機動戦士ガンダム 異世界から来た日本兵   作:モッチー7

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第5話:戦争と隣人トラブルの違い

千紫進(せんしすすむ)が逮捕された。

容疑は器物破損と殺人未遂。

やはり、ペペロニアン王国と果敢に戦う多国籍連盟軍への恩知らずな事を言うデモ隊への怒りが仇になった様だ。

しかし、ここで千紫を逮捕した警察署を混乱させる事態が発生した。

「先程逮捕した犯人の運転免許証を鑑識したのですが」

「ん?どうだった?」

「運転免許証に内蔵されたマイクロチップ、本物でした」

「本物!?今年はアニアーラ歴何年だと思っているんだ!」

アニアーラ歴80年に生きる彼らにとって、有効期限が令和の運転免許は最早太古の骨董品でしかなかったのだ。

そこへ、本当に刑事かと訊きたくなる程の悪人顔の男性がやって来た。

「警視、苦戦中の様ですな?」

「ジャービス巡査部長か?」

「先程、例の自称日本人が直前まで入院していた病院を訪ねましたが、あいつ、大の戦争好きらしいですよ」

ジャービスの報告に警視は首を傾げた。

「戦争好き?この時期にか?それに、こっちは例の赤い高速のMS強奪事件のせいでただでさえ忙しいと言うのに」

「寧ろこの時期だからなんですと」

「何故かね?ペペロニアン王国が中国やロシアで行った圧倒的な侵略を知らんと言うのか?」

「だからなんですと。そのペペロニアン王国と戦う為に」

警視は理解に苦しんだ。

「あのバカ……敗けた時の事を考えて言っているのか?戦争はスポーツではないのだぞ」

そんな警視の愚痴を聴いたジャービスが邪な微笑みを浮かべた。

「そう言うのが戦争愛好家を自惚れさせる要因じゃないんですか?勝敗だけで物事の善悪を決めるその態度が」

「……勝てば官軍か……あの犯人は、ペペロニアン王国に勝つ以外に日本国存命の道が無いと勘違いしているとでも?」

「敗ければ賊軍の間違いじゃないですか。ですので警視、あいつの取り調べ、俺に任せて貰えませんか?」

その途端、ジャービスの同僚達が頭を抱えた。

「出た……お前が事情聴取すると、どっちが悪人か判らなくなる」

「ジャービスが相手か……犯人には御愁傷様と言っておかなきゃな」

そんな同僚達の悪評に呆れるジャービス。

「おいおい。俺はただ、戦争愛好家に法律のなんたるかをじっくり丁寧に教えに往くだけですよ」

「そう言って拘置所からの苦情を激増させたのは、どこの馬鹿だと思ってる?」

で……結局、千紫の取り調べはジャービスが担当に成ってしまった。

「いってきまーす!」

楽しそうに手を振るジャービスを見て、同僚達は苦虫を嚙み潰した様な顔をした。

「……お気の毒に……犯人が」

 

で、取調室に縛り付けられている千紫の姿を視て、千紫がどれだけ戦争が好きかを理解するジャービス。

「おいおい、そこら辺のパパラッチに観られたらどう説明する気だ?人食い熊じゃあるまいし」

だが、肝心の千紫はジャービスの皮肉に全くの無反応だった。

「この俺を如何する気だ!?お前達はペペロニアン王国の手先か!?」

しかし、この程度で早々と屈する程、ジャービスの取り調べは甘くない。

「言ってくれるねぇー。でも、あのままほっといたら、このアニアーラ、もとい多国籍連盟軍秘密工場から逃げようとした避難者を殺していたかもしれないんだろ?アンタは」

この時点で、千紫はジャービスの性格が曲がってる事に気付いた。

「あの真っ赤なクソアマと同じ事を言ってるな?まるでこの中に軍事工場を作った多国籍連盟軍こそが元凶みたいな事を言いやがって」

「そうかぁ?侵略者は敵国から兵器や食料を奪う事に苦心するとばかり思っていたが……」

とここで、このままだと千紫のペースになると判断したジャービスが話題を無理矢理変えた。

「ま、それは兎も角、幾つか質問させてくれ―――」

が、千紫はジャービスの言葉を信じない。

「そうやって、俺をペペロニアン王国の手先へと調教する気か?」

会話が完全に一方通行化している気がするが、気にせず質問を始めるジャービス。

「……とりあえず、1つ目の質問だ。アンタは、何で交通ルールと言う面倒くさいもんが在るか考えた事はあるか?」

千紫は質問の意図が解らなかった。

「それと俺への調教と何の関係があると言うんだ?」

千紫のそんな場違いな質問を鼻で笑うジャービス。

「ふっ、語るに落ちたな」

「何?」

「そうやって自分の都合を優先し過ぎて、今まで行ってきた交通違反に何も感じなくなったか?近くに信号が在るのに横断歩道が無い部分を通過するに罪悪感を抱いた事が無さそうだな?」

