今こそ、目覚めの刻──。
『ルールは、破るためにあるっ!』
開拓力を、解き放て!
気がつけば、身体が動いていた。
宇宙基地のガラス天井(の、ように見えるシールド)に届く大きさの異形の生物は、地面に膝を折った身動きの取れない少女を今にも殺戮せんとしていた。
その少女は、貴方が『穹』として目覚めて初めて出会った人物だった。
騒がしくマイペースで、能天気な性格の女の子。
けれど記憶の無い自分を気にかけ、親切にしてくれた善良な人だった。
それが、目の前で消し飛ぶ様を直視するのを、貴方は死んでも拒絶したかった。
傷だらけのまま、全速力で少女の前に立った貴方は、来たる一撃をその身を持って防ごうとする。
──あぁ、これは、死ぬな。
無情にも放たれた光の奔流が、貴方が見た最後の光景だった。
意識を失った貴方は、広大な宇宙よりも真っ暗な闇に浮かんでいた。
自分は死んだのだろうか? あの光の奔流を受けて無事であると言う確信はない。
ならば、止まったはずの脳は、死してなお思考を続けているのか。
次々と疑問が浮かぶ貴方の頭上に、金色の光がかっと差し込んだ。
暗闇をガラスのように砕き、引き裂き、それは現れる。
褐色の素肌と、毛並みの良い白髪の男──しかし両腕は肘の辺りで途切れ、胸の大きな傷らしき痕は黄金の血で輝いている──その風貌はまさに人ならざるもの、人が思い描く神そのものであった。
『旅立ちの時間よ』
「これは・・・?」
『さぁ、あの終点に』
「だ、れ・・・?」
『自らの意思であの結末に辿り着くといい』
記憶に薄らとある姿なき声に困惑してると、貴方を品定めするような、無感情な金色の瞳が、すっと細められる。
『ほら。その眼差しは既に君に向いている』
と、同時に、貴方の身体を莫大な力の奔流が襲い、すぐにその制御が効かなくなる。
胸に埋め込まれた異物の力と、リフレインされる複数の見覚えのない光景。意識が呑み込まれる寸前──今度は男よりも遥か頭上から落ちてきた青い雷が貴方の身体を貫いてきた。
──!?
塗り替えられるかのように次々と頭に流れ込んできたのは、全く別の光景。燦然と光輝く太陽の様な球体の造物が頭頂部を成す塔が、全てが翠結晶で出来た都市を余す所なく照らす。そこは、まさしく光の国であった。
流れ込んで来た塔と都市の情景も前触れもなく途切れ、次いで身体中で暴れ回る力の流れが変わっていき、雷に方向性を与えられたかの様に四肢の隅々まで行き渡っていくのを感じる。
──今度は、何だ・・・!?
いつの間にか白髪の男の姿が消えていた事に貴方は気づく事もなく。貴方の視界は金色の光に包まれていった。
場面は移り変わり、宇宙ステーション。
反物質レギオンの対天体兵器、終末獣と辛くも交戦を続けていた星穹列車は、撃退寸前まで漕ぎ着けた所で敵からの死に物狂いの一撃を受け、今にも瓦解しようとしていた。
星穹列車の乗員は全員無事、しかし、これから乗員になるであろうと思っていた、いや熱心に勧誘していた青年が犠牲となった。
「やだっ! 丹恒、離して!? あの子が!」
「三月! よせ、やめるんだ!」
あの光の直撃を受けて無事だった生物を丹恒は知らない。
反物質エンジンを元に生成された、純粋な『壊滅』エネルギーの塊をぶつけるあの攻撃は、いかに屈強な戦士であろうと屠ってきた。
目の前で自分を庇って人が消し飛んだ事で錯乱に近い状態になった三月なのかに対し、丹恒は苦悶の表情を浮かべて必死に引き留めた。
「終末獣の攻撃を諸に受けたんだ。生きていたとしても、どの道──」
「みんな! 来るわよ!」
「っ!」
星穹列車のナビゲーター、姫子の号令に丹恒は咄嗟に身構える。
損傷させた反物質エンジンは既に修復を終えたのか、瀕死だったはずの終末獣は巨大な硬質の翼を羽ばたかせ丹恒たちを優雅に睥睨する。
バケモノめ、と丹恒は心の中で毒づく。
「どうする? 姫子さん」
「・・・ホームにまで入られた以上、ステーションを守る術はここの人達には無いわ」
「やはり、ここで倒すしか無いのか・・・!」
