―月○日
傷が治ったのでこの前起こったことについて書こうと思う。
少し前、悟飯さんが武天老師という人のところに所用で出かけたときに、またカカロットが家を飛び出した。しかも俺に慣れてきたのか、捕まえようとしてもすり抜けてきたと思ったら思いっきり飛び蹴りをしてきた。
ちゃんと喋れるようになってから凶暴性が増してきた気がする…。
避けることもできなくてうろたえてた隙に、カカロットは山の深くに行ってしまった。しかも、俺がいつも入っている森とは違う方向だった。何があるのかもわからないから、めちゃくちゃ焦ってたのを覚えてる。
なんとか持ち直して追いかけたけどすぐには追いつけなかった。でも走ってるうちに森が開けたから、すぐカカロットがどんな状況にいたかに気づけた。
カカロットが、崖から落ちる瞬間だった。
頭が真っ白になって、でも体は動いてた。多分、カカロットを守らなきゃっていう本能で動いてた。今まで鍛えてたからカカロットが落ちきる寸前に抱え込むことには成功した。でも守り切れなかった。底に落ちきったとき、気づいたらカカロットが腕の中から抜けてたんだ。痛くて痛くて、まともに周りが見渡せなかったけどなんとかカカロットは見つかった。
カカロットの頭から、血が流れてた。
やばいと思って、すぐに俺の服をちぎってカカロットの頭に押し当てて止血を試みた。それぐらいしかできなかった。
焦ってるうちに、悟飯さんが俺たちを探す声が聞こえて、返事を返して、でもそこが限界で……。
気が付いたら病院にいた。悟飯さんが運んでくれたみたいだった。
それで悟飯さんを探そうと思ったけど、体が動かなかった。後から聞いた話だと、落ちてる最中に壁とかにぶつかりまくってたらしく、全身打撲まみれだったらしい。先生も後遺症がないのが奇跡だとか言ってた。
動かなかったからナースコールを使って人を呼んだ。その時に悟飯さんも来てくれた。
でも悟飯さんに謝られた。すまなかった、わしがしっかりしていればって。
悟飯さんのせいじゃないのに…。俺がちゃんとカカロットを止められたら、こんなことにはならかった。
だから俺も謝った。違うんです、俺がちゃんとカカロットを止められなかったからって…。
見かねた病院の先生が間を取り持ってくれるまで、俺も悟飯さんもずっと謝ってた。先生が言うには、あの子が助かったのはあなたのおかげだし、すぐに悟飯さんが病院に連れてこなかったら、何か起こってしまったかもしれない。だから二人は自分を責めないで、って。
……だけど俺はあいつの兄ちゃんで、母さんに頼まれたんだ。カカロットを頼むって。
ならやっぱり、俺が弱いのがだめなんだ。もっと強くなんなきゃ…ちゃんとカカロットを守れるぐらいに。
そうなったらくよくよしてる場合じゃない。悟飯さんにもっと武術を教えてもらって、体を鍛えよう。そうするべきだ。
その考えを悟飯さんに伝えると、悟飯さんは了承してくれた。俺のことやカカロットのことも考えて、自分が学んだ技術を教えてくれるらしい。カカロットが望むなら、カカロットにも教えてくれるみたいだ。
やっぱり悟飯さんには世話になりっぱなしだな…。
ps.カカロットが記憶を失った。
―月×日
カカロットが記憶を失ってから、少し日が経った。まだカカロットの記憶は戻らない。
俺のことも悟飯さんのことも覚えてないみたいだ。自分が何者かも、すべて忘れてしまった。
でも俺と悟飯さんのことは感覚的に覚えてるらしく、俺のことは兄ちゃんと呼ぶし、悟飯さんのことはじいちゃんと呼ぶようになった。
なんというか、地球に来てからの凶暴性が嘘みたいに消えてしまった。病院の先生が言うには、頭を強く打ったせいで記憶とともに凶暴な性格も消えてしまったらしい。いつ治るかは不明。もしかしたら一生戻らないかもしれないらしい。
一応、カカロットにはそれとなく伝えておいた。でもあっけらかんとしていて、特に気にしていなかった。
……俺は今、どうしようもないことを考えてしまっている。それは、カカロットにはサイヤ人としての記憶がなくなったまま、地球人として、孫悟空として生きていってもらうというものだ。
でもこれは、母さんや父さんに不義理を働くものなんじゃないかって思ってしまう。母さんはカカロットの成長を楽しみにしてたし、父さんも表面上は冷たかったけど、母さんみたいに少しワクワクしてた部分があった。
悟飯さんにも相談した。それに加えて、サイヤ人のことも伝えた。
悟飯さんは少し考えてから、逆に聞いてきた。俺は、どうしたいんだって。
……俺は、カカロットに地球人として生きてほしい。サイヤ人としての生き方じゃあ、孤独な未来が待っている気がして‥‥。
悟飯さんは俺に委ねてくれた。カカロットを思う気持ちも、父さんや母さんを思う気持ちも、どちらも本物なんだからって。
俺は、どうすればいいんだろう…?
……いや、俺が悩むことじゃないな、カカロット本人に聞こう。カカロットの生き方はカカロット本人が決めるべきだ。間違っても俺が決めるべきじゃない。
明日カカロットに聞こう。カカロットは、どうしたいかって。
―月▽日
カカロットに聞いた。カカロットは記憶を失う前の生き方がいいのか、今の生き方でいいのか。
そしたら不思議そうに首をかしげてた。
「なに言ってんだ兄ちゃん?オラはオラだぞ?」
思わずずっこけた。違う、そうじゃない。
いやまぁ俺が昔のカカロットがいいのか孫悟空としての自分がいいのかって何言ってんだコイツって思うような変な言い方したのが悪かったな…。
気を取り直して、カカロットに記憶が戻ったほうがいいか今のままがいいかを確認した。答え次第では、これからカカロットに何をしてやればいいのかが変わってくる。俺にとっての、人生の分岐点だ。
心臓がバクバクして、脂汗が浮かんでくるなか、カカロットは少し悩んでから答えた。
「オラ、今のほうがいいや!昔のオラがどんなのかなんてわかりっこないし、オラは今のオラが好きだかんな!」
少しだけ、気が楽になった気分だった。そうか、カカロットは、いや悟空は今がいいのか。
なら俺がすることはきまった。悟空が幸せに生きれるよう、見守ってやることだ。
今悟空が浮かべてるこの笑顔がこれからも見られるように、強くなんないとな。
もし悟空の記憶が蘇ったら、その時はその時だ。その時また、悟空に聞こう。どんな生き方がしたいのかって。