ゲヘナのガンマン   作:トニートニー

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ガンマンとエデン条約

 

 

マコト先輩に連絡した次の日。私はエデン条約調印式の行われるトリニティ領に向かって移動中である。

 

 

「本当に首を突っ込むとはどういった風の吹き回しだ?」

 

「別に大した理由はありませんよ。お願いした時に言った通り補習授業部の合格祝いにトリニティ領へ行く口実と物珍しさからです」

 

マコト先輩の言葉に素直に答える。…万魔殿って硬式飛行船持ってたんだな。おかげでトリニティまで直ぐにたどり着きそうだし、空を飛ぶっていう貴重な経験が出来たわ。

 

「キキキッ、それだけで済むと良いがな?…せいぜい油断せん事だ。何が起きるか分かったものではない」

 

愉しそうだな…今回は万魔殿も風紀委員も戦力のほぼ半分を引き連れての大移動だ。なんかあっても直ぐに鎮圧されそうだけども。

 

「ヒナ先輩も居るのにそんなだいそれた事になりますかね?」

 

純粋な疑問である。あの規格外の人が居て、更に大部隊が控えてる上で襲撃が成功するとは思えないんだけども。

 

「ヒナの奴とて万能ではないぞ?私でも無力化する方法は幾つか思い当たる程度だ。それをアリウスがしてこないと言うのは楽観が過ぎるな」

 

「…その割には余裕そうに見えますけど?」

 

「キキキッ…学園の長ともあろう者が配下に余裕を見せられないならその器ではないと言う事だ」

 

当たり前の事だが、と続けるマコト先輩。

 

「トリニティの反乱分子と組むことは失敗した様だが此方の戦力を知っていて尚喧嘩を売ってこようとする馬鹿共だ」

 

どんな手管を使って来るのか愉しみだな、と嗤う。

トリニティ側も準備してるだろうしそんなヤバいことにはなりそうも無いけどなぁ…

 

「まぁ、何事も無く終わるって事はないでしょうが…一応心に留めておきます」

 

「そうしておけ。…いざと言う時は私達(先輩)を頼っても構わんぞ?」

 

悪戯っぽく話すマコト先輩。

一気に空気が軽くなったような気分だ。

 

「その時は遠慮なく後ろに隠れさせてもらいますね」

 

こちらも冗談混じりに返す。

雰囲気が柔らかくなった所でマコト先輩が口を開いた。

 

「あぁ、それとやはり貴様の式典への直接参加は不可だそうだ…まぁ、貴様の目的は友人の合格祝いと物見遊山と言う事だし構わんだろう?」

 

昨日いきなり頼んだことだしな…遠くから見るだけでも話のネタにはなるだろうし。襲撃があってもヒナ先輩の全力があれば大抵の奴らは紙くずみたいに吹っ飛ぶだろうから安心だし。

 

「えぇ、この度は本当にありがとうございます」

 

「気にするな…友人を祝ってやれ。勿論暴れてくれても構わんが」

 

それはそれで愉しめそうだしな。と嗤うマコト先輩に苦笑しながら返答する。

 

「暴れる要素がありませんよ…今日は大人しく過ごす予定ですし」

 

今日ばっかりは喧嘩売られても買わない様にする位の分別はある。

平和条約締結の日にトリニティ相手に暴れたとか黒歴史になっちまうよ…

 

 

「マコト議長、そろそろ到着致しますので準備の程を…」

 

万魔殿の生徒がそう告げるとマコト先輩の雰囲気が変わる。

 

「良し…総員に告げる!我が艦はこれより着陸態勢に移行する!各員は第2種戦闘装備を整えて待機せよ!」

 

テーブルの上にあるマイクを手にとって艦内へと指示を出した。

その後こちらを見て話しかけてくる。

 

「名目上は私の護衛と言う事にしてあるが到着後は好きにしろ。前回の件での借りはこれでチャラだ」

 

「前回?私、何かしましたか?」

 

「トリニティ内部でのクーデターを停めただろう?」

 

アレで大分トリニティ側に貸しが作れた、と続ける。

 

「予想以上の収穫だったからな。私の貸し分より大きい戦果を渡されて困っていたから今回は丁度良かった」

 

と何故か眩しいものを見るように見てきた…それも数瞬で元の何を考えてるのか判らない目に戻ったが。

 

「あれで返せたとは思ってませんでしたが…有り難く受け取っておきます」

 

なんにせよ、貸し借りが無くなったのはラッキーだな。

万魔殿からの頼み事にNOと言えるし。

 

「さて、私も準備がある故席を外すが…他に聞いておきたいことはあるか?」

 

最後に確認するように聞いてくるマコト先輩。

 

「…調印式、頑張ってください?」

 

