追記
ちょっと表現を書き直しました。
時を少し遡り、地獄にて。
超サイヤ人3となった海がジャネンバへと接近し、周囲から飛び出す拳を捌きながらジャネンバの真下にたどり着いた。
「ジャネンバー!!」
「はアアアッ!!」
「ジャネ…ッ!?」
振り下ろされた巨腕を潜り抜け、大きな腹目掛けて拳のラッシュが放たれる。一撃一撃の重さもさることながら、桁違いのパワーによって少しずつジャネンバの体が宙に浮き始めた。
「ダリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャッッ!!」
「オウッ!アウッ!?アオ…ッ!!」
「っ!!」
何度も何度も撃ち込まれ続けたことでジャネンバの腹が凹み始めたと思うと、地獄の宮殿と地獄の狭間に浮いていた大量のビーズが海目掛けて降り注ぐ。ジャネンバごと巻き込んだことで一つの山のようになっていたが、火山の噴火のようにジャネンバだけがビーズの山を突き破って打ち上がった。
打ち上がった頂点に瞬間移動で先回りした海が拳を振り上げて待っていたことで、振り下ろされた拳によってまた地面へと墜落するジャネンバ。
起き上がったジャネンバの耳に届いたのは、ゴロゴロと響く異音だった。すぐさま上を見上げると、海が両手でビリビリと放電させながらこちらを見ていた。そのすぐそばには、地獄には似つかわしくないほどに真っ黒な雷雲が浮いている。
「―――じい様から教えてもらった萬國驚天掌の応用だ。とくと味わえッ!!」
「ジャネンバ…!?」
「行っけえええええええぇぇぇぇぇッッ!!!」
海が腕を振り下ろした瞬間、隣の雷雲から雷で形成された拳が現れ、ジャネンバを打ち抜く。それは一発で終わらず、ジャネンバの周りを砕きながら何度も何度も雷雲から落ちていく。
雨に打たれたと思えるほどに雷の拳がジャネンバを押しつぶし、ついには巨大な爆発を引き起こしてジャネンバを地に伏せさせたのであった。
仰向けになったまま呻くジャネンバから離れたところに降り立った海は、静かにジャネンバの終わりを目に焼き付けていた。己が戦い、殺した相手であると考えたからだ。
苦しみ続け、ついにジャネンバの腕が力を無くして地面に伏せた。
「ジャネン、バ……」
「……終わった、か…」
気が弱まり、もう立ち上がることがないと考えて超サイヤ人3を解く―――その時だった。
―――グジュルルルルルルルルルルルルルル!!
「……は?」
生々しい音と共にジャネンバの体が縮み始める。
まるで肉で肉を混ぜ込んでいるような音を響かせながら一つの人型にまとまり始め、脈打っていた肉体がすべて収まり切った。
その姿は先ほどまでの贅肉で構成されたような姿とは打って変わってとても筋肉質な体つきをしている。そして何よりも、ただでさえ強いと感じていた気が膨れ上がっていた。
より鬼らしい角を持ち、より邪念に満ちた瞳を海へと向ける。
「―――――」
「…なんつー、バケモンだ…!!」
ふわりと浮き上がった瞬間、仰け反った海の眼前を薄い紫色をした足が通り過ぎた。
反撃とばかりに海も蹴りを放つも腕で防がれ、唸りを上げる尻尾によって脇腹に一撃が入り、地面で跳ねる。
吐き出した声に嗜虐的な笑みを浮かべたジャネンバが拳を鳩尾へ突き立てる。
しかし当てた感触は無く、残像を通り過ぎる。
少しの間硬直したことにより目の前まで来た蹴りに反応することが出来ず、ほんのり電気を帯びたようなキックをもろに喰いさらに固まってしまう。
「ギャウッ!?」
「ずああッ!!」
空中で捻りを加えたキックを後頭部に浴びせ、地面を転がるジャネンバを油断なく見据えて地面に着地する海。すぐさま片足を下げ、胸が地面と接触しかけるほどに伏せた。