「そんな・・・」
丹恒はここに来るまでの連戦で疲弊し、三月なのかもまた同じだった。
唯一まだ余力のある姫子も、この戦力差を覆す術を思いつけなかった。
そして終末獣がその爪を振り翳そうとした瞬間、丹恒達と終末獣の間で金色の光が迸る。
「なんだ!?」
光はどんどん大きくなった。まるで荒れ狂う力の奔流の様に。
終末獣すら本能的に慄かせるそれは徐々に一つの形を成していき、やがて収束する光は二足で直立する巨大なシルエットを形作った。
「なに、あれ・・・? 巨人・・・?」
あれほど眩かった光が、消える。
口から零れ落ちたなのかの言葉が指し示すように、光があった場所には『巨人』が立っていた。
全身は黒く、光輝く金のラインが体中を巡っている。筋骨隆々の起伏のある胴体の胸部の中心には菱形の青い水晶を埋め込んでおり、左右二つの突起が天に逆立った特徴的な頭部は、まるで冠を被っている様だった。
反物質レギオンのヴォイドレンジャーのような異形の人型ではない。対峙する終末獣とほぼ同じ大きさであるに関わらず、その姿はある種芸術品のような神秘性があった。
しかしその巨人から感じられる力は、其れらと同じ紛れもない「壊滅」のエネルギーであった。
『・・・・・・』
巨人はしばし立ち尽くしている。
状況が呑み込めないのは丹恒達だけではなく終末獣も同じで、戦場で硬直する双方の間に突然として現れた巨人は二組へ交互に金色の視線を向け──
『デュアアアァッ!!』
空間を震わす怒号と共に、終末獣の頭部らしき三日月のモニュメントに思いっきりストレートをぶちかました。
「なんだ、あれは・・・」
諸事情あって列車と共に宇宙ステーションから離れていたその男は、仲間である姫子達の危機に急いで駆けつけたにも関わらず足を止めていた。
仲間の前では決して冷静さを崩さないその表情は、眼鏡がずり落ちかけているのも気づかず、今や愕然とした様を隠そうともしていなかった。
「まさか・・・ウルトラマン・・・?」
あの空間から目が覚めたら何故か『巨人』となっていた貴方は、なのかと丹恒、姫子の無事を確認した後、硬直する終末獣へさっきのお返しとばかりに拳をお見舞いしてやった。
貴方の拳に対して終末獣は避ける事もガードする事も叶わず、三日月の顔面はひしゃげ、破片が目の前で舞う。
が、肝心のダメージはそれほどでは無かった様で、怒り狂った終末獣は巨人となった貴方に恐らく本能的に右の爪を振った。
『ッ!』
反射的に腕で防ぐと強い衝撃が走ったが、それだけ。
どうやら巨大化した事で力だけでは無く肉体強度も上がっているらしい。
自分の肉体がどうして巨大化したのか、ずっとこの姿でいるのかなど様々な疑問や不安が浮かんだが、貴方は強く目の前の敵を見据える。
『効くかよそんなのッ!』
さっきの様子からして頭は大して重要ではないのだろう。
ならばと貴方は素早く終末獣の懐に入り込み、その重要器官らしき腹部の球体に短い拳を何発も叩き込む。
『デダダダダダダダダダダッ・・・デアアッ!!』
最後の一撃は渾身の力を込めて。
案の定、腹部の弱点に連打を喰らった終末獣は金属を擦り合わせたような悲鳴を漏らし、体をぐらつかせた。
今まで与えてきたダメージの蓄積もあるのだろうが、かつて小さな『穹』だった時に感じた威容は薄れていた。
『・・・デュアッ!』
いける。勝利を確信した貴方は、拳を握り腕を肩まで上げて腰を低し、いわゆるファイティングポーズをとった。
「どう言う事!?」
一方、目の前の光景になのかを初め丹恒も姫子も戦場である事を忘れ釘付けになっていた。
突然巨人が現れたかと思えば終末獣と戦闘を始めたのだ、普段冷静な丹恒や余裕を崩さない事で有名な姫子もこれには取り繕う事も出来なかった。
「味方って事でいいの? あの巨人!」
「まだ分からないが、少なくとも終末獣とは敵対関係にあるみたいだな」
「・・・て言うか、あの姿、何となく『穹』に似てる様に見えない?」
姫子の言葉に丹恒となのかもはっとするように気づく。
