※香澄視点です。
「……いやあ、遅くなって申し訳ないで。ニュース見てたら驚いてな。……電車、乗り過ごしてしまったんよ……」
開口一番。
やや遅れてやってきた2年生組のうちの1人、理音さんが、そんな話をしてきました。
……えっと、見た感じですと。
2年生の皆さんは、3人でまとまって来たようです、ので。
3人のうちのみんなが、降りる駅のことを忘れてしまうくらいに衝撃的なニュースだった、ということなのでしょうか……?
「──えっとな、ちょっと待ってな……」
あたしたちが、首を傾げていると、理音さんが、落ち着きのない、辿々しい手つきで、手に持っていたスマートフォンを、操作し始めました。
……えっと、これは、ややどうでもいいことなのですが。
今、理音さんは、慌てている感じではありますが。
しかし、しっかりと休憩スペースで着替えて来たらしく、3人揃ってちゃんと水着姿なのは……なんだか、絵面が、面白いです。
「……ああ、これやこれ」
……そうして、理音さんが見せてくれた、スマホの画面に映っていましたのは。
「──『プロソーサラー同時失踪事件』……?」
先日、雪菜さんと有栖さんと、一緒に見に行った試合で決勝を戦っていた、凪宮選手を含む。……何人かのプロのソーサラーの方が、不自然に行方をくらました、とのことです。
「……私がよく動画とかで見る人も行方不明みたい……普通に心配」
やや遠巻きで、理音さんの説明するところを眺めていた宙羽さんが、ぽつりと。
……そんなことを、呟きました。
……あたしたちが、何とも言えない気持ちで固まっていますと。
「……まあ、ついさっき報道されたニュースみたいで、今はびっくりしたってことで共有したけど……ウチらにできることなんてなんもあらへんからな……。変な空気にして、すまんかったやで」
──その空気を察したのか、理音さんは、肩をすくめて。
スマートフォンを、休憩スペースへと置きに、走って行ってしまいました。
……まあ、それはそう、ですね。
あたしたちは、もしかしたら、あたしも含めて……他人より『ファントムビルド』で強かったりするかも知れないですが、これは、あくまで一種のスポーツの様なものであり。
これは、事件や事故に対しての解決能力に繋がるわけではありません。
ですので、理音さんの、あたしたちにできることがない、という言葉は、とても正しいです。
しかし同時に、少しばかり、身近に近い、出来事ですので。
自分たちで解決しよう、というような気持ちは無くても、気になってしまうものは気になりますし、不安な気持ちにも、繋がります。
……あたしたちは、何とも言えない複雑な気持ちで。
顔を見合わせて、数拍分ほどの、沈黙の後。
「……少なくとも、現状こちらは未成年の子供ばかりとは言え、大人数で固まっている状態ですし、ここは水無川会長の家のプライベートビーチなので、セキュリティについても……比較的、安全な場所と言えるでしょう」
「──そう、じゃな。よし。時間もそろそろじゃし……メンバーも、みんな集まったからの。バーベキューのための準備をするぞ」
──天柄さんと、それに続いた水無川さんの言葉によって。
一旦、この場は、元の空気へと、戻りました。
……。
……スマートフォンを置いて戻って来た理音さんを加えて、バーベキューの、準備が始まります。
金網や、木炭などなど……様々な、バーベキューに必要なものは、例の、休憩スペースに、ありました。
走って行って戻って来たばかりの理音さんが、一瞬、何とも言えない表情で固まりかけてしまったりしましたが……それ以外は、順調です。
ただ、ここが、水無川さんの家が所有しているビーチであるなら、最初から、準備を整えておくことも、できたのではないか、という疑問もありましたが……。
それについては、こうして、重い器具などを、協力して運んだりするのも、ひとつの醍醐味……というこだわりによるものだそうでして。
日差しが強く、暑い中。
とても大変ではありましたが。
……準備が完了すると、達成感が、ありました。
「よーし……じゃあ、食べ物、持って来たよー」
それから、奈々実さんが、バーベキュー用のお肉や、野菜に、その他もろもろを、持って来まして。
ようやく、バーベキューが、始まります。
……えっと、たくさんのお肉を用意したみたいで、正直、食べ切れるのか、不安です。あとは、このマシュマロ……?は、バーベキューと関係があるのでしょうか……?