獣のように地面を手で掴み、少しずつ体の節々に力を込めていく。
起き上がり、海の状態を目にしたジャネンバは直感で感じ取った。
――誘われている。あの構えはこちらの攻撃を待っている。地面につけた手の反対側の手に気が込められているのは、もしこちらが遠距離から攻撃しようとしたときの妨害をするためだろう。
距離を取れば気弾が、接近戦をしようとすれば蹴りか拳のカウンターが飛んでくる。
それを読み取ったジャネンバが取った選択肢は、距離を取らず接近戦を仕掛けることだった。
「グオオオッ!!」
「………」
――先ほどの二撃は確かに効いた。しかしその前に放たれた一撃から考えるに、向こうの攻撃ではこちらの防御を突破することは不可能に近い。全力の気功波か気弾の連射でもない限り耐えきることは容易だ。
となれば後は簡単。向こうのカウンターごと引き潰しながら致命打を与えてしまえばこちらのペースになる。
距離が縮まる。50m、20m、10m、5m―――拳が届く距離に至る。動き出した海の足に合わせて防御を取る態勢を保ちつつ、拳を振るわんとしたその時だった。
ジャネンバ目掛けて振るわれた足が異様な気配を纏い、聞いたことのない異音が聞こえた。本能が警鐘を鳴らすそれは、まるで空間を削るような音。
「ッ!?」
「―――ちっ!!」
後方へ飛び上がったジャネンバの片方の足が切り飛ばされ、後ろに浮いていたすべてのビーズを一刀両断していく。
ジャネンバは今の一瞬だけ、海の足が禍々しい死神の鎌に変化したように感じた。喰らえば致命傷になりうる一撃だったと冷や汗を流す。
(……今の一撃、完全にあいつの意表を突けていた。戦い始めてから一切見せてなかった大切断も、俺のカウンター目的の待ちの姿勢も奇襲するのに持って来いだったはずなのに…!)
海は焦燥感が混じった分析を行う。先ほど放った一撃はブロリーの気弾にも通用した切断技でもあり、空間さえ切り裂く一撃。それを足に重ねて放つことにより、直に当たれば防御無視の一撃になりうる切り札の一つだった。
もしこれが油断を一切していなかったジャネンバなら、切断の瞬間に足ごと砕くなりなんなりで対処していたであろう。しかしあの瞬間、ただの蹴りだとジャネンバは侮っていた。だから海も一撃入れることが出来ると踏んでいたのだ。
結果は回避されてしまい、足の一本で終わってしまったが。
なによりも恐ろしいのは先ほどの防御の取り方だった。
(あいつが取ろうとした防御の位置、全部俺が蹴ろうとした場所とドンピシャの位置だった…。まさか、俺の動きを読んでいたのか?足が吹き飛んだのは大切断を見たことがなかったから回避しきることが出来なかっただけで、もし大切断を重ねた蹴りじゃなかったら完璧に防がれてそのまま押し切られていた)
ジャネンバの思惑と起きたかもしれない事実が知らず知らずのうちに輪郭を帯びていく。無意識のうちに感じ取り少し肩が震えた。
「―――グアアッ!!」
「っまず―――!?」
口を広げたジャネンバの気功波を受け、踏ん張った地面と土ごと吹き飛ばされてしまう。なんとか耐えきったものの、服は破れてズタボロの状態であり傷も目立つようになった。
引きずられた跡を追うようにジャネンバが近づき、道中に落ちていた小さな棍棒のアクセサリーを拾った。
「……ニィ」
「……!」
握りしめた瞬間、アクセサリーが一本の剣に変化する。握り心地を確かめ、満足したかのように軽く横薙ぎに切り裂く。
咄嗟に回避を取ったことで斬撃を浴びせられることはなかったが、自身の後ろの惨劇を目にして顔を青くする。
先ほどの斬撃が通った先の景色に一本の線が走っていた。まるで自身が大切断を放ったときのように。
