ゲヘナのガンマン   作:トニートニー

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ガンマンと聖園ミカ その3

 

 

 

呼び出しを喰らってトリニティまでトンボ返りした私はいつぞやの茶会テラス見たいな所に通されていた。

 

「急にすみません」

 

少し申し訳なさそうな表情のナギサ先輩がこちらに掛けるように席を促してくるのに乗っかって腰をおろす。

 

「お気になさらず…とは言いませんが。万魔殿から詳しくはトリニティで聞けとしか言われてないので詳細を聞かせてもらえませんか」

 

適当にテーブルの上にある茶菓子を摘みながら問いかける。

上品な味だ。これだけのために来たと言っても過言じゃない。

 

「前置きは不要ですね…ミカさんの事です」

 

聖園ミカ、ねぇ…大分凹んでたしもう悪さ出来るメンタルじゃないと思うんだけど…

 

「聖園ミカに関してなら私じゃ役者不足じゃないですか?一対一じゃ勝ち目薄いですよ?」

 

それこそヒナ先輩を引っ張り出すか正実の主力メンバー数人で囲んでタコ殴りにしないと制圧できなくね?

 

「先生と補習授業部が居ないんじゃ精々時間稼ぎが関の山だと思いますが…」

 

絶対勝てないとは思わないけど…初見殺しに近い私の弾丸は強者相手だとネタが割れた時点で距離を取られて終わる可能性が高い。

純粋に射程距離の点で聖園ミカには到底勝てないからな…

実際、ヒナ先輩にはそれで封殺されたことがあるし。

 

「いえ、そうではなくですね」

 

頭痛を抑えるように頭を抱えながら続けるナギサ先輩。

そうじゃないとしたら何だって言うんだよ…一度勝ってるって点以外で聖園ミカに対するアドバンテージなんかないぞ?

 

「少し話す事が出来た際に貴女の名前が上がりまして。その時にあの子が貴女について少し楽しそうに話していた物ですから…何かありましたよね?」

 

こちらを伺うように見つめてくるが…

 

「?…ちょっと話したかな、位のものですが」

 

特別何かした記憶はない。

本当にちょっと話した程度だし、それで分かった事と言えば…

 

「やけに自罰的な女だなぁ、位なもんですよ。全部が全部自分が悪いって思えるのは流石お嬢様(トリニティ)って感じでしたが」

 

責任者としては素晴らしいのかもしれないけれど。

私はそれは違うだろうとしか思えないんだよなぁ…

 

「その割には大分入れ込んでいらっしゃった様ですが?」

 

ある程度の会話内容を知ってんなこれ。軟禁状態ってんならそこまでしないと思ってんたんだが盗聴機でも仕込んでんのかあの部屋。

もしくは本人が話したのか…話せたならまぁ良かったんじゃね?と思うけど。

 

「…そんなんじゃないですよ。ただ、自分からへこんでる奴を更にボコボコにするのは趣味じゃないってだけです」

 

開き直ってたらもっと堂々と責められるんだけどな。

流石にあの精神状態の奴を更に叩くのは憚られるわ。

 

「あんな雑魚共に良いようにされてるのも気に食わなかったですし」

 

取り巻き共に責められて、手を上げられても尚なすがままにしてた聖園ミカを思い出すと何故かイライラしてくる。…暴れ散らかしてた方が良かったとは思わないのに不思議な感覚だ。

 

「まぁ、だからちょっと口出ししました。…それだけです」

 

そう話を結ぶと目の前の茶菓子を無心で食べる。

 

「そうですか。…特に思うところの無い貴女の言葉だから、と言うのもあるのでしょうね…」

 

後半は小さく呟くような声だったからよく聞き取れなかったが責められてる感じではなさそうで何よりだ。

 

「今のミカさんは大分厳しい状況に置かれています。…アリウスの手引きをした実行犯という立場ですから周囲からの目も相当厳しい物です」

 

そういうと目を伏せるナギサ先輩。

そりゃまぁやらかした事がデカいからなぁ…針の筵だろうが別に気にしなくて良くね?

 

「それがどうした…って言えないのかアイツは…」

 

そう呟くと先輩も軽く頷いている。

 

「それで、その状況の聖園ミカに会って何を話せって言うんです?」

 

そもそも私が呼ばれた理由もわかんねぇし。

役に立てるとは到底思えないんだけど?

