カードのテキストが長すぎます!   作:ピンノ

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※香澄視点です。



90話 読書あるいは夜更かし

 

 消灯の時間を過ぎた、真夜中。

 細やかな刺繍が施されたカーテンの隙間から、微かな月明かりと、それから、子守唄のような虫の声が、部屋の中へと、入ってきます。

 

 ……現状について説明しますと、あたしたちは、寝室として、客室……というお部屋を使わせてもらっていまして。

 

 そこに、みんなで布団を敷いて、横になっていました。

 

 ……本当は、2、3人で1組になって、1組1部屋、というのを、予定していたみたいですが。

 

 せっかくだから、みんなで寝てみたい、というお話に、なりまして。

 ……それで、このような形に、なりました。

 

 ……それに、その。一言に客室、とは言っても。

 

 ──生徒会のみんなで横になっても、余裕があるくらいの広さがありまして。

 窮屈だったり、不便に感じたりと言ったことは、特にありません。

 

 ……それで、灯の消えた、暗い部屋の中で。

 先ほどまで、軽くおしゃべりなんかをしたりしていたのですが、気が付いたら、皆さん眠ってしまったみたいでして。

 

 ……それで、今。

 

 ──あたしは、少しばかり困っていました。

 具体的に、それは……と、言いますと。

 

 ……その。日中、あれだけ色々としたにも関わらず。あたしは、今ひとつ眠りに就くことが、できなくて……。

 

 ……それで、まだ、ぼんやりと。

 

 暗いせいか元々ないのかはちょっと定かではありませんが。

 ……シミひとつ見当たらない天井を、ただひたすらに、見上げていました。

 

 

 ──寝付けない要因は、なんでしょうか。

 

 慣れない場所、というのはありそうですし、同じ部屋で横になっているので、みんなが近くにいる、というのもまたありそうです。

 

 後は。もしかしたら、朝に理音さんから聞いたニュースのことも……あるかも知れません。

 

 それで、ただ、ぼんやりと。

 ……しているのも、なんだか……と、いった気持ちでしたので。

 

 ──思い切って、こっそり……と言うほどでもないかも知れませんが、静かに。

 客室から、出ることにしました。

 

 とりあえず、お手洗いでも、行きましょうか。……と、いった感じで。

 

 ──そうして、客室の扉を、できる限り音を出さないように、開いてみますと。

 

 ……廊下の先、少し前まであたしたちがいた広間に、明かりが付いていました。

 

 ……それを、見て。

 

 ──あまり、よくないことだとは思いつつも。

 気が付けば、興味を惹かれて。……まるで、灯りに吸い寄せられる蛾のように、ふらふらと。

 

 ゆっくりと歩いて、近づいて、いきまして。

 ……そして、扉を。少しずつ、開きます。

 

 ──そうしたら、そこには。

 

 

 ……椅子に座った宙羽さんが。ただ、静かに本を、読んでいました。

 

 そう言えば……宙羽さんは、以前、全教科100点のテストを、あたしに見せつけてきたことがありましたが。

 

 ……それは、ああ言った。普段からの努力を欠かさないからこそ……なのでしょうか。

 

 あたしも、少しくらいは。

 ……見習った方が、いいのかも、知れません。

 

 ……と。そんなことを思って。

 半開きの扉の向こう側から、特に何かを言うでもなく、ただ、見ていましたら。

 

 ──不意に、宙羽さんが、ちらりと。

 何の気なしに、といった様子で。こちらに、視線を向けてきました。

 

 「……」

 

 「……」

 

 ……ぱちり、ぱちり、と。そこそこに距離が近い場所だったのもあって、宙羽さんの瞬きが、よく見えます。

 

 ──そうして、見つめ合い。

 

 

 ……気まずい時間が、流れます。

 

 

 「……か」

 

 静寂に耐えかねたのか、宙羽さんが。

 言葉を発しようと口を開き、同時に、あたしの方へと体を向けようとした、その瞬間。

 

 ──とさり、と。手を滑らせたのか、宙羽さんが読んでいたであろう本が、横に倒れました。

 

 ……えっと、その。先ほどまでは、角度の都合上、背中で隠れて「本を読んでいる」ということしか、わからなかったのですが……。

 

 ──それが、横に倒れたことで。

 

 ……その本が、いわゆるところの、薄い本、と。そう、呼ばれるものであることが……わかりました。

 