サイズこそ全く異なるが、宇宙ステーションの港内で大立ち回りする巨人の体の配色は先ほど光の中に掻き消えた彼が着ていた服と似ている。
それに加え、巨人が光と共に現れたのも彼が先程まで立っていた地点だった。
これは偶然か? いや、偶然にしては余りにも不自然すぎる。そして姫子が言わんとしている事も二人には分かった。
「巨人に変身したって事・・・? ヨウおじちゃんが見せてくれたアニメのフィルムにもそんなのあったよね?」
「三月、これは現実だ。ありえない・・・と、言いたいところだが、ここは『宇宙ステーションヘルタ』だからな」
あの天才クラブに所属するヘルタが収集物を保管するために作り上げた場所なのだ。中にはそう言った『奇物』があったとしても驚かない、丹恒はそう言った。
「じゃああの子は生きてるんだよね! よかったぁ! もー、庇われて死なれたらたまったもんじゃないよぉ!」
「いや、まだ確証を得た訳では・・・」
「おーい! 穹! ウチの声が聞こえるんなら返事してーー!!」
「三月・・・」
轟音を立てながら狭い港内で繰り広げられる二つの巨体の戦闘は、丹恒達のような標準サイズの知的生命体からすれば近づくだけで踏み潰されそうな迫力があった。
その発生元の片方である巨人(推定穹)に小人同然の自分達の声が聞こえるはずが無い、丹恒はそう言おうとして。
「は?」
格闘中だった巨人がそれを切り上げて突然こちらに向かってきた。
終末獣に背を向け、撃雲を構える暇もなく一瞬の内に黒い体躯が丹恒の視界いっぱいに接近する。
「っ──!」
──結果として、巨人は丹恒達を押し潰さなかった。
両の腕を広げ、丹恒、姫子、なのかを囲うようにし、その背中で光の様な物を受け止めている。
「・・・守ってくれたのか?」
茫然と呟く丹恒に、恐らく終末獣による線状のエネルギー放出をいち早く察知し、身を挺して自分達を守った巨人は何も喋らず小さく頷く。
ただじっと、その金色に発光する結晶のような二つの瞳で丹恒達を見つめていた。
「私達の声が届いてるみたいね・・・」
「ほら! やっぱりあの子だよ!」
安堵した様に漏らす姫子と、もはや確信を得たとばかりに手を叩くなのか。
「いや、しかし大丈夫なのか!? 壊滅の力の奔流を受け続ければっ!」
巨人と終末獣の戦闘力は丹恒が見たところ互角だった。
自分達を守るため一方的に攻撃に晒されているこの状況下では、きっと無事ではあるまいと、反対に丹恒は息を呑んだ。
『ッ・・・デアァッ・・・!』
金色の奔流は止まらず、やがて巨人の胸に埋まった青の結晶が赤く変色し明滅を繰り返す。
「なんだ!? 異常が起きたのか!?」
「きっと危険信号だよ! カンパニーが定める共通規格も赤ランプだもん! どうしよう!?」
と、自分達の盾となっているせいでダメージを負い続ける巨人に焦る二人に対し、
「ヴェルト! 頼んだわよ!」
「あぁ! 任された!」
姫子の発揚とした声に応える様に──杖を叩く音が響く。
そして何の前触れもなく凄まじい吸引が終末獣を襲い、問答無用にその発生元となる赤黒い球体から逃走するために全力を費やさなくてはならなくなる。
「ヨウおじちゃん!」
「まだ油断するなっ!」
遅れて駆けつけてきた勇ましく杖を掲げるナナシビトの一人、ヴェルト・ヨウ。彼が虚空に作り上げた擬似ブラック・ホールは星穹列車においても比類なき力を誇る。
だが、そこは反物質レギオンの対天体兵器、今やその宇宙ステーションが接近を許してしまう程の推力を以て、死の吸引から逃れようとしていた。
「このままだと、宇宙に逃げられるな・・・ッ!」
この空間内でこれ以上のブラック・ホールの拡大を行えば、列車の仲間だけでなくこの宇宙ステーションの人員にも深刻な被害が及ぶ。ヴェルトもまた、焦燥に駆られていた。
「ねぇ! 穹、アンタ大丈夫なの!?」
『ッ・・・アァ・・・ッ!』
なのかの心配した声に、三人の盾となっていた巨人──穹は、点滅する胸の水晶を抑え、地面に膝をつき頭を垂れた。