──密かに、あたしがそんなふうに、思いながら。
天柄さんや水無川さんの手によって、木炭に火が灯されました。
……食材については、バーベキューセットが大きいので、ある程度、各自で乗せていく方針……みたいです。
「ようし、じゃあ、準備も完了したことじゃし……前置きもいらんだろうから……」
水無川さんが、手に持ったオレンジジュースを掲げて、言葉を続けます。
「──乾杯!」
その言葉に応じて、みんなもそれを復唱し、それぞれ、手に持ったコップをぶつけ合います。
……あたしも、黒い色の炭酸ジュースが入ったコップで、皆さんと同じく、乾杯をしました。
……そして、それから。
「──あっつっ!火傷したわ……」
「あはは……まあ、さっきまで火の上で焼かれてたものだからね……」
取ってから食べるまでが早すぎて、火傷をしてしまったらしい雪菜さんに、苦笑いを浮かべた有栖さんが、炭酸ジュースの入ったコップを手渡し。
それを、雪菜さんが、勢いよく、口の中へと、流し込んで……。
……そして、咳き込んでしまいました。
……それから、ようやく落ち着いて。
一息ついた雪菜さんの、その様子見をながら。
有栖さんは、自分の皿の上に置いていた、1枚の黒い物体を、お箸でつまみ上げました。
「……ところで、これってお肉だと思う?それとも、炭かな?」
「……肉だったとしても、それはもう、かつて肉だったもの、よ。今は真っ黒な炭なんだから、やめておいた方がいいわ」
あたしも……ここでお腹を壊したら悲しいと思いますので、同意見です。
……それから、視線を移しますと。
「──舞、お姉ちゃんがいっぱい取ってあげるから、たくさん食べるんやで」
「お姉ちゃん……これは僕のお皿であって、野菜置き場じゃないんだよ」
「そうか。なら言葉を返すけど、お姉ちゃんのお皿も、野菜置き場じゃあないんやで」
例えば、天岳姉妹が野菜の押し付け合いをしていたり。
……パシャリパシャリと、たくさん、写真を撮りつつ。
しかし、それでいて、焼けたものからしっかりと食べ続けている奈々実さんが。
──あたしの目線に気がついて、あたしの方へとカメラを向けて来ましたので。
咄嗟に、とりあえず、ピースをしてみたり。
「……香澄ちゃん、これ、いい焼き加減でしょ」
突然、近くにいた宙羽さんが、美味しそうに焼けたお肉を、自慢するだけして……そのまま食べてしまったり。
お肉よりも、なぜか、マシュマロを優先して焼き始める水無川さんや、別で用意された鉄板で、本格的な焼きそばを作り、配り始めた天柄さん……など。
みんな、それぞれ、各々の楽しみ方で、バーベキューを楽しんでいるようです。
……あたしも、目の前で焼けたお肉を、取り皿に、置いて。焼肉のタレを、上からかけまして。
──それから、いただきます。
……お肉の脂の甘みと、焼肉のタレの味付け。
それから、ほんの少しだけ、焦げ臭い匂いが、口の中に、広がります。
……それから、バーベキューセットの火の熱が、直射日光の猛暑を、さらに暑くしています。
──ただ単純に、美味しいものを快適な空間で味わいたい人がいたなら。
これほど、そこからかけ離れた空間も、そうそうないことでしょう。
……ですが、しかし。
この、焼け焦げた味が。
肌が思いっきり焼けてしまいそうな暑さが。
色々な話題で、騒ぐ、聞き慣れてきた声が。
今は、何故か。
このお肉が、とても美味しいもので、それからここが、とても快適な場所であるかのように。……そんな風に、感じました。