読みにくかったら元に戻しますのでお手数ですが言って頂けますと幸いです…
入れ替わり立ち替わりに先生の元へと慌ただしく医療部の生徒たちが現れては検査や報告をそれぞれの上司へとしているのを尻目にヒナ先輩とも少し話させてもらった。
「林檎、先生とは話せた?」
ヒナ先輩の言葉に少し頷く。
「ええ…想像以上にお花畑な回答を頂いてしまって驚きましたが」
でもそれが先生っぽいと言えばそう思えるから不思議である。
「下手人…錠前サオリへの報復は無し、対話を望むそうですよ」
少しくらいは怒ってもいいと思うんだけどな…
先生が怒ってたのって聖園ミカに対してだけ、それも対象が自分じゃなくて他の生徒だったからぽいし。
「そう…先生らしいわね。私は風紀委員の合流を待って先生と一緒に動こうかと思っていたのだけど…」
ふと考え込むヒナ先輩。
「先輩、何か気になることでも?」
現状で特に悩むような事があっただろうか?
「エデン条約は私が進めたようなものなのに、マコトに全て押し付けてしまっている気がして…」
少し気まずそうに、歯に物が挟まっているようなそんな感じで話すヒナ先輩。
「?マコト先輩だって自分で決めた事でしょうし、そんなこと気にする必要ありますかね?」
あの人は気にいらないなら真っ向から『嫌だ』と突っぱねるだろうに。
そうしないで今も尚アリウスを狩りに行っているのはもう本人の意思に相違ないと思う。
やってくれるって言うなら有り難く頼れば良いのだ。
それが自分でやらないと気が済まない事じゃないなら尚更。
「…そういう考え方がマコトの琴線に触れたんでしょうね」
呆れたような、感心したような笑顔で私に話す先輩。
「思慮が浅いとは良く言われますが…ま、1人じゃ無理なら人を頼るのが吉ですよ」
私1人でできることなんてたかが知れてますしね…と続ける。
それはそうとヒナ先輩はこれからどうするのかね?
「ヒナ先輩は先生の護衛を続ける感じですか?」
もしそうなら私はマコト先輩達に一度合流して錠前サオリの情報を集めておきたい。
「そうね…今度は守り切ってみせるわ」
1人では限界があってもみんなが居ればどうにかできるもの。と微笑する。
「それなら安心ですね!ヒナ先輩達が着いてくれてるならなんの憂いもなく殴りに行けますよ!」
ニッと笑って見せて左腕の調子を確かめる。
まだ本調子では無いものの動作に問題は無いように思える。
万全ではないが腹に穴が空いてる錠前サオリ相手ならなんとかなるだろう。
「…気をつけて。相手は気化爆弾みたいな物を使ってきたから。アレに巻き込まれたらタダじゃ済まないと思う」
私へダメージを与えられる位には威力がある、と聞いて気を引き締める。
「肝に銘じます。…もし、こちらに錠前サオリが現れたら一報頂けませんか?」
私も一発殴りたい。殴る場所が残ってたらだけど。
冗談めかしてそう言って先輩に頭を下げ、その場を後にする。
途中で色んな計器に繋がれた先生と目が合ったがにこやかに手を振って別れた。
…なんか助けを求めるような顔をしているようにも見えたが気のせいだろ多分。
ちょっとは大人しくしてる事だな先生。
「と、いう訳で私は錠前サオリを確保するために動きますね」
表に出ていたヒフミ先輩とアズサ先輩に今後の行動を伝えておく。
携帯が使用可能なら後から合流ってのも現実的だが、周辺の電波障害のせいで繋がったり切れたりと安定していない。
例外はトリニティ上層部の有する秘匿回線とマコト先輩がゲヘナから持ち込んだ有線式のみという有様である。
そしてそんな貴重なものを貸してくれる訳もなく。
「足で探すのには限界がある。…情報を集めないと…」
アズサ先輩がいつも通りの顔で考え込む。
ヒフミ先輩は少し心配そうにアズサ先輩を見つめているが…
「ヒナ先輩の方に来たら教えてくれるそうですよ?…まぁ無事に済むかは少し疑問が残りますが」
一度してやられてる訳だし。
多分次は初手から全力で首を取りに行くだろうし。
「万魔殿議長はなんと?」
アズサ先輩の質問に答えようとするが…
「特に何も。恐らく宣言通りトリニティ領内でアリウス残党を狩ってるとは思いますが…」
今どこに居るのかすら不明だし。電波障害が無くなれば連絡もつくだろうが今の状況じゃ無理だな。あの人の考えは判らん。少なくともこちらの不利になるような事はしないと思うが…
