「あった~!」
「おや、孫海君ではないですか。どうされたんですか?」
「あ、アナウンサーの人。弟が忘れ物したんで取りに来たんです」
待機部屋に戻ってみると、悟空の言った通り四星球と如意棒があった。まったく、試合の熱に浮かされて忘れてたな?
するとそこに試合の解説をしていた司会者さんがやってきた。その手には試合者名簿があり、誰が来ていたかなどのチェックをしていたんだろう。
…この人、後から聞いた話だと天津飯さんの気功砲を目の前で見ても怖じ気ず悟空たちがどうなったかまで自家用車で確認しに行ったんだよな。職人根性が極まってんな。
「それにしても海君、君も惜しかったね!もし君が悟空君に勝っていたら、君が優勝してもおかしくなかっただろうね。いやぁやっぱりこのレベルの試合を間近で見れるなんて最高だ!」
「楽しんでもらえて、恐縮です。今度の大会は絶対に負けませんよ」
実際、もしあのかめはめ波対決に勝利できた場合、天津飯さんとはいい勝負ができたと思う。俺悟空に負けちゃったけど。というのも、俺は舞空術を使えるというのもあるから空中戦に持ち込めればかなり有利になる。聞いた話だと、天津飯さん空中の動きは鈍かったみたいだし。
「じゃあ、俺は帰ります。アナウンサーさんもお元気で!」
「あぁ!君も元気で。次回の参加を待ってるよ!」
さぁて、悟空たちんとこに戻んないとな。
「貴様の持っているドラゴンボール、渡してもらおうか」
「……は?」
入ってきた方とは反対側から、翼の生えた化け物みたいなのが現れた。
…こいつ、かなり強い。しかもかなり邪悪な気配を感じる…!まずい、今は空腹だし、まだ体力は回復しきってない!
「ちょ、ちょっと君!こんなところに入ってきたはだめです!ここは選手以外立ち入り禁止ですよ!」
「やかましいやつだな…。ん?貴様が持っているのは、名簿か。ちょうどいい…!」
「な、なにを―――!?」
「ッアナウンサーさん!?」
化け物がアナウンサーさんに裏拳を放ち、彼がぶっ飛んでいく。コイツ!!
「お前ー!!」
「はッ!なんだそのすっとろい動きは!ドラゴンボールを奪うのも簡単そうだ――ぶッ!?」
残りの体力で化け物の顔を殴り飛ばし、アナウンサーさんへ走り寄る。致命傷ではないが、かなりの一撃だったようだ。
「アナウンサーさん、しっかりしてください!早く逃げて!」
「ぐっ、うぅ…!き、君が、逃げるんだ…!君はまだ、こどもなんだ…ここは、大人の私に、任せて…!」
「そ、そんなこと言ったって…!?」
体を鷲掴みにされ、体が宙に浮く。くるりと回転したかと思うと、目の前に化け物の顔が見えた。
ヤッバイ!!?こんな至近距離じゃ避けれるものも避けれねぇ!!
「やってくれたなクソガキ…貴様は跡形もなく消し去らなければ気が済まん…!!」
「ぐ、あぁっ!?」
体が締め付けられるのと同時に、その口にエネルギーが溜まっていくのがわかる。い、いま撃たれたら体力の無い俺じゃ、耐えられねぇ…!?
――いや、口にエネルギーが溜まってんなら!!
「ずぁっ!!」
「ごっ――――」
顎を蹴り上げ、放たれる寸前に口を閉ざして中でエネルギーが暴発する。よし!これでダメージが―――
瞬間、爆炎の中から一対の怪光が瞬き、俺の体を貫く。
「ぐっ――あぁぁぁぁ!?」
「か、海君……!?」
「こ、このガキ……!!ここで始末を―――!!…いや、どうせ死ぬか。せいぜい苦しんで死ぬがいい!!」
口から血が噴き出る。激痛が体を走る。投げ落とされた体が、少しずつ、少しずつ冷たくなっていくのを感じる。
や、っべぇ……意識が、もうろうとしてきた。
悟空が、俺を呼ぶ声が聞こえる。目の前に泣きそうな顔がみえて。…あぁ、笑っていてほしかったのに、泣かせちゃったなぁ…。
視界が、暗くなる。
でも、すぐに、死んでやるもんか……!頑張って耐えて、頑張って耐えれば、なんとか‥‥なん、とか…
◆◇◆◇◆
「兄ちゃん!兄ちゃん!!死ぬなよ兄ちゃんっ!!」
「悟空君、後は任せるんだ!!」
「っ、兄ちゃんが言ってた、お医者さん…」
「―――ひゅー、ひゅー……げほっ」
「海君しっかりして!!目を閉じちゃだめだ!!」
悟空たちが待機場所に駆け込んだとき、すでにすべて終わっていた。
少し焼け焦げた床、飛んだ血、二つの穴が開いた壁……そして、血を吐いて横たわる兄、孫海。
「そ、孫君、すまない…私が、不甲斐ないばかりに、化け物に海君を…!」
「化け物…?」
「は、はい…。緑の体表をした恐ろしいやつで、海君も阻止しようとしてくれたんですが…。やつは彼が持っていたボールと、私の持っていた武道会の名簿を奪って、逃走しました…」
「も、もう喋っちゃだめよアナウンサーさん!」
悟空は立ち尽くし、処置を施される兄を見ていた。その息は不安定で、時々口から血が漏れて医者の服を汚す。その目はぼんやりとして、気配も少しずつ薄れていく。
まるで、自身の祖父、孫悟飯の亡くなった時のように―――――
「ッッ!!!ブルマ!ドラゴンレーダー持ってっか!?」
「えっ?も、持ってるけど…」
「ご、悟空お前まさか――!?」
「筋斗雲ーー!!」
「悟空待て!待つんじゃ!!命令じゃぞ!!」
亀仙人のじいちゃんの言葉を振り切り、ドラゴンレーダーが示す方向へ飛んでいく。
もしかしたら、兄は死んでしまうかもしれない。
それも、永遠に。孫悟飯のじいちゃんのようにあの世で会えるかもしれないのではなく、兄は死んでしまうと、おそらくだがこの世界から消える。
それは、試合の待ち時間の間の話だった。
◆◇◆◇◆
「そういや俺さぁ、死んだら蘇れないかもしんないんだよなぁ」
「「え?」」
男狼対ジャッキー・チュンの試合の最中、兄がそんなことを言っていた。不思議に思った。ウパのお父さんも生き返ったのに、なんで兄はそんなことが言えるのか。
「いやさ?俺がまだちっちゃいころ…だから悟空がまだ赤ん坊の時にさ、紫色の猫さんに変なこと言われたんだよな。『宇宙に大きな変化が起きた原因は君か、魂の欠けたこの世にしか存在できない少年。未来が楽しみだ』って」
「宇宙?魂?」
「そ、そんなことより、この世にしか存在できないってどういう意味だよ!」
兄の考察では、神龍は肉体ごと蘇らせたのではなく、魂だけ蘇らせたのだという。なぜならブルマの話によると、肉体を火葬して蘇らせようとすると、動く骨人間という怪現象が起きる可能性があると言っていたらしい。それはつまり、肉体ごと蘇らせたのではなく、魂をあの世から蘇らせて残っている肉体に突っ込み蘇生、ということなのではという考察だ。
では、この世しか存在できないとは?
