カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



87話 ニュースあるいはバーベキュー

 

 「……いやあ、遅くなって申し訳ないで。ニュース見てたら驚いてな。……電車、乗り過ごしてしまったんよ……」

 

 開口一番。

 やや遅れてやってきた2年生組のうちの1人、理音さんが、そんな話をしてきました。

 

 ……えっと、見た感じですと。

 2年生の皆さんは、3人でまとまって来たようです、ので。

 

 3人のうちのみんなが、降りる駅のことを忘れてしまうくらいに衝撃的なニュースだった、ということなのでしょうか……?

 

 

 「──えっとな、ちょっと待ってな……」

 

 あたしたちが、首を傾げていると、理音さんが、落ち着きのない、辿々しい手つきで、手に持っていたスマートフォンを、操作し始めました。

 

 

 ……えっと、これは、ややどうでもいいことなのですが。

 

 今、理音さんは、慌てている感じではありますが。

 しかし、しっかりと休憩スペースで着替えて来たらしく、3人揃ってちゃんと水着姿なのは……なんだか、絵面が、面白いです。

 

 「……ああ、これやこれ」

 

 ……そうして、理音さんが見せてくれた、スマホの画面に映っていましたのは。

 

 「──『プロソーサラー同時失踪事件』……?」

 

 先日、雪菜さんと有栖さんと、一緒に見に行った試合で決勝を戦っていた、凪宮選手を含む。……何人かのプロのソーサラーの方が、不自然に行方をくらました、とのことです。

 

 「……私がよく動画とかで見る人も行方不明みたい……普通に心配」

 

 やや遠巻きで、理音さんの説明するところを眺めていた宙羽さんが、ぽつりと。

 ……そんなことを、呟きました。

 

 ……あたしたちが、何とも言えない気持ちで固まっていますと。

 

 

 「……まあ、ついさっき報道されたニュースみたいで、今はびっくりしたってことで共有したけど……ウチらにできることなんてなんもあらへんからな……。変な空気にして、すまんかったやで」

 

 ──その空気を察したのか、理音さんは、肩をすくめて。

 スマートフォンを、休憩スペースへと置きに、走って行ってしまいました。

 

 ……まあ、それはそう、ですね。

 あたしたちは、もしかしたら、あたしも含めて……他人より『ファントムビルド』で強かったりするかも知れないですが、これは、あくまで一種のスポーツの様なものであり。

 

 これは、事件や事故に対しての解決能力に繋がるわけではありません。

 

 ですので、理音さんの、あたしたちにできることがない、という言葉は、とても正しいです。

 

 しかし同時に、少しばかり、身近に近い、出来事ですので。

 

 自分たちで解決しよう、というような気持ちは無くても、気になってしまうものは気になりますし、不安な気持ちにも、繋がります。

 

 

 ……あたしたちは、何とも言えない複雑な気持ちで。

 顔を見合わせて、数拍分ほどの、沈黙の後。

 

 「……少なくとも、現状こちらは未成年の子供ばかりとは言え、大人数で固まっている状態ですし、ここは水無川会長の家のプライベートビーチなので、セキュリティについても……比較的、安全な場所と言えるでしょう」

 

 「──そう、じゃな。よし。時間もそろそろじゃし……メンバーも、みんな集まったからの。バーベキューのための準備をするぞ」

 

 ──天柄さんと、それに続いた水無川さんの言葉によって。

 一旦、この場は、元の空気へと、戻りました。

 

 ……。

 

 ……スマートフォンを置いて戻って来た理音さんを加えて、バーベキューの、準備が始まります。

 

 金網や、木炭などなど……様々な、バーベキューに必要なものは、例の、休憩スペースに、ありました。

 

 走って行って戻って来たばかりの理音さんが、一瞬、何とも言えない表情で固まりかけてしまったりしましたが……それ以外は、順調です。

 

 ただ、ここが、水無川さんの家が所有しているビーチであるなら、最初から、準備を整えておくことも、できたのではないか、という疑問もありましたが……。

 

 それについては、こうして、重い器具などを、協力して運んだりするのも、ひとつの醍醐味……というこだわりによるものだそうでして。

 

 日差しが強く、暑い中。

 

 とても大変ではありましたが。

 ……準備が完了すると、達成感が、ありました。

 

 「よーし……じゃあ、食べ物、持って来たよー」

 

 それから、奈々実さんが、バーベキュー用のお肉や、野菜に、その他もろもろを、持って来まして。

 

 ようやく、バーベキューが、始まります。

 

 ……えっと、たくさんのお肉を用意したみたいで、正直、食べ切れるのか、不安です。あとは、このマシュマロ……?は、バーベキューと関係があるのでしょうか……?

