極悪貴族、謙虚堅実に無双する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~   作:月島秀一

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……すみません、2か月分の投稿予約をしていたつもりなのですが、どうやらできていなかったようです。
あとがきに大切な告知があるので、1分ぐらいで読み終わるので、最後まで目を通していただけると嬉しいです。

端的に言うと、本作が電撃文庫より書籍化、2026年3月10日発売です!


第24話:時は満ちた

 フィオナさんの頭がおかしくなった。

 いやまぁ元からおかしいんだけど……今回はいつにも増して狂っている。

 

「いきなり『(ほほ)をぶて』とは、いったいなんの冗談だ?」

 

「冗談でこんなことは言いません。私、今回は真剣なんです」

 

 どういうベクトルで真剣なのか、まったくわからないけれど……。

 彼女の言葉には、『迫力』があった。

 名状(めいじょう)(がた)い『圧』が、『本気の思い』が、ヒシヒシと伝わってくる。

 

(ふむ……どうやら訳アリみたいだね)

 

 臣下(しんか)の抱える悩みを聞き、道を示してあげるのは、次期領主の務め。

 仕方ない、ちょっとだけ時間を割くとしよう。

 

「手短に話せ」

 

 壁に背中を預け、話の続きを促すと、フィオナさんは「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

「私の人生は……これまでずっと『敗北』の連続でした。馬に負け、酒に(おぼ)れ、魔法省のお金を盗み……。五年前のあの日、ホロウ様に拾っていただけなければ、きっと今頃どこかの地下牢に繋がれていたことでしょう」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「私も今年で二十五歳、もう立派な大人です。真剣に自分を見つめ直し、問い掛けてみました。『フィオナ・セーデル、あなたはこのまま負け続ける人生でいいのか?』、と」

 

「ほぅ」

 

 これは驚いた。

 今日のフィオナさんは、いつもと一味違う。本気で生まれ変わろうとしている。

 

「敗北だらけの日々は、もう嫌なんですっ! 一度切りの人生、どうせならやっぱり……勝ちたいッ!」

 

「よく言った」

 

「今回こそは、絶対に勝つ! いや、勝たなくちゃいけない! 『クラインダービー』にッ!」

 

「いい心掛け……ダービー(・・・・)……?」

 

「はい! 以前にもお伝えしたかと思うのですが、来たる6月16日に『クラインダービー』が開催されます! これは上半期における最大規模のレースっ! 私はこの日のために軍資金を()き集め、今やその額は2000万の大台に乗りましたッ!」

 

 そう言えば……第三章の冒頭で、そんなことを言っていたっけか。

 

「……はぁ……」

 

 思わず、失望のため息が(こぼ)れ落ちる。

 

(こいつ、結局また馬じゃん……)

 

 真剣に話を聞こうとしたボクが馬鹿だったよ。

 

「あっ、その顔! 『こいつ、結局また馬じゃん』、と思いましたね!?」

 

「よくわかっているじゃないか」

 

「違うんですよ、ホロウ様! 今回の私はいつもと違うんです! 本気も本気なんですっ!」

 

 フィオナさんはそう言って、ボクの肩をゆっさゆっさと揺さぶった。

 

馬中毒(うまちゅうどく)の戯言に付き合っている暇はない。そこをどけ、俺は忙しいんだ」

 

「もがっ!?」

 

 無駄に美しい顔をグイと押しのけ、自分の部屋へ入ろうとすると、

 

「ほ、ホロウ様ぁ、そんな冷たいことを言わず、少しだけ話を聞いてくださぃ……っ」

 

 目尻に涙を浮かべた彼女が、腰にがっしりとしがみ付いてきた。

 

 無理矢理に()()がすのは簡単だけど……その場合、部屋の外でわんわんと泣かれそうだ。

 ここは借金馬女の『飼育コスト』と割り切り、少し優しく構ってあげた方が、結果的に丸く収まるだろう。

 

「はぁ……三分だけだぞ?」

 

「あ、ありがとうございます! さすがはホロウ様、なんだかんだでお優しい!」

 

 そうして先ほどの話に戻る。

 

「それで……今回のお前は、何がどう違うんだ?」

 

「よくぞ聞いてくださいました! 私は今回、来たるクラインダービーに備えて、『三つの必勝戦略』を用意したんです!」

 

 これ、もう聞く価値ないよね?

 

 競馬にはいくつもの不確定要素が絡む。

 当然のことながら、必勝法など存在しない。

 

 しかしまぁ、三分やると言った手前、ここで話を切るのは不義理だ。

 時間潰しも兼ねて、その必勝戦略とやらを聞くとしよう。

 

「どんな手を用意したんだ?」

 

「まず一つ目は――お酒を()つことで、この身を清めました!」

 

「ほぅ、それはいいことじゃないか」

 

 フィオナさんは『(うま)カス』であると同時に『酒カス』でもある。

『ヤニカス』じゃないのが、せめてもの救いだ。

 

「既に断酒を初めて四日、細胞がアルコールを求めているのがわかります……っ」

 

 そう言った彼女の手は、カタカタと小刻みに震えていた。

 

(……今日で断酒四日目、ダービーは三日後……)

 

 願掛(がんか)けとして酒を断つのはいいけど……さすがに期間が短過ぎないか?

