マコト先輩からGOサインをもらった日の午後。私はトリニティ総合学園へとやって来ていた。
「おぉ〜綺麗なトコだなぁ…」
前に行った外縁部とも違って石畳も綺麗なもんだし、オシャレな建築物が並んでいる。銃声が聞こえないのに少し違和感を感じるが。
治安良すぎだなトリニティ…
「失礼、貴方がゲヘナからの客人で合ってますでしょうか?」
シスター服の子が少し警戒しながら話しかけてきた。…獣耳かな?シスターの被ってるアレが三角形に持ち上がっている。
「えぇ、はい。今回先生の護衛を請負いましたゲヘナ学園1年、西條林檎と申します」
マコト先輩から話が行ってるはずだし、真面目に応えよう。
…出来るだけ丁寧に喋ったつもりだが何か変だったかな?少し目を見開いたぞこのシスター。
「これはどうもご丁寧に。…私はシスターフッド所属の1年、伊落マリーと申します。」
よろしくお願いします。と微笑と共に返されたが…シスターが何の用だろ?
「えぇと、それでシスターさんが何のご用でしょうか?うちは無宗教なんで神様の教えとかは遠慮させて頂きたいのですが」
「神の言葉は強制するものではありません…この度は補習授業部への合流を案内するために遣わされました」
丁度、彼女達に私も用がありまして。と続ける伊落さん。
「ティーパーティーからですか?」
「いいえ、先生からです」
ニッコリ笑って返事をされた。
…そういえば先生が誰か迎えに寄越すって言ってたな。
「すみません、すっかり頭から抜けてました」
宗教家から声をかけられるのは初めてだったから少しビビってたわ。
「構いませんよ。では参りましょうか」
案内を受けて補習授業部の合宿所へと向かう道中、周囲の連中にジロジロ見られた。何時ぞやの嫌な感じじゃ無かったが。やはり見た目を変えてきて正解だったな。
「ところで、その…西條さんは」
「良ければ林檎と。苗字で呼ばれるのに慣れていませんので」
「わかりました林檎さん。私の事もマリーとお呼び下さい。…喋りやすい様にして頂いて構いませんよ?」
互いに顔を見合わせて笑う。やっぱ硬いのは性に合わないな。お言葉に甘えさせてもらうとしよう。
「それで、何か気になる事でも?」
「あの、その格好は一体…?」
あぁ、これか。
「ゲヘナの制服じゃ悪目立ちするじゃん?だから持ってる服の中で一番フォーマルっぽい奴を選んだんだ」
何時だったか忘れたが万魔殿で行われたパーティーで着たちょっと洒落た男物のパーティスーツ。名目はイブキ絡みの何かだったと思うが…その時にダンスパートナー役で用意された逸品だ。髪型もバッチリ決めて角が目立たない様にしてる。
「似合ってるだろ?」
「えぇ、まぁ似合ってますけど…」
歯切れが悪いな。無駄にキラキラしてないシックなデザインで夜会以外でも使えるって先輩方から太鼓判押されてるんだが…意外と動きやすいし、ホルスターつけても形が崩れない様にベルト部分とスーツパンツに改造を施してある特注品だぜ?
「目立っちゃってます…」
ちらちらと周囲を見るマリー。…あぁ、確かに私みたいな格好してる奴居ねぇな。
「…ちょっと予想外だったな。トリニティってもっとこうお嬢様!みたいなイメージだったから中心街ならこんな感じかと思ってたわ」
やっぱイメージだけで行動すんのはだめだな。でもまぁゲヘナの制服よりはマシだろ。
「…林檎さん、結構勢いで行動されてます?」
「?私は考えてから動く方だぞ」
ゲヘナじゃ考えないで暴れる奴は風紀委員会や万魔殿に定期的に狩られて最終的に万魔殿でパシリにされるから…例外は温泉開発部とか美食研究会なんかの閾値越えてる連中くらいなもんだ。
「聞きしに勝る魔境ですね…」
「慣れればいい環境だよ。基本的に自由だし」
だからこそ、トリニティ総合学園とためを張る一大勢力な訳で。人数だけなら最大規模なのは緩い校則がその根幹だろうな。
「興味有るなら今度こっち来てみる?私と一緒ならそこまでヤバい事にならないと思うし」
最近ゲヘナ領内のヘルメット団やら不良共は私を見ると道開けてくれる奴が多いから観光位なら大丈夫。
「…遠慮しておきます」
