極悪貴族、謙虚堅実に無双する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~   作:月島秀一

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【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
本日2026年3月10日、書籍版第1巻が発売となりました!
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第31話:一家に一台

 全体に指示を出し終えたボクが、そろそろ暗躍を始めようかというそのとき――体からスゥっと魔力が抜けていった。

 どうやら第三層『魔力吸収の結界』が張られ、『三重結界』が完成したようだ。

 

(なるほどなるほど、これ(・・)が魔力を吸われる感覚か……初体験だね)

 

 こそばゆいような、もどかしいような、じれったいような、とにかくスッキリしない感覚だ。

 

「んっ……。なに、これ……変な感じ……っ」

 

 隣のニアさんが、やけに(つや)っぽい声を出す。

 

 きっと初めて魔力を吸われて、驚いているんだろうけど……。

 

(……やめてくれ、今はそういうときじゃないんだ)

 

 高鳴る情欲を抑えつつ、冷静に現状を分析する。

 

(原作通り、吸収される魔力の量は、『割合』じゃなくて『定数』。毎秒いくらいくらって決まっているっぽいね)

 

 体感的には全魔力の0.00001%……ぐらいだろうか?

 吸われているような感じはするけど、「如何(いかん)せん微量(びりょう)過ぎてよくわからん」、というのが正直なところだ。

 自然回復する魔力>>>>>吸収される魔力なので、実質的な被害(ダメージ)は完全にゼロ。

 この結界の中で生活しても、なんら困ることはないだろう。

 

(ただ……ボクみたいなのは、例外中の例外だ)

 

 おそらく一般の生徒たちは、魔力の(とぼ)しい者から順に倒れていき――やがて死に至る。

 そうして吸い上げた魔力は全て、あそこ(・・・)に集められるというカラクリだ。

 

 (そら)を見上げれば、強力な三重結界が折り重なり、その頂点に巨大な『黄金の(かま)』が浮かぶ。

 

(いやしかし、綺麗だなぁ……)

 

 あれこそが、ラグナの固有<原初の巨釜(おおがま)>だ。

 起源級(オリジンクラス)のこの魔法は、あらゆる事物(じぶつ)を『吸収』・『貯蔵』するという、非常に特異(ユニーク)な特性を持つ。

 

(あまり戦闘向きじゃないけど……ラグナの職業『召喚士』と組み合わせたとき、一気にバケる(・・・)

 

 まず大前提として、原作ロンゾルキアの召喚士は、かなりの『強職(きょうしょく)』だ。

 何せ召喚魔法を使えば、相手に『多対一(たたいち)』を強制でき、ほぼほぼ数的有利が取れるからね。

 

(しかしその分、デメリットも強烈)

 

 召喚士は一般魔法をまったく覚えられず、召喚系統の魔法しか使えなくなってしまう。

 また後衛職に属するため、いくら数的有利があったとしても、間合いを詰められるとやっぱり苦しい。

 

(そしてもう一つ、召喚士には『致命的な弱点』がある……)

 

 それは――シンプルに面倒(・・)くさい(・・・)

『召喚獣A』を使役するには、①魔獣や精霊を発見②戦闘して勝利③<契約(コントラ)>を締結、この三ステップを踏む必要がある。

 

(ここまでは別にいいんだけど……)

 

 もしも召喚獣Aが倒された場合、その契約は自動的に破棄され、先の①②③ステップを踏み直さなくちゃいけない。

 

(これが死ぬほど面倒で、不便なんだよね……)

 

 当然ながら、同じ戦闘中に召喚獣Aの再召喚は不可能。

 召喚獣B・C・Dと新たな手札を切らざるを得ず、もしもそのうちの一体が倒れたら、その子ともまた契約を結び直す必要がある。

 

(つまり、『一回切りのタイマン』には強いけど、『連戦』や『長期戦』には滅法弱い)

 

 だからボクは、最初の職業選択で、召喚士を選ばなかったのだ。

 

(でも、<原初の巨釜(おおがま)>を使えば、この(・・)デメリ(・・・)ットを(・・・)踏み(・・)倒せる(・・・)

 

 召喚契約を結ぶとき、<原初の巨釜(おおがま)>を間に噛ませて、対象の(・・・)魂の(・・)一部を(・・・)吸収(・・)貯蔵(・・)

