「ッッダアリャアァァァ!!」
悟空がじっ様を踏み潰す寸前に、己の体を総動員して加速をつけていく。多分まともな攻撃じゃあ有効打にはなんないから、少しでも勢いをつけなければいけない。
そして無理やり気合いを込めるため、それと悟空が少しでも意識をこっちに向けさせるために声を張り上げながら飛び蹴りの構えをとる。
狙うは頭、最悪の場合はじっ様に近い方の足。
手加減なんてしてる場合じゃなかったから久しぶりの本気の全力で飛んでしまい、狙いがずれてしまって悟空の脇腹あたりに命中する。
勢いをつけたおかげで大猿の巨体が吹き飛び、じっ様をなんとか助けることができた。危なかった…!!
「ハァ…ハァ…か、海、今すぐ、遠くへ逃げるんじゃ…!
悟空はわしがなんとかする…!」
「いや、俺がなんとかします。ちょっと遠くに吹き飛んだくらいだから、まだ体力は持ちます。だからじっ様は今すぐ隠れるか、麓まで逃げてください。
…それに、悟空をなんとかする策はできてます。安心してください。無策に飛び込むわけじゃありませんから」
「か、海……。ッッ、わかった。じゃが、無理をしてはならん。限界になったら、すぐ山の麓まで逃げるんじゃぞ。わしは先に行って悟空を足止めする準備しておく」
「!……その準備が無駄になるよう、頑張ります」
じっ様は少し微笑んだかと思うと、よたよたした足取りで麓側に向かった。悟空はまだ立ちきってないから、俺が頑張ればじっ様は確実に生き残れる。
「…ほんとうに、俺達は恵まれたなぁ。なぁ悟空?」
悟空が大猿になっても、じっ様は悟空に恐怖するでもなく、退治するでもなく、ただただ悟空のことを心配してくれていた。少しでも正気に戻れるようにと、ずっと悟空に呼びかけてくれた。
俺のことだって、守るべき存在として見てくれていた。一番大事な時に畑にいるような馬鹿野郎を。
「絶対に死ねないな…」
気合いを入れなおす。じっ様には抱えきれない恩がある。その恩返し切るまで絶対に死ねないし、死なせないし、悟空だって何とかしないといけない。
問題は、どうやって悟空を戻すかなんだよな…。
一番手っ取り早いのは尻尾を千切るかぶった斬ることだ。
だけど千切るなんて今の悟空が素直に千切られるわけないし、ぶった斬るなんてまともな刃物がない今じゃできるわけがない。
気弾の応用で相手を切断できる技があるらしいけど、気弾に関しては周辺をボロボロにしちゃうから修行項目に入れてない。つまり練習不足ってわけだ。
こう考えたら練習不足なの多すぎないか俺?飛行だったり気弾だったり…。
で、尻尾をどうにかすることが出来ない以上、俺に出来ることはただ一つ。日が昇るまでの時間稼ぎだ。
嬉しいことに、満月は今俺の頭上にあるぐらいだから、あと4,5時間すれば月は見えなくなる。
長くて5時間も大猿の相手をしなきゃいけないって考えると死にそうだぁ……。
……弱音を吐いたところで切り替える。つまり、俺に必要なのことは3つ。
1つ目、4〜5時間の間、大猿になった悟空の相手をすること。
2つ目、悟空が暴れても大丈夫な場所に誘導すること。
3つ目、俺は月を見ないようするために注意すること。
この3つをクリアできれば、晴れて俺の勝ちだ。
2つ目に関しては当てがある。というのも、実は俺トカゲを捕るために山に入ったときにちょっと散策してたのだ。だから洞窟とかがどこにあるかもわかる。今回は洞窟じゃ狭すぎだろうし、開けた場所が望ましい。なので最近見つけた地底湖に向かおうと思う。彼処なら少し壊れても大丈夫だ。
1つ目と3つ目に関してはもう気合いでしかない。月は見ない、絶対に体力が枯渇しないように立ち回らなきゃいけないぐらいだ。なんだ戦いの基本じゃん!
