◯月△日
日記をつけるようになってから1年ほど経った。
悟空も生まれてから1年ほど経っているから、今では元気に悟飯さんと組手をするようになった。
ちなみに悟飯さんは悟空が生まれて1年しか経ってないことを知ったときにすごく驚いていた。
不思議に思ってると、悟飯さんが地球での赤ん坊の成長について教えてくれた。なんでも、喋るようになるまで1年ほどかかるし、歩けるようになるのももう少し先らしい。
これがサイヤ人と地球人のギャップというものかとしみじみしたものだ。
というかこの前サイヤ人について話してなかったっけと思ってたけど、そういえば俺たちがサイヤ人なことと母さん父さんについてのことぐらいしか伝えておらず、サイヤ人の成長の仕方とかについては一切触れてなかった。うっかりうっかり。
というか思い出した。大猿のことを忘れてた。
実は悟空が記憶を失った数日後の夜、悟空が大猿になってしまったことがあった。
幸いなことに月が落ちきる寸前のことだったし、俺は月を見ないようにしてたから、悟空が何もできないうちに日が昇った。
あの時はなんとかなったし、悟飯さんも悟空に満月の夜は大猿の化け物が出るから外出しないように言い含めてた。
だけど問題は残ったままだ。悟空が大猿になる可能性は残ってるし、俺もなってしまう可能性がある。
実を言うと、俺に関しては問題が残ってると言いながら、そこまで大きく考えてない。というのも、俺は大猿になっても少しだけなら理性が残ったままだからだ。
惑星ベジータで散歩をしているとき、偶然パワーボールが空に浮かんでるのを見てしまったことがある。なんで浮かんでたかというと、酒場で上級戦士のサイヤ人同士が酔っぱらって喧嘩を始めたらしく、その拍子に放たれたらしい。あまりにも傍迷惑すぎる。
で、俺はばっちしパワーボールを見たせいで大猿になった。だけど不思議なことに、俺は大猿のまま理性が残ってた。
俺の生まれは下級戦士だ。父さんがそうだし、母さんも同じだ。
上級戦士なら理性が保てるらしいけど、俺はそうじゃない。何故理性が保ててたのかはわからないままだ。
あの時はあとから来た父さんと母さんが尻尾をぶっちぎったからことなきを得た。でも二度とあんな思いはしたくない……。
それはさておき、何故かはわからないけど俺は理性が保てるから、そこまで問題視しなくていい。まぁあの時の感覚的に長時間は無理そうだから、少しは考えておかなきゃいけないけど。
だけど問題は悟空だ。あの夜悟空は理性を保てていなかったから、俺と同じとは言えない。
そうなってくると、今度からは満月の前の日に悟空の尻尾を切る必要がある。大猿になる条件は、尻尾がある状態で満月を直視する必要があるからだ。
でも俺、悟空にあの痛みを味わってほしくないんだよなぁ…。あれほんとうに痛いんだよ。なんていうか、股間に向かって剣を突き立てられたらあんな感じなんだと思う。
もし俺が尻尾を切る必要性がでてきたとしても絶対に拒否する。そんで別の方法がないか死に物狂いで探す。あんなの誰が好き好んで受けるっていうんだ。
だから悟空には満月の日には絶対に出ないようにしてもらうことしか俺にはできない。俺自身が嫌なことを悟空にさせるなんて兄失格だ。
悟飯さんにこのことを伝えると、悟飯さんも夜は特に注意を払ってくれるようになった。
これでなんとかなるといいんだけど。
◇◆◇◆◇◆◇
「―――ふぅ。今日ここまでかな」
日記を閉じて切り株に置く。日記を置く用の机でも作ろうかなぁ。
ここ最近は悟飯のじっ様の家にはすぐに帰らず、少し離れた畑で過ごすことが多い。
こういった夜になると、猪とかが畑にやってきて荒らしていくから、こうやって見張るようにしている。やってきたら晩ご飯か明日の朝飯に早変わりだ。
ただ向こうもそれが分かってきたのか、どれだけ日が暮れても畑に来ることがなくなってきた。だから見張るのもあと数週間したらやめようと思う。
「ん~~……っはぁ!やっぱ座りっぱなしだと体が固まっちまうや。さっさと帰ろっと」
切り株から降りて体を伸ばすと、体のそこかしこからパキパキと骨が鳴るのが聞こえる。最近だと聞き慣れてしまった音だ。
まぁでも、ちゃんと畑の世話が出来てる証拠だと考えよう。
昔の畑じゃあ猪とか鹿なんて見ることがなかったし、いい経験ができたって思える。
切り株の近くで焚いてた火から1本だけ木を抜いてあとは消しておく。松明代わりだ。
帰り道は流石に暗いから火は必要だ。それにこうしておくと、妖怪とかが襲ってくるからいい特訓になる。傷無し冷や汗無し動揺無しの条件で戦うようにしてるからかなりドキドキする。
まぁ妖怪も最近は襲ってくることが稀なんだけどね…。
何も無いなら無いでいいし、気楽に帰ろっかな――ッ!!?