 この『魂の情報』を召喚することで、オリジナルと全く同じ『複製』を呼び出せてしまうのだ。

 

 これは本物じゃなくて、ただのレプリカ。

 敵に倒されても再契約の必要がなく、その場ですぐに再召喚ができる。

 それどころか、自分の魔力が許す限り、何体でも無限に呼び出せてしまう。

 何せ召喚しているのは、魂の一部をもとに作った複製体に過ぎないからね。

 

 つまり、召喚獣Aと契約を結び、再召喚を繰り返すだけで……何千何万という『大軍勢』が作れてしまうのだ。

 

(そしてこの召喚獣Aが、もしも『死霊系の魔獣』だったら?)

 

 たとえば『スケルトン』、こいつは種族的特性から、水・食料・休息を必要としない。

 ひとたび呼び出せば、文句を言うことなく、永遠に働き続ける。

 

(ラグナを家族に迎え入れ、死霊系の魔獣と契約させる。それから彼が失神するまで、ひたすら再召喚を繰り返させれば――ボクは文字通り、『無限の労働力』を手にする!)

 

 ラグナ・ラインが一家に一台あるだけで、面倒な炊事も洗濯も掃除も全て解決!

 ボイドタウンの二大事業、『武器の超大量生産』と『ニュータウンの開発』も、きっと爆速で進むだろう。

 

 召喚士×<原初の巨釜(おおがま)>は、やっぱり最高の組み合わせだ。

 

嗚呼(あぁ)、欲しいよ……っ)

 

 ラグナ・ラインが。

<原初の巨釜(おおがま)>が。

 無限の労働力が。

 

(喉から手が出るほどに欲しい……ッ)

 

 ……ふふふっ、キミだけは絶対に逃がさないからね?

 

(たとえどんな手を使っても、必ず家族へ迎え入れる……!)

 

 ボクが熱の籠った視線を向けると、三重結界を張り終えたラグナが、凄まじい大声を張り上げる。

 

「俺は大魔教団幹部『天魔十傑(てんまじっけつ)』の一人――『獣災(じゅうさい)のラグナ』だっ!」

 

 ラグナ・ライン、30歳。

 身長2メートル70センチ、遠目からでもわかる屈強な筋肉、金色の長髪を逆立(さかだ)たせた独特のヘアスタイル。

 暴力性を秘めた琥珀(こはく)の瞳・捕食者を思わせる大きな口・猛獣のような鋭い犬歯、『金色の獅子(しし)』の如きワイルドな大男だ。

 

 おそらく服装には、(こだわ)りがないのだろう。

 上にはシャツなどのインナーは着ておらず、(そで)の千切られた野性味(やせいみ)(あふ)れる茶色の羽織を(まと)い、下はボロボロに破けた茶色のズボンを穿()いている。

 

「てめぇらに恨みはねぇが……『上』からの命令があったんでな、今からこの学校をグッチャグチャにする! 三つの結界を張ってあっから、逃げ道はどこにもねぇぞーッ!」

 

 ラグナがバッと右手をあげると同時、1000体を超える大量の召喚獣が、一斉にレドリックへ進軍を始めた。

 

「そんでもって、アレン・フォルティス! お前だけが持つ『なんちゃら因子』が必要らしい! 隠れても無駄だ! 大人しく出て来やがれッ!」

 

 彼は荒々しい魔力を解き放ちながら、手前勝手な要求をズケズケと述べた。

 

(ふふっ、いいね、最高だよ!)

 

 ラグナが口にしたここまでの台詞(せりふ)は、原作ロンゾルキアのイベントと全く同じ。

 

(こういうの、今までも何度かあったけど……やっぱり気分が上がるっ!)