というかまあ月に関しては終わり際ぐらいなら見てもいい。1時間ちょいならなんとかなるし、戻るときは自切すればいい。まぁ自切も千切られるほどじゃないとはいえ痛いのにかわりはない。惑星ベジータのときにこれを知ってたらなぁ…。
そんなことを考えてるうちに、悟空が起き上がった。その赤い瞳は、まっすぐに俺を貫かんばかりに向けられている。
怖さはない。逆に少しワクワクしてる自分がいる。こんなにギリギリの戦いは今まで無かったからだ。
「それに、初めての兄弟喧嘩ってのもあるかもな。悟空理性ないケド」
呼吸はすでに整ってる。気分も上々。
じっ様から教えて貰った構えを取り、静かに悟空を待つ。
速まった鼓動が少しずつ収まり、いつしか木々が揺れる音しか聞こえなくなり―――
――――ガアァァァアアァァァ!!!
「シャアッ!!行くぞ悟空!!」
悟空と俺の、初めての兄弟喧嘩が始まった。
◇◆◇◆◇
「ダアリャアァ!!」
―――グオオォォォ!!?
最初に攻撃が決まったのは俺だった。悟空が振りかぶった右腕をくぐり抜け、勢いのまま悟空の鳩尾にタックルをブチかます。
クリーンヒットしたおかげで悟空が後退り、こちらを睨んでくる。
「ハハッ!じゃあな!!」
――グオオォォォォォォ!!!
わざと挑発するように笑いかけ、体を反転して森の中へ駆け込む。
悟空は一撃与えてさっさと逃げ出す俺にキレたらしく、雄叫びを上げながら俺に向かってくる。よしよし、うまく行った。
この戦いは耐久戦だ。悟空が元に戻るか俺が限界を迎えるかが勝敗を決める。悟空のノックアウトが目的じゃない。
森の中を駆け抜け、ときに飛行してショートカットを決めながら悟空から逃げる。
キレて一心に俺を捕まえようとする悟空は木々にぶつかってしまうせいで時々遅くなる。
しかし油断はできない。時々力を溜めたと思ったら大ジャンプをかましてくるし、少し距離が空けたと思ったら魔口砲を放ってくる。
もっと距離が空いたら撃ってくると思ってたせいで、不意を突かれてさっきもろに浴びてしまった。おかげで余裕のあった悟空との距離は少ししかない。ジャンプをされたら届くくらいだ。
「くっそッ!悟空が元気で兄ちゃんは嬉しい限りだよ!!」
―――ガアァァァアァァァアァァァ!!!
「グゥっ!?、ッハァっ!!」
―――ガアアッ!!?
今度は左手を魔口砲がかすめた。お返しに顔面目掛けて気弾を放ち、少しでも距離を取る。もうそろそろ着くはずだ…!
無我夢中で走り抜け、やっとの思いで地底湖につく。
あの悟空が落ちた崖に繋がってる場所だから、かなり分かりやすかった。
すぐさま地底湖に飛び込み、気配を消して悟空を待つ。
少し待てば、すぐさま悟空が飛び込んできた。関門は突破した。あとは時間を稼げばいい!!
―――グオオォォォアァァァ……!
「ヘヘッ、一発食らえばもうおしまい、しかも限界ギリギリまで戦わなきゃいけない…。惑星ベジータでの特訓を思い出すな!」
あのときはほんとうにキツかった。
セリパさんのハンティングアローに追いかけ回され、気を抜いたらパンブーキンさんのショルダータックルが飛んでくる。まともに食らえば一発KOの一撃をかする程度にしかにしか抑えられなくて、そこにトーマさんとトテッポさんの光線が飛んでくる。ひどいときは父さんのタイラントランサーが一緒にやって来る地獄だった。
一度巻き込まれたラディッツが次の日に横になったまま一日中寝てたこともあったっけ。
あれに比べたら今の状況の良さがとてもわかる気がする。比較対象がひどいなんて話は聞きたくない。
「フウゥッ――……よし。続けようか、悟空!!」
息を整え、悟空に呼びかける。時間は感覚的にだけど、あと2,3時間ぐらいかかりそうだ。ハハッ、これが長丁場ってやつかな?さて、悟空からの返事は……。
―――グオオォォォガアァァァ!!!
YESらしい。さぁ、こっからが本番だ!!
