機動戦士ガンダム 異世界から来た日本兵   作:モッチー7

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第3話:赤い高速

千紫進は焦っていた。

戦争の必要性を完全に忘れた、この時代の日本政府の頭の悪さに。

「何を考えてるんだ……あいつらは!」

千紫は今直ぐ国会に乗り込んで、何時日本に侵攻してもおかしくないペペロニアン王国と戦うべく、間違った中立を即時辞めさせたかった。

だが……

「どうやって日本に帰れば良いんだ?」

この時代の仕組みを全く解っていない千紫は、どうすればこのアニアーラから出られるのか、そして、どこに日本行きの船があるのか、全く解っていなかった。

それどころか、今日の衣食住をどうするのかすら決まっていないのだが、急ぎペペロニアン王国の魔の手から日本を護りたい千紫は、自分の衣食住に無頓着になり過ぎていた。

「どうすれば良い。急いで日本に戻り―――」

そこへ、千紫の怒りの炎に油を注ぐかの様な台詞であった。

「そんなにペペロニアン王国が怖いのですの?」

「怖い……だと?」

千紫が声のする方を向くと、そこには赤に包まれたかの様な少女がいた。

赤い服、赤い帽子、赤いサングラス、その少女は異様なまでに赤かった。

が、そんな事より、千紫にとっては日本の敵国であるペペロニアン王国を恐れていると勘違いされた事が、この上なく屈辱だった。

「この俺が、日本を滅ぼそうとしている敵国に背を向けて逃げると言うのか?」

一方の赤い少女は、千紫が何を言っているのか解らず、ただ不思議そうに首を傾げた。

「敵?貴方は誰の味方ですの?」

千紫は堂々と答えた。

「日本だ!俺は日本人だ!」

その言葉に赤い少女は微笑んだ。

「つまり、ペペロニアン王国と戦う気は全く無いとおっしゃいますの?」

「違う!」

赤い少女はやはり首を傾げる事しか出来なかった。

「違う?ペペロニアン王国と戦う心算で日本に往く……矛盾してますわ」

「矛盾点は1つも無ぁーい!」

赤い少女は少しだけ合点がいった。

「つまり……ペペロニアン王国を全く信用していらっしゃらないと?」

「当たり前だ!中国やロシアをいきなり強襲して侵略した連中を、誰が信じると言うんだ!?」

千紫の啖呵に対し、赤い少女はあっけらかんと答えた。

「そう意気込んで、8ヶ月以上も待ち惚けを食わされたと言いますのに?」

「それは、中国やロシアとの戦いで傷ついたからだ。その傷を癒しつつ、我々日本国の隙を伺っているのだ!」

「その程度で息切れする程弱い国が、多国籍連盟軍と言う強大無比な国際的軍事組織に喧嘩を売る?無責任で無知な焦りしか出来ない馬鹿のする事ですわ」

「それは!……」

そこで、千紫の喉は詰まった。

確かに、これだけ派手に侵略行為を行ったペペロニアン王国が他の国からの制裁を受けない方が矛盾している。

しかし、ペペロニアン王国は未だに中国全土とロシア全土を占領し続けている。

それはつまり、他国がペペロニアン王国に対して打つ手が無い事を意味しており、ペペロニアン王国もその自信が有るから今回の立て籠もり行為を実行したのだ。

現に、ペペロニアン王国は中国とロシアに勝利している。

その事実を無視し、ただ他国の状況も考えずに国防を目的とした軍事力増大を訴えていた千紫は、赤い少女から観たら、

「そんな無知で無責任な軍事は、救済とは呼べませんわ……」

そして……赤い少女は千紫に止めを刺すかの様なダメ押しの単語を吐きながら、千紫の許を去った。

「……迷惑!」

 

千紫と別れた赤い少女は、千紫の戦意過剰な性格に呆れていた。

「随分物騒で……無責任な方でしたわね?」

そして……赤い少女は物陰に隠れながらスマホを使って誰かと連絡を取っていた。

「もしもし、わたくしですわ」

 