「あいつ、俺の攻撃を真似て…!?」
「グオオアアッ!!」
「うあっ!?」
幾重に重なった斬撃が海を襲い、その体に切り傷を増やしていく。すぐさま気弾を投げかけて妨害しようと試みたが、目前に現れた渦上の波紋に防がれて返される始末。
ならばとリーチの間合いのさらに内側に入ることで剣戟を阻止し、直に気弾を押し付けて爆破しようと殴り掛かる。
気弾を握りしめた拳がジャネンバに命中する瞬間、ビデオの砂嵐のような色合いをしたブロック片状に分かれ始め空ぶってしまう。
自身の瞬間移動と違う技で姿を眩まされたことで見失ってしまった海の後ろに現れたジャネンバが剣を高く掲げる。処刑人のように振り下ろした剣は、振り向いた海の肩から脇腹にかけて一閃した。
「ご、は…!?」
切り裂かれたことで血が口元から溢れ、傷口からも血が漏れ出す。超サイヤ人3の状態だったからこそ即死を免れたものの、致命傷であることには変わりなく超サイヤ人3が強制的に解けてしまった。
倒れ伏した海の真上に立ち、剣の切っ先を海の喉元に合わせる。このまま突き立ててしまえば目の前の戦士は即死し、抗う者がいない地獄は自分のものとなる。
勝利を確信したジャネンバに笑みが浮かび、剣を海に突き立てる―――
「サタデークラッシュッ!!!」
剣先が喉元に触れる瞬間、ジャネンバを気功波が襲った。意識外からの一撃によって怯んだ隙を突き、海を攫った人影に向かって斬撃を飛ばそうとするも、今度は真後ろから何者かがタックルをぶちかましたことで地面を転がっていく。
そして追撃とばかりにあたり一帯を爆破されたことで土煙に飲み込まれ―――海にも、仕立て人にも逃げられてしまった。
「ッッウガガガガガガガッ!!ウガガガガガガガガガガッッ!!!」
激怒したジャネンバの咆哮が地獄に響き渡る。聞く者のいない地獄では、返答が来ることはなかった。
◇◆◇◆◇
暗い。ふわふわした感覚で、闇の中を漂っているような気分だった。
唯一後頭部に温かい何かがあるけど、瞼を開けて確認することはできない。ずっと起きようとしているけど、体の重さがそれを許してくれない。
…死んではいないと思う。魂だけの状態になってるから死んでるも同然だけど。
魂だけなのにもう一度死んでしまった場合、あの世からもこの世からも消えてしまう。昔の俺が死んでしまい、あの世に行こうとした場合のように。だけど意識がある以上、俺はまだ死んでいないんだろう。
ジャネンバの一撃を貰ってからどれだけ時間が経ったんだろう。地上は無事なのだろうか。悟空は、ベジータは大丈夫なのか…。
唯一ラディッツだけは大丈夫だと確信できる。剣が俺に突き立てられる寸前に聞こえた声とジャネンバを襲った気功波はあいつのものだったからだ。
おそらくだが、占いババ様の力を使ってこっちに来たんだろう。占いババ様なら魔人ブウが暴れだすまえにこっちに避難できるはずだし。
…かといって、ラディッツだけでジャネンバから逃げれるんだろうか。俺が生きている以上逃げれたということなんだけど、ジャネンバの実力を考えるとラディッツ一人では厳しいものがあるとしか言わざるを得ない。
というかいつ俺は起きれるんだ?ずっと寝っぱなしな気がするぞ。
「――-――カ―。―――て、―――イ!」
……?なにか聞こえた気がする。とても懐かしい声だ。優しさと温かさが滲んだ声だ…。
「―――兄―。起き――貴!」
また聞こえた。今度はよく聞いた声だ。俺への信頼と、尊敬のような感情が混じった声。
「―――いつまで寝てんだ。さっさと起きやがれ!」
声が聞こえた。厳しさと反骨精神を含んだ、とても懐かしい声。
少しずつ瞼が開いていく。暗かった周りが光で掻き消え、やっとこさ目覚めることが出来た。
