妖怪城での出来事から2日ほど経ち、行きつけの喫茶店に向かっていた僕は歩きながらこの前会ったどこか古風な男の子の事を思い出していた。
…あれって、どう見ても鬼太郎だったよね?
ゲゲゲの鬼太郎。前世で存在していた妖怪漫画の一つだ。有名な作品だから原作漫画とアニメを見た事がない僕でもキャラクターは知っている。
いや~、漫画のキャラクターに会えるだなんて不思議な事もあるもんだね…あ、
「「あっ…」」
喫茶店に向かって歩いていると僕はある人物と鉢合わせ、その人物と揃って声を漏らしてしまう。その人物は僕がこの前助け出した女の子だった。
「えっと…乙骨憂太さんですよね?」
「そうだけど、どうして名前…あ、もしかしてあの古風な男の子から聞いた?」
「古風?…あ、はい。鬼太郎から」
あ、やっぱり彼は鬼太郎だったんだ。
「わ、私、この前の事でずっとお礼を言いたかったんです!助けてくれてありがとうございました!」
「ハハ、どういたしまして」
女の子からのお礼を僕は素直に受け取る事にする。
「私、犬山まなって言います!乙骨さんは…」
僕に何かを聞こうとしたところで女の子、犬山さんのお腹の音が聞こえてくる。
「うぅ~…///」
犬山さんは恥ずかしかったのか、顔を赤くして恥じらいの表情をしている。
…そうだ!
「犬山さん、これから行きつけの喫茶店に行くところなんだけど、良かったら来る?奢るよ」
「そんな!むしろ私が奢りたいくらいですよ!」
「お礼のつもりで奢りたいなら気にしなくていいよ。犬山さんが無事だった事が何より嬉しい事だからさ。助けが来るまでよく頑張ったね」
そう、よく考えたら犬山さんは妖怪に捕まって怖い思いをしてた筈なんだ。本当に助け出せて良かったな。
「あ、ありがとう…ございます…」
犬山さんは俯いて呟く。やっぱり相当怖かったみたいだ。
「それじゃあ…お言葉に甘えて良いですか?」
「もちろんだよ」
こうして犬山さんも一緒に喫茶店に行くことになったのだった。
喫茶店に着いた僕と犬山さんは店の中に入る。
「いらっしゃいませ…やぁ乙骨君!」
店に入った僕達を出迎えたのは左目に傷跡が付いていて左耳が一部欠けているおじいさんだった。
「こんにちはオーナー」
「よく来たね…おや、その子は?」
「彼女は犬山まなさん。この前知り合って偶々会ったのでここに連れてきたんです」
「初めまして、犬山まなです!」
「これはどうも。この店のオーナーをしている者です」
犬山さんとオーナーは互いに自己紹介をする。
それから僕と犬山さんと一緒にこの店一番人気のパンケーキを食べていた。
「おいしい~~!!」
「でしょ?僕もここのパンケーキが一番好きなんだ」
犬山さん、どうやらここのパンケーキを気に入ってくれたようだ。
「そういえばここに来る前に僕に何か聞きたい事があったんじゃないの?」
「その…乙骨さんってどうして妖怪相手にあそこまで戦えるんですか?」
「ああ、それは僕の中にある呪力で身体能力を強化してるからだよ」
「じゅりょく?」
「呪力っていうのはね、人間の負の感情から生まれるエネルギーの事だよ。僕の遠いご先祖様が有名な呪術師だったらしくてね、たぶんその人の力が遺伝したんだと思う」
僕の説明が少し難しかったのか、犬山さんの顔がポカンとした表情になっていた。
「よ、要するに乙骨さんはその力を使って妖怪と戦える凄い人って事ですよね!」
「僕はそんなに凄くないよ。今は呪力なしでもそれなり身体を動かせるけど、これでも昔は非力だったんだし」
「そうなんですか?」
「うん。最初は刀すら上手く扱えなかったしね」
僕が乙骨に転生したと自覚するまでは本当に非力だったんだよなぁ。力をつける為に特訓してたのが今となっては懐かしいよ。