その途端、千紫は不快感を露わにした。

「この俺が自分勝手だと?この俺が日本の為にどれだけ軍拡や核武装の必要性を訴えてきたか解っているのか!?」

ジャービスは、千紫(むこう)が一方通行に徹するなら、こっちも一方通行に徹しようと決断した。

「因みに私は、『誰にも迷惑を掛けずに自分を護る』為に交通ルールがあると考えている。極端な例で言えば、スマホを操作しながら飲酒運転していた運転手が交通事故を起こして歩行者を死なせたとする。この事故のせいでどれだけの者達が迷惑すると思う?」

「……敵国からやって来た敵兵の遺族の事まで考えて戦え、と言う気か?」

千紫が漸く耳を傾けた事にジャービスがニヤリと笑う。

「私が言った事故に迷惑しているのは死傷者の遺族だけではない。交通整理や事故調査をする警察の手を煩わせるし、更に極端な事を言えばアルコールやスマホが悪者扱いされる可能性だってある……」

そして、ジャービスは顔を千紫の方へとぐっと近付ける。

「それに、運転手の家族が後ろ指を指され続ける危険性だってある。人殺しの血族のレッテルを貼られながらな」

迫力負けをした千紫は返す言葉が無かった。

 

「続いての質問は……『違い』についてだ」

「……違い」

「そう。戦争と隣人トラブルとの違いだ」

その途端、千紫は反論のチャンスを得たと確信した。

「語るに堕ちたな!戦争と隣人トラブルの違いなど、赤ん坊でもいとも簡単に解るわぁーーーーー!」

対するジャービスは冷静だった。

「先に言っておくが、スケール以外の回答を頼むよ。あ、我ながら不可能に限り無く近い不可能を要求してしまった。反省反省」

「困難!?貴様は本当に語るに堕ちたな!つまり貴様は、軍事のなんたるかを何1つ解っていない!」

「ほう!君は正答不可能な質問に正解を与える事が出来ると言うのかね?」

「簡単だ!軍事は必要不可欠な存在であり!戦争と隣人トラブルの最大の違いは!善悪の判断が明確か不明確かだ!」

が、千紫が自信満々に答えた回答を鼻で笑うジャービス。

「ふっ」

「何!?」

「そういう君こそ……犯罪の本質をまるで理解していない」

「犯罪の本質?それと戦争と何の関係がある?」

今度はジャービスが自信満々に答えた。

「犯罪と言うのはね、どちらか一方のわがままから始まるんだよ。必ずと言っていい程ね」

千紫は理解に苦しんだ。

と言うか、何で戦争が犯罪や隣人トラブルと同列に扱われているのかがまったく理解出来なかった。

「……どうやら、幼稚園児でも理解出来る事を理解していないのは、アンタの方の様だな?」

すると、ジャービスが再び千紫に近づく。

「結局のところ、犯罪はどちらか一方のわがままが発端になる事がほとんどだ。金が欲しい。アレも欲しいこれも欲しい。あいつが悪い。あいつが邪魔だ。楽したい。経験してみたい。命令したい。近道したい。私がうんざりする程見て来た犯罪の大半がこの程度の単純な動機だった」

千紫は心底呆れた。

「で、俺が言った戦争と隣人トラブルの違いを正しく理解できたのか?アンタは」

ジャービスは鼻で笑いながら答えた。

「全然」

「……馬鹿かお前?」

「だってそうだろ?犯罪の規模が大きければ大きい程戦争に近づくのだろ?国土が欲しい。他国が抱えている資源や技術が欲しい。先に攻めて来たのはあっちの国だ。隣国が邪魔だ。あの土地を確保した方が後々得だ。後々の為に兵士達の場数を増やしたい。他国がこっちの言う事を聞かない。他国が通行の妨げになっている。そのくらいだろ?戦争の動機なんて」

