極悪貴族、謙虚堅実に無双する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~   作:月島秀一

74 / 89
第18話:真の目的

 ヴァランの反抗的な態度を目にしたルビーは――笑った。

 苛立つのでも、怒りに呑まれるのでも、激情に駆られるのでもなく、嬉しそうに口角を吊り上げたのだ。

 

 うわぁ……完全に(たの)しむ気だよ。

 

「ふふっ、なるほどなるほど、確かにこれは『教育』が必要ね」

 

「はっ、貴様のような小娘が、この私に何を教え(さと)すと?」

 

 ヴァランは鼻を鳴らし、無謀にも挑発を口にした。

 

(……怖い、ボクはもう怖いよ……っ)

 

 彼は今、地雷原でタップダンスを踊っている。

 しかし当の本人は、それにまったく気付いていない。

 なんと恐ろしく、滑稽(こっけい)な話だろうか。

 

 ボクが『約束された惨劇(さんげき)』に肝を冷やしていると、ゾーヴァが大声を張り上げた。

 

「お、お待ちくださいルビー様! こやつはただ、何も知らないだけです! ボイド様の偉大さも、貴女様の恐ろしさもっ! 儂が後ほど、厳しく言い聞かせておきますので、どうかここは寛大なる御慈悲を……ッ」

 

 彼は深々と頭を下げ、必死に許しを()うた。

 きっと怖いだろうに……自分と同じ『被害者』を増やさないよう、なけなしの勇気を振り絞ったのだ。

 

「残念だけど、無理な相談ね。本件はボイド様より(たまわ)った勅命(ちょくめい)。それに、こういう身の程知らずには、厳しい(しつけ)が必要よ」

 

「うぐ……っ」

 

 ルビーの説得は不可能。

 そう判断したゾーヴァは、すぐさま標的を変える。

 

「ヴァランよ、悪いことは言わぬ! 今すぐに心を入れ替え、謝罪するのだ! ボイド様は心優しき御方! しかと誠意を見せれば、慈悲を(たまわ)れるやもしれぬっ! さもなくば、儂と同じ(・・・・)運命(・・)を辿ることになるぞッ!?」

 

「ふんっ、どこまでも情けない男だ。こうなっては、人間もう終わりだな」

 

 ヴァランは侮蔑(ぶべつ)の言葉を吐き捨て、

 

「こ、この馬鹿者め……っ。何故、年長者(ねんちょうしゃ)の言うことに耳を貸さぬのだ……ッ」

 

 ゾーヴァはグッと奥歯を噛み締めた。

 

「ふふっ。私、嫌いじゃないわよ? あなたのような愚か者は」

 

「奇遇だな。私も嫌いではないぞ? お前のような勘違い女は」

 

 そうして始まったルビーとヴァランの死闘は――コンマ一秒で終わった。

 開幕と同時、ルビーの右拳が、ヴァランの(あご)を砕いたのだ。

 

「ぁ、ぐ……っ(つ、強過ぎる……ッ。この女、いったい何者なのだ!?)」

 

 顎を叩き割られたヴァランは、脳が揺れているのか、無様に床へ這いつくばり、

 

「所詮は『魔人崩れ』、口ほどにもないわね」

 

『龍の女王』は、冷たい瞳で敗者を見下ろした。

 

(まぁ……こうなるよね)

 

 魔人になった程度じゃ、うちのルビーには(かな)わない。

 何せ彼女は、龍の血×英雄因子×魔王因子の持ち主。

 所謂(いわゆる)『スーパーサラブレッド』だからね。

 

(でも、思ったより控えめ(・・・)だったな)

 

 てっきりルビーのことだから、もっとえげつない倒し方をして、ヴァランの尊厳を踏み(にじ)り、彼の人格を破壊するのかと思ったけど……。

 顎を叩き割るだけなんて、とても良心的だ。

 