勝利を確信していたはずの貴方は未だ終末獣を倒せていなかった。
胸の核らしき物体の防御は思った以上に堅牢で、いくら拳を振るおうとも砕けず、疲弊し、いつの間にかその攻守は逆転していた。
金色の奔流はこの体となった貴方でさえ一方的に耐え忍ぶ事しか出来ず、助太刀に入ってくれた眼鏡の男性のお陰で、戦況は辛うじて膠着している始末。
全て貴方の見通しの甘さが招いた結果だ。
『・・・・・・ッ!』
いや、訂正しよう。まだ結果は決まっていない。
『デュアッ・・・!』
胸の水晶を中心に体中に伸びる金のラインを通じて、エネルギーが四肢へと伝わっていく。
貴方は肉体の疲労と不釣り合いに、胸部の水晶の奥──体内の『何か』から湧き出てくる力を頼りに、まだ戦えると拳を強く握った。
『デヤァァァァァァァァァァッッ!!』
「ちょっ!? どこ行くの!?」
身を翻した貴方は叫喚と共に終末獣へと突進する。なのかの制止さえ振り切って。
既にヴェルトが出したであろう赤黒い球体は消え、自由を取り戻した兇鳥は何も無い宇宙へと飛び出そうとしていた。
『そんなに外に出たきゃ出してやる!!』
ただし行くのは自分も一緒だと。
ホームの端を蹴って、翼も無いのに宇宙の鳥へと追い縋る。
しかし終末獣はこちらには目もくれず、翼と背中の噴出口らしき物をふかしてひと足先に外へと向かった。
『──────』
反発力によって生じた勢いを失う寸前、覚悟を決めたはずの貴方は不安に思ってしまう。
仮に宇宙に放り出されれば飛ぶことも出来ない自分はどうする? むしろ相手のフィールドに自ら飛び込んでいったようなものでは? そもそも自分は呼吸が出来るのか──
──いや、飛べるはずだと、そもそも今呼吸なんてしていないと、そう強く自分の心に言い聞かせて。
『飛べぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』
貴方はそう強く念じた。
すると、体を下へと引き摺り下ろそうとする重力が消えた。
一瞬の停滞の後、背中から足の裏にかけて、前へと進む推力のようなものが生じる。
物理法則の軛から解き放たれ、物理的な翼もエンジンも無しに──反重力の翼を得た貴方は禍々しき鳥へと突進する。
そのスピードは、音すらも置き去りにしていた。
『ッ!?』
悠々と宇宙へ帰還しようとする背中を捉えた貴方はそれに突撃をかます。終末獣は押し出されるように、貴方は殴り飛ばしたポーズのままで。宇宙ステーションを包む半透明な防御シールドを突き抜けて共に宇宙へと飛び出した。
上下の概念の無い、遥か彼方からこちらを見つめてくる星々のみが照らす真っ暗闇の空間。戸惑いながらも貴方は身体がこの空間でも自由に動く事を確認し、不意打ちに怒り狂う終末獣の頭部に自分の上下を合わせる。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!』
『ヘッヘッヘッ・・・だよな、しつこいだろ?』
このままみすみすみ見逃してやっても別の誰かが倒していたかも知れない。
だが、この宇宙ステーションに破壊を振り撒いたのが許せないし、何より、『ヒーローの初戦が敵に逃げられましたで終わりとか番組的に絶対に許されない』と変な使命感にも駆られていた。
『デュアッ!!』
先に動いたのは貴方だった。背部から生まれる推力によって終末獣に急接近し、腹部へと拳を伸ばす。
相手も反応こそ出来たようだが防御は間に合わず、勢いを以て叩きつけた打撃で腹部のキューブにようやく罅が入る。
終末獣は身を捩り、あからさまに動揺した。
『まだまだ行くぞ!』
そして気づいた。この宇宙空間においては、この鳥野郎よりも自分の方が自由に動けると。
反撃を喰らう前に離脱。距離を取り、再び接近して隙だらけになっていた腹部を殴り飛ばす。
宇宙に上下の概念が無いならば、より自由で動きに縛りがない方が圧倒的に有利になる。
抵抗しようとがむしゃらに振るわれた鉤爪を防ぎ、掻い潜る様にして短い連打を胸へと叩き込む。
