※香澄視点です。
雪菜さんと奈々実さんの交流試合が終わり、それから、観客として試合を見ていた皆さんに、かるく挨拶的なものをしたりしまして。
……そうして、ようやく……というほど複雑な手順を踏んだわけではありませんが。とりあえず、あたしたちは、完全に、生徒会所属、という扱いになりました。
それからは、あの場は解散となりまして……歓迎会兼交流戦お疲れ様会というよくわからない会が、生徒会の皆さんによって催され、みんなでご飯を食べたりしました。
嬉しそうに勝利を自慢してくる雪菜さんと、のんびりとした声であたしに慰めるよう要求して絡んでくる奈々実さんの姿が、印象的でした。
……えっと、その。別に、あの試合の結果によって、わだかまりや確執のようなものが生じるようなことがあった、というわけではなく。
むしろ、かなり仲良くなったような感じに、見えました。
例えば、あの後、あたしたちはよく生徒会室に行くようになったのですが。
よく、そこで雪菜さんと奈々実さんで一緒に甘いものを食べたりしている姿を結構見かけます。
あとは、生徒会室繋がりのお話としましては、雪菜さんと有栖さんも『デジタル版イミテーション』に触れてみる機会が、あったり。
また、その『デジタル版イミテーション』に高難易度コンテンツの試作型が出てきたり、『デジタル版イミテーション』を通じて『ファントムビルド』について他の生徒会の方にいろいろ教えていただいたり……と、いったことも、ありまして。
それから、よく天柄さんがことあるごとに「生徒会長の座を奪う」などと言い出して、水無川さんにバトルを挑んだりしては罰ゲームを受けたりする姿を見たり。
便乗して、有栖さんや雪菜さんも他の生徒会の方とバトルをしてみたり……と。
……まあ、そんな感じで。なんだかんだ、楽しくやれていると思います。
えっと、それで、正直に言いますと。
『生徒会』という単語から、何かこう……書類に目を通したり、イベントの運営をしたりといった、仕事をする集まり、みたいなものと思っていたのですが。
今のところ、そういったことは、ないわけではありませんが、どちらかといえば、集まりたいから集まっている、というような雰囲気です。
ですので……と、言いますか。
割と頻繁に、生徒会のメンバーも、来たり来なかったり、といった感じで、かなり自由な感じでした。
……。
……まあ、はい。
ここまでのお話で、おそらく察しているかとは思いますが。
今は、あの試合の日からまた少し時間が経っています。
……なんだか、日の出ている時間も、段々と長くなっていることを感じます。
──それで、今。
あたしは、アルバイトの帰り道です。
生徒会に入ることになり、アルバイトを平日ではなく土日にするようになりまして、それに伴い、時間帯も、少し変化しました。
……土日、ということで、お客さんの数も、以前までよりも多いような感じはありますが。
まあ、それほど大差があるような感じでもありませんし、本格的に働いているのと比べると、全然短い時間なので、今のところ、特にそこまで負担というわけではありません。
……それよりも、と、言いますか。
あたしは今、少しばかり困っていることがありまして。
いえ、別にそこまで深刻なことではなく、ほんとうに些細な、ちょっとしたことです。
……その、先日、うっかり提出物の提出を忘れてしまいまして。
えっと、もっと具体的に言いますと、それは英語の宿題、だったのですが。
提出日が今週……いえ、先週の金曜日で、その日、その前日にどうにか宿題自体は終わっていたのですが、お家に忘れてしまいまして。
もっと言えば、つい先ほどまで、それがどこに行ったのかがわからない、行方不明状態だったのですが。
それをつい先ほど、今あたしが持っているカバンの中に紛れ込んでいたところを、発見いたしました。
その、宿題の提出が間に合わなかったのは、一応、高校生になってからは初めてのことではありますので……。
そのせいもあって、先日は「宿題を忘れました」と言い出せずに、ずっと1人でおろおろとしてしまいました。