 たかだか一週間ぽっちの断酒で、競馬の神様が微笑んでくれるとは思えない。

 

「そして二つ目は、超貴重な魔道具を用意しました!」

 

 フィオナさんの右手には、透明な小石が乗っている。

 

「これは『神秘の勾玉(まがたま)』と言って、霊験(れいげん)あらたかな森で清められた、凄い御利益(ごりやく)のある魔道具なんですっ!」

 

「そんな胡散臭(うさんくさ)いモノ、どこで手に入れたんだ?」

 

「露天商のオジサンから、特別に売っていただきました!」

 

「いくらで?」

 

「なんとたったの100万ぽっきり!」

 

「馬鹿だろ」

 

 1億%カモられている。

 

「断酒という縛りによる『ツキの大幅向上』! 神秘の勾玉による『運気の限界突破』! そして最後にもう一つ!」

 

 彼女はそこで言葉を切り、何故かこちらを見つめた。

 

「ここで『最初のお願い』に戻るのですが……。私の(ほほ)をぶっていただけませんか?」

 

「なんのために?」

 

煩悩(ぼんのう)を消すために」

 

「お前は天才だな」

 

 論理の飛躍が凄過ぎて、まるで意味がわからない。

 ボクが心の底から(あき)れ返っていると、フィオナさんがコホンと咳払いした。

 

「ホロウ様、この世界には『物欲センサー』という概念が存在します。自分が強く欲するモノは、<感知器(センサー)>の魔法で世界に()み取られ、むしろ遠く離れてしまう――という考え方です」

 

「あぁ、知っている」

 

 物欲センサーは、確かに実在する。

 ボクが原作ロンゾルキアをプレイしていたとき、『龍の極鱗(ごくりゅう)』という超レアドロップを狙って、一か月ほど龍を狩り続けたことがある。 

 

(しかし、そういうときに限って、何故か全くドロップしない……)

 

 普段なんでもないときには、ポロッと簡単に落ちたりするのにね。

 

(物欲センサーを『迷信』や『オカルト』だという声もあるけど……それは違う)

 

 この現象は全世界で確認されており、きっと多分おそらく確実に存在するモノだ。

 

「私はとある可能性に気付きました。競馬でド派手な勝利を――『一攫千金』を求めるあまり、物欲センサーに(はじ)かれているのではないか、と」

 

「そうか」

 

「だからこそ、ホロウ様に強烈な一撃(ビンタ)をもらい、『無我の境地』へ至るっ! そうすれば物欲センサーを掻い潜り、きっと勝てるようになると思うんですッ!」

 

 フィオナさんはその豊かな胸を張って、自身の考えを高らかに発表した。

 

「こんなこと、ホロウ様にしか頼めません。どうか何卒お願いします、私の頬をぶってください!」

 

 もはやツッコミどころしかないけど、そろそろ予定の三分が経過する。

 ビンタ一発で終われるのなら、サクッとやってしまおう。

 

「フィオナ、舌を噛まぬように口を閉じろ」

 

「ありがとうございます!」

 

「では、行くぞ?」

 

「ばっちこいです!」

 

 ゆっくりと右手を振りかぶり、フィオナさんの左頬を()(ぱた)く。

 

「――ぶへぁッ!?」

 

 彼女はド派手に床を転がり、ピクピクと痙攣(けいれん)した。

 せっかくの機会なので、ちょっと強めにイッておいたのだ。

 

(今の衝撃で、『真人間』になってくれたらいいのにな……)

 

 そんなボクの切なる願いは、

 

「ふぅふぅ……よし、これで勝てるッ!」

 

 まったく届かなかった。

 人間、そう簡単には変われないね。

 

(しかしフィオナさん……やっぱり(・・・・)タフ(・・)だな(・・)

 

 ボクが『とある設定(・・・・・)』を思い出していると、彼女が勢いよく頭を下げた。

 

「ありがとうございました! これでクラインダービーは、絶対に勝てますっ! 人生一発大逆転勝利、間違いなしですッ!」

 

 凄いね、もう煩悩が駄々洩(だだも)れだよ。

 

「精々励むといい」

 

「はいっ! それではホロウ様、おやすみなさい」

 

 フィオナさんは会心の笑顔を浮かべ、自分の部屋に帰って行った。

 

(ダービーの開かれる6月16日は、悲惨なことになりそうだね……)

 

 彼女の幸運値は『-1000』、ロンゾルキアでもぶっちぎりの最下位。

 きっと軍資金の2000万を全て溶かし、泣きべそを()いて帰ってくるだろう。

 

 こうして借金馬女を軽くいなしたボクは、自室へ戻って席に着き、第三章の攻略チャートを眺める。

 

(……よしよし、これ以上ないほどの進み具合だっ!)