少し逡巡してから断られた。良いところもあるんだけどなぁ…治安の悪さが全て悪いわ。でも治安の良いゲヘナはゲヘナじゃないんだ…
「着きましたよ」
雑談しながら歩いていたら何時の間にか目の前に綺麗な建物が鎮座していた。…これが勉強合宿の為だけに使われてんの?勿体ない…
「ごめんくださーい」
マリーが入口で声を掛けるが返事が無い。
「先生ー!ヒフミ先輩ー!!」
私も声を張るが誰も出てこない。
「留守かな?」
「いえ、補習授業部の皆さんは基本的に外出を禁じられてますのでこちらにいらっしゃるはずなんですが…」
しれっと缶詰状態であることを暴露するマリー。
ゴリゴリの軟禁じゃね?トリニティってやっぱ怖ぇよ…
…先生には今日行くって伝えたし、マリーが迎えに来てくれてるから知らずに出掛けてるってのはあり得ない。…まさか
「少し失礼ですが中に入って見ましょう」
マリーが一歩、合宿所内に踏み込むとキラッと光る何かが足に引っ掛かるのが見えた。
「ッ止まれ!!」
忠告も虚しく踏み出した足で巧妙に隠されたトラップが発動する。
咄嗟にマリーに駆け寄り、服を掴んで建物の外に放り出す事に成功したが反動で入れ替わる様に自分が前に出てしまった。
爆発音と共に衝撃が身体を叩く。
「ぐっ…!」
痛ぇっ!大したダメージじゃないが、爆風に押されてたたらを踏むと張られたワイヤーを踏み抜いた感覚があった。
咄嗟に身を屈めて衝撃に備えると爆発音と共に左側から小鉄球が雨あられと飛んで来るのが見える。
ッ連鎖!?舐めんな!
「林檎さん!?」
心配そうに声を掛けてくれるのはありがたいが此方に来てもらっちゃ困る!
「来るな!ここはトラップ塗れになってる!!」
「先生に連絡は取れるか!?」
最悪だ、到着前に襲撃されてたってのか…
悔やんでも悔やみきれないが次善を目指して動くべきだな。
「ッ連絡します!」
「私はトラップを無効化しながら進む!先生に繋がらなければ正義実現委員会に通報して、ハスミ副長を呼んでくれ!」
正義実現委員会を呼ぶのは正直賭けだがハスミ先輩が来てくれるならまだマシだ…あの人は信頼出来る。
マリーにそう告げて最初に罠を起動した位置まで下がり周囲を見渡す。…一見して気づき難い所に仕掛けられてるな。分かりやすい見せ札を含めると相当数あるし、全部起爆させるか。
一度リロードして見えるワイヤーを撃つ。
爆発、爆発、小鉄球、爆発、トリモチ。…あれ?なんかこういう罠の配置、見覚えがある気がする…
「ストーップ!待ってください!!」
角から現れた人影に咄嗟に発砲しようとした所聞き覚えのある声がして急停止。というかヒフミ先輩だった。
「ヒフミ先輩!先生は無事ですか!?」
「無事です!これはその、なんというか…」
歯切れの悪いヒフミ先輩。なんだ?何があったんだ?
「すまない、林檎。私が仕掛けたんだ」
ヒフミ先輩の後ろからバツの悪そうなアズサ先輩が顔を出した。
……だから見覚えがあったのか。
「…なら良かったです」
焦ったがアズサ先輩か仕掛けたのなら一安心だ。最悪は先生と補習授業部が始末されてて、トラップの山と化した合宿所で待ち構えてやって来た関係者を全員始末するつもりかと思ってたし。
「マリー、勘違いだったみたい!正実への通報は無しで!」
入口から大声で伝えると慌てて戻って来るマリー。
走りにくいだろうに、健気な子だわ。
「林檎さん!お怪我はありませんか!?」
「かすり傷だから大丈夫」
服はかなり
「
「え!?えぇ…多分落とせると思いますよ…?」
少し考えて答えてくれる。
「なら良かった。これ一張羅なんだよね」
これ以外にドレスコードに対応してる服がない。
…まぁ、そういう所に行く予定も無いし構わないんだけど。
「林檎さん、マイペースですね…」
「?私は人の話を聞く方だぞ」
「あはは…相変わらずですね林檎ちゃん」
「ああ。林檎は連携を取ることに長けているわけではないが指揮に従う良い兵士だ」
相変わらずだなアズサ先輩。
「なになにどーなってるの!?」
「あらあら、大変乱れてますね♡」
コハルとハナコ先輩もやって来た。これで補習授業部の面々が揃ったな。いつも通りの様子に安心するやら脱力するやらだ。
"皆、大丈夫!?"
