ゲヘナのガンマン   作:トニートニー

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ガンマンと万魔殿 その3

 

 

「林檎ちゃん!…酷い怪我じゃないですか!?」

 

暫く歩くと此方に向かってくる集団と出会した。

…というか補習授業部の皆だった。

 

「ちょっと派手に暴れまして…先生達とは合流されましたか?」

 

先生は無事だろうか?

 

ヒフミ先輩に答えるとハナコ先輩が詳しく答えてくれた。

 

「先程ゲヘナの救急医学部とトリニティの救護騎士団が保護しました…予断を許さない状況ですが一命は取り留めたとの事です」

 

その言葉で少し安心した。

取り敢えず先生は無事だったんだな…

 

「…ヒナ先輩は?あの人は何処に」

 

「先生に着いて行った。…まだ何が出てくるか判らない状況だからな」

 

…アズサ先輩。あぁ、そりゃそうだよな。ヒフミ先輩達が居れば貴女も居るのは当然の流れだ。

 

「そうですか…良かった…」

 

ヒナ先輩が着いてくれてるなら百人力だ。

 

「そんな事より治療が先でしょ!!」

 

コハル、お前は何時も怒ってるな…まぁ私のせいか。

いつでも人の事を気にかけられるのは美点だと私は思う。

 

「いや、まだ…」

 

「いいから!大人しく座る!応急処置だけでもして置かないと…」

 

左腕を見ながら酷く痛そうな顔をする。

思いっ切り盾に使ったせいで大分ズタボロだもんな。

 

「そうですよ〜。ついでにお話、聞かせて貰いましょうか」

 

ハナコ先輩の言葉で補習授業部の皆と現状の把握、情報交換をする事になった…話し辛いな。でもちゃんと伝えないと不義理だもんな。

 

補習授業部の皆はヒナ先輩達と出会った後、救護騎士団と通りかかったゲヘナの救急医学部に先生達を預けて1人で足止めしているという私の救援に向かってくれていたそうだ。

 

ヒフミ先輩から話を聞いた後、私はコハルの応急手当を受けながらゆっくりと、伝え漏れが無いようにさっきあった事を話す。

 

 

ヒナ先輩と先生が襲撃されていた事。

 

先生が錠前サオリに撃たれた事。

 

私が足止めでスクワッド…錠前サオリ、狙撃手のヒヨリ、仮面女と戦った事。

 

そして…私が、錠前サオリを殺すと決めた事。

 

 

「…アズサ先輩、すみません。協力するって話はここまでにさせて下さい」

 

 

私は、錠前サオリを助けたいと思えない。

 

 

そう話を結ぶとアズサ先輩は

 

「そう、か…サオリが…」

 

と悲痛な表情で黙り込んだ。

無理もない。元同僚、仲間が先生を殺しに来たんだから。

 

「それは本当の事なんですか?」

 

ハナコ先輩が念を押す様に聞いてくるが。

 

「間違いありません。本人の殺意は明らかでした」

 

ハッキリと伝えた。あの女の危険度を見誤って安易に近づいて欲しくない。錠前サオリは殺意を持って人を撃てる危険人物だ。

 

「そんな…」

 

ヒフミ先輩はアズサ先輩を心配そうに見つめて居る。

優しい先輩の事だから何とか出来ないかと頭を巡らせているんだろう。

 

 

「…錠前サオリは私が始末します。だから私達の協力関係もここまでです」

 

次は殺す。その覚悟を決めた私がスクワッドを助けたい補習授業部の皆と居られる訳が無い。

 

「私は先生を撃った時点で殺す気だったと、もうじき死ぬだろうと言ったあの女を生かしておくつもりはない」

 

無事な右手をきつく握り締める。

そうしないと直ぐにでも走り出してしまいそうだった。

 

沈黙がその場を支配する。

誰も口を開く事が出来ず、でも何かを言いたい、言わなければ…と言葉を選んでいるのが判った。

 

そんな時、不意に背後から別の集団が近づいて来る音がして全員が警戒態勢を取る。

 

現れた姿を見て力が抜けた。

 

 

「おぉ、林檎。こんな所で何をしている?」

 

 

いつもの自信満々な態度と、少し煤けた姿のマコト先輩を中心としたゲヘナの生徒達だった。

 

トリニティの生徒も混じっているが。というかナギサ先輩も居るのか…

 

「ナギサ様!?」

 

「ヒフミさん!?」

 

そういえばそこも仲が良かったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で?貴様は何をそんなに思い詰めているんだ?」

 

足を止めて小休止したゲヘナ・トリニティ連合と一時的に合流した私達はなし崩し的に其々の首領の元へと引っ張っていかれた。

 

補習授業部と離れられたのは僥倖だったが…

 

「別に、何でもありませんよ」

 

ふい、と視線を逸らす。

 

マコト先輩は呆れた様に溜息をつきながら私の頭を両手で挟んで無理矢理目線を合わせてきた。

 

「貴様に腹芸は無理だ。諦めて全て正直に言え…どうせ後から全て分かる事だろうに」

 

何時かの、殺人について聞いた時と同じ真剣な表情だった。

 

「話せ。今の貴様は見るに堪えん」

 

少しの沈黙。

目を逸らす事を許してくれず、無言で見つめてくる。

 

「…いつの日だったか、人を殺したらどうなるのかと聞いたことが有りましたね」

 

先輩の真剣な眼差しに観念して話し出す。

 

「そんな事もあったな。いきなり聞かれたものだから誰かを殺しに行くのかとヒヤヒヤしたものだ」

 

懐かしむ様に語るマコト先輩。そんな風に思われてたのか…

 

「なら、その時と変わりませんね。…先生を撃った錠前サオリを殺す(ヘイローを壊す)覚悟をした、それだけの話です」

 

先生を撃った、の辺りで目元がピクリと動いた。

…何か思う所があるのだろうか?

