地下を進むことしばらくして。
「先輩ってなんでこんな所に来たんだ?」
迷宮見たいに枝分かれした道をスイスイと進んで行くミカ先輩に世間話がてらちょっと気になった事を聞いてみた。
「急になに?自分で案内してって言ったんじゃん」
呆れた様な表情で返答された。
そりゃまぁそうなんだけどそうじゃなくて…
「今回じゃなくて、その前。アリウスと遭ったとか言う時の話」
偶々来ちゃった!見たいな場所でも無いだろうに。
「態々来ようと思わなきゃこんな所来ないだろ?」
ちょっと考え込むミカ先輩。
言いたくねぇなら別に良いけど…と言う直前で。
「…アリウスに関しての文献を偶々見つけたんだよ」
あれは何時の事だったかな?と記憶を辿る様に思い返しながら話し出すミカ先輩。
「昔みたいにいがみ合わず、仲良くお茶でもどうかなってね。…ナギちゃん達には相手にされなかったけど」
今思うとかなり子供っぽい、甘い考えだったな…と自嘲しながら。
「それで頭にきちゃって。それなら私だけでもって…」
「…それで、1人で地下探索を?」
頷くミカ先輩。
なるほどね…それなら。
「もしゲヘナに来るならフィールドワーク系のバイトを紹介しようか?」
きょとんとした顔で見てるが私は本気だぞ?
楽しく生きるなら資金はあるに越したことは無い。正規の手順で手っ取り早く稼ぐならバイトするのが一番だ。
さらに言えばミカ先輩の身体能力は言うまでもなく最上級、地下探索を途中までとは言え1人でやった事のある経験者…温泉開発部が放っておかないだろこんな逸材。
「寧ろ飲食とかの方が良いか?」
やった事のないものに挑戦するってのも面白いぜ?
私もコンビニバイト兼強盗退治みたいな事してるし。と笑いながら言うと。
「今の話を聞いてその感想なの?」
意味わかんない、と続けるミカ先輩。
「他に何を言えってんだよ?」
これからの事以外で私がアンタに言いたい事はない。
「アンタの言う甘い考えだった事を責められたいのか?それに関しては既に決着してるだろ」
…あとはまぁ、此処でへこまれても困るし。
「まだ罰も受けてないのに?」
自虐的に笑うミカ先輩に端的に答える。
「それはそうだけど。少なくとも反省は終わってんじゃん」
罰を受けるつもりがあるなら特に言う事はねぇし。
やっちまった事に対する罰はまだでもその考え方についてはまた別の話だ。
だってもう自分で答え出してんじゃん。
「甘い考えだったって思うなら直しゃ良いだけだろうに」
でも私はそう言う考え方嫌いじゃねぇよ?と笑いながら続ける。
再びきょとんとした顔になるミカ先輩。…最近よく見るなその顔。
「そう言う…なんていうのかね?他人を思いやれるのはある種の才能だと思うんだよ」
「少なくとも私には無い考え方だし。顔も知らない誰かの事なんてどうでも良いもん」
話に聞いただけの名前も知らない他人と仲良くしようとか思いもしない。
「だからまぁ…その、なんて言や良いんだ?」
結果は散々だったかもしれないけど、その優しさは褒められこそすれ責められる様な事じゃないと思う。
そう話を結ぶとミカ先輩は少し考え込んでから口を開いた。
「…そうかな?」
「私にとってはそうだな」
そう言うと互いに無言で歩みを進める。
…何とかメンタル保ってくれたか?
チラリと横顔を確認するといつもと変わらない様に見える。
あぶねぇ…こんな所でへこまれて戦力ダウンとかシャレにならねぇよ!
あんな世間話程度に聞いた話で自爆しに来るとか思わねえって普通…と少し肩を落として先導してくれてるミカ先輩に続いて変わり映えのしない地下道を進んだ。
「…止まって。静かに」
さっきの話から十分も進んだ頃だろうか?