「でも、私はホントに乙骨さんを凄い人だと思いますよ。私なんて、戦う力も無いのに一人で突っ走って鬼太郎に迷惑かけちゃったし…」
「どういう事?」
「…前に鬼太郎から言われたんです。人間と妖怪は友達にはなれない。交わるべきじゃないって。私は鬼太郎と友達になってたと思ってたから凄くショックでした…」
なるほど。この前鬼太郎君が僕の質問に答えなかったのはそういう背景があったからなのか。
「学校の社会科見学の時に行った工事現場に石で出来た柱があったんです。同じ学校の子には見えてなかったから妖怪絡みの物かもって思って鬼太郎に知らせようとしたんですけど…」
「もしかして、知らせなかったの?」
「はい…不確定の事で鬼太郎に迷惑をかけたくなかったから一人で調べに行ったけど、そのせいで妖怪に捕まっちゃったんです…」
「そうだったんだ…でも、鬼太郎君は犬山さんを迷惑だなんて思ってないと思うよ。実際君を助けに来たわけだしね」
「それは、鬼太郎から聞きました。もう私を妖怪のいざこざに巻き込みたくなかったって。それでも私、鬼太郎や妖怪達の事を知りたかったんです。それから私、鬼太郎とちゃんと友達になれたんです!」
そう口にする犬山さんはホントに嬉しそうだ。
「そっか。良かったね!」
「はい!…あ、それと…」
すると犬山さんがどこか緊張しながら何か言おうとしていた。
「…私、乙骨さんとも友達になりたいです!」
「僕と?」
「はい!」
友達か…犬山さんと友達になったら楽しそうだな。
「僕で良ければ。これからよろしくね」
「ほ、ホントですか!?」
「う、うん。二言はないよ」
「あ、ありがとう!こちらこそよろしくね、ゆう兄!」
「ゆ、ゆう兄…?」
「憂太だからゆう兄。ゆう兄も私の事は下の名前で呼んでいいよ」
犬山さんって結構グイグイ来るなぁ…僕ってコミュ力低い方だから彼女の高いコミュ力が羨ましいよ。
「それじゃあ…まなさん。これでいいかい?」
「は、はい…どうせなら呼び捨てが良かったな…」
「うん?何か言ったかい?」
「う、ううん!何でもない」
それからパンケーキを食べ終わり、僕達はそれぞれの家に帰っていった。
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その日の夜、まなは湯船に入りながら今日の事を思い出していた。
「今日はゆう兄と話せて楽しかったなぁ…」
まなの乙骨に対する第一印象はどこか影を帯びており、自分の知る普通の人間とはどこか違う不思議な人だった。
しかし今日話してみてまなの乙骨に対する印象は大きく変わった。乙骨は普通に会話をするし、会ったばかりのまなの事を気に掛けてくれていた。
『犬山さんが無事だった事が何より嬉しい事だからさ。助けが来るまでよく頑張ったね』
「ゆう兄ってば、急にあんな事言われたらドキドキしちゃうよ…」
あの時乙骨は俯いたまなを見て怖い思いをしたんだと思っていたが実際は違う。あの時は突然自分を労う言葉をかけられたので照れていただけだった。
「…私って、結構チョロいのかな?」
まなは妖怪城の出来事より前に起きた妖怪絡みの事件で鬼太郎の仲間である猫娘に強い憧れを抱いたが、乙骨に対して抱いているのは憧れとは似て非なる感情だ。その感情が何なのか、まなは少なからず理解していた。
「ゆう兄…」
まなは顔を赤くしながら湯船に顔を埋める。
それからしばらく湯船で乙骨の事を考えていたらしいが、案の定のぼせてしまったようだ。
今回はある人物が登場しましたがもちろん正体はあの人です。小説版では故人らしいですがこの作品では存命という設定です