「ブロック博士」
「おや?浮かない顔ですな?」
「……ですわよね」
「何故?連盟軍が開発した新型MSの鹵獲に成功したと言うのに」
その途端、ジョニーは頭を抱えた。
「その新型MSのせいですわ」
「……つまり、貴女様が鹵獲したMSは大した事が無いと?」
ジョニーはブロック博士にアジダーニエ・エクスピリミェーントの解析結果を伝えると、
「つまり……弱いと?」
「ええ。弱いですわ。ビーム兵器の小型化とスペースチタニウムと人工ダイヤモンドコーティングの相乗効果は素直に称賛できますわ。ただ……」
「魅力はそれだけだと?」
ジョニーは弱々しく首を縦に振った。
それを見たブロック博士は呆れた。
「それでは、わざわざ人型にした意味が無い。MSの強みは、戦車や戦闘機では不可能な兵器交換と人型特有の機動性―――」
その言葉に、ジョニーは何か閃いた。
「なるほど。そうですわ」
「なるほど、とは?」
「やはり多国籍連盟軍は、MSの汎用性と万能性を未だに過小評価していますわ」
ブロック博士はジョニーの言っている事が解らなかった。
「いや、貴女様の言い分には矛盾があります。では何故、彼らは新たなMSの製造に着手したのか?」
「そう……思い込ませる為ですわ」
ますます言ってる意味が解らなくなるブロック博士。
「……どう言う意味ですかな?」
「わたくしが今回盗んだMSはフェイク。つまり囮ですわ」
ここで漸く合点が入ったブロック博士。
「では、連盟軍は本命を隠す為に例のMSを盗ませたと!?」
「それもありますが、
「では……連盟軍は既に―――」
「いいえ」
「いいえ!?」
「連盟軍は既にMSを上回る戦闘機の開発に成功した。と、診るのが正しいかもしれませんか」
ブロック博士はジョニーの仮説に驚きつつも、
「そう推測する根拠は?」
「スペースチタニウムと人工ダイヤモンドコーティングの相乗効果。それにビーム兵器の小型化と低燃費巨大スラスター。これだけあれば―――」
「わざわざ無理して人型にする必要性が無い。と?」
「でしょうね。でなければ、人型特有の機動が出来ないMSを何時までも大事に保管する理由がありませんわ」
が、その仮説についてブロック博士は1つ気になる事が有った。
「で、その推理、他の者には?」
「いや、博士が初めてですわ」
「……やはりか」
その後、ブロック博士の研究所に例のアジダーニエ・エクスピリミェーントを持ち込んだジョニー。
「で、これが?」
「そうですわ」
「これを……どうしろと?」
「どうせ、これはMSを超える戦闘機を作る為のモルモットですわ。なら、例のシステムの実用実験の為のモルモットにするのも一計ですわ」
ブロック博士は驚きを隠せなかった。
「例のシステム!?つまり、貴女様が持つネオステージの素養を遂に!?」
『ネオステージ』。
その言葉を聴いて昔を懐かしむジョニー。
「そうでしたわね……貴方が取り組んで来た、『危機回避と脳波排泄量の関係性』の研究はお父様のお気に入りでしたものね」
「そんな事もありましたな。鳩と鴉の脳波を比較した時が懐かしいですな」
「その結果が、『脳波排泄量増大による感知力・推察力・交感力が飛躍的かつ超越的に改善・向上』……でしたっけ?」
「野生動物並みの脳波排泄量を得た人間。それを『ネオステージ』と命名したのは、貴女様の御父上でしたな」
それを聴いて、ジョニーは少し悲しくなる。
「その力は本来、外交や予報に使われるべきですわ。でも、わたくし達はそれを兵器として……」
それを聴いたブロック博士もまた、悲しくなる。
「……貴女様の御父上がそれを知ったら……」
「ハーコン・エイリークソンは戦争を毛嫌いしていらっしゃ―――」
その途端、ブロック博士は慌てふためいた。
「お待ちください!その名をギッレ家の庭の中で使用するのは危険です!」