急に止まったミカ先輩が耳を澄ませる様にしながら集中し始めた。
「横から音がする…聞こえる?」
小声で確認してきたので私も耳を澄ます。
…微かに話し声っぽいのが聞こえるな。
「誰か話してるな」
「どうする?」
どうするも何も…
「ミカ先輩、この壁ぶち抜けるか?」
小声で質問する。
軽く触れてみるが結構厚みがあるっぽい。
音が聞こえるのは所々崩れてるからだろうがそこから突破は現実的じゃない。私じゃ無理っぽいが…
「…多分、いけると思う」
同じ様に触れて確認するとそう言って軽く肩を回す先輩。
頼りになる先輩だわ…戦力的な意味で。
「じゃ、お願いします」
「オッケー」
回してた拳を固く握り締めると、そんな軽い言葉と共に大きく振りかぶった。
「よいしょっ」
気の抜ける様な掛け声と共に先端が見えない程の速度で振られた拳が壁に着弾した。
拳に砕かれた壁はバカでかい音と共に反対側へ砕けて吹っ飛んでいく。
そのままズカズカと壁の大穴から進むミカ先輩について行くと。
「お邪魔しまーす…って先生じゃんね」
ラッキーだね?とミカ先輩が言ってくるが…
その言葉を聞くと同時に状況を把握した私は即座に愛銃を引き抜いて発砲。
放たれた弾丸は先生の側に居た人影の肩を掠るだけに終わった。
クソが…土煙でちゃんと頭を狙えなかった。
「アンラッキーも重なってるぜ…なぁ錠前サオリ?」
土煙が晴れるとそこには先生と共にアリウススクワッドの仮面女抜きが勢揃いしていた。
やっぱお前らが原因かよこのボケナスどもが…!
「またお前か…!?」
すぐに反応した錠前が驚いてるが…
「こっちの台詞だテロリスト…先生は返して貰うぞ!」
油断なく構えるスクワッドの連中の後ろでようやく状況を掴めたのか先生が声を上げた。
“ちょ、ちょっと待って林檎、ミカ!”
「アンタの話は後で聞いてやるよ先生。そこのカス共を無力化してからな!」
即座に発砲するも散開したスクワッドに回避された。
流石に3人相手に私1人で片付けるのはちと骨が折れるか。
…あんま頼りたくないんだけどしょうがねぇか。
「ミカ先輩!そっちの2人を任せても良いか!?」
ランチャー持ちも普通なら屋内でぶっ放すとは思えないがコイツらならやりかねない。
断られた場合はランチャー持ちから始末しねぇと…と考えていると。
「ん〜…まぁ、良いよ。ごめんね先生?」
今は
「ありがとよ!今度なんか奢る!…お前は動くんじゃねぇよ!」
感謝の言葉を告げると同時に動きを見せた錠前サオリに警告と共に発砲するが…流石に避けられるか。
それなら、と更に追撃を入れようとしたところで
「待て!話を…!」
必死な表情で訴えかけてくる錠前サオリを睨みつけながら答える。
「お前の言葉を聞く義理はねぇな!」
聞いたところで意味もない!と続けて撃つ。
銃弾はギリギリで体を逸らした錠前サオリの右肩に命中、貫通する様な距離じゃなかったからかダメージは入ったもののまだ意識は保っている。
でもそのダメージじゃすぐに回避するのは難しいだろ?
ほぼ同タイミングでの2連射、本調子に戻りつつある左手を使用できる今ならお前1人片付けるのはそう苦労しないぞ錠前サオリ!
なんとか回避しようとしているが両方は避けきれねぇだろ!
“待ってって…言ってるでしょうが!”
そう思っていたんだが。
私と錠前サオリの間に入る様に割り込んできた先生が私の放った弾丸を受け止めた。
一瞬血の気が引いたが先生の前に発生した謎のバリアが弾丸を逸らして誰にも当たる事なく壁を穿つ。
「何してんだアンタ!?死にたいのか!!」
先生に向かって怒鳴る。
謎バリアに防がれたとはいえ銃弾に身を晒すとか自殺行為にも程がある!
“落ち着いて!まずは話を…”
「さっさとそいつから離れろ!」
何するか分からねえテロリストに背中見せんなよ!
“話を聞いてくれるなら離れるよ!落ち着いて、まずは話し合おう!”
