〜聖堂跡地〜
「うぅん…一体何が……!?」
目を覚ますと真っ先に目に入った万魔殿議長の顔に声なき悲鳴を挙げるナギサ。その声を聞いてマコトが反応する。
「気がついたか。さっさと配下を纏めろ」
マコトは庇っていた体勢から立ち上がると周囲を確認する。
…崩れはしているが形を保っている?落下した時特有の浮遊感があった事から恐らくは建屋ごと地下に沈んだな。
現状を把握すると近くに居た側近へと問いかける。
「外部との通信は?」
「芳しくありません…恐らく妨害を受けているものかと」
極短距離であれば或いは…と通信機をいじる側近を尻目に考える。
外部からの救出も望み薄、と。まぁこれだけの数が居ればどうとでもなるが…問題は私の指示に従うかどうかだ。
3年で構成されてる
1、2年の風紀委員が問題だな。雷帝時代を詳しく知らず、空崎ヒナという絶対強者が常に後ろに控えていた世代は自身の力で窮地を切り抜けた経験が無い。そんな
更に言えばトリニティの存在も不安である。ナギサが不調の今、戦力に数えるには不安が残る。
全く…素晴らしい手札だ。コレを最善手に見せかけて切り抜けるか、最善手に化けさせるか…
そう考えている所に側近から通信機を渡される。
「議長、空崎風紀委員長と通信が繋がりました」
ヒナだと?アイツ、さっさと離れれば良いものを何をグズグズしているんだ…
「…どうした?」
『良かった、無事なのね』
通信越しのヒナの声を聞いて風紀委員が希望を見いだした様な顔をする。…全くもって度し難い。ただ1人の最強に頼り切ってそれを良しとする脆弱さが。その状況を作って何も対策しない
「当たり前だろう?此方はなんとかするからお前は先生を連れてイロハの元へ向かえ。機甲中隊で保護した後は全力でアリウスを轢き潰すと伝えろ」
なんとも無い様に振る舞って命令する。
それに対して食い下がるヒナ。
『いえ、貴女達も連れて行くわ…先生、後ろ!』
発砲音。何があったと聞く前に恐らく同じ異変がマコトたちを襲った。
「…亡霊?」
ガスマスクを付けたシスターの様な奴がいつの間にかマコトの背後に出現し、銃口を向けていた。
「議長ッ!」
咄嗟に庇うように覆いかぶさった側近へと弾丸が連続して当たる。
それを意に介さず近くに立て掛けていた自身の愛銃"唯我独尊"を取り出し、冷静に狙いを定めて頭を撃ち抜いた。消えていく亡霊を見据えながら盾になった側近へと声を掛けるマコト。
「良くやった」
庇われたにも関わらず、たったそれだけの五文字の言葉に万感の思いを込めて。
「ご無事で何よりです」
庇った方もボロボロになった背中を晒しながらも姿勢を崩さない。その姿を見た他の生徒の胸中に何かが芽生えようとしていた。
『此方は片付いた。そっちに行くから待ってて』
ヒナからの通信が再度入る。内心で溜息を着くと通信越しのヒナに答えるマコト。
「此方に構うな。我々は自力で脱出可能だ。お前はさっさと安全地帯まで先生を連れて行け」
その言葉に顔が強張る風紀委員達。何故助けて貰わないのかと言わんばかりにマコトを見つめる。
『でも…』
更に言い募るヒナに対して一喝する。
「やかましい!!