「魂が欠けたってさ、つまり不十分なわけなんだよ。その状態であの世に行こうとすると、多分通常だったら越えられる世界の境界を越えれなくて消滅。だからあの世にも行けず、輪廻転生もできない…だと、思う。確証はねえけどな」
兄が、そんな事情を抱えてるなんて知らなかった。兄もつい最近考え付いたらしいが…。
兄は自分やクリリンのようにドラゴンボールを使っての蘇生ができない。それは、兄にはもう一度が望めないということだった。
そして、兄が死ねば、あの世に自分が行ったとしてももう二度と会うことができない。
それは、とても嫌だった。
◆◇◆◇◆
「ちくしょう、ちくしょう…!兄ちゃん、兄ちゃん…!ふ、ぐうぅぅ…!ッッ、レーダーに反応があった。あいつだな!!」
優しい兄と、もう会えない。ずっとずっと、一緒に組手をして、一緒にご飯を食べて、一緒に笑いあった兄が、この反応のもとにいる存在に殺されたかもしれない。
こんなわんぱく坊主の自分を時に叱り、ときに優しく見守ってくれた兄が。
そして、兄はこの世から消えてしまうかもしれない。自分の手が届いた場所にいたのに。その場にいたのなら、二人で化け物を追い返せたかもしれないのに。
頭がどうにかなってしまいそうだ。目の前は赤く染まり、思考は鈍ってしまう。すでに体力は切れているのに、それでも、それでもヤツをと思ってしまう。
そして、その姿を捉える。アナウンサーの人が言っていた通り、緑の体色をした化け物。
絶対に、許さない。
「待てぇぇぇぇぇ!!!お前だな!じいちゃんのドラゴンボールを奪って、オラの、オラの大事な兄ちゃんを殺そうとしたのは!!!」
「ん?貴様は…そうか、あの生意気なガキの弟か。くっくくくく…やつは死んだのか!そうか、いいことを聞けた!」
「黙れ!!お前だけは、お前だけはッ……!!絶対に、ぶっ殺してやる!!」
されど、すでに体力を使い果たした悟空に勝ち目はなく、筋斗雲を殺された悟空は叩き落とされ、ジャングルに姿を消した。
悪夢は、始まったばかり。
◆◇◆◇◆
「どうですか、海の容態は…」
「……まだ油断はできません。一刻を争う事態が、いつ来てもおかしくありません。なにしろ内臓を二か所も貫かれてますから…。彼の治癒力次第です。昔一度だけ大けがを負って入院したんですが、かなりのスピードで回復して退院しましたから」
一度カメハウスへ先生とともに向かい、そこでブルマが作った機器を用いて手術を行った数時間後。
病院の先生は、ぎりぎり命をつなぎとめることはできた。
カメハウスの中は陰鬱とした空気がこもり、全員の顔は暗い。
「…とにかく、ドラゴンボールを集めて、やつらの壊滅を願わないとな…亀仙人さまの話では、俺たちでは手に負えない相手だ」
「おい、テレビを見ろ…始めやがった」
「「「「「ッ!!」」」」」
テレビには前回大会の本選出場者、ナムが映っていた。魔と書かれた紙のすぐそばで、殺されたらしい。
「レーダーが出来上がり次第、すぐに集めに行くぞ!!先生、ここの鍵を渡しておきますので、海のことを頼みます!」
「わかりました。絶対に海君を死なせません」
亀仙人たちはレーダーを手に入れ、ドラゴンボールを手に入れに飛び出す。
先生が海の容態を確認するも、少し安定したばかりでまだ予断を許さなれない。
「海君も早く目覚めてよ~…。それに孫君も、生きてくれてたらいいんだけどな…」
「今は私たちでできることをしましょう。すみませんが、水がどこにあるかわかりませんか?少しずつ口に含ませて水分補給を取らせたいんです」
「あ、はい!わかりました!」
閉じた瞼はまだ、開きそうにない。
カイの魂とかの話は多分ナメック星編で説明されると思います。もしかしたらサイヤ人編でかも。