機動戦士ガンダム 異世界から来た日本兵   作:モッチー7

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第1話:異世界から来た日本兵

千紫進(せんしすすむ)は日本の8月が嫌いだ。

何故か?

それは、同調圧力的に戦争を悪者扱いするからだ。

目まぐるしく変化する世界情勢に目を向けず、迫りくる危機に気付かず、誰もかれもが異口同音、『戦争を辞めろ』『戦争はするな』『核兵器は廃絶するべきだ』と口にする。

挙句の果てには、日本を他国の脅威から護り続けてきた沖縄の在日アメリカ軍基地を邪魔者扱いする体たらく。

だから、千紫進は日本の8月が嫌いだ。

そして、目の前の男は千紫の逆鱗に触れた。

「原爆ドームを保存する為のクラウドファンディングだと!?」

「そ♪日本は世界で唯一の被爆国だからねぇ、だからこそ……核廃絶の旗頭になんないとねぇー♪」

千紫にとってはふざけるなな話だった。

「ふざけてんのか?」

「はぁー?それって、俺みたいなチャラ男が核廃絶に―――」

その途端、千紫は目の前の男の胸倉を掴んだ。

「ふざけるな!今まで誰のおかげで日本が平和だったか判っているのか!?」

千紫のこの剣幕に対し、自他共に認めるチャラ男は、売り言葉に買い言葉と言わんばかりに真顔で答えた。

「千紫……お前は何時まで、アメリカの核の傘の脛をかじる気だ?」

「違う!俺が言っているのは日本も早く非核三原則と言う悪法から脱却し!急ぎ核武装して核抑止力と言う盾を得ないと!いずれ日本は他国に滅ぼされるって言ってんだよ!」

イラついたチャラ男が千紫の胸倉を掴んだ。

「それ……広島や長崎の前で言える?」

千紫は自信満々に答えた。

「言える。国防を他国任せでは無く自らが主体で行うべきだ。だから、日本は憲法第九条や非核三原則などと言った悪法を―――」

「で、武力行使すれば思い通りに出来ると言う風潮を日本が広めるって訳か?」

「何故!?国を護る為の武装強化や核武装をしただけでそうみられる」

「口では平和を訴えておきながら、その裏で軍備拡大してる国、誰が信じる?」

「古いな」

千紫の『古い』発言に、チャラ男は千紫の思考に不安を感じた。

「……古い……?」

「もはや、日本が侵略されても、強力な自衛手段や行動がなければ誰も助けてくれない!竹島、北方領土、尖閣諸島はもちろんの事、うかうかしていると、日本は周辺国によって切り取られて逝く!戦争(もしも)の為に、軍備拡張!軍事力強化!核武装!と言う保険を―――」

 

チャラ男は落胆し幻滅した。

 

千紫は確かに現実的主戦主義者を騙る所が有った。チャラ男もそれを知ってはいた。

だが、日本国憲法第九条や非核三原則をそこまで馬鹿にし忌み嫌い、軍事力や核抑止力の邪で悪しき魅力に取り憑かれ、戦争が生み出してきた惨劇・悲劇をすっかり忘れてるとは、夢にも思わなかった。

チャラ男は自分の認識の甘さを呪った。

「俺も人の事は言えないが……戦地の現実を知らない癖に偉そうな事を言うなぁーーーーー!」

その直後、千紫の頭頂部に落雷が直撃した……

 

千紫が目を覚ますと、そこは病院のベットだった。

「……ここは……」

千紫はこの病院に入院するまでの記憶を思い出そうとするが……

(俺は確か……非現実的反戦へと堕ちたあいつを説得しようとして……)

結局……

千紫はクラウドファンディングを使って原爆ドームを修復しようとしたチャラ男と取っ組み合いの喧嘩に発展しかけた直後からの記憶を思い出せずにいた。

(何が遭った?……まさか!?)

千紫は変な意味で嫌な予感がしていた。

(俺があいつに負けた……堕落し過ぎて非現実的反戦に成り下がったあいつに……何時中国や北朝鮮が攻めて来ても大丈夫な様に自衛隊に入隊したこの俺が……)

つまり、千紫は自分の入院をただの脳震盪だと勘違いしていたのだ。

故に、千紫は焦った。

反戦を訴える事しか出来ないチャラ男如きに負けた自分が許せなかったのだ。

誰よりも国防の為の軍備強化・核武装の必要性を正しく理解している筈の自分が、堕落し過ぎて非現実的反戦へと堕ちた屑男に負けた事が許せなかった。

故に、千紫の目覚めに気付いた看護師は困惑した。

「ちょっと!?貴方何をしてるんですか!?」

「トレーニングだ」

千紫の天井を使ったトレーニングに焦る看護師。

「トレーニングじゃありません!まだまだ安静にしていないと―――」

「ただの脳震盪だ。その程度で慌てるな!」

「素人の身勝手な診断を真に受けないでください!」

 