◇◆◇◆◇
「海……」
山の麓にて、孫悟飯は一人の無事を祈っていた。すでに近隣の人里には大猿の化け物が出たと言って、避難を呼びかけておいた。おかげで近くには人っ子1人いない。
もしも海が逃げ込んだ時ように、すぐ近くに落とし穴を作っている。これなら少しの間は時間稼ぎができるだろう。
「…………」
ふと思い返すのは、今も自分のかわりに時間稼ぎをしてくれている少年と、誤って月を見てしまい大猿となってしまったもう一人の少年のことだ。
最初の出会いは竹を取るために入った山の中だった。元気な赤ん坊と今にも吐きそうな2人が対照的だったのを覚えている。
それからは兄のカイとともに悟空の世話をし、一緒に畑を耕した。
2人と過ごすのはとても幸せだった。孫が2人できたようなものだったから、尚更のことだった。
悟空が崖から落ちてしまい、記憶を失ったときは後悔しか無かった。己がしっかりしていれば、悟空と海が傷つくことは無かったというのに。
だから、海が己を頼ってくれたときは嬉しかった。自分に出来ることはないか悩んでいたから。
海から彼らの出生のことを聞いたときも、自分のことを話してくれるようになって嬉しかった。
しかし今、自分のかわりに海は戦っている。本当なら自分が悟空と戦い、時間稼ぎをしなければいけないのに。
「海……そして悟空よ……。どうか、どうか無事でいておくれ……!」
木々が粉砕される音が遠ざかって数刻経った。もう体力は戻ってきている。
夜明けまでもう少しだが、まだ危機は去っていない。
「待っておれ、海!悟空!」
恐らく自分に出来ることは少ない。精々避けることしか出来ないだろう。
だが、彼らを育てたものとしての矜持が悟飯を動かした。
◇◆◇◆◇
山を駆け上り、破壊の跡を辿っていくとあの崖にでた。
そして気づく。海が言っていた策とは、この近くまで誘い込むことなのでは、と。
「海!!どこにおるんじゃあ!!返事をしておくれぇ!!」
崖を境に破壊の跡はなくなっており、どこにも大猿となった悟空の姿はない。
まさか、自分はもう手遅れだったのか?彼は、海は、悟空はどこに。
何度も呼びかけ、崖をつたって行くうちに大きな穴にたどり着いた。
そして悟飯は見た。あらわになっている大きな地底湖の中心に浮かぶ島に横たわる、大猿の姿を。
「悟空!!ということは、海は……!」
「ここにいますよ、じっ様。無事とは言えないですけどね…」
すぐそばの壁際に、彼は座り込んでいた。よく見れば全体が焼け焦げ、左手は動きそうにない。だが確かにその瞳は悟飯に向けられ、微笑んでいる。
「海っ!!無事じゃったかっ!!」
「わぷっ。…ヘヘッ、言ったじゃないですか。何とかするって」
「じゃとしてもじゃ…!!よく、よく無事でいてくれた…!本当に、よく無事で…!」
思わずすぐそばまで駆け寄り、抱き寄せる。強く抱きしめてしまうと腕が痛んでしまいそうだから、力は入れられない。
そして海を抱きしめたまま、悟空へ目をやる。その姿は大猿のままだが倒れ伏しており、気絶しているようだ。
「海よ、悟空はどうしたんじゃ?どうやってあの巨体を…」
「あぁ…。悟空に関しては簡単なことです。ただひたすら悟空の周りを飛びまわって隙を見つけたら攻撃するのを繰り返してただけです。気絶させれたのは予想外でしたけどね」
「そうか…では、もう悟空も…?」
「はい、元に戻ると思います。俺達サイヤ人は満月が放つブルーツ波を浴びて大猿になるから、もう少ししたら…ほら」
朝日が昇り始め、月が完全に見えなくなり、悟空の体も小さくなっていき…ついに元の悟空の姿へ戻った。
素っ裸ではあるが、元気に寝息を立てており、少し気が抜けてしまう。
―――ぐうぅぅ〜……
「海、おぬし腹が減ったのか?」
「いやぁハハハ…ずっと戦いっぱなしだったんで…。多分、悟空も同じだと思うけど…」
「……ん〜。腹、へった〜…」
「ほらっ!」
「ほっほっほ。ならば、すぐに準備をせんといかんな。さぁ、家へ帰ろうか」
「はーい!…あ。でも家、壊れてなかったっけ…!?」
「あの程度すぐに直せるわい。心配せんでもよいぞ」
「ホッ…ならよかった…」
「ほっほっほ!海は心配性じゃのう」
戦いは終わった。初めての兄弟喧嘩は、兄の勝利で終わったのだ。
そしてまた、新たな1日が始まり―――摩訶不思議な大冒険へと向かっていく。
これから原作に入っていくので投稿が遅れるかもです。