それに対し、ジョニーは疲れたかの様に溜息を吐いた。
「貴方方がギッレ家を嫌っている事は知っていますわ。ですが、何時までもわたしくの事を『ジョニー・トランボ』と呼ぶのは疲れますわよ?」
そう言うと、ジョニーは愛用の赤いマスカレードマスクを外した。
「せめて、ここにいる時ぐらいは、わたくしの本当の名を、使わせてくださいまし」
ジョニーの目は、右目が金色で左目が銀色だった。
そんなジョニーの度胸に圧倒されたブロック博士は何も言えなくなった。
「では、改めて。ペペロニアン合衆議会前議長、ハーコン・エイリークソン氏は、戦争が大嫌いな方でしたわ。だから、彼が議長の時はペペロニアンは国家を騙らず、アインヘリヤルの地位改善を目的とした合衆議会を名乗っていましたわね」
すると、ブロック博士はある者達への不満を口にした。
「だが!ギッレ家はそれを生温いと酷評し!あの方が病気で亡くなられた途端、あの馬鹿共は、ペペロニアン合衆議会をペペロニアン王国に変えおった!あの方はそこまで好戦的な焦りは微塵も無いと言うのに!」
そんなブロック博士をジョニーは優しく諭した。
「大丈夫。必ず罰は下しますわ。だからこそ、貴方は、博士は今まで我慢して来たのですわよね?」
ジョニーに諭されて冷静になるブロック博士。
「……失礼した」
再び愛用の赤いマスカレードマスクを装着したジョニーがブロック博士に質問する。
「ところで、博士はこの戦争の『戦前』は、どこだと思ってますの?」
「……戦前……ですか……」
「そう。戦前ですわ。貴方なら、どこを戦前に定めますの?」
「なら……やはりペペロニアン王国誕生のきっかけとなったギッレ家が動き出した時でしょうか?」
が、ブロック博士の答えに対して、ジョニーは首を横に振る。
「いいえ。わたくしは違いと思いますわ」
「では、貴女様はどこを?」
「その前に、おさらいですわ。先ず、戦争を行う上で欠かせない者は?」
「それはやはり……敵ですかね?」
「そうですわ。敵がいるからこそ戦いが始まる。そして、人間はなんだかんだで戦う理由を作りたがる生き物ですわ」
「戦う理由を……作りたがる……」
ジョニーのこの言葉に不安を感じるブロック博士。
「……貴女様は、人間がお嫌いですか?」
「そうではありませんわ。ただ、事実を申し上げてるだけですわ」
そして、ジョニーはこう持論を述べた。
「本来の動物は、戦う理由が無い時は何もしないですわ。人間だって、最初は自分の命や家族を護る為に戦っていましたわ。でも、知恵を得、欲望を覚え、拒絶を知った。そこから、人間の歴史は大きな狂いが生じましたわ。今回の戦い……いいえ。ペペロニアン合衆議会誕生の経緯がそれを物語っていますわ」
「戦前はアインヘリヤル拒絶にまで遡ると!?」
そんなジョニーの表情は哀しげで、どこか怒りを感じるモノだった。
「領土拡大。宗教布教。文明優劣。人種差別。一攫千金。独裁主義。わたくし達人間は戦う理由が多過ぎましたわ。が、その大半は拒絶と偏見を辞めて和睦と共存を重視すれば回避出来た物ばかり……人間は勝敗と損得と優劣のみを生きる指針にし過ぎましたわ。欲望は……本当に罪深いですわ。今回だってそう。始まりはアインヘリヤル拒絶でしたわ。拒絶と偏見さえしなければ、何時まで経っても戦争は始まらない、と言っても過言ではありませんわ。ま、こんな戦争に参加しているわたくしも人の事が言えませんわ」
とここで、本題から離れ過ぎている事に気付いたジョニーが話を戻す。
「少しばかり興奮してしまいましたわ……それより、例の盗品の改善をお願いいたしますわ」
2週間後。
生まれ変わったアジダーニエ・エクスピリミェーントを観て感心するジョニー。
「ほお……これは!」