先生も来た。本当、1日目から濃いなぁ…
「問題ありませんよ。…ちょっと建物を壊しましたが」
起爆させた爆発物の跡を見やりながら呟く。
…私のせいじゃないな。うん、まだ暴れてないですよマコト先輩。爆笑してる先輩を幻視しながら内心で言い訳をしていると
"良かった…よく来たね、林檎"
先生は安堵した様に微笑んだ。
「えぇ。今から万魔殿の命により先生の護衛に就かせて頂きます」
補習授業部と先生に向けて頭を下げる。
「これからよろしくお願いします」
と続けると口々に歓迎や驚きの声が上がったが拒否される事が無かったのは幸いだな。
「マリーも此処までありがとう」
礼を言うとあわあわと手を振りながら
「いえいえ!こちらこそ庇って頂きありがとうございます!」
「いや、あれはまぁ…どういたしまして?」
戦闘員じゃなさそうなマリーが引っ掛かるとヤバそうだったから咄嗟に引き戻しただけで自分が代わりに突っ込むつもりは無かったんだけど…と考えたがカッコ悪い自白をすることもないな、と思い直して無難な返事をした。
「そう言えばマリーもなんか用事があったんじゃなかったっけ?」
話題を変える様にマリーに話を振るとどうやらアズサ先輩に世話になった生徒からの礼を伝えに来たとの事だった。
トリニティのイジメね…陰湿そうだな…
「えぇ…皆さん陰湿で狡猾に行うせいで表に出てきにくいですが聞かない話ではないですね。」
ハナコ先輩が真剣な表情で答えてくれる。
「やられた奴はお礼参りとかしないんです?」
ガチ理不尽な目に遭ったらその場で敵わなくても後から報復に行きそうなもんだけど。ヘルメット団とかスケバンとかそんなんばっかだし、気合いが入ってる奴らは正面から何回でも来る。
「トリニティでそんな事したら激化しますよ…」
「…?それでやられたら今度はそいつら全員ブッ飛ばせば良くないですか?」
数が多いなら1人ずつ片付ければいい。1対100は無理でも1対1を100回繰り返すなら行けるだろ。突っかかってくる奴らをその都度潰せば静かになる。ソースは私。
「林檎の言うことにも一理ある。あの子の状況は確かに気の毒だけど、例え虚しいことだとしても抵抗し続ける事を辞めるべきじゃない」
アズサ先輩がいつになく真剣な表情で賛意を表した。先輩もやられたらやり返す派か。
「…そうかも知れませんね。あの方にもそう伝えておきます」
マリーが微笑んで答えた。
…内容には違いがあまり無いと思うが、言い方1つで大分印象が変わるな。私のは相手が黙るまで殴り返せって蛮族理論だけど、アズサ先輩の何ていうか、励ましに近いニュアンスを感じる。
「…アズサさんは暴力を信仰する氷の魔女、だなんて噂がありましたがやはり噂は噂ですね」
「暴力信仰はどちらかと言えば林檎だものね」
マリーの言葉に続いてコハルがジト目で此方を見る。
「私は無宗教だ。寧ろ平和主義だと自負している」
一線を越えない限り自分から手を出すことはあんまりないぞ。手を出されきゃそもそも撃ち合いまで発展しないし。
「あはは…」
ヒフミ先輩が乾いた笑いを漏らした。…先輩も大概ですよね?
と視線で遺憾の意を表すとスッ、と目線を逸らされた。
「…では、私はそろそろお暇させてもらいますね」
話が一段落した所でマリーが帰り支度を始めると、ハナコ先輩が意を決した様に話しかけた。
「…マリーちゃんが元気そうで良かったです」
その一言にどんな思いを込めたのか私には分からなかったけど。
マリーとハナコ先輩って面識あったんだな。
「はい、私は…ですが…」
「通りまで送りますね。さ、一緒に行きましょう?」
「は、はい。…では皆さん、お邪魔いたしました。先生ご自愛くださいね」
"マリーも気をつけて帰るんだよ。…林檎を案内してくれてありがとうね"
先生が別れの挨拶と礼を述べるとハナコ先輩に連れられてマリーは帰っていった。
結局その後はトラップの後片付けをして日中が終わったが。
何でこんな数仕掛けたんだと聞いてみると、拠点防衛は基本だと返された。まぁ、納得だけども。私の目的には合ってるんだけども。なんか釈然としない…アズサ先輩、先生襲撃を警戒しているのか?
だとしたら先生と同じように手っ取り早く始末するために退学させようとされてるのも納得なんだけど。
…これも考えすぎか?ただの趣味、習慣って線もあるな…
ハナコ先輩やコハルが補習授業部にいる理由が判らん以上、実際に退学させようとしてるのか疑わしいな。
…ヒフミ先輩はまぁ、アウトローな部分がバレてたらトリニティから追い出されそうだし。バレてないなら何で退学させられようとしてるのか判らない善人だしで判断がつかん。
どちらにせよ最後の試験まで後1週間も無い。マコト先輩には悪いけど何事もなければ良いな…
本編と時系列が違いますがお許し頂けますと幸いです…
マリーを登場させようとしたあまり時空を歪めた事をここに懺悔します…