少し考えた末に出てきた言葉に腹を抱えて笑うマコト先輩。

そんな笑う事ないじゃん…

 

「キキキッ…そうだな!せいぜい頑張らせてもらうとしよう!」

 

そう言って部屋を出ていくマコト先輩は少し肩の力が抜けた様子だった。あの人でも緊張することってあるんだ…

 

後は到着後に補習授業部の皆と合流して、お祝い渡して調印式の見学だ。

デカい聖堂でやるって話だし、建物見るだけでもそれなりに楽しめそうだな。

 

 

 

 

 

「あ、林檎ちゃん!こっちです〜!」

 

ヒフミ先輩と待ち合わせした場所まで行くと既に全員集まっていたようだ。

 

「お待たせしたようですみません」

 

約束した時間より速く着いたはずだが…流石に地元民には負けた。

 

「いえいえ〜お気になさらず〜」

 

「予定時刻より速く着いたのはこちらの都合。気にしなくて良い」

 

「別にそんな持ってないし…」

 

相変わらずのようで何よりだった。

 

「立ち話もなんですし、近くのお店に入りませんか?」

 

周りの目もきついしね。今日はいつもの制服とコートだし浮いてるんだよなぁ。

 

「…やっぱりスーツで来るべきだったかな?」

 

多少ボロくなったがまだ着れなくもないし。

ダメージジーンズ見たいなノリで押し通せなくもない。

 

「今日の格好も似合ってますよ?」

 

ヒフミ先輩はそう言ってくれるが、ゲヘナの制服は此処じゃ目立つ。調印式で少しはゲヘナ生もちらほら見えるがトリニティ生と一緒にいる奴は私位なもんだし。

 

「何してるの?皆行っちゃうよ?」

 

コハルの言葉で後に続くけど視線がうざったいな。

何とか気にしない様に心掛けるが…こりゃ早めに別れた方が精神衛生上良いかも判らんね。

 

「すまん、ちょっと考え事してた」

 

「しっかりしなさいよね!ちょっと抜けてるとこあるんだから」

 

コハルから軽くお叱りを受けてしまった。

私ってそんな抜けてるかな…?

 

「ここなんてどうですか?」

 

「悪くない、入口が複数あって別方向に逃げられる。襲撃時の対処も比較的容易だろう」

 

「そういう意味で聞いたんじゃないわよ!」

 

相変わらずのドタバタだが懐かしく感じてしまう。

まだ1週間も経ってないのにな…

 

「はいはいそこまでー。取り敢えず入っちゃいましょう」

 

まだわやくちゃしてる3人の背中を押すようにして店に入った。

 

 

 

「いらっしゃいませ。5名様でよろしいですか?」

 

「あ、はい!入れますか?」

 

「ええ、勿論。こちらの席へどうぞ…ご注文お決まりになりましたらベルでお呼び下さい」

 

店主の機械人の物腰も柔らかく、明らかにゲヘナ生の私に対しても思う所はなさそうだ。

 

各々が注文をすると少し待ってからケーキや軽食の類が届く。

上品な皿に意味不明にソースが皿に掛かったケーキ…これは美味そう。ゲヘナじゃお目にかかれないヤツだ。

 

「さて、では改めまして…試験お疲れ様でした!」

 

ヒフミ先輩の音頭で口々に互いを労う補習授業部の皆。

 

「お疲れ様でした…合格おめでとうございます」

 

祝いの言葉と共にゲヘナ土産の温泉まんじゅうを渡す。

これ、美味いんだけどこのケーキ見るとちょっと格落ち感が否めないのがなんとも言えない感じがするわ…

 

「ありがとうございます!大事に食べますね!」

 

「ゲヘナって温泉が有名なんだっけ?」

 

「うーん…そんな話は聞きませんけど火山が近くにある以上、温泉が湧く土壌ではあるでしょうね」

 

あー、それはだな…

 

「温泉開発部がね。適当に掘りまくって行政が許可したもの以外は埋めてるからあんま有名にならないんだよ…」

 

大体掘り当てた内の5〜6割は埋められるし。

そもそも掘り当てる前にヒナ先輩達に粉砕される事のほうが多い。

 

「あー…あの連中ね…」

 

コハルが少し遠い目をする。まぁあのゲヘナでの試験でちょっかい出してきた連中だしな。

 

「まぁ味は良いし?人気の商品だし。…販売してる所見つかったら摘発されるから結構なレア物だよ?」

 

活動資金にしてるとかで販売場所がバレると風紀委員に乗り込まれるんで中々見つからない逸品である。

 

「…変なもの入ってないでしょうね?」

 

「まさか!中身は普通の温泉まんじゅうだよ。ただ売ってる連中にちょっと問題があるってだけ」

 