この脳内お花畑野郎が…!
「そいつに情を掛けたいなら好きにすりゃ良い!でも今じゃねぇだろ!」
その女は一度アンタを殺しかけてんだぞ!
「何を考えてソイツを庇ってんだか知らねぇが話は無力化した後だ!」
もしも話しあってる時に不意打ちされたら?
最悪は自爆もあり得る様な奴らだ。
互いに信用がない時点で話し合い出来る間柄じゃねぇわ!
“林檎…!”
クソが、どんだけ誑し込まれてんだよ!
「一体アンタはどっちの味方なんですか先生!?」
油断なく銃口を錠前に向けながら。
「エデン条約ん時は私たちの側に居たのに、今は
意味がわからねぇよ…何がアンタをそうさせてんだ?
「そいつが何を話したのか知りませんが、そいつらがやらかした事は知ってんでしょう!?」
ほぼ壊滅したとはいえ未だ油断していい相手じゃねぇだろうが。
“だから!その事情を今話すから!”
問答しても先生は錠前の側から離れてくれない。
畜生が、どんな手を使いやがったんだ錠前…!
敵意を持って錠前を睨みつけると
「……すまなかった」
錠前が突然頭を下げた。
「…何のつもりだ?」
突然のことに頭が真っ白になる。
なんだ?お前はなにがしてぇんだよ?
「エデン条約に関する全ての責任は私がとる…だから、頼む」
どうか聞いてはくれないか。
そう続ける錠前。
クソが、しおらしくしやがって撃ち難くなったじゃないか…
「チッ…話してみろよ。ミカ先輩があっちを片付けるまでは話を聞いてやる」
少し離れた所で戦闘音が響き渡る中、錠前と先生にそう告げた。
驚いた表情でこちらを見る錠前に更に言う。
「早いとこ話した方が良いぞ?…ミカ先輩は強ぇからな」
訳分からんフィジカルと神秘量で素人染みた行動でも脅威に変わるから。ふと目をやると…何か壁の破片みたいなの盾として振り回してんな?やっぱり蛮族適正高いぞあの先輩…ゲヘナに生まれてないのが不思議なくらいだ。
「すまない…事の発端は…」
その様子を見て手短に、と事情を話し始める錠前。
その間も後ろでドンパチしてるミカ先輩とスクワッドの二人組…結構手こずってるな?
やっぱ精鋭相手だと決め手に欠けるか…とミカ先輩の戦闘評価を修正しながら聞いた先生の話を纏めるとだ。
マダムとかいうアリウスの親玉がスクワッドの1人、姫とか言う奴を使って何かやらかすらしい。
それを放置すると姫が死んじまってマダムが超強化されるとかなんとか。
私の方を不安そうに見てくる錠前。…知ったこっちゃねぇと言いたいところだが。
流石に死んで欲しいとまでは思ってないし、助けに行きたいってのもまぁ分かるんだけどさ。それよりもだ。
「バカか
あり得ねぇだろ!
“いや、今回の件は…”
「アリウスとゲヘナ・トリニティはまだ戦争中だぞ!?少なくとも
マジで!コイツは!何考えてんだよ!
“戦争って…”
そんな大袈裟な…と言った顔をする先生に怒鳴り返す。
「当然だろうが!平和条約の調印式を襲撃されて、首謀者は愚か敵の本拠地すら不明ときてる…やられっぱなしでのほほんと生きられる程
やられっぱなしで泣き寝入りするくらいなら相手の喉笛に噛み付きに行ってブッ倒される方が百倍も万倍もマシだ!
…あーもう!しょうがねぇ!