 

 この五日間、ボクはひたすら『サブイベント』をこなし続けた。

 

 まずは王都のチェス大会。

 実戦で腕を磨きつつ、優勝を()(さら)い、『(はく)』を付けようと思ったのだ。

 ちなみに決勝の相手は――なんとうちの執事長オルヴィン・ダンケルトだった。

 

「坊ちゃま、ここで会ったが百年目……先日の雪辱、果たさせていただきます」

 

「くくっ、面白い。受けて立とう」

 

 あれから(ひそ)かに特訓を重ねたのか、オルヴィンさんは遥かに手強かった。

 彼は死ぬほど負けず嫌いだからね。

 

 だがしかし、ホロウ(ブレイン)の進化は凄まじく……。

 

「……さすがでございます」

 

「お前も見事な指し筋だったぞ」

 

 (ふた)を開けてみれば、ボクの圧勝に終わった。

 これで第四章の『チェスイベント』は、簡単に乗り切れるだろう。

 

 その後も大貴族(・・・)以外と(・・・)交流を深め、王都の商業組合と密会を重ね、『先々の布石』を着実に打って行った。

 こういう小さな積み重ねが、やがて『大きな差』を生むからね。

 

 基本はメインルートの流れに沿って、学校・サブイベント・修業を()()する。

 その合間を縫って、(うつろ)の定時報告・ボイドタウンの視察・主人公モブ化計画をこなすのだ。

 

 ちなみに……第三章からランダムで発生する暗殺者の襲撃は、なんとこの五日間で『七回』を数えた。

 

(……いや、いくらなんでも多過ぎるでしょ……)

 

 一日当たり1.4回エンカウントしている計算だ。

 

(原作ホロウへの殺意が高過ぎる。せめて平均1回に抑えてくれ……)

 

 この世界は、どれだけ悪役貴族(ボク)を殺したいのか。

 

 そして明日からはまた、『怒濤のイベントラッシュ』が始まる。

 今のようにゆっくり攻略チャートを眺められるのは、おそらく今日この時間が最後だ。

 ルート分岐をミスらないよう、しっかり確認しておかないとね。

 

(そう言えば、『ケルビー家の回収イベント』。そろそろ頃合いだと思うんだけど……まだ発生しないのかな?)

 

 もう間もなく第三章は最終盤面に突入し、『聖レドリック祭』が始まってしまう。

 ケルビー母娘(おやこ)を仲間にできるのは今このときだけ、所謂(いわゆる)『取り返しのつかない要素』だ。

 

(……ちょっと不安になってきたな、監視のシュガーに連絡をしてみよう)

 

 ボクが<交信(コール)>を使おうとしたそのとき、遥か遠方から念波(ねんぱ)が飛んできた。

 噂をすればなんとやら、(うつろ)の構成員シュガーからだ。

 

(ボイド様、シュガーでございます。監視対象リン・ケルビーが(さら)われました)

 

(ふふっ、ちょうどいいタイミングだね!)

 

(相手は濃紺の外套(がいとう)を纏った三人組、現在は王都北西部へ移動中です。『手出しは無用』とのことでしたので、このまま尾行を続けます)

 

(うん、お願い。ボクもすぐにそっちへ飛ぶよ。――あっでも、『森』の中には入らないでね? 多分『探知結界』が張ってある、追うのはその手前までだ。大魔教団の奴等にバレると、逃げられちゃうかもだからさ)

 

(承知しました)

 

交信(コール)>切断。

 ボクは漆黒のローブを(まと)い、ボイドの仮面を付ける。

 

(ふふっ、『じっくり熟成させたカレー』が、イイ感じに出来上がったようだね!)

 

 時は満ちた。

 第三章の冒頭から、丁寧に丁寧に立ててきたフラグが、今宵(こよい)ようやく成立する! 

 

 さぁ、悲劇の運命(シナリオ)に囚われたケルビー母娘(おやこ)救済(かいしゅう)しに行こうじゃないか!




【※過去最高に大切なお知らせ】
突然ですが、本作の書籍化が決定しました!
2026年3月10日にKADOKAWA電撃文庫より、タイトルを少しだけ変更し――「極悪貴族、謙虚堅実に無双する」として書籍化します!
イラストレーターは、しずまよしのり先生!
カバーイラストは、こちら!
【挿絵表示】

尊大なホロウ・可愛いニア・凛々しいダイヤの三人組です!

書籍版1巻にはWeb版第1章が収録、当然たくさんの加筆もあります!
ニアとのデートシーンを追加、馬カスのエピソードを深掘り、戦闘シーンを増やしたり……ほぼ全てのページに手を加えました!
Web版はプロットVer、書籍版は完全Ver、というぐらい完成度に差があるので、どうぞ手に取っていただけますと幸いです!

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4049169339

最後になりますが、ここまで本作を応援いただき、ありがとうございました!
皆様のおかげで、書籍化することができました!
原作ロンゾルキアが完結するそのときまで、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

月島秀一
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