「………なんだ?」
なぜか、周りの木々がざわめくのを感じる。草木が怯えてるように思える。
それに俺の感覚が、うるさいぐらいに呼びかけてくるのを感じる。何か、マズイって。
こんなこと今まで無かった。それこそ、悟空が大猿になったときぐらいしか―――ッ!!
「っまさか!?」
思わず火とは違う光を見ようとして、すぐさま堪える。
だけど思い出した。悟飯のじっ様が今月は月の暦がいつもより早く変わるらしく、気をつけるように注意してくれてたことを。
そして今日は、満月の日だということも。
しくじった!畑ばっかりに気を向けてたから月のことに一切気付かなかった!
ということは、この変な胸騒ぎの原因は……!
―――ガオオォォォォァアアァアアア!!!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
今の雄叫びは間違いなく大猿の声だ!!なんでだ、悟空が悟飯のじっ様の言いつけを破るはずがないのに…!
まさか、悟飯のじっ様が寝静まったときにしょんべんにでたんじゃないだろうな…!?
「そんなことを考えてる場合じゃねぇ!急がないと!!」
持ってた火を吹き消して走り出す。助走がついたから一気に空へ駆け抜ける。
くっそ、こんなことなら空の飛び方を練習するべきだった!体を鍛えることばっか考えてたから、まともに飛べねぇ…!
でもすぐさま大猿になった悟空が見えた。周辺には家の一部が吹っ飛んだのか、木材が散らばってるのが確認できた。
そして悟空の周りを悟飯のじっ様が走り回っているのが見えた。
悟空に呼びかけてくれてるけど、多分悟空は聞こえてない。もう誰が誰かなんて理解出来てないんだ!
「じっ様!!そこから離れて!!」
「っ!?海か!お前さんこそ、早く逃げるんじゃ!」
「逃げるったって、こんな状況じゃあ逃げるわけには――っ!?じっ様、危ない!!」
「海っ、なにを!?」
じっ様を煩わしく思ったのか、悟空がめちゃくちゃに暴れ出した。暴れ出した腕の1本がじっ様に当たるのが予測できて、すぐさまじっ様を吹き飛ばす。
そして、もろに悟空から一撃をもらってしまった。
「ぅぐッ――」
ふっ飛ばされて木々に体を打ちつけるのを感じる。体中が痛い。崖から落ちたあの時とまではいかなくとも、それでもキツイことには変わらない。
時間は、ほんの少ししか稼げてない。まだ月は頭上で浮かんだままだ。
悟飯のじっ様ももう限界だ。目に見えて動きが鈍くなっている。
「悟空っ!しっかりするんじゃ!!己に負けてはならん!!気をしっかり保て!!」
悟飯のじっ様が根気強く悟空に声をかけてるのが聞こえる。でも、もうじっ様も動けない。
ついに地面に倒れ伏した。
悟空が、悟飯のじっ様に近づくのがみえる。
そして、悟空がその足で、じっ様を―――
カイは日記では悟飯さんと書きますが、日常会話では悟飯のじっ様とかじっ様だけで呼んだりします。