一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO(ゴシック体対応版)   作:みなかみしょう

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第25話:ユーザーイベント

 『モリス・ルクス』の城壁の外には農地が広がっている。これは現実世界でもあった、城塞都市を支える農業地帯を再現しているそうだ。食料生産しない人々を支えるための、より沢山の人々。BWOの世界でもそこは設定部分で踏襲されているようだ。

 

 この農村地帯は『モリス・ルクス』の一部として扱われている。

 俺がフィーカと共に訪れたのは、城壁西側にある一画だった。街に近い畑が頑丈そうな柵に囲われており、そのすぐ横にぽつんと小綺麗な平屋の建物が建っている。

 

「ここがトミオさんのハウスですか! 城壁の外とは意外です!」

「いや、カモグンさんが借りた賃貸だよ。あの人、速攻でハウジングとクラフト開放して作業してるんだ。それでこのカオス具合なわけ」

 

 それを聞いたフィーカが庭のそこかしこに置かれた様々な品に目を向ける。

 巨大な箱に、屋根を目指したらしき残骸、足下は色々な素材で作られた石畳で統一感がない。大型のプランターにラフレシアめいた禍々しい植物が植えられている。あれはコサヤさんの仕業だな。あの人は妙な植物を採取してくる習性がある。

 

「大分好き放題してますけど、怒られないんですか?」

「NPCはこのくらいで怒らないよ。今はこんなだけど、そのうち凄い物作るぞ」

 

 別ゲーを遊んだときは一ヶ月くらいかけて見事な庭園を作り上げたのがカモグンさんだ。あの時も最初はカオスだった。

 

「もしかして、森で採取をしていたのはカモグンさんのため?」

「それもある。結構いいもの作ってくれるぞ」

「ほう! それは良いことを聞きました!」

 

 クラフトガチ勢は仲良くしておいて損はない。そこのところはしっかりわかっているみたいだ。

 家に近づくと、ウッドデッキが設けられていて、そこに見知った二人が待っていた。

 

「お、来たな。思ったより早かったじゃないか」

「………久しぶり。三下娘」

 

 クラフトスキルによるものだろう、曲線美という言葉が似合いそうな木製の椅子に腰掛けて、カモグンさんとコサヤさんが出迎えてくれた。二人とも若干装備が変わっている。特にコサヤさんは白い和風っぽい装いになっていて非常に目を引く。一人だけ別の世界観からやってきたみたいだ。

 

「お二人ともご機嫌麗しゅう。コサヤ様、相変わらず美しゅうございますなぁ。一枚スクショとっていいですか?」

「……駄目。動画見たよ、面白かった」

「おお! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 即答で拒絶されてもめげない。強い女だ。

 

「とりあえず座りなよ。コサヤさんがお茶持ってきてくれたんだ」

 

 薦められるまま椅子に座ると、カモグンさんがインベントリから急須と湯飲みを出して、お茶を用意し始めた。

 

「物凄く日本の日常感のあるアイテム……噂のクラフトですか?」

「本物の緑茶の香りだ。コサヤさん、相当色々回りましたね?」

 

 カモグンさんとコサヤさん、それぞれが頷いた。

 眼前に置かれた湯飲みからは湯気が立ち上り、薄緑色の液体が揺れている。軽く一口。味は薄い。でも、香りは濃い。結構レアだぞ、これ。

 

「色々とクラフトスキルをとったんでね。試してみた。結構種類が多いよ。建築、日用品、鍛冶、服飾…………」

「……森の奥で拾った。どうやら毒はなさそう」

「そういえば、二人ともお茶飲んでませんでしたね……」

「いきなり実験台にするとは、恐ろしい子……っ!」

「……軽いジョーク」

 

 湯飲みを口につけながらコサヤさんが言う。冗談なのか、いや、たまに本気でこのくらいやるからな、この二人は。

 

「カモグンさん、あたくし、服飾スキルに大変興味がありましてぇ……」

「ちょっと待った。脱線すると長くなるから先に本題に入ろう」

「あっはい」

 

 さっき森の中で話してたらわかった。こいつはうっかり雑談が長引くと本題を忘れるタイプだ。先に用件を済ませた方がいい。

 

「えーと、本日皆さんにご連絡をとったのはですね。知り合った方が仲間と集まって『ダンジョン商店街』っていうユーザーイベントを企画しまして」

「フィーカさんも関わってるの?」

「一応、警備兼記録係として。ライブ配信はしませんが、後ほど動画をアップする予定です! ……ま、殆どの人が顔出しNGなんで、またモザイクまみれになるんですけどね」

「……それは個性だから良いと思う」

 

 諦めた顔で呟くフィーカに、コサヤさんが謎のフォローを入れていた。フォローじゃないかもしれん。

 

「ふむ……。場所と規模は? 行く意味がないとちょっとね」

「う、意外と厳しめですね。カモグンさん。しかし、あたしは良いエクスキューズを用意しております! 場所は『あかがねの洞窟ダンジョン』です。うっすら光る赤い湖が綺麗な場所でして」