 

「…以前お呼びした際に話されてましたのを覚えていますか?」

 

“今度は飯でも食いに行こうぜ、と。そう伝えて下さい”

確かにそう仰いましたよね?と微笑むナギサ先輩。

…そうきたか、と少し悪態を吐きたくなるが。

 

「…冗談ですよ、とも言った記憶がありますが?」

 

悪あがきかもしれないが一応言ってみる。

 

「あら?そうでしたか?」

 

しらばっくれるナギサ先輩。

トリニティ上層部には狸か狐しか居ないのかよ…と思ったがウチ(ゲヘナ)も大概だったわ。

 

「少なくともそう言ったのは事実でしょう?ですから是非一度お話しして頂きたいのです」

 

私を真剣な表情で見つめながらそう言う先輩。

私が話したところで何が変わるってもんでも無いだろうに。

 

「…私が話しても何にもならないと思いますよ?あのゲヘナ嫌いのメンタルケアさせるならコハルとかヒフミ先輩みたいな純粋な人の方が良いんじゃないですかね?」

 

少なくとも私ならそう思う。

喧嘩っ早い奴よりもちゃんと話を聞けて真摯に対応する心根の持ち主の方が絶対に良い。

 

「ミカさんがそう思っているのであれば私も全力を尽くしましょう。でも、今は貴女との会話の方が得るものは多いと判断致しました」

 

少なくとも悪い方向には転がりませんでしょう?と続けるナギサ先輩。

…いや、そうとも限らねぇんじゃないかな?

ゲヘナ嫌いの聖園ミカがゲヘナの私と話した所で好転するとは思えないんだけど…

と考えているとナギサ先輩が私を見つめながら話しだす。

 

「だから、お願いします。一度で構いません、ミカさんとお話を…」

 

そう言う先輩の顔はとても真剣なもので。

友人を大切に思っているのがひしひしと伝わって来た。

 

「……期待はしないで下さいよ」

 

あのゲヘナ嫌いと話す事なんかもう無いと思ってたんだけどな…

 

「私は精神科医じゃありませんから。いつも通り適当に話すだけですよ?」

 

メンタルケアなんて私から一番遠い言葉だし。

心をへし折って来い、とかならまだ適正はあると思うけど。

 

「えぇ、それで構いません。ありがとうございます」

 

それでも構わないと頭を下げる先輩を見ると藁にも縋りたいレベルなのかとビビっちゃうね…

 

「お礼を言われる様な事でも無いでしょう…別に私が何かできるって訳でも無いですし」

 

そう言って出された紅茶を飲み干す。

美味い…のか?よく分からない味がするが高価いんだろうなぁこれ。

 

「ご馳走様でした。…じゃ、早速お話ししに行くとしますか」

 

「案内の者をつけます…ご一緒できずすみません」

 

「忙しいでしょうし構いませんよ。ではまた」

 

そう言うと入り口に現れたトリニティ生徒の案内で茶飲み場から退室する。

 

 

 

ついこの前アリウスの襲撃を防いだばっかりでエデン条約周りの話もゴタゴタしてる中、聖園ミカの件でも気を配らなきゃ行けないとか超大変そうだわ…

そう考えると暴れるだけ暴れてさっさと退散したマコト先輩は美味しい所だけ頂いて退いてったんだなと感心してしまう。アリウス関連の話も後は任せた、とぶん投げてったしな先輩。

 

そんな事を考えているといつぞやの軟禁ルームまで着いてしまっていた。

 

「此処です。…ミカ様をよろしくお願いします」

 

そう言うと案内してくれた生徒はドアの横で待機している。

…一緒に来てくれても構わないんだよ?

そう考えながら見つめるも微動だにしない。…しょうがないか。

 

「分かりました…では」

 

ドアを開けて中に入る。

 

「お邪魔しまーす…」

 

声をかけると当たり前だが部屋に居た聖園ミカがゆっくりとこちらを振り返って…

 

「あれ?また来たの?…暇なんだねぇ」

 

少し驚いた顔でそう抜かす聖園ミカ。…全然元気そうに見えるんだけど?