一方、日本国防衛を目的とした軍事強化や核武装を『無責任』や『迷惑』と呼び一蹴した赤い少女に対して説き伏せきれなかった自分を恥じる千紫。

「俺は馬鹿か……なんであんな……あんな間違いだらけに押し切られた……」

それは同時に、千紫にこの時代の日本の行く末に不安を感じさせる強烈な一撃でもあった。

「あんな馬鹿女に核武装の必要性を正しく教えてやれなかった情けない俺が……恐怖に屈し過ぎて間違った中立宣言をしてしまった、臆病な政治家共を説得出来るのか……」

そんな不安に支配されかけた千紫の耳を、緊急アナウンスが貫いた。

「緊急警報!緊急警報!現在、第7アニアーラ群にペペロニアン王国の部隊が接近しています!直ちに窓から離れ、係員の指示に従い―――」

その途端、赤い少女との口論に負けた事による不安は消し飛び、何時日本に侵攻してもおかしくないペペロニアン王国への怒りに支配された千紫。

「何がペペロニアン王国を信用しろだ!何が中立国は安全だ!奴らはただの……侵略者だ!日本の敵だ!」

その途端、千紫はシェルターに連行しようとした警備員を振り払い、近づくなと言われている窓へと駆け出した。

「何をしている!?そっちは危険だ!そっちにはペペロニアン王国のモビルスーツ部隊がいるんだぞぉー!」

そんな千紫が見た物は、ベーオウルフに銃口を向けられて千紫を突き飛ばす勢いで逃げる警備員達の姿だった。

「あれが……モビルスーツか?」

いずれアレが日本に攻め込むかも知れないと思うと、ますます間違いだらけの中立に走ったこの時代の日本政府を憎んだ。

「アレに踏み潰される日本の姿を想像する事すら……あいつらは出来ないと言うのか……ふざけるな!」

常に日本の軍備増強や核武装の必要性を訴えて来た心算だった千紫だが、今日ほど武器が欲しいと思った事はなかった。

「たとえ、臆病で愚かな政治家共が貴様らに屈しても、俺は絶対にお前達を許さない!日本をお前達の好きにはさせない!」

だが、千紫の啖呵を無視するかの様にベーオウルフは警戒を解いて、銃口を真下に向けて棒立ちになった。

「!?……馬鹿にしているのか……お前達にとって、俺は、日本人は、そんなに取るに足らない雑魚だと言うのか……ふざけるなあぁーーーーー!」

 

その時、千紫がさっきまでいた場所から不気味な破壊音がした。

「何!?」

千紫は目の前のベーオウルフが何をしでかすか判らない恐怖に耐えながら謎の破壊音の許へと駆け出した。

(しまったぁー!外にいるあいつはただの囮!別動隊の侵入を手助けする見張り役だったんだぁー!)

そして、ショッピングモールと森林公園が合体したかの様な場所に戻った千紫が見た物は……先程のベーオウルフとは別のモビルスーツであった。

悠々と千紫に向かって歩き出す謎のモビルスーツを睨みつける千紫。

「来い!例え最後の1兵となっても、俺は……貴様の様な日本の敵に頭を下げない!」

が、肝心の謎のモビルスーツは千紫を傷つけない様に注意しながら停止した。

「……なめられたものだな……この俺がそんなに怖くないのか?……日本を護る為に日本の軍事強化と核武装を推進する日本の守護者、千紫進(せんしすすむ)がそんなに怖くないのか!?」

どうやら、千紫の目の前のモビルスーツは本当に千紫の事を恐れていないのか、突然コクピットの出入口を全開にした。

「お久しぶりですわね?戦争大好き勘違い男さん?」

千紫は謎のモビルスーツのパイロットの正体に愕然とした……

「……なぜ気付けなかった……」

そう。

謎のモビルスーツを操縦しているのは、あの時千紫と口論したあの赤い少女。

つまり、千紫はあの時赤い少女を捕縛してこの目の前の惨劇を阻止出来る位置にいた……筈だったのだ!