「例のMSにワタリガラスを搭載するにあたり、貴女様の識別色に塗り直しておきました」
「それは気が利きますわ」
ワタリガラス。
それは、脳波で義肢や人工臓器を操作する技術の軍事転用である。
ただし、操作する機体の総量が大きくなると並みの脳波量では始動すら困難となり、機械のみならず使用者の人体に莫大な負担を与え、最悪の場合は死へと至る。
つまり、ワタリガラスによる脳波コントロール用インターフェースを安全に扱えるのは、膨大な脳波排泄量を有するネオステージのみである。
「あと……こちらにある物は何ですの?」
「アレはワタリガラスを介し、パイロットの脳波に直接反応する無人攻撃機、ビットです」
こうして、最早ただのお荷物と化したアジダーニエ・エクスピリミェーントは、ワタリガラスによる運動性向上と、各部のハードポイントに装着された6基のビットによるオールレンジ攻撃能力の付与がなされている。
ただ……
「問題は……このわたくしの素養……ですわね」
ジョニーは早速ワタリガラスを起動させ、廃棄予定の宇宙イージス艦を攻撃する。
「……お行きなさい!」
すると、ビットは恐ろしいほとジョニーの思い通りにイージス艦をハチの巣にする。
「……動かせた。つまりわたくしは……」
以降、ジョニー・トランボはレイブンガンダムと改名されたアジダーニエ・エクスピリミェーントと共に各戦地を渡り飛んで破竹の大活躍をする事になる。
本来平和利用すべきネオステージの能力を凶器に多くの多国籍連盟軍兵士を虐殺すると言う大罪を背負いながら。
設定紹介
●ブロック・フギン(Brokkr・Hugin)
年齢:35歳。性別:男性。
ネオステージ研究の第一人者。元々は脳波と野生の勘との因果関係を研究していたが、その過程でネオステージと呼ばれる人間の存在を知り、ペペロニアン合衆議会前議長ハーコン・エイリークソンの協力の許でネオステージの研究を行っていた。
ハーコンの死後、オッタル・ギッレの支援の下で研究を続けながらジョニー・トランボの秘密基地兼隠れ蓑的な役割を果たしていく。
●エメリー・エイリークソン(Emery・Eiriksson)
ペペロニアン合衆議会前議長ハーコン・エイリークソンの愛娘。そして、ジョニー・トランボの本名。
見た目は可憐でやや端麗な顔立ちをしている。普段はポンコツだが、地頭は良く、ここぞという時だけ叡智を発揮する。病死した父親の最期に疑念・猜疑を抱いており、真相解明とギッレ家への復讐の為に偽名を使う。ただし、金色と銀色の虹彩異色症(オッドアイ)なので、何気に変装に苦労している。
●ネオステージ。
脳波排泄量増大による感知力・推察力・交感力が飛躍的かつ超越的に改善・向上した人間。その気になれば読心術のみで会話が成立するので、誤解無き対話の構築に期待されていたが、戦場では驚異的な洞察力やワタリガラスの起動・運用ばかりが求められてしまった。
●ワタリガラス
脳波で義肢や人工臓器を操作する技術の軍事転用。義肢サイズであれば問題ないが、操作する機体の総量が大きくなると並みの脳波量では始動すら困難となる。その為、結果的・実質的にネオステージ専用機体と化している。
●rHFT-αレイブンガンダム(RavnGundam)
頭頂高:18m。重量:44.4t。武装:76.2mmビームライフル、ビームサーベル×2、頭部57mmバルカン×2、40mm無線誘導式ビームキャノン×6、スペースチタニウムシールド。
ペペロニアン王国が奪取したアジダーニエ・エクスピリミェーントに改修を行い、更にジョニー・トランボの乗機として赤く塗り直された。新たに追加されたのは、「アルファ型ワタリガラス」と、脳波無線誘導兵器「ビット」である。パイロットはネオステージ能力を有する者に限られ、一般の兵士では操縦出来ない。