ドラゴンボール ~もう一人の兄~   作:龍玉

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今回の話を書く際、今までで一番つらかったです。


愛別離苦

 

 

☆月☆日

 

 

 悟飯さんが、眠った。あの瞼が開かれることはない。もう悟飯さんの声を聴くことも、できない。

 

 三日ほど前に、悟飯さんが倒れた。夕飯を作っている時で、悟空が悟飯さんを呼んでる声で気づいた。すぐに駆け寄って状態を確認すると、急に眠ってしまったみたいに落ち着いていた。でも悟飯さんの気配が薄くなっていくのが感じられて、できるだけ冷静に、だけどできるだけ早く悟空と一緒に病院に運んだ。

 急な訪問だったのに、先生はすぐに診察してくれた。

 

 診察が終わって先生が俺だけ呼んだ。俺が先に伝えられてから悟空に伝えるかどうかを確認したかったらしい。

 でも俺は、悟空と一緒に聞きたかった。どんな結果だったとしても、こんな時に悟空だけ外すなんてしたくなかったから。大猿のことで悟空にはもう隠し事をしている。これ以上のことは隠したくない。

 先生はそれを汲んでくれたのか、悟空と一緒に話を聞くことができた。

 

 診断結果は、身体能力の衰え。そしておそらく、老衰を迎えてしまうだろうということ。つまり、もう悟飯さんは長くないということだった。

 

 悟空は意味が分かっていないらしく、首をかしげていた。…そうだよな、まだ悟空にはこういうこと、教えてなかったな。

 

 先生がその様子から察したのか、少し言いづらそうにしていた。先生として、そして大人として悟空に伝えようとしてくれていたのだと思う。病院に関わる人にとって一番言いたくないことだったろうに…。

 

だから先生を手で制し、俺が伝えた。

 

 あと少ししか、悟飯さんとは一緒にいられない、ということを。

 

 

 悟空は最初、意味が分かっていなかった様子だった。でも少しずつ理解してきたようで、目に涙を浮かべて何度も何度もいやだと叫んでいた。

 

 もっと悟飯さんや俺と一緒に飯を食べたい、もっと悟飯さんと組み手をしたいと泣いていた。

 

 歯を食いしばるような気持ちとともに、悟空の涙に嬉しく思う気持ちがあった。悟空にとって、悟飯さんのことをそれだけ大切な人だと思ってくれていたのだ。

 

 サイヤ人は基本的に、仲間が死んでも悲しいという気持ちはわかない。多分、同族意識というものが薄いんだと思う。父さんや母さん、俺が普通じゃないだけでそれが当たり前だった。

 

 けど悟空は、サイヤ人らしくなく誰かの死を拒絶したがった。それは俺が悟空に願っていた、地球人としての感情の発露が芽生えている証拠だった。

 

 だからこそ、このことは受け止めなきゃいけない。もうすぐ来る別れの時を、迎え入れなきゃいけない。

 

 俺は知っている。大切な人は今回のように前もって予測できてしまうものではない。ふとした瞬間に、二度と会えなくなってしまうものなんだ。父さんや、母さんみたいに。

 

 また会えると思っている時ほど、別れは突然やってくるものなんだ。

 

俺は悟空に言った。

 

 

「悟空。いやだといっても、どうしようもないんだよ…。どうにかできるなら、俺だってどうにかしたい。でも、無理なんだよ…。

……でも俺たちにできることは残ってる。それは、悟飯さんに残った時間を一緒に過ごすことだ。残された時間を、かけがえのないものにする。それが、俺たちがするべきことだ」

 

 

 悟空は涙を流しながら俯いて、ぎゅっと口を結んでいた。でもその顔は、俺の言ったことを噛みしめているように見えた。

 

 地球人の年齢でいえば、まだまだ悟飯さんに甘えていたい年齢だというのに、悟空は強く、強く事実を受け止めようとしていた。

 

 涙を腕で拭い、悟空が言った。まだ赤く腫れた目は痛々しく、震えた声色をしていた。

 

 

「兄ちゃん、はやく家に帰ろう!オラ腹へっちまった!」

 

 

 俺も声が震えてしまわないよう気を付けながら、帰ろうといったのを覚えている。

 そして先生に、悟飯さんと家で過ごしたいとお願いした。病院じゃなく、あの家で。

 

 先生はどこか辛そうにしながら了承してくれた。悟飯さんと一緒に退院し、家に帰る。

 