「…そうか。ヒフミ、トリニティ側…ナギサから何か聞いていないか?」
ヒフミ先輩へと水を向けるが答えは芳しくなく。
「すみません…別れた後の事は何も…」
そりゃそうだよな。一般学生?にペラペラ話してくれる訳も無い。
「…いっそのことシスターフッドとか正義実現委員会に聞きに行ってみます?丁度ハナコ先輩とコハルも向かってましたし」
ついさっき別れたばかりだから今から追いかければすぐに追いつけると思う。
「それが一番確率が高いか…私はハナコと合流しに向かうがヒフミはどうする?」
「そう…ですね。私も行きます!」
そう言うことになった。先生の復帰でヒナ先輩も調子を取り戻しつつあるし、そもそも両陣営のトップが健在なんだから相当イカれた状況にならない限りは崩されないと思う。
「じゃ、私は正義実現委員会の方を当たってみますね」
正実の方にはハスミ先輩やイチカ先輩、コハルと言った知り合いがいるし。
シスターフッドの方はマリーくらいしか知り合いがいない。
「林檎ちゃん1人で大丈夫ですか?ここは全員で動いた方が…」
ヒフミ先輩の言葉も一理あるんだけども…
「ただでさえ遅れをとっている現状、時間が惜しいです。ゲヘナが先に発見したらマコト先輩がタダで引き渡してくれるとは考えづらい」
最大限まで値が吊り上がるだろうことは想像に難くない。
「例のユスティナの連中も大量に湧いてきてませんし、今の私でも逃げるのは余裕ですから」
そう伝えると少し納得が行っていない顔だったが最終的には飲み込んでくれたようだった。
「気をつけて下さいね…?」
「もちろん。無理はしませんよ」
錠前サオリがいた場合は無理を押し通してでも捕縛するが。
「何かわかったらメッセージを残して連絡を取ろう。…幸運を祈る」
アズサ先輩の言葉を最後に私達は別の道へと走り出す。
さて、コハルに追いつけると良いんだけど…もしくは知ってる顔がいたら楽なんだけどなぁ。
まぁ、世の中そんな甘くはなかったって事で。
「止まれ!ゲヘナが何の用だ!?」
モモトークで聞き出した正実の詰所に行くと入口で囲まれちまった。
うーん、デジャヴ。
「ここにコハルって正実の子が来てるはずなんですけど見てません?」
ハスミ先輩でもイチカ先輩でもいいんですけど…と続けると
「正実の副委員長?…どう言った関係だ?」
「以前お世話になった関係でして…確認して貰えればすぐに判りますよ」
選択ミスったかもなこれ。補習授業部といると通常のトリニティ節を忘れちまう。
普通はゲヘナに対する感情なんてこんなもんだったわ。
「怪しいが…一応確認を取れ。その間は拘束させてもらうが構わないな?」
嘘だったらどうなるか判ってるだろうな?と疑惑の目を向けてくる正義実現委員会。
普段なら暴れて逃げる選択肢もあるんだけど今やると不味いのは私でも判る。
しょうがない、メッセージだけ送って大人しく捕まっとくか。
「良いですよ。その前に友達にメッセージだけ送っても良いですか?」
「…内容は確認させて貰うぞ」
了承してヒフミ先輩にメッセージを送る。
『すんません、正実に捕縛されちゃいました。すぐに出られるとは思いますが念の為報告しときますね』
こんな感じでいいだろ。
「丁重に扱ってくれよ」
ホルスターごと自分の愛銃を正実の子に預ける。
「随分年季の入った銃だな…確かに預かった。着いてこい」
両脇を固めるようにして独房…と言うには豪華な部屋へと通された。
「変な真似をして私達の手を煩わせるなよ。…入れ」
凄い豪華な部屋だなおい。ホテルの一室と言っても過言じゃねぇわ此処。
物珍しさから部屋を見て回っていたが本棚には難しそうな本しかねぇし、豪華な調度品でも10分も見て回ったら飽きる。
30分ほど経った頃だろうか。隣の部屋に何人かが入って行った音がした。
…なんか騒がしいな?
隣に耳をすませてみると言い争っているのが聞こえてくる。
「貴女、自分の立場が判っていますの!?」
おお、お嬢様方が争ってらっしゃる。
暇つぶしにはなるかと更に聞き耳を立てると
「気分じゃないんだよね」
…聞き覚えがある声がした。
「今動かねば我々パテル分派は終わりです!その原因の貴女に拒否権があるとでも!?」
「やりたいなら自分でやれば良いじゃない?私はやらないって言ってるの」
すげなく断るその声は、合宿所襲撃時に聞いた聖園ミカの声だった。
あいつ、こんな所に居たのかよ!?