千紫は、戦争が背負う正義や大義をまったり理解しようとしないジャービスの邪悪さに激怒した。

「貴様あぁーーーーー!祖国の平和の為に日々軍事訓練や戦争に励む兵士達の奮闘を、そんな邪な目で観ていたのか貴様ぁーーーーー!」

それに対し、ジャービスも怒りで返した。

「その祖国とやらは、そんな兵士達の家族にどれだけの我慢を求めているのだ?」

 

ジャービスの同僚達は、ジャービスと千紫のやり取りを視て心底呆れ、千紫に同情した。

「相変わらず……ジャービスの取り調べを受けてる犯人が気の毒でならねぇよ」

「あの犯人、完全論破され過ぎて堪忍袋の緒が切れてないか?」

「凶悪犯のお仕置に適しているとはいえ、拘置所から届く苦情を聞かされる看守にとっては、迷惑千万」

だが、1人の刑事が慌ててやって来て、

「大変です!実は―――」

耳打ちされた刑事が想定外の事態に驚いた。

「何!?多国籍連盟軍が!」

 

そうとは知らぬジャービスは取り調べと言う名の完全論破を続けていた。

「で、最初の質問に戻る訳だが、死亡事故を起こしたスマホを操作しながら飲酒運転していた運転手だって、スマホや飲酒を我慢して交通ルールを厳守していれば、歩行者の命も家族の名誉も護れたとは、思わんか?」

「じゃあ何か?何もしなければ悲劇は起きないとでも言うのか!?」

「全員が正しくルールを守っている内はな。だが、誰かが自分勝手な理由でルールを破れば、その悪影響はどんどん他者に感染して、もしかしたら最悪の事態が発生する危険性だってある」

「……感染?」

「そうだ。交通事故も、犯罪も、そして戦争も、余計な自分勝手をやらかす馬鹿がいるから、事が大きくなる。そう言う馬鹿から人を護る為にルールってもんが在るんだろ?それに」

「それに?」

「私達警官の仕事は、そう言う傍迷惑で自分勝手なルール違反者を逮捕する事だ。例えそれが、無数の敵兵から祖国を護り抜いた撃墜王であろうとな」

「撃墜王を逮捕だと?」

「そうだ。と言うか、撃墜王が敵機沢山を墜とすと言う事は、それだけ多くの死傷者が発生する事になる。あれほどの無差別大量殺人を殺人事件と呼んではいけないのであれば、私は何を殺人事件と呼べば良いのだ?」

だが、

「だからと言って人類の敵を野放しにするのは感心しないな」

何者かが取調室に入って来た途端、さっきまで楽しそうに千紫を完全論破していたジャービスが急に不機嫌になる。

「何であんたらがいる……ここは私達の所轄だ!貴様ら多国籍連盟軍の役はねぇ!」

「多国籍連盟軍!?」

その途端、千紫が慌てて立ち上がろうとするが、椅子に縛られている為動けない。

「ば……馬鹿ッ!彼らこそ、ペペロニアン王国と日夜戦ってくれている恩人達だぞ!」

だが、千紫のこの説教がジャービスを更に怒らせた。

「恩人?はっ!この戦争、誰のせいで始まったと思っている!?言っただろ!?誰かが自分勝手な理由でルールを破れば、それがどんどん広まって最悪な事になるって!」

「違う!侵略者は―――」

「先に核兵器使用禁止と言うルールを破ったのは……多国籍連盟軍だぞ!」

 

千紫の怒りは再び爆発寸前だった……

ポッ・ション医師。

赤い高速ことジョニー・トランボ。

そしてジャービス巡査部長。

そのどれもが戦争を野蛮と見下し、平和維持の必需品である筈の核抑止力を全否定する。

その様な平和の為の軍事に仇なすこの異世界への……千紫の限界を迎えつつあった……




設定紹介

●ジャービッス
年齢:24歳。性別:男性。
千紫進を逮捕した警察署の巡査部長。容疑者との舌戦でストレス発散している皮肉屋だが的を射た発言も多い。警官の職業病的な理由で戦争を『スケールが大き過ぎる隣人トラブル』と見下している。
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