 

沈黙を挟んで再度問いかけてくる。

 

「…先生は?」

 

「予断を許しませんが一命は取り留めたと先程聞きました」

 

 

安心したように深く溜息をつくマコト先輩。

この人も先生の安否を気にするんだな、と場違いな感想を抱いていると急に手を離されて体勢が少し崩れる。

 

 

 

「で、あれば話は簡単だ。…貴様にそんな権利も、義務も責任もない。そんな(人を殺す)覚悟なんてものはさっさと捨てろ」

 

 

 

その後にスパッと言い切るマコト先輩に目を白黒させていると続け様に話し出すマコト先輩。

 

 

「そもそも先の殺人に関する話は復讐を是とするものでは無い。寧ろ復讐の連鎖で互いに殺し合わないようにしようといった類のものだ」

 

当たり前だが、お前が錠前サオリとやらを始末したら残りの連中が復讐しに来るよな。と続けるマコト先輩。

 

「始末するのは関係の無い第三者が、何の意図も無く行うのが肝心なんだ。そこに個人的な思想を絡めては意味が無い」

 

既にその時点で貴様には資格が無いが。と続ける。

 

「ましてや今回は被害者…()()()()()()()()。報復するもしないも被害者(先生)が決めるのが筋だろう?」

 

例えば貴様が同じ様な目にあったとして、だ。

 

「貴様が起きた時に"私が全て片付けておいたぞ!貴様の報復相手はもう居ない!"と言ったら林檎、貴様は納得できるのか?」

 

 

その言葉を聞いて考える。

それは、納得出来ないだろう。でも、それでも…!

 

 

色んな言葉が頭を巡る内にどう言い繕っても私のそれ(殺意)に正当性はない、と気づいた。

 

それなら私のこの感情はどうすれば良いんだ?

 

あの女が憎い訳じゃない。でも許せないんだ。

先生を殺そうとした癖に。

自分は生き延びようと逃げ出した錠前サオリが。

今後ものうのうと生きて行くと思うと怒りで頭がいっぱいになる。

 

この気持ちも、抑え込まないといけないのか?

 

グチャグチャになった頭で先輩の目を見た瞬間。

 

ダメだ、止めろと叫ぶ心を無視して言葉が溢れ出した。

 

 

 

 

「それでも…それでも許せないと思うのは悪い事なんですか!?」

 

まるで聞き分けのない子供のように、自分でもみっともないと思いながらも止められない。

 

「先生が撃たれたんだ!私達(生徒)と違って死んでしまうかもしれないのに…!」

 

自分の感情が上手く制御出来ない。

 

「長くは持たないだろうって!アイツは殺す気で撃ったんだ!」

 

泣きたくなんてないのにボロボロと涙が溢れる。

 

「許せない、許したくない…!」

 

こんな事、この人に言う事じゃないのに。

ただ黙って私を見つめる先輩に向かって言葉をぶつけ続けた。

 

「逃げたんですよ…!殺すつもりで撃ったくせに、自分がいざそうなったらさっさと逃げやがったんだ!!」

 

それじゃまるで…

 

「先生の命なんてその程度だと!自分の命をかける程のことじゃないって、言ってるようなものじゃないか…!!」

 

価値が無いって、言われたようなものじゃないか。

 

その程度の覚悟であの人(先生)撃たれた(殺されかけた)なんて、冗談じゃない。

 

右手で力なくマコト先輩の胸を叩く。

 

「それでも、私に殺すなって言うんですか…!?」

 

 

 

 

「そうだ。それはお前がやっていい事じゃない」

 

私の右手を取って握り締める。

 

「全部呑み込めとは言わん。許さなくても良い」

 

自然と地面に向けた視線が前方に引き寄せられた。

暴れたいならそれも構わない、と続ける。

 

「全て、思う存分吐き出せ」

 

私の頭を抱く様にして優しい声で囁く。

 

 

 

「お前は自分の大切にしているものを奪われそうになった事が、蔑ろにされた事が許せなかったんだろう?」

 

 

 

もうこれ以上出ることはないだろうと思っていた涙が止めどなく溢れた。縋り付く様に、声を殺して泣きじゃくる私の背中を先輩が優しく撫でる。

 

 

 

向かう先のない意味のない言葉が溢れては消えていく。

怒りも、悲しみも、全てを綯い交ぜにして。

自分でも良く判らない感情に任せて。

ただ、そこに居てくれた先輩に全てを吐き出した。





林檎は多少大人びていてもまだ高校1年生、ついこの間まで中学生だった子供の感情を考えた結果この様な次第となりました。
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