(きっと彼女も、いろいろな経験を重ねて、丸くなったんだろうなぁ)

 

 そんなボクの幻想は、すぐに打ち砕かれた。

 

「再生は終わったかしら? ……よし、それじゃ行くわよ」

 

 ルビーは『炎の首輪』をヴァランに付け、付属のリードを容赦なく引っ張る。

 

「う゛ぐっ!? ま、待て、どこへ行くつもりだ……!?」

 

「こんなところで始めたら、ボイド様のお目汚(めよご)しになるでしょう? だから場所を移すの、『仲良しの家』にね」

 

 ……どうやら、まだ始まってすらいないらしい。

 さっきのはただの『格付け』に過ぎず、『地獄(おたのしみ)』はこれから、ということだ。

 

「な、仲良しの、家……?」

 

「わかりやすく言えば『懲罰房』ね」

 

「……っ」

 

 ヴァランはゴクリと息を呑む。

 

「ふふっ、いい顔になったじゃない。ようやく自分の立場を理解したのね? 偉いわ、御褒美にその紫の鱗、一枚一枚丁寧に()ぎ取ってあげる」

 

「だ、誰か……そうだ、ゾーヴァっ! 頼む、助けてくれ……後生(ごしょう)だッ!」

 

 根源的な恐怖に震えた彼は、必死にこちらへ手を伸ばすけれど……もう遅い。

 せっかく犠牲者Z(せんぱい)が助けようとしてくれたのに、それをすげなく断ったのは、他でもないヴァラン自身だ。

 

「あらあら、情けない声ねぇ……ゾクゾクしちゃう」

 

 ルビーは恍惚(こうこつ)とした表情で微笑み、

 

「ひ、ひぃ……っ」

 

 ヴァランは顔を引き()らせ、

 

「「……」」

 

 ボクとゾーヴァは揃って目を伏せた。

 

(ルビー先生は……完全に『スイッチ』が入っていらっしゃる)

 

 もはや彼女を止めることはできない。

 

(頑張ってね、ヴァラン……)

 

 人格面は……もう無理だ。

 おそらく徹底的に矯正され、花を(いつく)しみ鳥の歌に心を寄せる、『綺麗なヴァラン』となって返ってくる。

 

(でもせめて、『目』だけは守ってほしい……っ)

 

 キラッキラの瞳は、ゾーヴァ一人で十分だ。

 ボクは自分の街を――このボイドタウンを『少女漫画的な乙女空間』にしたくない。

 目に星の入った爺キャラは、もう間に合っている。

 

「魔人を調教するのは初めてね、とても楽しみだわ」

 

「い、いやだ……いやだいやだいやだ、いやだぁああああああああ……ッ!」

 

 凄まじい絶叫が響く中、扉がバタンと閉められ、(うつろ)の宮に平穏が訪れた。

 

「ふぅ……緊迫の時間だったね」

 

「……救えなかった、儂はいったいどうすればよかったのでしょうか……」

 

「あれはヴァランが悪い。むしろゾーヴァは、よく頑張ったと思うよ?」

 

 まぁ結果的に、新たな『犠牲者』が増えちゃったけどね。

 

「それにしても、面白いモノが見られたなぁ……」

 

 ボクがしみじみと感慨(かんがい)(ふけ)っていると、ゾーヴァが無言でジッとこちらを見つめてきた。

 

(ボイド様は本当に恐ろしい、ヒトをただの『玩具(おもちゃ)』としか思っていない……。儂とて偉そうなことは言えぬ、幾度となく悪しき実験を行ってきた。しかしそこには『目的』があった、最強の固有魔法を再現するという『野望』があった。その点、この御方は根本的に違う(・・)。彼の望みは――楽しむ(・・・)こと(・・)。ただそれだけのため、人間を『ゲームの駒』としておる、『真性のサイコパス』……ッ)

 

(ふふっ。悪いけど、キミの考えていることは、全て手に取るようにわかるよ?)