視界に入るのは、心配そうな目を向けるラディッツ、上からのぞき込む母さん、そして離れたところで佇む父さんだった。
「ラディッツ…?それに父さん、母さん…!?」
「っ起きた!二人とも、カイが起きた!!」
「っ兄貴、やっと起きたのか!?心配させやがって…!」
「随分寝坊助だったな、ったく…」
そう言う父さんの顔は少し笑っていて、馬鹿にするような雰囲気は感じられない。
上体を起こして周りを確認すると、岩が空中で停止している不可思議な空間に俺がいることが分かった。
綺麗な直方体を型取っていて、俺の顔すら見えるほどにピカピカと輝いている。
「というか、なんで父さんと母さんがここに?ラディッツはまだわかるけど、二人の姿なんて今まで見てなかったのに…!」
「…オレとギネは…フリーザどもを片付けてからラディッツと合流した」
「フリーザ?」
「そうさ。あたしとバーダックも、カイが地獄に来た時から肉体を持つようになってね。2人でフリーザ達とやり合ってたんだ」
「ほぼ全員俺が伸してやったけどな。ギネはやつらを拘束することの方が多かった」
「はー…。その後ラディッツと合流したの?」
「そうだ」
「心臓が口から飛び出そうになったぜ。閻魔のおっさんに結界を壊してくれーって言われてずっと結界のこと馬鹿にしてたら、後ろから親父の声が重なったんだからな…」
あの世から死者が蘇ってるって話を聞いて、もしかしたら父さんたちと会えるかもとは思っていたらしい。とはいえまさか自分の罵声に重ねられると思ってなかっただろうし、驚きも一入だろう。
…というか結界を馬鹿にするって、どういう状況なんだ…。
「よし、カイも起きたから早くあいつを倒しに行こう!カイが眠ってから二日は経ってるし」
「二日…!?」
嘘だろ、そんなに時間が経ってたのか!?なんでそんなに寝ちまったんだ…あーでも、魂が傷ついちまって回復するためって考えたら納得は行くけど…。
「だけど母さん、あいつ相手じゃ俺達で戦っても無理だと思う…。超サイヤ人3でもかなり辛い戦いになったんだ、多対一でも勝てるかわからねぇ…」
「何言ってんだ兄貴。あれがあるじゃねぇか」
「あれって何さラディッツ。界王拳のことか?」
「違う。そんな自爆技のことじゃねぇよ。フュージョンだよフュージョン」
「フュージョン…?」
フュージョンって確か、メタモル星人の使う技だろ?同じ身長と同じ気の大きさをした二人が特徴的なポーズを取ることで融合する…少し前に悟空と練習してたから覚えてる。
「…いやいや、無理だろ。だって同じ気の大きさをした二人が必要なんだぞ?俺とラディッツでやっても失敗するだけじゃ…」
「ラディッツじゃねぇ。オレとお前で融合する」
「……父さん、と?」
「そうだ。テメェがフリーザの馬鹿野郎に殺された時から、俺とギネはその魂の中に入り込むことで魂が消えないようにしてきた」
「はい???俺の魂の中に……んぅ…??」
「考えんな、感じろ。…とにかく、お前が強くなるにつれて中にいたオレ達も強くなった。どういう原理かは知らねぇが、今のオレとお前の気は同等程度にある。ギネはあまり強くならなかったがな」
「ふん。バーダックだけずるい!」
「お袋…親父に嫉妬するのはどうなんだ…」
「だってだって、あたしもバーダックとフュージョンしてみたかったんだもん!カイだけずるい!」
え、俺にも?
「さっさと済ますぞ。あの野郎もそろそろこっちに気づく頃だ」
「わ、わかった!だけど父さん、フュージョンのポーズの練習なしでやるのはリスキーじゃないか?」
「……」
「……」
……まさか父さん、練習なしでやる気だったの?無理に決まってんじゃんそんなの…俺と悟空でもかなり苦労したんだぜ…?
