一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO(ゴシック体対応版)   作:みなかみしょう

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第26話:あかがねの洞窟

 フィーカと待ち合わせをした『メガスの森』は『ルクス山岳地帯』という地域の入り口にあたる。『モリス・ルクス』から離れるに従って深くなっていった森を抜けると、緑に包まれた山々が出迎えてくれる。そんな場所だ。

 『ルクス山岳地帯』の見た目としての特徴は「標高が低く、広い」ことだ。山頂に雪が積もっているような高山は存在しない。多少、岩山が混ざっているけれど、「割と簡単に行けそうだな」と思わせる低い山の連なりでできている。

 

 『あかがねの洞窟』はそんな山々の浅いところにあった。かつて人の行き来があったのか、街道跡があり、廃プレイヤーの一人がノリで突き進んで見つけたらしい。

 

 ちなみにBWOは「新世界を旅するRPG」をうたっている関係で、新たにダンジョンを発見したプレイヤーは「発見者」として登録する機能があったりする。この『あかがねの洞窟』については、登録辞退の旨が記載されていた。フィーカみたいな配信者でもない限り、名前を晒す利点はないよな。

 

「さあさあ、こちらですよトミオさん。どんどん進んじゃいます。いやー、こうして前を歩けるようになるとは、短期間であたしも成長したもんですねぇ」

「本当にな。俺よりよっぽど頑張ってるよ」

「……何かありましたか? 素直に褒められるなんて。はっ、さては偽物ですか!」

「普通に素直に褒めることくらいあるよ!」

「そ、そんな機能がトミオさんに搭載されていたとは。アップデートの賜物ですね?」

「……なあ、今録画してないよな?」

「……ま、まさかぁ」

 

 言いながらこっそりウインドウの操作をするフィーカ。やはりな、いやに動画向けの発言をすると思った。そして、隠せると思ったんだろうか。

 

「今の会話、配信禁止で。承諾を得てないから」

「くっ、さすがはトミオさん。モザイクの人と呼ばれるだけはあります!」

「全然嬉しくないんだが、その呼び名……」

「そう謙遜なさらずに。素晴らしい才能ですよ、是非今後もご贔屓に」

「さりげなく俺を配信に巻き込もうとするな」

 

 本気で出演拒否を考えながら歩くこと数分、広い空間に出た。

 周囲がうっすら赤く染まった空間。

 あかがねの洞窟の名前の由来であろう、赤い光をたたえた地底湖がそこにあった。

 広さはそれほどでもない。走れば十分くらいで回りきれそうだ。人によっては池扱いされそうな規模。

 周囲を異様な空間に染め上げている赤色は、湖底の鉱物によるものらしい。うっすら赤く発光する「赤光石(しゃっこうせき)」がここでは採取できる。

 

「よく見ると地面もちょっと光ってるな」

「考察好きな人によると、元々は赤い地面で、採掘した後に水が溜まったんじゃないかって話でしたねぇ」

「奥に町の廃墟があるんだよな。その人達がやったってことか。この赤いの、使い道あるのか?」

「周りでスコップやツルハシを使うと「小赤片」が主にとれます。「赤光石」はレアですね。今のところ、クラフトで染料になったり、クエストで納品するくらいだとか」

「簡単にアクセスできる場所に美味しい効果はないか。しかし詳しいな」

「うへへ。また褒められちゃった。まー、今日のイベントを主催してるプレイヤーさんの受け売りなんですけどね。全部」

「それでも大したもんだよ」

 

 赤い空間の中を歩いていく。ユーザーイベント目当てらしいプレイヤーが周りにも結構いるな。おかげでモンスターが沸いた先から処理されて安全だ。一度、赤い巨大ダンゴムシが転がってきたけど、フィーカが冷静に石をぶつけて対処していた。モンスターの強さもさほどじゃないらしい。

 

 少しずつ、赤い光が薄れてくる。洞窟本来の……というよりBWOの設定値である洞窟内の明るさが戻ってくる。うす暗い自然石の中にできた洞窟ダンジョン。壁の色は青黒い。硬そうな石だ。「赤光石」が採掘できるあの周辺だけが特別っていうことだな。

 

「そろそろ第二層ですよ。意外と人が増えてきましたねぇ。あたしの告知が少しはお役に立ってるといいのですが」

「十分役立ってると思うが。さっきからたまにこっち見てる人もいるし」

 

 すれ違うプレイヤーの何人かがフィーカを見て立ち止まったのは確かだ。隣にいる俺に対しては特に反応はない。なぜか気の毒そうな顔をする人がいたが。まさか、俺がモザイクの人だと察したか?

 

「ついたな」

「ですね! 思った以上に盛況な様子で何よりです!」

 

 視界の端に『あかがねの洞窟-第二層-』と表示されるなり、雰囲気が変わった。

 まず、感じたのは空間の広さだ。第一層の地底湖よりも天井が高く開放感がある。巨大なドーム状の一つの空間になっている。

 天然石の洞窟で最初からこんな広大な空間があったのか、ここで暮らした人達の存在なのかはわからない。

 

 そして、そこにあったのは町の廃墟だった。「赤光石」を混ぜて作ったであろう、赤みを帯びたレンガ作りの家々の廃墟。ほとんど土台か壁の一部だけが、綺麗に区分けされて残されていた。

 

 今、その廃墟の数々はプレイヤーたちが店を広げるスペースとして利用されていた。

 

「建物の跡地が良い感じの目印になって、スペース分けが楽だったそうです」

「運営もまさか、こんな利用法は想定してなかったろうなぁ」

 

 そんなことを言いつつも、その様子に俺は感心してしまった。

 思った以上に、しっかりと「ダンジョン商店街」は開催されていた。

 

 プレイヤー達は与えられたスペース内に棚やテーブルを並べて、見事に「店舗」を作り上げていた。商店街というよりも、市場といった方がわかりやすいだろうか。

 

 フロアの入口にはクラフトで作られたであろう「ダンジョン商店街にようこそ!」の看板が置かれ、真っ直ぐな通路沿いに店が並んでいるのは壮観な印象すらある。

 告知がしっかり行き渡っていたのか、客も多く、そこかしこでプレイヤー達が賑やかに店主とやり取りしている。

 

 今日この時だけ、ダンジョン内に現れたおかしな催し。NPCのいないプレイヤーだけの商店街。ユーザーイベントはしっかりと成立している。

 

「いや、よくここまで上手くやれたな。凄いわ」

「なにせ廃プレイヤーが絡んでいますからね。店舗用のアイテムとか作って配ったらしいですよ」

「そこまでするか。いや、だからこそか」

 

 少しだけ気持ちがわかる。楽しめなきゃゲームじゃない。インターネット老師からの教えだが、このイベントを企画した人はその精神を正しく実行しているんだろう。

 

「ほらほら、トミオさん、あたしを褒めてもいいんですよ? 良い話を持ってきたんですから」

 

 ヘイ、カモン、とばかりに自分を指差すフィーカに冷たい視線を送ってから口を開く。

 

「ああ、本当にありがたいよ。このイベントを企画した人に礼を言いたい」

「よくもそう上手くあたしをスルーした文言が出てきますね」

 

 変な挑発さえなければ褒める流れだったんだけどな。それに、この方が嬉しそうなんだよな、こいつ。まさかこっそり録画してるんじゃないだろうか? あとで問いただそう。

 

「じゃあ、行くとしますか」

「はい。ダンジョン商店街にようこそ! ほら、あたしは運営側だから言う資格ありますよ!」

 

 微妙にテンションを上げた俺達は、足取り軽くイベント会場に入っていくのだった。

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