私の居る部屋とほぼ同じ作りだとするとかなり優遇されてんなぁ…って阿呆か!
言っちゃ何だけどこの程度の軟禁であの暴力の化身が抑えられるとは到底思えないんだけど!?
トリニティの甘さというか配慮に戦慄しながらも隣で会話は続いている。
「この…!そもそもお前があんな事をしなければ!!」
軽い打撃音。
やべぇ…トリニティ生が数人ズタボロになるなこりゃ。
あの聖園ミカに手を上げて無事で済む奴がそうそう居るとは思えない。
惨劇を予想して人を呼ぼうと壁を離れる寸前で更に聞き覚えのある声が聞こえた。
「な、何してるの!?』
コハルの声だった。
…マジでヤバいかも知れん。ブチ切れた聖園ミカ相手に1人で対処するにはコハルじゃ厳しい。
すぐさま扉へと走って蹴破る。…後で弁償します!
廊下に出ると隣の部屋の扉が開いているのが見えた。
武器無しであのバケモンの相手とか勘弁して欲しいけど…友達の方が大事だからしょうがない。
開いている扉から中を確認すると聖園ミカを囲んでいる数人のトリニティ生徒と…
「事情は判らないけど、イジメなんか絶対に許さないんだから!!」
聖園ミカを庇う様に立つコハルの姿だった。
…どういう状況?一瞬頭がこんがらがったが私に気づかず話が続く。
「お前には関係ない!引っ込んでろ!」
コハルへと手を上げるトリニティ生徒。
咄嗟に背後から腕を掴む。…コハルが聖園ミカを庇う様に守っているのが見えた。
マジでどう言う状況だよ?
「ゲヘナ!?何でこんな所に!?」
「事情は判らねぇけど…そこにいるの私の友達なんだわ」
チラリとコハルの方を見ると驚きの表情を浮かべている。
聖園ミカも同様だ。
「林檎!?何で此処に!?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ。追いかけてきたんだけど…」
掴んでいた腕を離して相手を睨む。
「お前ら、度胸は認めるけどよ…ちと無謀が過ぎるだろ」
あの聖園ミカ相手に3人ぽっちで喧嘩売るとか自殺行為でしかない。
何で無抵抗で殴られてんのか全く分かんないけど、こいつが本気で殴り返してたらどうする気だったんだよ?
「さっさと失せろ。さもなきゃ全員病院送りにしてやるよ」
無事な右腕を軽く回す。
ちと不安だが3人くらいなら楽勝だろ。
「チッ…覚えてろよ聖園ミカ!全部お前のせいだ!私達はお前を許さない!」
捨て台詞と共に去っていくのを見て拳を納める。
根性があるのか無いのか判らん奴らだ。
「ゲヘナの…」
「西条林檎。…久しぶり、って程でもないか」
聖園ミカへと向き直る。
「何であなたが此処にいるのかな?」
貼り付けたような笑顔で問いかけてくる。
「別にお前に用があった訳じゃねぇよ…正実に用があってきたら拘束されただけで」
と話していると部屋の入り口…廊下が騒がしくなった。
何だ?と目線を向けると開いたままの扉から先生が顔を覗かせた。
“…取り込み中かな?”
「何で先生まで!?」
コハルが驚きの声を上げた。
起きたことはメッセージしてたけどこっちに向かってたなんてのは私も知らなかったわ。
「先生…久しぶりだね?」
聖園ミカが変わらない笑顔で話しかける…仮面みたいな表情だな。
“何があったの?”
倒れた調度品や聖園ミカを庇うように立っているコハルを見て疑問を投げかける先生。
その後ろで如才なく立っている風紀委員達。
カオス極まれりな状況だな。
「取り敢えず、座って話しません?」
少なくとも短くすむ話じゃあなさそうだし。
その言葉を皮切りに適当な椅子を何脚か持ってきて先生達に勧めてから座る私。
呆気に取られたような顔の聖園ミカに声をかける。
「お前も座れば?立ってたいなら構わないけど」
さて、どんな話になってんのか聞いてみようじゃないの。
頭痛を抑えるように頭を抱えるコハルと、釈然としない顔で腰掛ける聖園ミカと、相変わらずだなって顔の先生を交えて状況説明が始まった。