販売元がテロリスト予備軍の片割れだからしょうがないね?と続けるとツッコむ気力が失せたのか項垂れるコハル。

 

「あはは…ま、まぁ良いじゃないですか!」

 

取り成す様にヒフミ先輩が仕切り直す。

 

「林檎ちゃんはこの後どうするか決めてますか?」

 

「んー、調印式が行われる聖堂を見てから帰ろうかなと思ってます」

 

一応はそれ目的で来てる訳で。名目上はマコト先輩の護衛その21くらいで参加者名簿に載ってるはずだし。

 

「そうですか…調印式まで少し時間が有りますし、それまでゆっくりお茶会でもどうですか?」

 

前に約束してたペロロ様を探しに行く約束を守れなかったお詫びとして支払いは私が持ちますし…と申し訳なさそうに続けるヒフミ先輩。

 

「ペロロの捜索?私も同行しよう。戦力は多い方が良いと思う」

 

少し鼻息荒くアズサ先輩が参加表明して来る。

アズサ先輩もペロロ信者なのか?

 

「そういう事なら喜んで。アズサ先輩も次に探す時は一緒に行きましょうか」

 

別に気にしてないけれどヒフミ先輩の気が済むなら奢られておこう。…次のペロロ探索に信者が一名追加されたがまぁ些細な事だろ。

 

「足は引っ張らないとも。こう見えてスカウト(斥候)の技能も修得している」

 

…何か勘違いしてる気もするけど。

てか斥候も出来るのかアズサ先輩…アリウススクワッドって特殊部隊か何かなのかな?

 

 

「こんな時に聞くのもなんなんですけど…スクワッドについて聞いても大丈夫ですか?」

 

話したくないなら構わないけれども…とダメ元で聞いたんだが少し戸惑った後に口を開くアズサ先輩。

 

「構わない。皆にも聞いておいて欲しい…」

 

 

そこからアズサ先輩の過去の一部を聞いた。

 

アリウスでは軍事調練が盛んで…寧ろそれ以外は無かった事。

そんな中でも仲良くなった4人の存在、それがスクワッドである事。

 

リーダーの錠前サオリ、狙撃手の槌永ヒヨリ、砲兵の戒野ミサキ、そして"姫"と呼ばれる秤アツコ。

 

全員が全員悪い人ではない。…ただ、環境が悪かっただけ。

マダムと呼ばれる大人が実権を握るアリウスに於いては生徒の自主性などないも同然。

 

だから出来ることなら全員を日の当たる場所へ引っ張り出したいと思っている事。

 

 

…それが難しい事だと判っている。それでも諦める事は出来ない。そう話を結ぶと沈黙がテーブルの上に落ちる。

 

ヤベェ…思った以上に重たい話だった。こんなん合格祝いの席でするべきじゃ無かった…

 

「きっと大丈夫ですよ!先生も協力して下さいますし!」

 

「そうよ!私達だって手伝うもの!」

 

「勿論、ここに居る全員がアズサちゃんの味方ですよ♡」

 

ね?とハナコ先輩から目線を向けられる。

あー、まぁこんな話聞いちまったらなぁ…

 

「私に出来ることなら協力しますよ先輩」

 

協力せざるをえないわ。

ゲヘナの私が役に立てることはあんまないと思うが…

 

「皆…ありがとう…」

 

頭を下げるアズサ先輩を見つつ、もしも来るなら今日の調印式に出てくる可能性があるな?と思いつく。

 

「…今日の調印式って皆さん行かれます?」

 

「いえ?皆でテレビで見ようかって話になってますけど…」

 

んー…どうするべきかな…一応伝えとくか?

 

「…これは内密にお願いしたいのですが…万魔殿の議長閣下は本日の調印式でアリウスによる襲撃がある、と睨んでいます」

 

確定事項ではないが私もそう思っている。

 

「アズサ先輩。仮にアリウスの襲撃があるならスクワッドは出てくると思いますか?」

 

「…あり得ない話ではないけど戦力の差は歴然。本当に仕掛けて来ると思う?」

 

それはそうなんだけども。

 

「あの夜に出てこなかったなら本命は別にあると議長はお考えです。…もしかしたら、の域は超えないと思いますけど」

 

あの時…桐藤ナギサを襲撃しに来た夜。あのタイミングが兵力で劣るアリウスが全てをひっくり返せる可能性が最も高かったはずだ。

そんな時に最大戦力を出してこない理由があるのか?

