※香澄視点です。
……テスト返しが、完全に終わった、その日の放課後。
あたしたちは、生徒会室に、来ていました。
これは、なにか特別な理由があってのものではなく。ある種の、習慣化されつつある行動のひとつ……と、いったものです。
より具体的に言うと、特に、放課後に集まる義務のようなものがあるわけではなく。
むしろ、生徒会のみんながいるという日の方が少ないくらいですが……。
──その中でも、あたしたち1年生3人組は、大体毎日放課後に生徒会室に来ている……という感じです。
そこからさらに理由となる要因を考えるのであれば、あたしたち3人が、なんだかんだ一緒にいることが多いから……でしょうか。
……あとは、あたしがアルバイトを休日のみにしたのも、もしかしたら、要因のひとつとして、数えても良いのかも知れません。
……と、そんなことを考えながら。
あたしは、生徒会の先輩たちに、ギリギリとは言え無事に補習を回避したことを報告していました。
「……そうですか。おめでとうございます。そういうことでしたら、こちらとしても……どこかの誰かとは違い、勉強を教えた甲斐がありました」
あたしのお礼と報告の言葉を受けて。
何故か猫耳カチューシャをつけて、メイドさんのような格好をした天柄さんが、奈々実さんと……それから、水無川さんの方へと目線を向けつつ、言いました。
「……えー!香澄っち、補習回避できたのー!いいなー……」
──そして、目線を向けられた2人……のうちの1人の奈々実さんは、パイナップルのドライフルーツをもしゃもしゃと頬張りながら、のんびりとした声で、そんなことを言ってきました。
「おー!それはとてもおめでたいのーう!……ところで、なぜわしを見るんじゃ?」
……それからもう1人の、水無川さんは。
怪訝そうな目で、天柄さんを見つめます。
「……無関係ですが、このタイミングで水無川会長に目線を向けることで、無実の悪評へと誘導することができるかと思いまして」
そんな視線を受け流しながらも、天柄さんは、堂々と、とんでもないことを口にしました。
「──それはあまりにも陰湿がすぎぬか!?」
これには、さすがに、水無川さんのドン引きしたような反応も頷けます。
……そして、よく見れば。
水無川さんの手元と、天柄さんの手元の辺りには、それぞれのテスト用紙が、ありまして。
──ちらりと見えたところでは、水無川さんのテストが100点、天柄さんのテストが98点、でした。
もしかしたら、憂さ晴らしの嫌がらせ……みたいなもの、なのでしょうか……?
……ただ、えっと、これは、最近感じていることなのですが。
天柄さんも、別に本気で言っているわけではなくて。むしろ、水無川さんの、今みたいな大げさな反応を引き出すためにわざと変なことを言っているような……。
あたしは、なんだか、そんな気も、しています。
……えっと、もしかしたら、天柄さんにとって、水無川さんは、軽く叩いたらいい音が鳴るおもちゃ……みたいな感覚、なのかも知れません。
ただ、その上で罰ゲームをしっかりと毎回律儀にこなすのは。
彼女なりの最低限の礼儀……なのでしょうか。
「──おめでとう。……僕もギリギリ回避したから。仲間だね」
……漫才のようなやり取りを始めてしまった天柄さんと水無川さんを脇に。
天岳姉妹の、妹の方……舞さんが、手を差し出してきたので、同じように恐る恐る手を出してみると。
──がしり、と、力強く握手をされました。
「あはは……おめでとうやでー……」
そして、そんな様子を見つつ、姉であり、ついこの間まで舞さんにつきっきりで勉強を教えていた理音さんは、ぐったりとした様子で、力なく笑っていました。
……そして、我関せずとばかりに、遠巻きに見ていた宙羽さんが、最後に、歩いて近づいてきまして。
「……私の勝ち。ぴーす」
全教科100点の、テスト用紙の束を、見せつけてきました。
……えっと、確かにそれは、あたしの完敗ですが。
先輩は、それを大人げない行動だとは思わなかったのでしょうか……?
