一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO(ゴシック体対応版) 作:みなかみしょう
モンスター騒ぎも終わった俺達はフィーカに言われるまま、近くで喫茶スペースを開いている露店に着席することになった。わざわざウェイトレス風の装備に身を固めたプレイヤーが、「どうぞ」と紫色の茶を出してくれる。
「さあどうぞ。あたしの奢りです。アニーマ族の好きな花から作ったお茶で、見た目に反して良い味です」
「本当か? ちょっと濁ってるんだが?」
「いただきます~」
「…………」
若干濁っている紫色の液体を瑠璃さんと呼ばれた青髪プリーストが美味しそうに飲んでいく。こくこくと実に良い飲みっぷりだが。
「ぷは~。運動の後の一杯は格別ですね~。意外と味が濃いのは、ゲームオリジナルのお茶だからでしょうか?」
「……大丈夫みたいだな」
「あっ、オリフさん、毒見させてましたね」
「当然……」
オリフさんも軽く一口。俺もそれに合わせて飲む。うん、味は普通の紅茶に近い。少し甘みがあるのが面白い。
「地味にトミオさんも様子見していましたね。あたしは見逃しませんよ!」
「いや、せっかくだから……」
「お店に出てるものにおかしなのがあるわけないじゃないですか~」
「あそこの看板にギャンブルティーって書いてあるよ。だから警戒したんだ」
「……きづかなかった」
そう、看板にこっそり「ギャンブルティー(未検証のアイテム)」と書かれているのだ、この店は。フィーカがノリで注文してもおかしくない。そういう奴だ。
「ふふ、早くも打ち解けているようで何よりです。では、落ち着いたところでトミオさんにお二人をご紹介しますね」
「ぜひ頼む」
まだ名前も聞いてないのに相当喋ったぞ。
「ではでは、僭越ながらあたくしがご紹介を。こちらの麗しい女性がピコ瑠璃ィさん。見ての通り、お優しいプリーストです。で、サングラスが輝く御仁がオリフシンさん。ウィザードです」
「ピコ瑠璃ィです~。瑠璃って呼んでくださいね。ピコはやめてください」
「よろしく」
「トミオです。二人はどんな経緯でコレ……フィーカと知り合いになったんですか?」
おっといつもの扱いをするところだった。流石に言葉遣いには気をつけないとな。
「お二人との運命的な出会いはルクス山岳地帯。撮れ高と冒険心を満たすため、そこらじゅうを駆け回っていたときのことです。……まあ、ちょっと死にまして。誰かこないかな~と思っているところ、通りがかっていたのが……」
「なんか、聞いたことある話だな。流行ってるのか、その出会い方が」
昔の有名ゲームには「行き倒れナンパ」「遭難ナンパ」と呼ばれるほど倒れてヒロインと出会う主人公がいたそうだが、その亜種か?
「ち、違いますよ! 十分くらい粘ってたら通りがかってくれたんです!」
「そんなに粘ったのか。山の中で……」
「びっくりしましたよ~。なんか赤いのがあるな~って見に行ったらフィーカさんが倒れてて」
「その後、復活させて貰い、そのまま流れでパーティイン! 三人で色んな冒険を繰り広げてフレンドになったのです! フレンド登録してますからね!」
ドヤ顔で胸を張って言い切るフィーカ。
「良い出会いをしたようで何よりだよ」
どおりで俺に連絡が来なかったわけだ。この三人で遊んでたおかげか。
「フィーカさんは賑やかで楽しいですからね~」
「なんのなんの。瑠璃さんも冒険心たっぷりで。あたしでは思いもつかないような場所にいくじゃないですか」
和やかに話しているが、内容に不穏な空気が漂ったのを俺は見逃さない。もしかして、ピコ瑠璃ィさん、フィーカに近い存在なのでは? 「思いもつかないような場所」に三人で回ってたってことだよな。考えてみれば、さっきもモンスターの群れに突っ込んできてたし。
「あの、オリフさん。もしかして、色々と苦労……苦戦しましたか?」
「トミオ君。君には期待しているよ……」
サングラスで表情がわかりづらいのに、オリフさんからはげっそりとした疲労感が滲んでいた。大分振り回されたのか。
「お二人ともトミオさんに負けず劣らずのベテランゲーマーでして、あたしとしては感謝しきりです」
「フィーカさんこそ、楽しいお話を沢山仕入れてくれて助かりますよ~」
「今日のこれは助かったね」
「オリフさんも良いもの買いましたね~」
「なにかレアなの並んでたんですか?」
「見たことのない採集品が沢山」
「わたし達の楽しみですね~」
なるほど。アイテム収集か。どんなゲームでもその手の人はいるもんだ。倉庫を圧迫して仕方ないから俺はあんまりやらないが気持ちはわかる。フレーバーテキストとか、案外読んでて楽しいしな。
「警備に協力してくれた件も、ありがとうございます。実は思ったよりもモンスターの沸きが激しくてですねぇ」
「人の多い場所で沢山ポップしやすくなる説があるらしいな」
「あっ、それでこんなに忙しいんですね~」
「狩り場の独占とか、そういうのを防ぐためかな?」
話をした感じ、オリフさんが一番落ち着いてるな。カモグンさんと会ったら気が合いそうだ。そういえば、二人の合流が思ったより遅いな。そんなに大変なんだろうか、残業。
「こうして出会ったのもなにかの縁ということで。できれば皆さん、あたしの配信動画に出演を……」
「顔出しは断る」
「ごめんなさい~」
「それは勘弁」
「な、なんであたしの出会う人は出演拒否ばかりっ。みんな親切で優しいのに!」
インターネットが登場して数十年、ネットで顔が割れるリスクは授業で教えられるくらいだ。それはVR空間でも変わらない。一応、簡単にアバター変更が出来るし、リアルを極力匂わせないことで回避はしやすくなっているけれど。怖いものは怖い。
「むぅぅ。いつか皆さんにもモザイク無しで出演頂きたいものです。特にトミオさん! 期待してますよ!」
「それは期待ですね~」
「……お疲れ様」
くっ、まだ顔出しもしてないのに嫌な知名度を獲得している。フィーカが「ほらほら、視聴者も求めてますよ」みたいな顔してるのも気に入らない。オリフさんなんか同情してくれてるんだぞ。
「ま、ここはあたしの手練手管で気長に……。おや、運営のグループチャットが妙に活発に……」
急に真面目な顔をして情報ウインドウを開くフィーカ。グループチャットはゲーム内で任意で作成できるSNS機能だ。パーティーとは別枠に作成できる。ありふれた機能で、集団戦を想定したゲームでは、司令部がチームごとのチャット枠まみれになって凄いことになったりもする。
「げ」
「げ?」
「……嫌な予感」
「なにかあったのか?」
最初の発言がフィーカ。それから瑠璃さん、オリフさん、そして俺と続く。急に真面目な顔になったな、なんかちょっと引きつってるし。
「た、大変です。隣の階層からですね、ボスモンスターがこっちに接近してるみたいなんです」
どういうことだよ。
発言した本人含めて、全員の顔にそう書かれていた。