 

 まだ行ったことのないダンジョンだ。そんなのがあるんだな。

 

「ふむ。じゃあ、その湖のほとりで開くと?」

「いえ、その奥にある崩壊した地下街でやります。参加者は20人くらいですね」

「……あそこか。モンスターはそれほど強くない」

 

 コサヤさんはもう行ったことがあるらしい。この人は街をふらついてた俺と対照的に、フィールド上を駆け回ってたんだろう。プレイヤースキルもあるから、レベルも相当上がっているはず。

 

「そうなんです! クラフト好きなカモグンさんにお得な情報としてですね。企画したのが廃プレイヤーの方々なんですよ。相当先でしか拾えない素材関係も並べるって言ってましたよ!」

「よし行こう。みんなで行こう。時間はいつだ?」

 

 カモグンさんの目の色が変わった。全財産使い果たす勢いで買い漁るぞ。何度かそういうのを見たことがある。

 

「時間はゲーム内時間で二日後。リアルだと金曜日の夜に開始ですね。サーバーのチャンネルなんかもお知らせしてます」

「そういえば、もう週末なのか」

 

 長い夏休みで曜日の感覚を失いつつあって気づかなかった。一度、スーパーへ食料の買い出しに行った方がいいな。

 

「学生め。曜日の感覚を失いおって……」

「……社会に出たらこうはいかない」

「ほほう。やはりトミオさんは学生、と。メモメモ」

 

 鋭い目で睨む大人二人。フィーカは本当にメモをしている。俺の個人情報を収集してどうするつもりなんだ。

 

「では、皆さんも参加ということで!」

「そうだな。行けたら行くよ」

「うむ」

「……だね」

「それ来ないやつですよね! 今一緒にイベント楽しもうぜって流れでしたよね!」

「軽いジョークだよ」

「くっ、あたしの扱いが軽い。バズってちょっと人気者になったのに。今に見ておれ、トミオめぇ……」

 

 なんで俺にだけ恨みが集中するんだ。あと、あのバズりかたはちょっと可愛そうなので同情する。

 

「ところでカモグンさん。話を戻しますが、服飾スキルはどの程度なのでしょうか? あたくし、AP装備の制作をお願いしたく……」

 

 深々と頭を下げるフィーカ。

 AP装備というのはアピアランス装備。すなわち見た目だけの装備品のことだ。

 ゲームにおいて最適解を選んだら、とんでもない見た目の装備になりました、なんて経験は誰もが一度はしたことがあるだろう。

 その対策としてBWOにも「性能はないけど、見た目だけ変わるよ」という専用装備欄と装備品が用意されている。

 現状、AP装備はクラフト産かいくつかの店売りのみ。そのうち公式からコラボ品含めて色々出るとは思うが、フィーカが欲しいのはそういうのじゃないだろう。

 

「……他のゲーム配信で使ってるアバターと同じ服にするんだね」

「なんと、他ゲーの動画まで見てくださっているとは! ありがとうございます、コサヤ様! あっちぃ!」

 

 テーブルに打ち付けんばかりの勢いで頭を下げ、湯飲みにあたってお湯を被った。凄いな、録画しておけば良かった。

 元々色んなゲームの動画を配信しているフィーカには、しっかりとしたデザインのアバターがある。ちゃんとイラストレーターに発注したらしく、結構出来がいい。

 BWO内のフィーカは顔や髪型はそれに近いものの、服装が大分離れている。ちょっとSF風の服なのだ。本来は。

 

「できればあれをファンタジーに寄せた感じの服をお願いしたいのですが。ちゃんとお金は払いますので!」

 

 配信する以上、見慣れた姿に近づけるのは大事だ。フィーカ(BWOのすがた)を目指すのは当然といえる。

 

「すまない。僕は服飾のスキルはとってないんだ」

 

 残念ながら、カモグンさんは服飾関係のスキルは滅多に取得しない人なのだった。

 

「な、なんという……これが運命というものか……」

「カモグンさん、大体建築とか鍛冶中心ですもんね」

「うむ。今回もそのつもりだよ。……あー、あんまり落ち込むな。マーケットで取引するうちに服作りの名人と知り合いになるだろうし」

 

 クラフト系は図面や完成品をマーケットに流せる。カモグンさんはこれで稼ぐ名人でもある。しばらく会わないうちに凄い財産を築いてたりするぞ。

 

「ほ、ほんとですかっ! なにとぞお願い致します! なにとぞぉ!」

 

 結局、フィーカは今回も土下座した。

 

「……そういえば、二人ともユニークスキルは出た?」

「勿論ですっ。あたしのはトミオさんも認める逸品ですよぉ!」

 

 その後、それぞれのユニークスキルなどについても情報交換を交わした。

 ユーザーイベントもいいが、ダンジョンに入るのも楽しみだ。

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