で、千紫が入院している病院の会議は千紫の奇行の事でもちきりだった。

「ははは。この様子だと、退院が早まりそうだな」

「笑い事ではありません!」

「いやぁー、すまんすまん。でも、その様子だと命に別状は無さそうだな」

「だと良いですが……それについてはもっとちゃんと精密検査をしなくては」

病院側の懸念は千紫の体調だけではなかった。

「で、例の患者の素性は解ったか?」

院長の言葉に会議に参加していた医師達は困惑した。

「一応……」

「一応?」

「はい。患者の運転免許証を入手し、患者の国籍が日本国だと言う可能性が有るとこまでは掴めたのですが」

歯切れの悪い報告に少し不満に感じる院長。

「なんだね!?その歯切れの悪い返事は!?それでは、我々はどうやって患者の家族に連絡しろと言うのかね!?」

「院長の御気持ちは重々。ですが、例の免許証が偽造の疑いも―――」

「偽造!?」

部下達の憶測に、院長はある種の不安と恐怖を感じた。

「じゃああの男はペペロニアン王国の刺客だと言うのか!?」

「もしくは、多国籍連盟軍」

会議参加者の言葉に会議室にいる者全員が驚きざわめいた。

が、その疑惑は直ぐに払拭された。

「ですが、彼らは何故『令和』と言う言葉を使用したのでしょうか?」

令和は日本の現在の年号の筈だ。

なのに、彼らは何故か令和が存在する事に違和感を感じていたのだ。

 

一方の千紫もまた、雪崩の様な違和感に襲われていた。

その最大の理由が、窓から見える夜景である。

「……何時まで経っても昼にならないぞ?」

何時まで経っても終わらない夜景……いや、これは本当に夜景なのか?

寧ろ、宇宙船から観る景色の様な、そんな異様さまである。

「……とりあえず話しかけてみるか」

千紫はこの病院にいる人間に話しかける事に、まるで敵国の捕虜になったかの様な不安があるが、ここがどこなのか確かめない事には動き様が無いと判断したのだ。

が、病室を出た途端、千紫は自分の待機に向かない性格を呪った。

(なんだこの服!?まるでSF映画の様じゃないか!)

慌てて病室に戻った千紫は、ここが日本ではないと確信した。

(何か武器!?武器になりそうな物はないか!?)

慌てて病室のタンスをあさる千紫であったが、どれも戦闘に役立つとは思えないものばかり。

「刃物とか無いのか!?ハサミでも鉛筆でも何でも良い!」

だが、ここはやはり病院なのか、患者の自殺を促す物はそう簡単には見つからない。

どんだけ探しても武器として使えそうな物が見つからず、ただ時間だけが過ぎてそれが千紫を焦らせる。

しかも、

「扉が開かんだと!?何故だ!?病室には鍵が無い筈だぞ!」

「まさか、自殺を考えているのか!?」

「落ち着け!君はまだ若い!馬鹿な考えは止せ!」

追い詰められた千紫は、1枚のタオルに賭ける事にした。

(使えそうな武器がタオルだけとは……我ながら平和ボケしたなオレも……)

千紫が自殺を図ろうとしていると勘違いした医師達が慌てて病室に雪崩れ込むが、千紫はその隙に医師達の背後に回り込み、その内の1人の首にタオルを巻きつけた。

「動くな!」

「何をしているんだね!?君は―――」

「動くなと言っている!」

そして、千紫は捕らえた医師を盾に後退りしようとする。

「下手に動いたら、こいつの命は無いぞ!」

だが、騒ぎを聞きつけ、看護師の制止を振り切ってやって来た患者に背後から殴られ、千紫はそのまま失神した。

 

千紫が目を覚ますと、病院のベットに磔にされていた。

当然である。

本来なら殺人未遂と恐喝で逮捕されても文句が言えない事をしでかしたのだから。

(くそ!これで……詰みか!?)

が、被害者である筈の医師達は警察を呼ばなかった。

いや……呼べなかった。

その理由が、

「君は……いったい何者なのかね?」

そう。

医師達は千紫の正体を知らない為、対処に困っていたのだ。

 