 悟飯さんが、迷惑をかけてしまってすまないと謝ってきた。弱弱しく見えて、涙がこぼれそうだった。だからすぐに俺も悟空も迷惑だなんて思っていないと返した。

 

そこからはいつもの一日だった。一緒にご飯を食べ、一緒に風呂に入り、川の字で寝る。いつも聞こえてくる悟空の寝息が聞こえないぐらいしか変わらない、いつもの一日だった。

 

 二日目は俺はいろんなところに飛び回ってある準備をしていた。その間は悟飯さんには悟空がついてもらっていた。本当は俺も悟飯さんと一緒に居たかったけど、したいことがあったから急いでその準備をしなきゃいけなかった。

 

そしてまたいつも通りの一日を過ごす。なにもかわらない一日なはずなのに、どこかいつも以上に大切に思える一日だった。

 

 そして、三日目。悟空に悟飯さんをいつもの広間に連れてきてもらい、それを見せた。

 

 そこにあったのは、俺が作った大きな誕生日ケーキだった。昨日飛び回っていたのは材料を買うためで、なんども味見をして材料からこだわった一品だ。

 

 実は悟飯さんが倒れた日、悟飯さんの82歳の誕生日を迎えていた。本当はその日に祝いたかったのだが、せっかくならもっと大きく祝いたいと思い、その日は悟空と一緒に作ったカップケーキを三人で一緒に食べる程度で済ませた。その少しあとぐらいに悟飯さんが倒れてしまったけど。

 

そして今日、悟空と一緒に計画したサプライズは大成功だった。二度目ではあるけど、悟飯さんの誕生日をこれだけ大きく祝えたのはよかった。

 

悟飯さんも、すこしだけ涙ぐんでいた。

 

 

そして今日、悟飯さんが深い眠りについた。82歳だった。

 最期の時、悟飯さんは俺と悟空にあるものを託した。それは手のひらに収まるぐらいの大きさのオレンジ色をした半透明の球だった。中には星が四つ入っており、どこから見ても同じように見えた。触ってみたら、俺でもわからない何かでできているようで、とても硬かった。

 

 悟飯さんは、これは昔、自分が山奥で拾ったもので今まで大事に持っていたものだと教えてくれた。

 そしてこの球を悟空に渡し、話してくれた。

 

「悟空、そして海。いままでありがとう。あの誕生日ケーキは、ほんとうに美味かった…。人生で一番うまかったぐらいじゃ。お前さんたちとともに過ごせたことは、わしの誇りじゃ」

 

 そう言って、悟飯さんは眠りに落ちた。しずかに気配が目の前で薄くなっていき、最後にはフッと消えた。

 

 悟空は悟飯さんの目が閉じきってからわんわん泣いた。

 じいちゃん、じいちゃんと呼ぶ声を聞くたび、胸が張り裂けそうになる。

 だけど俺だけは、俺だけは泣かないようにした。どれだけ悟飯さんを呼んでも、なにも返ってこないから。

 

 

 悟飯さんの遺体は火葬して土に埋めた。その上には石で作ったお墓を立ててある。

 

 悟飯さんはもうあの世に着いたのだろうか。悟飯さんのことだから、天国に行けているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……この日記は、悟空にも見られたことがない。悟空自身も、あまり見られたくないのを察してくれている。だからここなら、本音が吐きやすい。悟空の前では、あまり言いたくないことだから。

 

 

 

 ほんとうはもっと、悟飯さんといたかった。もっと組手して、もっとご飯をたべて、もっと一緒に寝て、もっと話したかった。もっと笑いあっていたかった。

 

 

 まだ恩をかえしきれてない。まだ教えてもらってないことがたくさんある。

 

 

まだまだもっと、悟飯さんに生きていてほしかった…!!

 

 

 




原作で悟空が悟飯のじいちゃんが動かないのを見たとき、やっぱり悟空でも悲しかったんだと思います。占いババ様のところで再会した時、涙を浮かべて突撃してたので。
そしてこの世界線では悟飯じいちゃんは踏み潰されず、原作よりも長生きして悟空と過ごしていたので、よりメンタルに来ると考えました…。

タグに反するような話となってしまい、申し訳ありません。今後の話を考え、悟飯のじいちゃんが原作開始時点まで生き続けるという展開は厳しいと考え、このような話となりました。

今後はこのような話は無い予定ですので、ご容赦ください。
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