 ……勉強をしていたわけじゃ無かったんだ、と思いつつも、そんなことを言うのもどうかと思いましたので、結局、言葉を発することができず、あたしは、そのまま、黙って立ち尽くします。

 

 「……」

 

 ──先程、口を開きかけた宙羽さんも、本が急に倒れたことで、タイミングがずれてしまったのか、また、口を閉じてしまいまして。

 

 「……」

 

 ……それで、また再び、沈黙が訪れます。……が。

 

 

 「……香澄も、寝れなかった?」

 

 ──まるで、何事もなかったかのように。宙羽さんは、あたしに向けて声をかけてきました。

 

 ……そうして、それから。

 少し遅れて、あたしの視線に、気がついたようで。

 

 

 「──これは今日、こっそり奈々実先輩から貰った新作だよ。……色々手伝った甲斐があった」

 

 自慢するように、表紙を見せつけてきました。

 表紙を見たところ、デカデカと、可愛らしいアニメのキャラクターが写っていますが。

 

 ……どうやら、全年齢対象のものみたいです。

 

 

 ──全年齢対象のやつでよかった……と、一瞬、思いかけましたが。

 

 ……よく考えてみたら、そのようなことは、今は特に重要ではありません。

 いえ、まあ、重要なことではあるかも知れませんが……それはともかく、というやつです。

 

 

 「……あの、どうして宙羽さんが、ここに……?」

 

 ──気を取り直して、あたしが、恐る恐る聞きますと。

 

 

 「──多分、香澄と同じ。いまいち寝付けなかった。……そしたら、水無川会長にここか『バトル場』なら自由にしていいって言われた」

 

 いつも通り無感情っぽい感じの、淡々とした答えが、返ってきました。

 

 

 「……けど、『バトル場』は『ファントムビルド』をするところだから、1人で過ごすのには向いてない」

 

 ──だから、その2択でここを選んだ……ということですね。

 

 ……なんと言いますか、その。宙羽さんは言葉を省きがちな方なので。

 

 あたしの頭の回転があまり早くないのも相まって、言葉の意味を汲み取るのにワンテンポ遅れてしまいます……。

 

 

 「──そう言えば、香澄は、本とか読む?」

 

 ……本、ですか。

 ジャンルにもよりますが……。

 

 あたしがそう思っていますと、宙羽さんが。広間に置いてある、水無川さんのか、もしくはそのご家族のものであろう本を、手で指しました。

 

 

 ……その手の動きに、釣られるような形で、視線を向けていきますと。

 

 ──ハードカバーのやたらと難しそうな本ばかり……というか、ほとんど外国語でタイトルが書いてあるので、なんで読むのかわかりません。

 

 「……えっと、多分……読まない、です」

 

 立ち並ぶ、難しそうな本を見て。……あたしが、そう返しますと。

 

 

 「──そっか。……なら、『ファントムビルド』でもしない?」

 

 ……急に、話が方向転換してきたので、あたしの口から言葉が出てこない間に、宙羽さんは、静かに、ゆっくりと、言葉を続けます。

 

 

 「……嫌ならいいけど、そう言えば、香澄とバトルしたこと無かったし。……ちょうどいいかなって」

 

 ……その、ちょうどいいというのが、どういうことなのかは、よくわかりませんが。

 

 「……えっと、その……」

 

 ──あたしが、なんとなく、お断りさせていただこうかな、と、口を開こうとしたのと、ちょうど同じタイミングで。

 

 「……中々、タイミングもないし。せっかくだから。……どう?」

 

 ……。

 

 ……まあ、そう、ですね。

 

 一度言葉を引っ込めたせいで。

 ……タイミングを逃して、お断りする言葉が、何となく口にしづらくなってしまいました。

 

 ……それなら、その……と、言いますか。

 まあ、このバトルの結果が、何かに繋がってくる……というわけでも、ないでしょうし。

 

 それに……宙羽さんは普段あまり積極的に『ファントムビルド』をしたがるタイプでもないので、物珍しさに興味を惹かれてしまった点も少しだけ、ありまして。

 

 「……あ、えっと……はい。わかりました……その。よろしくお願い、します……」

 

 「うん。……じゃ、行こっか。道は聞いてるから。……たしか、こっち」

 

 

 ……そうして、結局。

 あたしたちは、虫の声くらいしか聞こえてこない、静まり返った真夜中に。

 

 ……突発的に、『ファントムビルド』を、することになりました。

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