「バーダック、ファイトー!あたしとラディッツは離れて見とくから、安心してやってねー!」
「…親父、ガンバ」
「あいつら…!!」
「まぁとにかく、俺の中で見てたんなら動きは知ってるだろ?気の大きさをずらして練習しようぜ」
「く、くそったれ…何が悲しくて自分のガキとあんなヘンテコなダンスをしなきゃなんねぇんだ…」
父さんもヘンテコなダンスって言ってる…。まぁ変なダンスではあるか。ぶっちゃけダサい。
◇◆◇◆◇
練習も終わり、実際にやってみようとしたときのことだった。遠いどこからか、ガラスが割れるような音が響いた。
「!?」
「なん、だぁッと!?」
振り返った瞬間に立っていた岩がすべて砕け散り、足場を無くして地面に降り立つ。そして遠くからとても見覚えのある何かがこちらへと飛んできていた。
「ジャネンバ…!」
「最悪なタイミングでバレちまった…!カイ!さっさとフュージョンするぞ!もう時間が無ェ!」
「こうなったらやるしかないか…!行くよ、父さん!」
父さんからある程度の距離を取り、鏡合わせのようなポーズをとる。腕を伸ばしながら反対に動かして距離を縮めていく。
「「フュー…!!」」
「―――ウガオアアアアアアッ!!!」
あと一瞬、という場面で父さんと俺の間を斬撃が通り過ぎた。即座に離脱してジャネンバと向き合うと、青筋を立てまくったジャネンバが睨みつけていた。
どうやら俺達を見つけるのに時間を掛けすぎたせいで、怒りが爆発しているみたいだ。握りしめすぎたのか、剣が持ち手部分で砕け散ってアクセサリーに戻ってしまっている。
「父さん、今から時間稼ぎは…!?」
「…無理だ、思いつかねぇ。トーマ達も結界内で凍っちまって動けねぇ状態で、ラディッツとギネじゃ瞬殺されておしまいだ。手詰まりってやつだな…」
「そんな…!」
さすがにあいつの目の前でフュージョンなんて自殺行為だし、かといって超サイヤ人3で戦っても勝てるとは思えない…!こうなったら瞬間移動で距離を取るしか…!
「グギャア!?」
「「!?」」
◇◆◇◆◇
バーダックと海がジャネンバに突撃を仕掛けようとした一瞬の空白を埋めるように、ジャネンバの後頭部に二本の足が突き刺さる。
二人の間を転がりながら通り抜け、地面に手を突きながら勢いそのままに立ち上がる。二日前といい、今回と言い不意打ちを何度も喰らったことで理性を振り切れそうなぐらいにキレるジャネンバ。思わず周りに散らばるビーズに八つ当たりを行い、少しでも怒りを発散しようとしていた。
それを視界に入れながらジャネンバのいた方向に目を向けた海とバーダックが見たものは、あまりに意外過ぎるものだった。
「くっくっく…格下からの一撃で無様に転がるとは、失笑ものだな…」
「不意打ちでなければ有効打を与えられない俺たちが言うことではないがな」
「黙れサイヤ人」
一人は腰から猿の尻尾を生やし、焦げ茶色の肌色をしている悟空と瓜二つの男。
もう一人は四本の角を持ち、肩パッドのような外殻を持った存在で、口元を機械的なマスクで覆った宇宙人だった。
どちらも見覚えのある二人、しかも浅からぬ因縁を持った者たちだった。
「―――ターレス…!?」
「テメェは、フリーザの兄貴か!」
海たちの口をついて出た言葉に反応したのか、二人して鼻で笑う。
「久しぶりだなぁ、カイ…地球で出会って以来か」
「見覚えのある男だと思ったが、思い出したぞ。惑星ベジータでフリーザに最後まで反抗したサイヤ人だな?孫海の父親だったのか」
「お前ら、何の真似だ!ジャネンバを邪魔してくれたのは助かるけど目的がわからねぇぞ!」
「目的…?おかしなことを言うじゃないか、孫海…俺の目的はただ一つ!貴様へのリベンジだ…!」
「…メタルクウラになってまで再戦したってのに、まだ戦いたいってのか」
「当たり前だ!あの俺は俺ではない…!ビッグゲテスターなどというものと融合したせいで、奴の意識と混じった存在など認められるか…!だからこそあのジャネンバとやらがいると不都合だ。孫海、貴様が俺以外の誰かに殺されるなど認めてたまるか!」