声を荒げるマコトに驚いたのか静まりかえる聖堂。
「お前のそれは最早病的だな!この際言わせて貰うが
いざとなればヒナがなんとかしてくれる。ヒナが居れば安心だと胡座をかくからこんな惰弱に落ちるのだ。
振り返ってゲヘナ生を見るマコト。
3年は憤りを隠せない顔を。2年は少し不満気に。1年はオロオロしている。この程度で狼狽えるな小娘共…この程度の窮地なら
「貴様ら!貴様らは
否!と姿勢を正す3年生。
「
違う!と反発の意思と共に声を上げる2年生。
「何時までヒナの影に隠れているつもりだ!!自分で立ち上がる気概は無いのか!?」
いいえ…!と互いに助け合いながら立ち上がる1年生。
「宜しい!!……聞いてのとおりだ。此方は私達だけでなんとでもなる。お前はさっさと行け!先生を送り届けた後なら好きにすれば良い」
その言葉を最後に通信を切る。
取り敢えず全員の戦意は上がった。これならばどうにでも出来る。戦意高揚しているゲヘナ生へと視線を振りながら喋るマコト。
「先程は良く吠えたな。諸君の力を貸せ、私が上手く使ってやる。私に従うならその手で勝利をもぎ取らせてやろうじゃないか」
空崎ヒナのお溢れなんかじゃない、本物の勝利を。
ゆっくりと、確実に浸透する様に。
先程とは違って静かで落ち着いた声に聞き入る生徒達に指示を出す。
「3年を中心にスリーマンセルを組め。なるべく戦力に偏りがでない様にだ」
即席だがチームを組ませる。3年がリーダーになれば少しは戦力差も埋まるだろう。
慣れたものと言わんばかりにチームを組んでいく3年生。それに触発されていく下級生。
全員がチームを組むのに3分も掛からなかった。
その間にも亡霊が湧いたがそれと同時にマコトやトリニティの生徒が撃ち抜いて消している。…時間経過と共に増えてきてるな。さっさと撤退するのが吉だ。
「総員傾注!議長閣下のお言葉である!!」
側近からいつの間にか整った部隊の前に立たされる。…さっき散々ブチ上げた後に何を話せというのだ…トリニティもある程度体裁は整えたようだが…まぁ良い。こういうのは得意分野だ。
「諸君、こんな状況で焦る気持ちも判るが安心しろ。こういった修羅場の経験なら私はエキスパートと言っても良い」
劇の主役の様に大仰に振る舞うと下級生達から少し笑いが漏れる。
トリニティ側は困惑の表情を浮かべながらも静聴していた。
3年生は苦虫を噛み潰したかのような顔だがいつもの事だと達観しているようだった。
「だがまぁ…慣れてるからと言って許容出来る訳では無い」
周囲を見ろ。と促すと全員が周りを見渡す。
「瓦礫の山だ。このザマを見てどんな気持ちだ?」
各々が感情のままに口にする言葉は多くは怒り、少数は悲しみだ。
「そうだな。私もそうだとも…ブチ切れそうだ」
声をワントーン低くすると全員が黙り込む。
「私はやられたら必ず報復する事にしている。今までも、これからもそれは変わらない」
故にアリウスには滅んで貰う
先程までと打って変わって冷酷に、決定事項を告げるように話す。
その言葉が十分に伝わったことを確認してから
「貴様はどうする?」
ナギサへと問いかける。
「…何故、こんな時にそんな風に笑っていられるのですか?」
今までのマコトを見ていると不安どころかこの状況を楽しんでいるようにすら見えた。それが不思議でしょうがない。
だから今、聞いておきたくなった。なんでそんなに落ち着いていられるのかと。恐怖はないのかと。
何を今更と呆れながら、その疑問に答える為にナギサを近くに引き寄せて耳元で囁くように答えるマコト。
「集団の長が醜態を晒していいのは全てが滅んだ後か自身の首が落ちるその時だけだろうが」
それまで配下に余裕を見せ続けるのは責任者の義務だ、と嗤う。
「いえ…そうですね」
未だティーパーティーのホストはナギサだ。
トリニティ総合学園を率いる資格も、義務も責任もまだその双肩に掛かったままなのだ。
だからこんな所で終わる訳には行かない。
私が折れたらトリニティ総合学園が崩壊する、今はその瀬戸際なのだと遅ればせながらに覚悟を決めた。
「途中までご一緒しても?表で正義実現委員会が奮闘しているはずですので」
凛とした雰囲気でそう答えるとマコトは嗤いながら答えた。
「キキキッ…ようやく熱が入ったか。それならば呉越同舟と行こうではないか」
ゲヘナの面々に向かって声を上げる。
「トリニティのお嬢様方が同行されるそうだ!粗相の無いように…とは言わんが味方を撃つ間抜けは私が粛清するからそのつもりでいろよ!」
口々に応答する即席ゲヘナ・トリニティ連合軍。
「我々の足を引っ張るなよ?」
「当たり前です。…そちらこそ気張って下さいね?」
普段通りとは行かないものの調子を取り戻したナギサに安堵するトリニティ生徒達と戦意万端なゲヘナ生が互いに軽口を叩く。
それを見て満足そうに頷くと、わらわらと湧き始めた亡霊共を見ながら共に号令した。
「総員、進撃開始!!」
ここからが正念場だ…!愉しい愉しい闘争の時間だぞアリウス!
「皆さん、迎撃して下さい!」
もう迷わない。どれだけ醜く足掻いてもトリニティを守り切る!
其々の思いを胸に地上を目指す。
互いを信じた訳では無い。同じ思想に至った訳でもない。あくまでも利害の一致による一時的な同盟だったが…それでもゲヘナとトリニティが手を結んだ初めての瞬間であった。
遂に主人公不在の回になってしまいました…
いえ、本当は林檎ごと崩落に巻き込もうかと思ってたんですがそうすると先生側と絡めるのが難しくなってしまい、されど此方の話も書きたい…!とワガママを発揮した結果でございます。
ゴリゴリのアジテーター気質で全てを巻き込んで闘争の渦に飛び込むマコト様を書けてとても満足です