乗った覚えの無い勝負に完敗したあたしは、とりあえず、「おめでとうございます」という、言葉を贈る事にしました。
……そうしたら、彼女は、胸を張って、無言で、満足そうに笑うと。
一本10円ほどの、駄菓子のカルパスを、5本もくれました。
「あー!!いいなー……!」
その様子を見て、奈々実さんが、羨ましそうな目で見つめながら、次のドライフルーツの袋を開けています。
奈々実さんは、3年生……つまり、最上級生だったと思いますが、その。
……本当にそれで良いのでしょうか……?
「……さて、菜々のやつが赤点を取って補習を受ける事にはなったが……。一応、今回の補習は2教科だけってことで、まあ、空いている日なら、バーベキューは行けるじゃろ」
漫才……もとい、言い合いを終えた水無川さんが、緩み切った場の空気をまとめるように、声をかけます。
……いつもは、ここまで混沌とした空気になることはないので、そう考えてみると。
なんだかんだで、先輩の皆さんも、テストが返ってきたことで、張り詰めた気持ちが一気に緩み、相当に、力が抜けていたのかも知れません。
それでも、水無川さんの一言に、空気がほんの少しだけ、すっきりとまとまったような、感じがしました。
「──必要なものはわしらで揃えるからいいとして……。日程については、決める必要があるから、後日、いくつか候補を上げる。……あとは、まあ、自由じゃな。釣り竿でも花火でもバケツでもスコップでもお菓子でも、自分が持ってきたいものを用意するがよい」
そう言って、前もって用意していたのであろう、プリントを、この場で全員に、配布していきました。
……その、スマホの通話アプリで流せば良いのでは、と、思わないでもありませんが。
しかし、なんでしょう。……これはこれで、ちょっと大人っぽいやり取りみたいな感じがして、むしろ、いい感じだと思いました。
「後は……バーベキューとは関係ない話じゃが、近々『ファントムビルド』の大会があるのじゃが……」
……『ファントムビルド』の大会、ですか。
もしかして、みんなで出る、とか、そういうお話しでしょうか……?
「『レジェンダリーカップU18』って大会なんじゃが……みんなで出ないか?」
……。
えっと。その……なんだか、聞いたことがあるような、無いような……?
……あたしが、うーんうーんと頭を捻って記憶を辿っていると。
雪菜さんが、無言でこちらを見てきている事に、気が付きました。
……。
……あ、そういえば。
そういえば、大分前に雪菜さんに誘われて、期限が来るまで忘れたふりをしてやり過ごそうって思っていた大会が、ありました。
確か、『18歳以下を対象にしていて、その参加条件として、デッキにレジェンダリーを有していることが必要なのが特徴の大会』……です。
あれは確か、知り合ってから間もないくらいの時で、アルバイト先に雪菜さんが急にやってきて、バトルをしたと思ったら、その翌日に、雪菜さんが突然この大会に出るよう言ってきたのでしたね……。
……うーん。
あれから、経過した時間としては、それほど経ってはいませんが。
……なんだか、大分遠い昔のように、思えてきます。
「……私は、元々出たいと思っていました」
……あたしが、そんな風に、懐かしい気持ちになっていると。
雪菜さんが、突然口を開きました。
「──ボクも出る予定だよ!もう申し込みもしてるしね!」
そうしたら、そこに有栖さんも、続きまして。
「うーん……大会とかってー……めんどくさいなって気持ちがあって、あんまり出てないけどー……みんなが出るなら出ようかなー?」
「……こちらとしては、夢園さんと同じく、元より出場する予定で考えていましたね」
……水無川さん以外の、3年生の方々も、乗り気のようで。
「ウチも〜」と、「面白そうだし、僕も興味あるかも……」と、2年生の方々も、同じく、といった様子です。
……あたしは、その……。
あの時……雪菜さんに最初に言われた時と違って、今は少し、楽しそうだと、思えます。
──ただ、その反面。
やはり、というよりも……むしろ。以前に増して。
……未だ原因不明の、例の『フルオート』現象が、頭をよぎります。
……。
……それで、なんだかんだと、頭の中では、拒否しようと、頑張りますが。
結局、強く主張できず、流されやすい性格のあたしにはどうすることもできず。
空気に流されて、あたしもエントリーする事になってしまいました……。
──ので。当日は。
仮病でも使う事に、しようと思います……。