そう言われて納得してしまう海。あの時のクウラの詰めの甘さは気になっていたことではあったのだ。冷徹に戦い、甘さを嫌うであろうクウラが取るとは思えない行動に、わざわざ生け捕りまでしようとしていたからだ。
「ならテメェはなんだ、ターレスとやら」
「俺か?俺はお前たちと取引がしたくてな」
「取引ぃ?」
「地球にはドラゴンボールとかいう素晴らしいものがあるんだろう?俺がお前たちの時間を稼ぐ代わりに蘇らせてほしくてな」
「……なんで生き返りたがってるんだ」
「…俺は地獄でカカロット達とお前が戦う姿を見ていた。お前たちが苦しんで藻掻く姿は見ていて面白いもんだった…」
(趣味悪ぃなコイツ)
「――だがふとした時に思ったのさ。何故俺はあそこにいないんだってな」
「……!」
「お前たちが伝説の超サイヤ人となり、さらに進化していく姿を見て俺は嫉妬したよ。だが魂だけのままじゃ、超サイヤ人になろうにも身体が持ちやしない。俺に必要なのは肉体なのさ…」
「だから蘇りたいってわけか。今のドラゴンボールだと、蘇れば肉体も復活するおまけが付いてくるから…」
「…解せないな。今はあの世の法則がめちゃくちゃなせいで、オレ達死んだ者にも肉体が存在する。わざわざオレたちに協力する必要なんて無ェだろう」
バーダックが抱いた疑問は的を射ていた。事実今の地獄はめちゃくちゃな状態であり、亡者にも肉体が存在する。より強くなりたいとターレスが望むなら、肉体が付いてくる今を作り出したジャネンバはいてほしい存在だ。逆に海達を妨害する方が建設的だろう。
その疑問に肩をすくめて答えるターレスは、少し呆れ気味だった。
「今の地上には魔人ブウが居るだろうが。超サイヤ人にもなれない雑魚が復活したところで、吐息一つ喰らえばお陀仏さ。それに不死身のやつが細胞の一片まで消し飛ばしても絶対に死なない現状なぞ、誰が好き好んで作りたがる?」
思わず口を噤んでしまう二人。正論も正論だった。言われてみればまだ魔人ブウは生きているし、ジャネンバが生きたままじゃ魔人ブウが死ぬことは決してない。もしこの現状が続いてしまえば、待っているのは宇宙そのものの破滅で終わらない絶望の未来だろう。
「…わかった。悟空たちとも相談して、ドラゴンボールでお前を蘇らせる」
「まさかフリーザの兄貴とオレのガキを殺した野郎に助けられるとはな…」
「交渉成立だな…」
「さっさと済ませろ、長くは持たんぞ」
「わかってるさ。行こう、父さん!」
バーダックと共に距離を取った二人を見送り、ジャネンバと向き合うターレスとクウラ。八つ当たりをし続けたことで少しは発散できたのか、青筋が一本だけ減っているジャネンバ。
今も向き合うだけで鳥肌が立つのを抑えられない。
「まさかあんたと共闘するとはな」
「貴様のようなサイヤ人と戦うなど反吐が出るがな」
「くっくっく、酷い言われようだな…サイヤ人に負けた帝王の長兄さんよぉ」
「貴様、ここで死にたいか…!」
―――喧嘩してんじゃねぇぞお前ら!!お前らが失敗したら全員諸共ぶっ殺されんぞ!?
「「…チッ」」
喧嘩するほど仲がいいというには殺伐とした空気の中、死闘が始まった。絶対に勝つことのできない、死闘が。
△▼△▼△
ターレスの気弾がジャネンバを追い、回避先めがけてクウラのデスビームが飛び交う。されど一切のダメージを与えることが出来ず掻き消えていく。
「「……」」
そんな中、海とバーダックが鏡合わせのポーズを取って停止した。ここから一切のミスが許されない。命を懸けて時間を稼ぐ二人のため、地上で抗う悟空たちのために。
「「―――フュー……!」」
腕を反対側に移動させながら三歩分だけ近寄り、
「「ジョンッ!!」」
手をグーに変えて足を持ち上げながら曲げる。一連の動作にミスは無い。
「ぐおお……ッ!?」
「クウラ…っ!」
「ギヒヒヒハハハハハッ!!」
「あが…っ!?」
「バアアアアアア!!」
「うわあああああ!?」
クウラがガラス片状の気弾によってハチの巣にされ、ターレスはこめかみに拳をねじ込まれながら口からの気功波に飲み込まれてしまう。炭すら残さず消し飛ぶが、すぐさま煙のような何かが集まることで復活した。