「こんなに衣装が変わっていますのに、一目で私だと気付けるだなんて、なかなかの洞察力ですわ?」

確かに、赤い少女の衣装は先程とは大きく変わっていた。

赤いサングラスは赤いマスカレードマスクに変わり。

赤いドレスは赤い軍服に変わっている。

言われてみれば、確かに変わったとは言える。

が、千紫の耳にはその称賛が見下す為の悪口にしか聞こえなかった。

「あの時……あの時貴様を殺していれば―――」

しかし、赤い少女は千紫の後悔を全否定した。

「ペペロニアン王国が『次』を送り込むだけ……それだけですわ」

でも、千紫はそれを否定だとは思わず、更なる皮肉で返した。

「で、俺はその『次』とやらを殺して殺し続け、『次』が全滅するまで俺は戦い続けると言う訳か?」

その宣言に赤い少女は呆れ果てた。

「『次』が死滅する?貴方、陰惨な戦争と美麗な特撮ヒーローを同列に扱ってません?」

千紫はあえて赤い少女の悪口を肯定した。

「ああそうだよ!貴様の大好きな特撮ヒーローがやってる事は、国防を目的とした戦争と全く同じなんだよ!」

赤い少女は無知な千紫の好戦的な言い分を鼻で笑いながら否定した。

「もし、わたくしが今操縦しているモビルスーツを作ったのが、ペペロニアン王国ではなくて多国籍連盟軍だとしても……ですの?」

「……何?」

 

千紫は赤い少女の無責任で悪意に満ちた嘘に対する激怒と困惑に支配されていた。

目の前のモビルスーツを作ったのは、いつか必ず日本に侵攻する筈のペペロニアン王国ではなく、ペペロニアン王国の魔の手から世界を護る筈の多国籍連盟軍だと嘘を言う赤い少女に対し、千紫の怒りは頂点―――

「敵国の長所を称賛した上で敵国の戦術への対策を練る。わたくしはありきたりな展開だと思いますわ」

確かに、鹵獲した敵国の兵器を分解したり、動作を観察したり、構造を分析したりする『リバースエンジニアリング』はよくある話だ。

だが、それと赤い少女が行った悪行とは―――

「そうですわ。わたくしがこのアニアーラで多国籍連盟軍がこのモビルスーツを作っている事実を知ってしまった事が、この惨劇の真の元凶ですわ」

(!?)

千紫は確信させられた!

赤い少女は間違いなく千紫の思考を読み切っている。

「わたくしが多国籍連盟軍の秘密行動にぜんぜん気付かず、このモビルスーツに曳かれず、このアニアーラに行きたいと言う願望さえ持たなければ、この惨劇は避けられたのですわ」

それはつまり、多国籍連盟軍がここで秘密裏に千紫の目の前に有るモビルスーツを作ったから、あの赤い少女がここを破壊した……これでは、悪いのは―――

「いいえ。わたくしが来なければ避けられた悲劇ですわ。この悲鳴も。この死別も。そして……」

赤い少女が操縦するモビルスーツが自身の真横に有る壁に右裏拳を見舞った。

「この破壊も」

赤い少女が行った破壊によって飛び散り降り注ぐ破片を見ながら懸命に叫ぶ千紫。

「やめろぉーーーーー!」

だが、赤い少女は千紫の揺れ動く心を弄ぶかの様に悪ふざけを言い放った。

「やめろ?貴方、本当は戦争が御嫌いなのではなくて?」

千紫は非現実的反戦主義者と間違われた事に怒った。

「違う!これは警告だ……これ以上日本を破壊したら、貴様は必ず死ぬ!死刑になる!」

千紫の威勢を半ば無視した赤い少女は、更に千紫の心を弄ぶかの様に事実を言い放った。

「確かに、わたくしはこのアニアーラの住民に殺されても文句が言えない悪行をしましたわ。でも、その罪を断罪する執行人がいなくては、死刑は成立しませんわよ?さあ、捕まえて御覧なさい!貴方の大嫌いな戦争の力を使って」