 

 ()えて言葉に出さずとも、十分に伝わってきた。

 

(間違いない、ゾーヴァは――ボクに『感謝』している)

 

「こんな貴重なイベントを見せていただき、本当にありがとうございます」、彼の目がそう語り掛けてくるのだ。

 昔から、『目は口ほどにモノを語る』と言うしね。

 

「さて、それじゃボクは次の現場に行ってくるよ。引き続き、魔法炉(まほうろ)の調整をお願いね」

 

「はっ、承知しました」

 

 こうして第一章と第二章の大ボスが絡む、超々貴重なイベントを堪能したボクは――<虚空渡り>を使い、虚空界の『とある一角』へ飛んだ。

 

 現在ボイドタウンでは、二つの巨大事業が行われている。

『ニュータウンの開発』と『武具(ぶぐ)の大量生産』だ。

 どちらもメインルートの攻略に直結する『重要な下準備』であり、その成否(せいひ)によって、今後の展開(なんいど)が大きく変わってくる。

 

「――到着っと」

 

<虚空渡り>で飛んだ先は『特設展望台』。

 最上部の展望デッキでは、現場監督のダイヤが指示を飛ばし、眼下に広がる作業エリアでは、大勢の犯罪者たちが街づくりに(はげ)んでいる。

 

(うんうん、みんな頑張ってくれているね!)

 

 作業員の中には、見知った顔がたくさんあった。

 

(盗賊団の頭領グラード・大魔教団の副支部長イグヴァ・切り裂きジェイ・暴虐(ぼうぎゃく)のマット兄弟、奴隷商の長ムンド・裏カジノの総支配人ベラルタ……)

 

 新しいところで言えば、帝国の暗殺者ティアラなんかも、重たい土嚢(どのう)を運んでいる。

 第一章~第三章の小ボスや中ボスたちが、みんなで力を合わせて、ボクのために働くその光景は――控えめに言って『壮観』だ。

 

(ふふっ、今後もコレクショ……ゴホン、大切な家族を増やしていかなきゃね!)

 

 自分の()き集めたトロフィーに満足しつつ、現場監督へ声を掛ける。

 

「やぁダイヤ、遊びに来たよ」

 

「えっ、ボイド? あなた、時間は大丈夫なの? 最近は忙しいって聞いていたのだけれど」

 

「うん、ちょっとだけ手が空いてね。それよりも、進捗(しんちょく)はどんな感じ?」

 

「ニュータウンの開発事業は……あまり(かんば)しくないわ。このままじゃ、工期(こうき)に間に合わないかも」

 

 彼女は申し訳なさそうに視線を落とした。

 

「やっぱり人手が足りない?」

 

「えぇ、労働力不足が一番の問題ね」

 

「そっか」

 

 まぁこればかりは仕方ない。

 いくらダイヤが完璧な指示を出し、効率的な計画を組んだとしても、手が足りなければどうしようもないからね。

 

「もう一つの事業、『武具の生産』はどう?」

 

「あっちはギリギリ間に合うかどうか、と言ったところかしら。正直、余裕はまったくないわ。一つの遅れが命取りになる状況よ」

 

 なるほど……ニュータウンはまぁいいとしても、武具の遅れはちょっと困るね。

 

「それじゃ、街作りに割いているリソースを武具の量産に回そう。街作りが『3』、武器の量産が『7』ぐらいかな」

 

「確かにそうすれば、武具の量産は固いけれど……。ニュータウン事業は、どう足掻(あが)いても間に合わなくなるわよ?」

 

「大丈夫。労働力には『アテ』があるんだ」

 

「そう、もう既に手を打ってあるのね。さすがだわ」

 

 ダイヤはすぐに<交信(コール)>を使い、現場作業員に指示を出し始めた。

 

(ニュータウンの開発は、もうちょっと後でいい)

 

