※香澄視点です。
……おおよそ、4袋分程を開封し。
その中にあった分の、カラフルな火花が吹き出すタイプの手持ち花火を使い切りました。
それから、他の袋は残すことにして。打ち上げ花火や、設置するタイプの花火を、点火したりしまして。
……それは、有名な花火や、お祭りなんかで見るような打ち上げ花火と比べれば、とても規模の小さなものでした、が。
目の前で点火して、打ち上げていくものでしたから、見ていてとてもハラハラしましたし、迫力も感じました。
……澄み渡り、大きな三日月と、数え切れないほどの星々が輝く、綺麗な夜の空でしたが。間違いなく、今日の主役は月でも星でもなく、小さな花火で。
そして、全てを終えた時には。まるで、大きなお祭りの後のように、名残惜しい気持ちが、強く、心に残りました。
「……さて、花火も終わり、じゃな」
……最後の花火が打ち上がり、少しの時間が経ちまして。
余韻に浸るような、静まり返った空気の中で。水無川さんが、そう言いました。
「──よし、じゃあ、そろそろ部屋に入るとするかのう」
今日は、もう、大分遅い時間です。
ですので、これから、各自家に帰るとなれば、それは、かなり大変です。
すっかり暗くなってしまっていますし……それに、海に入ったりもしましたので、いくら着替えがあるとは言えこのまま電車に乗る、というわけにもいかないでしょう。
……と、いうことで。
元々、今日は、水無川さんのご家族が所有する、いわゆる別荘……みたいなところに、みんなで泊まることになっています。
……なんだか、別荘というと、すごくお金持ちっぽくて、遠い話のように感じますが、今日実際に泊めてもらう、ということで。
なんだか、ちょっとだけ、不思議な気持ちです。
……。
そうして、みんなで、バケツの中に一旦ゴミを突っ込んだりといった、後片付けを、いたしまして。
それから、休憩スペースに置いていた、それぞれの荷物も、回収しまして。
いよいよ、水無川さんの別荘に、突入……?です。
……。
「……えっと、別荘って、どんなところ、なんでしょう……?」
「んー?ほのっちの別荘ー……?そうだねー……行けばわかるっていうのはともかくとしてー。……すごいよ」
「──そんなに、なんですか……?」
「うん。そうだねー……香澄っちは、本物のメイドさんとか、見たことある?」
「……えっと、ない、です」
「ふむふむ。……それならー、今日初めて見ることになるかも?」
「……えっと、あたし、マナーとか何も知らないのですが、その……大丈夫、でしょうか……」
移動中、近くにいた奈々実さんから伺ったお話により。
……期待値が上がるよりも、緊張を、強く感じます。
「……緊張しすぎない方がいいわよ。一応、私たちはゲストなんだから。あんまり失礼なことをしなければ、何も言われないはずよ」
……あたしが、今更の不安で、どきどきしていると。
いつの間にか隣に来ていた雪菜さんが、声をかけてくれました。
……そう、ですよね。
失礼なことさえしなければ……失礼なことさえ……。
あの、本当に、今更なのは承知の上ですが、やっぱり不安です……。
……。
……そうして、恐る恐る。雪菜さんの影に隠れるようにしながら着いていき、中に、入りますと。
「──お帰りなさいませ、焔夏お嬢様」
「……うむ。今日は、生徒会のみんなを連れて来たぞ」
そこには、本物のメイドさんが、いまして。
……水無川さんに、上品な仕草で頭を下げて、挨拶をしていました。
──その、メイドさんって、実在したんですね……。
ただ、メイドさんはメイドさんでも、オムライスにケチャップでハートマークとかは描いてくれなさそうな、雰囲気です。
まあ、それがつまり『本物っぽい』っていうことでもあるのですが……。
「──かしこまりました。お話は、伺っております。……ようこそおいでくださいました」
「うむ、まあ、その……ちょっと堅苦しいかも知れないが……あまり気にしなくていいぞ。貴族、に家系のルーツはあるらしいが……少なくとも今は貴族でもなんでもないし、ただ家がちょっと大きいだけ……じゃからな」
あたしたち……と言うか、主に、あたしが。
完全にびびって、「帰ろうかな……」と、心の隅で思ったのを察したのか、なんだか少し、気まずそうに。
水無川さんは、苦笑いを、浮かべました。
「──うむ、えっと。……とりあえず体は拭いたが、まずはシャワーを浴びたいのじゃが……」
「はい。お嬢様。事前にお話をいただいておりましたので、既にお湯を沸かせております。お好きなタイミングで、ご自由にお入りくださいませ」
「……よし、風呂に入るぞ!みんな!なんと言っても、ここの風呂は無駄に広いからな!9人くらい余裕じゃ!」
──と言うことで、お風呂に入ることに、なりました。
……。
……お風呂に入るところについては、割愛させて、いただきまして。
とりあえず、ひとつだけ言えることがあるとすれば、それは、本当に9人で入っても問題ないくらいに広いお風呂だった、と、言うことです。
以前、あたしと雪菜さんと有栖さんで行った、温泉ホテルがあったかと思いますが、あの時の温泉よりは流石に少し狭いものの……。
かなり、大きな差はないと思えるくらいに、広かったです。
……それに、その、掃除がすごく行き届いているような、清潔感、みたいなものがすごかったことと、全体的におしゃれな装飾が施されていたことが、印象的で。
あの時の温泉とは、全く違う雰囲気の場所……でした。
「いやー……いいお湯だったねー」
「うん、やっぱりここのお風呂はすごい」
奈々実さんと宙羽さんが、のんびりと、そんなことを話しているのが、聞こえてきます。
「えっと、その……とてもいいお風呂を、ありがとうございます……」
あたしは、なんとなく、そうした方がいいかなと思いまして、水無川さんに、お礼を言いました。
「……う、うむ。……まあ、わしがなにかすごいことをしたわけじゃないし、この家だって、別にわしが建てたわけでもなんでもないからなあ……。あんまり、気にしなくていいんじゃよ」
水無川さんの言葉を受け、それから、周りを見てみると。
他の生徒会の方々も、気持ち、少しだけ、背筋を正しているような感じはありますが、案外、いつも通りなことに、気が付きました。
……例えば、奈々実さんはお風呂から上がって、早速ポケットから取り出したグミをつまみ始めたようですし、例えば、宙羽さんは、複雑な刺繍の施されたカーペットの上で、思いっきり足を伸ばしてスマホゲームをしています。
……いえ、まあ、今挙げたお2人が特に寛ぎ過ぎているだけな感じはありますが……。
……それでも、過度に肩に力が入っていたこともまた事実ではありますので、どうにか意識して、少しだけ、肩の力を外してみようと、思いました。
……そうして、しばらくして。
夕飯が、出てきました。
──それはもう、映画などでしか見ないような、豪勢な夕食が、振る舞われまして。
あたしは、また、とても緊張してしまい。
とりあえず、隣に座っていた雪菜さんの真似でもしようと思ったのですが……。
……雪菜さんもまた、なんだか品のある所作で、お食事を始めてしまい、とても、真似できそうな、気がしませんでしたので。
反対側の隣に座る、有栖さんの、真似をすることにしました。
……えっと、グラスが、やけに、綺麗で上品だったので。
なんだか、飲んでいるジンジャーエールや葡萄ジュースなどのジュースが、どれもお酒であるように見えて。それがちょっとだけ、面白かったです。
……と。そんなこんなで、お食事も、終わりまして。
……あとは、ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、リビングと思われるお部屋の中で、寛ぎまして、気が付けば、消灯の時間として、事前に伝えられていた時間に、なってしまいました。