……月曜日。つまり、明日、提出しに行かないと……と思うと。
その、なんだか少し、憂鬱に思うような、そんな気持ちがあります。
……と、まあ、そんなちょっとしたことで、頭を悩ませながら、あたしはアルバイトからの帰路を歩んでいまして。
そんな時に、コンビニの看板を見かけ、自分が少し喉が渇いていたことを思い出したあたしは、少し寄り道をすることに、しました。
……コンビニに入ると、そこには、あたし以外にも数人のお客さんがいまして。
──たまたま、その中に。
月城先生の、姿を発見しました。
英語の先生のはずなのに、なぜか白衣を身にまとい、それはまるで科学の先生か、あるいは研究者かなにかのような姿でしたが……その顔は、月城先生で間違いありません。
一瞬、見なかったことにしようか、とも、思いました、が。
……たまたま、提出出来ていない宿題が手元にあること、そして、たまたま、目が合ったこと、で。
「──あ、その、えっと……こんにちは、月城先生」
思わずあたしは、声をかけてしまいました。
「ん?……ああ、もしかして私か?」
あたしに声をかけられた月城先生は、ちらりと辺りを見渡し、そんな小ボケをひとつ披露してくれまして。
「私は確かに月城だが……人違いだ。少なくとも、教員免許は持っていないぞ」
そんな風に、まるで突き放すように、そんなことを言ってきました。
……まあ、その。
冷静に考えてみましたら、仕事の時間でない休日なのに、先生、と呼ばれるのは、あまり嬉しくない……と、いうことでしょうか。
……いろいろと考えてみて、別に今すぐに渡さなければいけない理由があるわけでもないことに思い至ったあたしは、諦めて、提出は月曜日にすることにしまして。
その場は、別れました。
……そして、また、時間が経ちまして。
次のアルバイトの帰り道、また、コンビニの方を歩いてみますと、今度はちょうどそこから出てくる月城先生と、ばったりと会いました。
……。もしかしたら、また会ったりするのかなぁ、なんて思いながら、少し、わざとこっちの道を通ってみたところはありますが。
まさか本当に、と、少し驚いてしまいました。
……。
……。
……それから。
偶然と、あたしの面白半分の故意により、何度か、お会いまして。
気が付けば、コンビニではなく、その近くの公園でたまに遭遇するような形となり、そして、遭遇したら、少しばかりお話をするように、なっていました。
……そうして、話したことによって、分かったことですが。
どうやら、この方は月城先生ご本人……ではなく。
──月城先生の、双子のお姉さん、なのだそうなのです。
研究者をしており、元々は、月城先生とも一緒に研究をしていたそうなのですが……ちょっとしたことがきっかけで、喧嘩別れのようになってしまい、今は疎遠になっているようです。
今のところ、彼女に月城先生と仲直りをするような意思はない……とのことで。
むしろ、本人には言わないように、と、頼まれてしまいました。
……あたしが、それをどうしても守らなければならない理由はありませんが、逆に、それを破る理由もありませんので、現状は、破っていません。
……あとは、それから。
えっと、先ほど、研究者をしている、ということをお話ししたかと思いますが。
特に、『ファントムビルド』について研究されているとのことで。
ただ、その研究が、少し上手くいっていないとのことで、詳細までは教えてくれませんが、そんな感じの、いわゆる愚痴……のようなものを、聞かせてくれたりします。
……専門的な、難しいお話ばかりなので、その内容は、ほとんど理解できませんが、たまに、あたしでもわかるような形に、噛み砕いて説明してくださったりすることも、あります。
あたしとしては、そう言ったお話をする中で、知らないことをいろいろ知ることができたりしますので。その、結構、いろいろなお話を聞くことができて、少しありがたいような、気持ちも、ありますが。
……えっと、研究の情報とかって、そんな風に他人に話したりしても、いいもの、なのでしょうか……?