 この街を活用するのは、『王選』の後だからね。

 そんなことよりも今は、武具の生産を急ぎたい。 

 

 ボクが未来のイベントを見据(みす)えていると、ダイヤが「ふぅ」と息をついた。

 

「あなたの指示通り、街づくりの人員を武具の生産へ移行したわ。これで猶予時間(バッファ)も十分だし、武具の方は絶対に大丈夫よ」

 

「それはよかった」

 

 ひとまず、安心してもよさそうだね。

 

「でも、こんなに大量の武具を作って、いったいどうするつもりなの?」

 

「実はもうすぐ『大きな戦い』が起こるんだ。それをどう(さば)くかによって、今後の『勢力図』が激変する。今作っている武具は全部、そのときに備えたモノだね」

 

 王選と違って、こっちの(いくさ)はかなり近い。

 具体的には、『第四章』の最終盤面(ラスト)だ。

 

 今はまだ『第三章』の途中であり、本来ならば、目の前のイベントに集中すべきなんだけど……。

 

(第四章は特別だ。何せ原作ロンゾキルア『前編』の()(くく)り、第一章・第二章・第三章の『総決算』にあたる、とても大切な章だからね!)

 

 ボクはそこでハイゼンベルク家の力を――いや、『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの力を見せ付ける!

 父ダフネスへ、四大貴族の当主たちへ、そして何より……クライン王国の王族たちへ!

 

 そのためにも今は、ボイドタウンという『水面下』で、しっかりと準備を整える。

 そうして万全な状態で『奴』を迎え撃ち、ケチの付けようのない、『圧倒的な実績』をあげるのだ!

 

(くくくっ……順調だ! ここまでは完璧、最高の展開(ルート)を進んでいる!)

 

 ボクが邪悪な微笑みを浮かべていると――ダイヤが声を掛けてきた。 

 

「ねぇ……ボイドはどこまで未来(さき)見据(みす)えているの? あなたの真の目的はいったいなんなの?」

 

「ふっ、そんなの決まっているだろう? ――『生存End(ハッピーエンド)』だよ」

 

 ボクの見据える未来・真なる目的、それはこの世界に転生した六年前から、一ミリだって変わっちゃいない。

 

 死の運命(シナリオ)に勝ち、生き残ること。

 

 誰もが当たり前のように享受(きょうじゅ)する、『(せい)』という極々(ごくごく)ありふれた状態。

 ボクはそれを勝ち取るため、ひたすらに努力しているのだ。

 

(現状、攻略チャートの障害になっているのは、たった一つ――『労働力不足』)

 

 ボクは(おり)に触れて家族を増やしているけど……それでもまだまだ足りていない。

 このままではニュータウンの開発事業は失敗に終わり、メインルート攻略に深刻な影響が出てしまう。

 

(でも、大丈夫! 労働力問題を一手に解決する、夢のような方法があるっ!)

 

 第三章の大ボスが持つ、起源級(オリジンクラス)の固有魔法だ。

 あの超便利な固有が手に入れば、労働力不足は一発で解消する。

 武具の生産も余裕で間に合うし、ニュータウンの開発も予定通りに終わる。

 

(たとえどんな手を使っても、『彼』だけは絶対に拉致するっ! そう、何があっても絶対にだッ!)

 

 決意を新たにしたボクは、攻略チャートを取り出す。

 

(さて……そろそろ第三章も終盤に突入する)

 

 今回の最終盤面は、レドリック魔法学校。

 大魔教団の幹部が、万全の準備を整えたうえで、奇襲を仕掛けてくる。

 

(どうせやるなら、『死者ゼロの完全攻略(パーフェクトクリア)』を目指したい……)

 

 きっとそっちの方が、原作ホロウ(ボク)の名声に繋がるだろう。

 

(そのためには、こちらも『場作り』をしなきゃだね!)

 

 つまり、ボクが次に取るべき最善手(こうどう)は――『レドリックの完全支配』だ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。