 

 ──密かに、あたしがそんなふうに、思いながら。

 天柄さんや水無川さんの手によって、木炭に火が灯されました。

 

 ……食材については、バーベキューセットが大きいので、ある程度、各自で乗せていく方針……みたいです。

 

 「ようし、じゃあ、準備も完了したことじゃし……前置きもいらんだろうから……」

 

 水無川さんが、手に持ったオレンジジュースを掲げて、言葉を続けます。

 

 「──乾杯!」

 

 その言葉に応じて、みんなもそれを復唱し、それぞれ、手に持ったコップをぶつけ合います。

 

 ……あたしも、黒い色の炭酸ジュースが入ったコップで、皆さんと同じく、乾杯をしました。

 

 

 ……そして、それから。

 

 

 「──あっつっ!火傷したわ……」

 

 「あはは……まあ、さっきまで火の上で焼かれてたものだからね……」

 

 取ってから食べるまでが早すぎて、火傷をしてしまったらしい雪菜さんに、苦笑いを浮かべた有栖さんが、炭酸ジュースの入ったコップを手渡し。

 

 それを、雪菜さんが、勢いよく、口の中へと、流し込んで……。

 

 ……そして、咳き込んでしまいました。

 

 

 ……それから、ようやく落ち着いて。

 一息ついた雪菜さんの、その様子見をながら。

 

 有栖さんは、自分の皿の上に置いていた、1枚の黒い物体を、お箸でつまみ上げました。

 

 「……ところで、これってお肉だと思う?それとも、炭かな?」

 

 

 「……肉だったとしても、それはもう、かつて肉だったもの、よ。今は真っ黒な炭なんだから、やめておいた方がいいわ」

 

 あたしも……ここでお腹を壊したら悲しいと思いますので、同意見です。

 

 

 ……それから、視線を移しますと。

 

 「──舞、お姉ちゃんがいっぱい取ってあげるから、たくさん食べるんやで」

 

 「お姉ちゃん……これは僕のお皿であって、野菜置き場じゃないんだよ」

 

 「そうか。なら言葉を返すけど、お姉ちゃんのお皿も、野菜置き場じゃあないんやで」

 

 

 例えば、天岳姉妹が野菜の押し付け合いをしていたり。

 

 

 ……パシャリパシャリと、たくさん、写真を撮りつつ。

 しかし、それでいて、焼けたものからしっかりと食べ続けている奈々実さんが。

 

 ──あたしの目線に気がついて、あたしの方へとカメラを向けて来ましたので。

 咄嗟に、とりあえず、ピースをしてみたり。

 

 

 「……香澄ちゃん、これ、いい焼き加減でしょ」

 

 突然、近くにいた宙羽さんが、美味しそうに焼けたお肉を、自慢するだけして……そのまま食べてしまったり。

 

 

 お肉よりも、なぜか、マシュマロを優先して焼き始める水無川さんや、別で用意された鉄板で、本格的な焼きそばを作り、配り始めた天柄さん……など。

 

 みんな、それぞれ、各々の楽しみ方で、バーベキューを楽しんでいるようです。

 

 ……あたしも、目の前で焼けたお肉を、取り皿に、置いて。焼肉のタレを、上からかけまして。

 

 ──それから、いただきます。

 

 ……お肉の脂の甘みと、焼肉のタレの味付け。

 それから、ほんの少しだけ、焦げ臭い匂いが、口の中に、広がります。

 

 ……それから、バーベキューセットの火の熱が、直射日光の猛暑を、さらに暑くしています。

 

 ──ただ単純に、美味しいものを快適な空間で味わいたい人がいたなら。

 これほど、そこからかけ離れた空間も、そうそうないことでしょう。

 

 ……ですが、しかし。

 

 この、焼け焦げた味が。

 

 肌が思いっきり焼けてしまいそうな暑さが。

 色々な話題で、騒ぐ、聞き慣れてきた声が。

 

 今は、何故か。

 このお肉が、とても美味しいもので、それからここが、とても快適な場所であるかのように。……そんな風に、感じました。

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