襲撃はあくまでも保険、本命は別にあると考えるのが自然だろう。

 

「先輩の言うようにあり得ない話ではない。故にゲヘナは最高戦力の風紀委員長と戦力の半分を持って来ています」

 

例え襲撃されたとしても直ぐに引き潰せる戦力を用意している。

それに呼応してトリニティ側も相当数調印式に引っ張り出してるようだし。

 

「成程、それで正義実現委員会があれほどの数配置されているんですね…」

 

ハナコ先輩はその事を知っていると思っていたんだけど…情報統制が上手く行き過ぎてるのか。

 

「マコト先輩…失礼、議長閣下は無駄な事が大好きな方ですが用意周到な方でも有ります。タイミングとしては今日を於いて他には無いとお考えのようです」

 

エデン条約が締結した後に襲撃するとゲヘナからもトリニティからも追っ手が掛かるからな。諦めたんならそれでいいけど…

 

「…襲撃があったとして。スクワッドの皆を止められるか?」

 

4人ともヒナ先輩以上のバケモンでもなければ確実に止められるだろう。…ヒナ先輩レベルだとしてもあの大部隊をマコト先輩が指揮すれば被害はあれど止められる。

 

「恐らくは。…その後の沙汰がどうなるかは分かりませんが」

 

ヘイロー破壊は禁忌故に判例が少なすぎる。

最悪はキヴォトス追放もありうるらしいが…

 

「…それなら、良いんだ。止められないよりもずっと良い」

 

少し戸惑いながらもそう言ったアズサ先輩は自分を納得させる様に呟いた。…コレは話さないほうが良かったかな?

 

「私は名目上マコト議長の護衛で来てますので現地に行きます。もしスクワッドの連中を見つけたら先に確保してアズサ先輩に伝える事もできますが…」

 

全員がアズサ先輩レベルと仮定すると大分無理筋だけど…やってやれないことは無い。聖園ミカを相手にするよりは気が楽だ。

 

「いや、見かけたら手を出さずに逃げてくれて良い。」

 

スクワッドの皆は其々がスペシャリストだ。と続けるアズサ先輩。

 

「林檎が傷ついてまでやる事じゃ無い…ありがとう」

 

 

 

 

「なーにが"ありがとう"、よ!」

 

コハルがいきなりアズサ先輩の頭をはたいた。

 

「そんな顔して我慢するくらいなら行っちゃえば良いじゃない!」

 

「しかし、私一人で行っても何の役にも…」

 

アズサ先輩の言葉を遮って更にまくし立てるコハル。

 

「なんで1人で行くつもりなの!さっき私達が言った言葉をもう忘れたわけ!?」

 

フンっとそっぽを向くように目線を切るコハルに釣られて周りを見るアズサ先輩。心外だと言わんばかりのヒフミ先輩とハナコ先輩がアズサ先輩と目が合った。

 

「そうですよ!私達だってアズサちゃんの力になりたいんです!」

 

「色々準備が要りますね。…式典まで時間も有りませんし、移動しながらにしましょうか」

 

ヒフミ先輩がコハルに同意し、ハナコ先輩が会計を済ませて何処かへ連絡を取り始める。

 

「…そういう事みたいですけど、どうします?」

 

一応確認する様にアズサ先輩へと聞いてみるが…まぁ、答えは決まってるよな。

 

 

「皆…本当に良いのか?」

 

「「「「当たり前(じゃない!)(です!)(ですよ)」」」」

 

「微力ながら手伝いますよ、先輩」

 

「皆…ありがとう…」

 

さっきのとは違う、諦めから来るものではない言葉を皮切りに補習授業部の面々が行動を開始する中でハナコ先輩から声が掛かる。

 

「林檎ちゃん、護衛としてゲヘナの議長閣下の所までお願いできますか?」

 

ハナコ先輩を連れてけって事か?申し訳ないけど…

 

「私、今回は急に頼んだから調印式に直接参加する事が出来ないんです…」

 

すみません、役立たずで…と続けようとするとハナコ先輩が更に畳みかけてくる。

 

「では、連絡を取ることは可能ですか?」

 

「それはハイ。可能だと思います」

 

式典が始まるまでの間なら少し話すくらいは出来るだろう。

…マコト先輩が暇してればだけど。

 

「直ぐにお願いします。…出来ればスピーカーでお話し出来ると有り難いんですが」

 

何を話すつもりだハナコ先輩。

…頭の良い人が何考えてるかなんて考えるだけ無駄だな。

取り敢えず電話して話は任せよう…

 

 

 

 

なんかただの観光+αだったはずなのにまた厄介事に首突っ込む事になってる気がする…

今回は半分位自業自得だからまぁしょうが無いか。

 

…ま、アズサ先輩の友達?のためだし、頑張りますか!

 




書いてる途中で何か予定してた方向と逆に行ってしまいましたがこれはこれでアリだと思ったのでこのままの路線で進めます。

そのため書きはじめてた分が丸々カットになります故更新が少し遅れます…すみません
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