「ミカ先輩!戦闘中止!!思ったよりヤバい事態になってた!!」
戦闘中のミカ先輩に呼びかけると壁の破片を投げ捨ててこちらに跳んで来た。
「もういいの?あとちょっとで仕留められるけど…」
首を傾げながら答えてるミカ先輩に状況を説明する。
後から追いかけて来たスクワッドの二人組もボロボロになった体を引きずって合流した。
…ミカ先輩相手に2人で時間稼ぎができるのか。上方修正しないとダメだな。
「…なるほど。確かにちょ〜っと不味いかもね?」
事情を聞いたミカ先輩は錠前達から目を逸らさずに続けた。
「それが本当なら、だけど」
その言葉に反応する錠前達。
「ほ、本当ですって、信じて下さいよ!」
「こんな状況で嘘は言わないでしょ…」
どうにも本当くさいんだけど…ただの勘だが。
「この後に及んで嘘は言わない。頼む…」
と更に頭を下げる錠前に少し驚いた様子のスクワッドメンバーも遅れて頭を下げていた。
まぁ嘘だとしたら先生が無事なのは意味不明だしな…
「どうするの?」
こちらに振り返って質問してくるミカ先輩。
こういう時に冷静なのは助かる…こっちの頭も冷えて来た。
「…信じる。勘だけど嘘は言ってねぇと思うし。…しくじったら私の見る目が無かったってだけだ」
その場合はマコト先輩にボコボコにされそうだけど。
そんな考えをよそにその言葉を聞いて頭を上げるスクワッドの連中に釘を刺す様に続けた。
「お前らを許した訳じゃねぇからな?姫とやらを助けだしたら全員仲良くブタ箱行きだ」
やらかした罰はちゃんと受けろ。そう言って先生に向き直ると
“ありがとう…ごめんね”
感謝と謝罪を述べる先生。
ホッとした顔してるけどアンタも同じだからな?
「先生もですよ。全部済んだら自分の口で説明して下さい」
何でこんな事になったのか。何で報告も連絡も無くアリウスに乗り込もうとしてるのか。
少なくともゲヘナに対しては今回ミカ先輩を連れ出した以上に借りを作る事になるだろうが…
「今の先生はゲヘナ・トリニティに対する義理を欠いている。…ぶっちゃけ蝙蝠野郎と罵られてもおかしくないですからね?」
そうなっても私は庇わないから。
そう言ってそっぽを向く私に先生が答える。
“それはもちろん。…ありがとう”
ふわりと笑う先生に鼻を鳴らして答えた。
もうその手はくわねぇよ。絆されてなんかやるもんか…
「で、これからどうするかですが…」
今からマコト先輩に報告しに戻って間に合うか?
…いや、話通りなら夜が明けるまでに何とか姫とやらを攫わなきゃダメだ。今から引き返して応援を連れて来るのは現実的じゃない。
現実的に考えるなら…
「……このメンバーで何とかするしかないじゃんね?」
さっきまでやり合ってた相手と組むとかどんな状況なの、と言った表情のミカ先輩が言う通りこのメンツで何とかするしかない訳で。
“協力してくれるの?”
「死んでほしいとまでは思いませんから」
さてどうしたもんかね?
「…すまない、恩に着る」
錠前からそう言われたが。
「恩だと思うな。あくまでお前のお仲間を捕らえに行くためだ」
仲間になった訳じゃねぇし。
全部終わってマダムとか言う大人をシバいたら次はお前らだ。そう続けると苦笑した先生が聞いてくる。
“じゃあ、お願いできるかな?”
「良いですよ。…ミカ先輩はどうします?」
追跡のために連れ出した訳だし、これ以上は当初の目的とは違う。
だから聞いたんだけど…
「ここまで聞いて“はいさよなら”って出来る訳なくない?」
憮然とした表情で私をつつく。
悪いね先輩…
「それもそうか…後でナギサ先輩に謝っとかないとな…」
危険に晒さないってのは難しそうだし。
「大丈夫…ナギちゃんなら許してくれるよ」
私が行くって言ったんだし。と笑うミカ先輩。
そう言うのって理屈が許しても感情が許さないからなぁ…と曖昧に笑いながら返す。
何処か弛緩した雰囲気のまま更に地下へと足を進める一行。
…まさかアリウスと、あの錠前サオリと同陣営で戦う事になるとは思いもしなかった。
今は先生に危害を加える様子がないとはいえ分からねえもんだ。
そんなことを考えながらミカ先輩からのちょっかいを避けながら進むのだった。
…何でこの人こんなに気安くなってんだろ?別に良いんだけどさ。