すでにターレスもクウラも何十回と死を繰り返していた。一秒の合間に殺され、回避した先でもまた殺される。されどその瞳に一切の諦めは存在せず、邪悪な笑いを浮かべるジャネンバを視界に入れ続けていた。
「…へへへ…俺の、いや…
「…?」
不意に、ターレスが笑みを浮かべる。不思議に思ったジャネンバが首を傾げた瞬間、少し遠くの方から風を切る音が聞こえた。背筋から昇る冷たい何かを感じる。
「「はっ!!」」
一対の指が重なり、完全な鏡合わせの二人組が出来上がった。
指と指の間に存在する空間から光があふれ出し、すべてを揺らし始めた。
幾本もの光の線が二人を照らし、その姿をさらなら光で飲み込んでいく。
―――奇跡の戦士の誕生を、銀河が、宇宙が祝福した。
「―――」
二人が一人に変化する。白いズボン、青い腰布に特徴的な民族衣装―――メタモル星人の服を纏い、静かにジャネンバを見据える。
奇跡の合体戦士が地獄に誕生した。
「ッウガガガガアアアアアアッ!!」
「―――ターレス、クウラ…お前たちの仇は取ってやる」
瞬間移動を使っていないにもかかわらず、一瞬の内にジャネンバの前に現れた戦士の拳が腹を貫いた。
「ゴ、アアァァ…!?」
「ダアッ!!」
「ガアアアッ!!?」
腕を引き抜く勢いのままアッパーを放ち、打ち抜かれた顎ごと宙に浮いたジャネンバへ飛び蹴りを放つ。
ジャネンバが貫かれた腹を再生する間、合体戦士―――海とバーダックが合体した戦士、カダックの右手が虹色に光り始める。
集まるエネルギーにジャネンバは思わず呻いてしまう。
それは希望だった。それは生命だった。それは邪気を祓う絶対的な光だった。悪の気に塗れたものが触れてしまえば、跡形もなく消えてしまうことなど想像に容易い。
されどジャネンバに逃亡という文字は存在しない。光を超え、奴を打ち砕く。それしか残された道は無い。
「―――グオオアアアアアアッ!!!」
「――――ハアッ!!!」
本気の一撃が光を携えた正拳突きと正面衝突する。
桁違いのパワー同士のぶつかり合いによって辺り一帯の空気が消し飛び、音が消えた世界。
静かにジャネンバの体に光が吸い込まれ、瞳が輝き始める。
「グオ、アアアァァァ…!!ゴアアアアァァァ……ッ!!」
くぐもった断末魔が上がり、風に吹かれて姿を消していく。
光が集まり、憑りつかれていたサイケ鬼が姿を現す。邪気が祓われたことにより、本人が解放されたのだ。
本人は目の前にいた偉丈夫に腰を抜かし、這う這うの体で逃げ出したが。
「………ふっ」
口角を上げ、少し微笑むカダック。戦いが終わった。
◇◆◇◆◇
「―――そんじゃあ二人とも、また現世で」
「俺との取引、忘れるなよ」
「分かってるって」
地獄の法則がもとに戻ったことで蘇ってしまっていた人々もあの世に帰り、あの世とこの世の境で彷徨っていた死人も無事地獄にたどり着いた。
もう少しすれば全員蘇るだろうことから閻魔の裁きを受けず、閻魔大王の宮殿でぎゅうぎゅう詰めになっていることだろう。
「こんなこと言うのもなんだけど、ありがとな。二人が居なかったらフュージョンは失敗してただろうし」
「感謝するならさっさと地上に戻るがいい。貴様の父親も肉体を持って地上に行くのだろう」
「あぁ。まだ魔人ブウの問題があるからな」
ラディッツはもしもの時に備えるためあの世に留まるが、バーダック夫妻と海は地上に向かうこととなっていた。未だ魔人ブウという問題が存在するため、閻魔大王が特例として肉体を付与したバーダック夫妻を連れて向かうことが許されたからだ。
今は二人とも海の魂に入っているが、地上に出た瞬間に肉体を持って現れるだろう。
「改めて言うけど、ありがとう二人とも!また今度な!!」
「あばよ、カイ。とちって死ぬんじゃねぇぞ?」
「…ふん」
瞬間移動の音と共に海の姿が消え、会話が無くなった空間が発生する。
自然と閻魔大王の宮殿に向かう二人。あの大王のことだ、現世を確認するための機器を設置して様子を確認しているはずだ。それを使ってて地上の様子を見学しておこう。
いずれ追い越すために、リベンジするために。
次回は地上の様子です。