本当なら舌を噛み切って死んでしまいたいくらいだが、それでは、自分は日本に対して何の役にも立っていないと感じてどうにか踏みとどまる千紫。

が、ベットに磔にされて動けない千紫に主導権は無い。

出来る事は、ただひたすら敵の拷問に耐えるのみである。

千紫はそれを自業自得と言い聞かせ、自分と敵国以外を恨まぬ様心掛けようとする。

しかし、待っていたのはただの質問攻めであった。

「単刀直入に訊く。君はどっちの味方かね?」

「千紫進」

「……やはり素直に話さんか……では質問を変えよう。君はペペロニアン王国は好きかね?」

千紫は、聞き覚えが無い単語に吹き出しそうになったが、何とか踏みとどまった。

「知らん」

これもダメかと思い、医師達は再び質問を変えた。

「では質問を変えよう。今の中国やロシアは、どう思う」

千紫は一瞬迷ったが、どうせ詰んでいるのであれば、少し自暴自棄になってやろうと思った。

「俺は嫌いだね」

医師達は一瞬嫌な予感がしたが、千紫の次の言葉がその不安を霧散させる。

「あいつら、何時台湾有事をやらかすか……いやそれだけじゃすまないだろうな」

医師達は目の前にある非現実過ぎる真実に混乱していた。

「台湾……有事……?」

が、千紫は自信満々に言い放った。

「何を驚く事がある?中国やロシア、北朝鮮が日本侵略を企んでいる事ぐらい、赤ん坊でも解るぜ!」

どちらでもない事を察した院長が、千紫の拘束を解くよう命じた。

「何!?」

まさか解放してくれるとは思っておらず、それがかえって千紫を不安にしてしまった。

「何を……考えてる?俺が逃げる可能性―――」

「これは、お返しします。勝手に拝借して申し訳なかった」

院長が差し出した物を見て、千紫はますます困惑した。

「俺が……自衛官だと知っていながらか?」

一方の院長も困惑しながら質問する。

「……やはり……貴方の生年月日は昭和63年1月1日なんですね?」

既に彼らに免許証を視られているので、千紫は隠ぺい不可能だと判断した。

「そうだ。それがどうかしたか」

千紫の生年月日に関する非現実的過ぎる真実の真相を知りたいとは思うが、かえって混乱を助長すると思い、先程言った現在の中国とロシアの現状(・・・・・・・・・・・・)を説明する事にした。

「貴方の言い分を察するに、我々が今から言う現状を素直に信じるとは思えませんが、今の中国やロシアに侵略行為をする余裕があると?」

千紫は心底軽蔑した。

「あいつらが侵略行為をしない?頭大丈夫かお前ら?」

医師達は改めて目の前の非現実的過ぎる真実が真実だと思い知り、ますます混乱した。

「つまり……中国もロシアもペペロニアン王国に敗れた事を知らないと?」

千紫は大笑いした。

それはつまり、千紫がこの時代の人間じゃない(・・・・・・・・・・・・・・)事を意味していた。

「やはり信じませんか?」

「中国もロシアも核保有国だぞ。そいつらと互角(まとも)に戦えるのは、同じ核保有国―――」

「確かに!ペペロニアン王国は建国宣言間もない新興国ですし、ペペロニアン王国は核兵器を忌み嫌っています」

「非核や核廃絶が平和への道だと勘違いしている馬鹿なのか?お前らは」

医師達は目の前の男がこの時代の人間じゃない事も解るし、これは絶対に信じないなと言うのも解る。

だが、どんな事情が有ろうと来てしまった以上、この時代に何が起こっているのかを理解する必要があるのも事実。故に、院長は素直に現実を話した。

「貴方が何を言おうが、中国やロシアがペペロニアン王国軍地上部隊に負けた事は事実です。しかも、ペペロニアン王国軍地上部隊は未だに中国全土、ロシア全土、そしてハワイ諸島全域に立て籠もり、ペペロニアン王国の主張を通せと訴えているのです」

千紫は院長の真剣な目を見て、どんどん背筋が寒くなってきた。

これは嘘でも冗談でもないと。

「中国とロシアが……負けた……きゃつらは核保有国なのに……」

「しかも、ペペロニアン王国が地上部隊を急遽新設して地球に攻め入ったのは、多国籍連盟軍が行った菜園・養殖用アニアーラに核弾頭を撃ち込んだ事が口実となっております」

千紫は愕然とした。

核抑止力が核保有国を護る盾になっている筈が、逆に中国やロシアが謎のテロ組織に乗っ取られてしまう原因に陥った事実に。そして、核保有国を護る国防の切り札である筈だった《核抑止力》が、今となっては核保有国を苦しめる弱点となってしまった現実に。




設定紹介

●千紫進(せんし・すすむ)
年齢:35歳。性別:男性。
本作品の主人公。陸上自衛隊2等陸尉。場合によっては武装強化や核武装も辞さないと考える自称現実的主戦主義者で、同調圧力的な非現実的反戦を忌み嫌っていたが、落雷事故の影響でガンダムシリーズの様な異世界に転移してしまい、理想と現実の乖離に苦しめられる事になる。
イメージモデルは『Yahooニュースでよく見る軍事力強化推進・核抑止力賛成コメントが掲げる理想・絵空事』。

●令和
日本国が西暦時代に使用していた国内年号。
千紫進が所有する運転免許の有効期限にでかでかと書かれていた為、千紫進が異世界転移直後に入院した病院の医師達を大混乱に陥れた。

●エリ・クサ
性別:男性。
千紫進が異世界転移直後に入院した病院の院長。その後、千紫進の運転免許の有効期限を視て驚愕。千紫進の正体解釈に苦心する羽目になった。
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