了時にお互いの盤面が《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティで埋まっていないと勝てないが……それを出すだけで、10あるコストを全て使い切ってしまう以上、勝つためには、0コストで盤面を全て処理して、そして《分類:氷晶の銀世界》で埋め尽くさなければならない。
そして、私のデッキに、そんなカードは、存在しない。
……ターン開始時、私はカードを1枚引く。
そして、公開している手札の【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】が、2枚のファントムカードを手札に加える。
ファントムカードは置いておいて。
デッキから引いたカードは、3枚目の【ダイヤモンド・ダスト】だった。
……もし、もう1ターンが、あったなら。
そんな、意味のない考えが、一瞬だけ、頭をよぎる。
けれど、残念ながら……現実は、そうはならなかった。
──勝ちたい。勝ちたかった。
……別に、ここでの勝敗に、大きな意味がないことは、分かっている。
それでも、私は……。
……私は、きっと。
自信になる何かが、欲しかったんだろう。
そうでなければ、なんだかあっという間にみんなに置いていかれてしまいそうな……そんな気がして。
──例えば、有栖は、私よりも強い。
それは今までの直接戦ってきた結果から、そう言える。
……それに、私よりも、人付き合いが上手い。
明るくて、すぐに人と仲良くなれる。
──例えば、香澄は、私よりも強い。
それは結果が示している明白な事実だけれど……それ以上に、彼女は自分なりに苦手なことにも取り組もうとしている、心の強さがあると思う。
……そんなふうに考えた時、私は何ができるのか。
私は、何を持っているのか。
──もしかしたら、何も、ないんじゃあ、ないだろうか。
……それは、別に、誰かに言われたわけではない。
ただ、不意に、そんなことを、ちらりと、思ってしまったから。
頭から離れてくれないそれを、私はただ振り払いたかったから。
……だから、この試合の勝敗に、固執する気持ちがあったのだ。
──弱さを受け入れ、諦めるべきなのだろうか。
負けたわ、とでも言って、何も気にしていないように、振る舞うべきなのだろうか。
……きっと。
成長し、大人になる、ということは、そういうことなのだろうと、ふと思う。
結果を認めず、喚き散らすのは、子供のやることだ。
……結果が気に食わないなら、淡々と、次を見据えて。
『次は勝つ』とでも、言うべきなのだ。
……。
だけど、じゃあ。ずっと、次は次はって言い続けたなら。
本当に、それは果たせるのだろうか。
……私は。
……。
……せめて、試合の中でくらい、勝利を見据えていたい。
勝ちへと、手を伸ばしたい。
だから……。
──────────
……雪菜さんが、手札のカードに、弱々しい手つきで、手を伸ばしました。
そのあまりの弱々しい手つきに。
あたしはなぜか、ふと、どこにも届かずに落ちていく紙飛行機が頭に浮かび。
まるで、その光景と、今見えているものが、重なるような気がしました……が。
……しかし、その指先は。
1枚のカードに、確かに、触れました。
……そして。
そのカード──公開されている、【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】のカードが、急に、光を放ちまして。
……それから、光が収まると。そのカードは。
なんだか少しばかり、その姿を、変えているようでした。
「……っ!?」
「……!ええー……うっそおー……!?」
リアクションこそ小さいものの、驚きを隠しきれない雪菜さんと、口を大きく開けて驚く奈々実さんの姿が、なんだかすごく、印象的でした。
……そして。
……【銀世界の主エターナルブリザードドラゴン】改め、【氷晶の銀世界エターナルブリザードドラゴン】は、カードの名前や効果こそ少し変わりましたものの、状態はそのまま維持されているようで。
──その、つまり、公開状態なので。
その効果が、あたしたちにも、はっきりと、わかります。
「カードの、成長……それも、レジェンダリーの……」
……隣で、有栖さんが。心底驚いたように、声を漏らしました。
生徒会の上級生の方々や、観客として見ているみなさんも、驚きと困惑で、ざわついています。
そうして、いろいろな言葉が飛び交っていますが、やはり1番よく聞こえてくるのは、カードの成長、という単語でしょうか。
……なるほど、です。
遅れての把握となりましたが、つまり、あれが、『カードが成長する』、ということなのでしょう。
……初めて見る現象なので、とても新鮮です。
「……え、えっと、バトル中にって、その……なんだか、すごいです、ね……?」
……あたしも、ざわつく周囲に混ざるように、言葉を発してみました。
「……?──まあ、確かにすごいことではあるけど……カードが成長するのって、基本的に、バトル中じゃない?」
……そうしたら、そんなあたしの言葉に、有栖さんが首を傾げて、言葉を返してきました。
……あっと、えっと……その。
そうなんですね……。
すみません、今のは忘れてください……。
……これが俗に言う、『エアプを晒した』というやつなのでしょうか。
知った風なことを言って、本当にすみませんでした……。
「……まあ、公開されてるカードが、公開中に、っていうのは珍しいかもね」
……優しい有栖さんは、そっとフォローをしてくれました。
あ、その。本当に、すみません。
カードの成長とかって、聞いたことはありましたがあたし自身は一度もしたことがないのでよく分かってなくて……その。ごめんなさい……。
……えっと、それで、なのですが。
せっかくなので、そろそろ、【氷晶の銀世界エターナルブリザードドラゴン】の、カードの性能についても、見てみましょうか。
《氷晶の銀世界エターナルブリザードドラゴン》
コスト30。エンティティ。レジェンダリー。0/50《分類:氷晶の銀世界》
『不可侵』
自分のターン中、これが手札にあるなら任意のタイミングで公開してよい。
手札にあるこのカードが公開されたとき、《吹き荒れる銀世界》を領域へと生成する。
自分のターン開始時、手札にあるこのカードが既に公開されているなら、《銀の双眸》と《銀の抱擁》を合計が2枚になるように選んで手札に加える。
手札にあるこのカードが既に公開されていて、これのコストが20以下なら、自分のターン中に1度まで、自分の盤面のエンティティ1枚を破壊して、カードを1枚引いても良い。
自分のターン終了時、相手の場に《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティがあるなら、手札にあるこのカードのコストをそのエンティティの数だけ-1する(最小値10)
召喚時、盤面の《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティすべてに『これは攻撃できない』を付与する。その後、お互いの盤面のエンティティ全てに《分類:氷晶の銀世界》を付与する。
自分のターン終了時、お互いの盤面に《分類:氷晶の銀世界》を持つエンティティがそれぞれ5枚ずつあるなら、このバトルに勝利する。
……一応、手札へと加えるファントムカードの性能は変わっていませんでしたので、そちらは割愛しまして。
今この瞬間において、1番大きい変化は、自分のターン中に、自分のエンティティを破壊してカードを引くことができるようになったことと、それから、召喚時に、お互いの盤面のエンティティに、《分類:氷晶の銀世界》を付与するようになったこと……でしょうか。
……と、いうことは、つまり。
今ようやく、あまりの展開への驚きによる硬直が解けたようで。雪菜さんが、まずは【原生の捕食者】を破壊して、カードを引きます。
……そして。
それと同時に、盤面に1つ、空きができました、ので。
そこに、その【氷晶の銀世界エターナルブリザードドラゴン】が降り立ちまして。
……そして、盤面上の全てが、急速に、そして、静かに。
透き通るような、氷の中へと……封じられていきました。