だが、そんな赤い少女の遊びは、真面目な通信によって強制終了した。

「ジョニー少佐!そろそろ退避命令を進言します!」

「おっと、そうでしたわね。これ以上はわたくしの部下がかわいそうな事になりますわ」

赤い少女の正体が、あのペペロニアン王国のエースである『ジョニー・トランボ』だと知った千紫が必死に制止させようとするが、

「待て!」

「では、今日はこの辺で失礼しますわ。貴方が戦争好きだと言う嘘を何時まで言い続ける事が出来るか楽しみにしながら―――」

「待てぇー!」

だが、不運?にも千紫の手元にはジョニーを止められる程の武器が無かった。

「ごきげんよう」

「待ぁーーーーーてぇーーーーー!」

そして……ジョニーが行った破壊だけを残してジョニーは多国籍連盟軍が開発したと思われるモビルスーツに乗って去っていった。

その後、このモビルスーツは「本名が長い」と言う理由で『ガンダム』と改名させられる事となる。

一方、明確な敗北を突き付けられた千紫は、四つん這いの状態で泣き崩れた。

「く……くっそおぉーーーーー!」




設定紹介

●HFT-03ベーオウルフ(Beowulf)
頭頂高:18m。重量:52.8t。武装:76.2mmアサルトライフル、200㎜グレネードランチャー、90mmサブマシンガン、多用途銃剣、ライオットシールド。
ペペロニアン王国初の量産型MSでペペロニアン王国を代表するMS。自在に動く臀部ジェットブースターにより柔軟で機敏な動きが可能で、背部に輸送用コンテナやパラシュート・ザックを背負う事が出来る。また、数十メートルの高度からパラシュート無しで着陸しても何ら活動に支障が生じないなど、高い機体強度を有している。90mmサブマシンガンと多用途銃剣は不使用時は両腰にマウントされる。
因みに、型式番号に使われている「HFT」は人型多目的戦車(Humanoid・Flerbruk・Tank)の略である。

●ジョニー・トランボ
年齢:17歳。性別:女性。
「赤い高速」の異名を持つペペロニアン王国軍の若きエースパイロット。その卓越した操縦技術と戦術で次々と戦果を挙げ、中でも月面都市ミェーシツ争奪戦で多国籍連盟軍の護衛艦6隻を沈没させた事で知られている。その後は奪取したアジダーニエ・エクスピリミェーントを自らのパーソナルカラーに塗り直したレイブンガンダムを愛機とし、第一線で戦い続ける。
クールビューティーなコメディリリーフの様な性格で、お嬢様言葉で喋り衣装や機体を赤にリペイントしたがる悪癖を持つ。また、とある事情から赤いサングラスか赤いマスカレードマスクで両目を隠している。

●Нэо1アジダーニエ・エクスピリミェーント(Ожидал・эксперимент)
頭頂高:18m。重量:43.4t。武装:76.2mmビームライフル、ビームサーベル×2、頭部57mmバルカン×2、スペースチタニウムシールド。
多国籍連盟軍が開発した試作MS。ビームライフルやビームサーベルと言ったビーム兵器を装備した事で、ベーオウルフを一撃で破壊する性能を持っていた。また、鋼鉄の10倍もの強度を持つスペースチタニウムや装甲に施された人工ダイヤモンドコーティングなど、防御面も優秀だった。更に、背部から腰部にかけて装備されている巨大なスラスターにより、空中戦等においても高い機動力を発揮する。
しかし、第7アニアーラ群での最終テスト中にペペロニアン王国軍のジョニー・トランボに奪取されてしまう。後に「ガンダム」と改称。
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