 

 自分がロンゾルキアの世界に生きている、そんな実感を強烈に与えてくれるのだ。

 

 ボクがニコニコと微笑む(かたわ)らで、

 

「な、なんて獰猛(どうもう)な魔力なの……っ」

 

 険しい顔をしたニアが、ゴクリと唾を呑んだ。

 

 そんな折、アレンが校庭に現れる。

 残念ながら、メイド服じゃない。

 いつもの制服に着替えてしまっている。

 

(とりあえず……この場は主人公に預けようかな)

 

 メインルートのイベントシーン、本当は最後までじっくり見たいんだけど……。

 

 ボクの目的は、あくまで完全攻略(パーフェクトクリア)

 これを達成するためには、いろいろと『裏』で動かなくちゃいけない。

 

 まずは……最も厄介な『三重結界』を一度この目で確かめておこう。

 

「ニア、付いて来い」

 

「うん」

 

 本校舎を出て裏門へ向かい、結界の外縁部(がいえんぶ)に触れる。

 

(ふむふむ……)

 

 原作ロンゾルキアにおける三重結界は、『破壊不能物質(アンブロークンオブジェクト)』。

 所謂(いわゆる)『システムに保護された破壊できないモノ』になっていたんだけど……。

 

(なるほどなるほど、こっちではこう(・・)いう形(・・・)に置き換わるのか)

 

 目の前のこれは、単純に『超高出力の結界』となっていた。

 第三章の時点で、主人公陣営がこれを突破するのは……まず無理だ。

 システム的に壊せないわけじゃないけど、現実的にほぼ壊せない設定となっている。

 

(いや、面白いね!)

 

 現実(リアル)虚構(ゲーム)の中間地点、ちょうどいい『落としどころ』だ。

 

(<虚空>なら、三重結界を丸ごと消し飛ばすことできる)

 

 でもその場合、かなり大きな魔力を使うことになり……ボクの正体がボイドだとバレかねない。

 ここはメインルートと同じ『正攻法』、フィオナさんとリンの共同作業で、結界を解析してもらうのが丸いだろう。

 

(それじゃ早速、キーパーソン二人を見に行くとしようかな)

 

 ボクが再び移動を始めたそのとき、

 

「きゃぁああああああああ……!?」

 

 遥か前方で白服の女生徒が倒れ、

 

「ゲギギギギギギギギ……!」

 

 蟲型(むしがた)の召喚獣が忍び寄る。

 

「ホロウ、アレ!」

 

「あぁ、わかっている」

 

 ボクは右足を振りかぶり、足元をコツンと蹴った。

 

 次の瞬間、舗装された道が()ぜ、大小様々な瓦礫(がれき)が飛ぶ。

 

「ギ……ゲギャッ!?」

 

 ラグナの召喚獣は、石の津波に呑まれ、淡い光となって消滅した。

 

「ねぇ……今のって『生身の一撃』、よね?」

 

「見ればわかるだろう」

 

「そ、そっか……(いやいやいや、あんなのもはや『土魔法の奥義』でしょ……っ)」

 

 何故か顔を引き()らせるニアをスルーして、今しがた襲われていた女生徒のもとへ向かう。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「は、はい……ありがとうございます……っ」

 

「単独行動は危険だ。どこかのグループに混ざれ」

 

 その直後、助けを求める声が小耳に入る。

 

「お、お願い……誰か……っ」

 

 特別棟の片隅で、女生徒が倒れており、

 

「バボボボボボボボッ!」

 

 魚型の召喚獣が、凄まじい勢いで殺到する。

 

「まったく、次から次へと……」

 

 足元の小石を掴み取り、適当にポイと投げ付けた。

 

 次の瞬間、

 

「バボッ!?」

 

 召喚獣の頭部が、綺麗に(はじ)け飛んだ。

 

「そこの女、さっさと逃げろ」

 

「は、はぃ、ありがとうございます……っ」

 

 その直後、また別の場所で悲鳴があがった。

 

 でも、そちらは聖騎士が対応してくれたっぽく、わざわざボクが出張らずに済んだ。

 

(うーん、これじゃちょっとキリがないな……)

 

 どうしたものかと頭を(ひね)ったそのとき、ホロウ(ブレイン)が名案を(ひらめ)いた。

 

(そうだ、あそこ(・・・)に行けばいい!)

 

 原作ホロウの知性は、ロンゾルキアで最高の数値を誇る。

 情欲による超弱体化(デバフ)さえなければ、どんな問題も一瞬で解決してしまうのだ。

 

「ニア、行くぞ」

 

「こ、今度はどこに……?」

 

「あそこだ」

 

 ボクはスッと右腕を伸ばし、レドリックで最も高い建造物――『時計塔』を指さした。




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