 

「お前の友達に頼まれたからな…そうじゃなきゃトリニティまで足伸ばさねぇよ」

 

そう言いながら聖園ミカに近づく。

あ?これは…

 

「態々用意してたのか?」

 

テーブルの上には二組のティーセットが並んでいる。

 

「…一応ね。どんな人でもお客様なら気を配らないと」

 

そう言いながら席を勧めてくる。

遠慮なく勧められた席に着くが…

 

「…で、何を話しゃ良いんだ?話して来いってだけ聞いて来たから詳しい所は知らねぇんだよ私」

 

そう水を向けるも聖園ミカも不思議そうな顔をして

 

「…何か聞きたいことがあるんじゃなくて?」

 

「この前言った通り聞きたいことは全部聞いた。…なんか話したい事があるんじゃ無いのか?」

 

互いに見合って困惑する。

一体何をさせたいんだナギサ先輩は…

 

「別に何もないよ?貴女に話してもしょうがない事だし」

 

おおぅ…マジで意味ねぇじゃんこの茶会。

私何の為にトリニティまで来たんだよ…

 

「そっか…ま、それならしょうがねぇわ。適当に茶でもしばこうぜ」

 

目の前に用意された紅茶?を飲む。うん、美味いのか分からんなやっぱり。

 

「…気にならないの?態々トリニティまで来させられたのに」

 

「私に話してもしょうがねぇって思うんなら無理に聞き出そうとは思わねぇよ」

 

トリニティ内でどうにかする様な内容なんだろうし。

 

「私にゃ政治関係の話は分かんねぇからな。殴り合いなら得意分野だけど」

 

「ゲヘナらしいね」

 

皮肉げに話す聖園ミカ…そりゃまぁ一般ゲヘナ生徒は大概腕っぷしで生きてく事が多いしな。

でもまぁ…

 

「大抵はお前のイメージ通りだけどな。私みたいなのばっかりって訳でもねぇよ」

 

それこそイブキとか。フウカ先輩達みたいな善良な心根の持ち主だっていない訳じゃない。

…その他大勢がヤバい(蛮族風味)ってだけで。

 

「へぇ…例えば?」

 

ティーカップを上品に掴んで飲みながら先を促してくる。

そんな事聞きたいのかコイツ…ま、世間話程度にはなるか。

 

「例えば給食部の先輩達とか。超少人数で毎日数百人分の飯を用意してくれてるゲヘナの良心筆頭だなあの人達は」

 

偶に手伝ったりするけど混雑時は戦場もかくやって感じになってるし。

 

「…それ、万魔殿は何も手を打たないの?」

 

「一応人員の補充は適宜やってるみたいだぞ?…あんま長続きしないらしいけど」

 

いつも世話になってる第8食堂じゃフウカ先輩とジュリしか見た事ねぇし。

そう続けるとなんとも言えない顔になる聖園ミカ。

 

「それって…いや、なんでもない」

 

「?ま、風紀委員が時々出動する程度で済んでるからゲヘナでも比較的治安が良い場所だな」

 

味は兎も角値段は安いし。食いっぱぐれることはまずないってのがゲヘナの売りでもある。

カツアゲに遭って一文なしになっても皿洗いで支払いが出来る唯一の場所だしな。

 

「想像以上に魔境じゃんね…」

 

なんでだ…ちゃんと良心的な所を話したはずなのに…

 

「いやいやいや、ちゃんと良い所だったろ?」

 

「それが良い所ってだけで大分怪しいよ?」

 

そんなバカな!?他学園にも誇れる人達だぞ!?

 

「フウカ先輩達は良い人だぜ!お前、あの人達をバカにしたらゲヘナの半分が敵に回ると思えよ!?」

 

世話になった事のある奴らが総出で潰しに来るだろう。

…多分美食研究会の奴らも来るだろうから一大勢力になるな。

 

「その人たちをバカにした訳じゃなくて、貴女の常識を疑ってるだけじゃんね」

 

ため息混じりにそう答える聖園ミカ。

ならまぁ良いか。

 

「なんだ…それなら良い」

 

私が何か言われる分には別に良いや。慣れてるし。

 

「良いんだ…」

 

理解が及ばない生き物を見る様な目で見るのはやめて貰いたいね。

 

「まぁ慣れてるからな…でもお前にそんな目で見られる謂れはねぇだろ」

 

疑問を浮かべた顔で私を見てくるけども…

 

「お前だって大概変じゃん。あんな雑魚どもに良い様にされて黙ってるなんてさ」

 

あの夜、十把一絡げにアリウスごとぶっ飛ばしに来てたお前があの程度の下っ端に手も足も出さないとか信じらんねぇよ。

 

「例え銃が無くても(素手でも)お前ならあの程度簡単に蹴散らせただろうに」

 

そもそもアイツらの攻撃が通るのかすら疑問だ。

蚊に刺された程度にしか効かなくても不思議じゃないぞコイツなら。

 

「…それは、そうだけど」

 

凄い言葉を濁すじゃん…さっき聞きたいことはないって言ったけどちょっと気になってきたわ。

 

「じゃあ何でだ?アリウスと、アイツらとでは何が違う?」

 

クーデターを唆したアリウスの連中と。

同じく武力蜂起を提言しに来たトリニティの連中の違いは一体なんだ?

 

「アリウスもお前の取り巻きも言ってた事は大体一緒だろ?」

 

お前が王になるチャンスだ。力で全部奪い取る好機は今だ、と。

 

「あの日、アリウス共を自分の攻撃に巻き込むのを良しとした癖に何であの雑魚どもには手を出さなかったんだ?」

 

その質問に答えるまで少し間が空いた。

何かを考える様な素振りを見せて数十秒はたっただろうか。

ようやく口を開いた聖園ミカは

 

「……もうどうなっても良い。そう思ってるだけ」

 

そう言うとティーカップに視線を落とした。

無気力になってるって訳か。…ナギサ先輩はこれをどうにかして欲しいってのか?

それこそ精神科医とかせめて大人を連れて来るべきだろ。

私にゃ関係ないけどさぁ…

 

「トリニティで何かやるのはもう良いって?」

 

こんだけ強い奴がへこみっぱなしなのは気にくわねぇ。

 

「別に、もう何か企んでたりはしないよ」

 

投げやりになっちまってんな。

でも聞きたいのはそんな事じゃねぇんだ。

 

「聞き方が悪かったな…企んでるとかそんなんはどうでも良い。お前は何かやりたい事とかねぇの?」

 

例えば美味いもんが食いたいとか。綺麗な景色が見たいだとか。

 

「…何も。そういう物を望んで良い立場じゃないし」

 

空のカップを見つめながら答える聖園ミカ。

分かんねぇな。全く持って意味不明だ。

 

そんなもん(立場)で良い悪いがあるもんかよ。望むだけならタダだぜ?」

 

叶うかどうかは自分次第だが。

少なくともナギサ先輩は手伝ってくれそうじゃん?

 

「何で貴女がそんな事を気にするの?別にもう関係ないじゃない」

 

ま、その通りなんだけどさ。

 

「あんだけ強いお前が全部投げ出してるってのが気にいらねぇ」

 

強いってのはそれだけで選択肢が多くあるべきだ。

マコト先輩が万魔殿を手中に収めている様に。

ヒナ先輩が風紀委員において絶対の戦力として君臨している様に。

美食研究会や温泉開発部が好き勝手暴れている様に。

強いって事は自分のやりたい事を押し通せる魔法のチケットみたいな物のハズなのに。

それを自分からドブに捨てている様に見えるから気にいらねぇ。

 

「やっちまった責任は取るべきだろう。謝罪も必要だし罰則も受ける必要がある。それでも…」

 

その後は別の話だ。

贖罪の後でも我慢しなきゃいけないのか?

そんな事が罷り通るなら美食研究会も温泉開発部も既に消滅してる。

 

()()()に自分がやりたい事を我慢しなきゃいけない理由にはならないだろ。私は()()()に何がしたいのか聞いてんだ」

 

そう言って紅茶を飲み干した。

長く話すと喉が渇いてしょうがないな。

 

「そんなの、分かんないよ」

 

絞り出すようにそう呟いた。

まどろっこしい奴だな。

 

「そんな難しい事か?例えば今飲んでる茶より美味いモンが飲みたいとか思わねぇの?」

 

私は常に思ってる。美味い食べ物や珍味と出会えるかもしれないと思ってあちこち行ってる訳だし。

 

「あれだけ酷い事をしちゃったのに、そんな事思えないよ」

 

今だって十分すぎる待遇だもの。と続ける聖園ミカ。

まぁそれはそう。てっきり独房にでも監禁されてると思ってたし。

でもそんな話じゃねぇんだ。聞きたいことはそこじゃねぇ。

 

「ネガティヴ思考が極まってんなお前…いやまぁ悪い事したのは確かなんだけども」

 

ゲヘナならラッキー!めっちゃ快適じゃん!くらいにしか思わねぇぞこの環境。

 

「罰則を受けた後でもそんな風に生きるつもりか?」

 

絶対楽しくねぇだろそんな人生…

 

「それがお似合いだから。しょうがない事なんだよ」

 

ネガネガしやがって…こんなん私がどうにか出来る訳ねぇだろナギサ先輩!

 

「周りが皆責め立てるからか?トリニティの奴ららしいな」

 

他人の弱みは寄ってたかって叩きに来るのがトリニティ流だもんな?

…もちろん違う奴等もいるってのは身を持って知ってるが、その他大勢がそんな傾向にある事は否定出来ない事実だ。

 

「何とでも言いなよ。私は…」

 

あーもう、考えんの面倒くせぇ!

 

「トリニティに居ちゃやり難いってんならウチ(ゲヘナ)に来いよ」

 

何か言いかけていた聖園ミカの言葉を遮って問いかける。

…適当に言った割にはそんなに悪くないんじゃないかこれ?

 

ゲヘナにおいて強さは発言権に等しい。ウダウダ言う輩は殴って黙らせれば良いだけの事だ。

それにマコト先輩なんかは大爆笑で歓迎するだろうし。

ヒナ先輩は苦い顔しそうだけど…まぁ反対はしないだろ。それに…

 

「それならトリニティの連中も溜飲を下げるだろ。態々魔境に島流しされてんだから」

 

ゲヘナに対する認識は聖園ミカが言った通りの魔境、蛮族の地みたいなもんだ。

そんな所に行ったってんならこの上ない罰だと認識するだろうし、態々追いかけてまで確認する酔狂な奴が居るとも思えない。

 

「お前の自責思考にも沿って一石二鳥だな。適当に言った割に悪くねぇ選択肢だと思うぜ」

 

住み慣れた優雅な生活から一転、銃声が鳴り止まない世紀末風味な生活になるんだし。

ゲヘナ嫌いなお前なら尚更、自分に対しての罰に思える事だろうぜ。

それでいて絡まれた時に遠慮なく反撃できるだろう相手だってのも良い。

コイツが何回か暴れりゃ手を出す阿呆も減るだろうしな。

 

やるとしたら転校…は難しいだろうから留学生みたいな扱いになるだろうけど。

 

「そんな無茶苦茶な事…」

 

「出来ないなんて事はないだろ。エデン条約でゲヘナとトリニティの間の溝を埋めようってんだからその一環だとでも言えば良い」

 

それでなんか言ってくる奴はお前の事が相当大事な奴だ。そう言って更に続ける。

 

「それで気が変わるなら止めりゃ良いだけの話だ。話を進めた偉い人に頭下げて残りゃ良い」

 

それだけの価値(強さ)がお前にはある。

それはゲヘナでなくても、ミレニアムだろうがレッドウィンターだろうが何処でも変わらない価値だ。

 

「ま、考えてみるこったな。どうせ直ぐに結論が出る話でもねぇし」

 

そんな選択肢もある、程度の話だ。

勿論ナギサ先輩が断ったらそこまでだが…あの人は多分聖園ミカの意思を尊重するだろ。

態々ゲヘナから私を呼び出す位には心配してんだから。

考え込む聖園ミカを見やりつつ

 

「…茶飲み話するつもりが変な方向に転がっちまった。そろそろお暇させて貰うぜ」

 

そう言って席を立つ。

ナギサ先輩の期待には応えられなかっただろうけど私なんて所詮はこんなもんだ。

言葉を尽くすより喧嘩の方が得意な奴にメンタルケアなんて求めた先輩が悪い。

そんなことを思いながら退室する直前で。

 

「待って…林檎、ありがとうね」

 

「…別に大した話してねぇだろ。…じゃあな聖園ミカ…先輩」

 

その言葉を最後に退室した。

 

 

これで良かったのか、イマイチ分からないが。

少なくともお願いされた“お話をする”ってのは遂行できた。

これからどうなるか、そんなのはミカ先輩と偉い人達が決めることだ。

本当にゲヘナに来るのか、来ないのか。

トリニティで終わりのない苦行を続ける選択をするのか。

今度こそもう私には関係のない話だ。





凄い難産でした…
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