終末獣の動揺は腹部の弱点を傷つけられただけではない、この宇宙で自由自在に動けるのは自分だと確信していたのに、実際に宇宙ステーション港内よりも圧倒的にアドバンテージを得たのは貴方だった。
『うおっ!?』
が、高速で宇宙を飛行する貴方がいた場所を金色の光線が薙ぎ払ってくる。
そう、敵もやられっぱなしでは無かった。
殺到する何本もの光の筋に、貴方は回避に専念するのを余儀なくされる。
破壊された宇宙ステーション港内から、残された四人はその光景を眺めていた。
黄色い輝線を描きながら縦横無尽に動く姿は、最初は一方的なものに見えた。
「すごい、あの終末獣が一方的に・・・」
「あぁ・・・あんな風に宇宙を飛べる生物がいるのか・・・」
「カンパニーの最新型の宇宙戦闘機でもあんな軌道はしないわ。まさか、反重力と推力を両用しているのかしら」
思い思いに感想や意見を述べる三人に対し、食い入る様に見るヴェルトは、思わずといった風に言葉を溢した。
「ウルトラマン・・・・・・」
「ウルトラマン? 何それ?」
呟く様にして漏れ出たヴェルトの言葉になのかが反応した。
ヴェルトは己の故郷を思い返すかのように遠い目をし説明を始めた。
「かつて、俺のいた世界──『地球』に降り立った、50メートル級の巨人達の総称だ。・・・この世界にもいたのか」
「あの子がそのウルトラマン? どう見てもその半分くらいしか無さそうだけど」
「この世界では少し種族が違うのかもな。俺がいた世界の彼らの中にも様々な種族、身体的特徴を持った巨人達がいた。それより・・・」
君達が拾った青年があの姿になったというのは確かなのか、と眼鏡の奥の瞳を向ける。
「うん。ウチらが拾った子・・・絶対だと思う。巨人になれるなんて知らなかったけど」
「彼自身も自分がウルトラマンになれる事を知らなかったのか?」
「多分・・・。あの子、ウチとおんなじ記憶喪失らしくて、過去の事も全然覚えて無いの」
なのかが言い終わると、次いで丹恒が話し出した。
「ヴェルトさん。ウルトラマンとは、人間に姿を変えられるのか?」
「さぁな。俺もそこまで詳しくは無い。ただ・・・列車の計器によると『彼』からは強い星核の反応があった」
ヴェルトの言葉になのかと丹恒の二人は驚愕を露わに、姫子はやはりかと言った風な反応をした。
星核、『万界の癌』とも呼ばれるそのエネルギーの塊は、たった一つで星を滅亡させる力を持つ。ただあるだけで星に異常をきたし、生物無生物問わず影響を及ぼすのだ。
あの姿も星核によるものなのだろうか、とヴェルトは考察しようとするも、それよりも先に対処しなければならないものがあった。
「あっ! またあのビーム!」
なのかがビームと呼んだのは、終末獣から伸びるあの金色のエネルギーの奔流だった。
何の前触れもなく放たれたそれを間一髪避けたウルトラマン──穹だが、敢えなく攻撃を中断せざるを得なかった。
それに終末獣は有利を得たとばかりに何本ものビームを撃ち散らす。
「──ここで見ているだけにはいかない。俺たちも出来る事をやるぞ!」
「三月ちゃんと丹恒は宇宙ステーションのアスター所長に掛け合って! 私は列車から援護する!」
「分かった!」と返事をして駆け出す若者二人を見送り、残った年長組の二人は顔を見合わせた。
「ヴェルト、知ってると思うけど、あの子は──」
「分かっている。助け出した後で必ず話を聞く」
金色の光線が貴方を捉えんとする。掻い潜り、接近を試みるが、回避する間に再び距離を取られ近づけないでいた。
『クソ! 卑怯だぞ!』
憤慨する貴方には、心なしか終末獣もケタケタと高笑いしている様に見えた。
貴方は幾多もの砲台にロックオンされた状態で終末獣の周囲を旋回するしか出来なかった。
しかしこれだけ撃ちまくれば、時間経過で弾切れならぬ、光線切れも期待できたのだが。
『こっちもそろそろヤバい・・・』
エネルギー切れが、と言うよりも時間切れがより近いのは貴方の方だった。
胸の水晶の点滅速度は先より早まっており、身体の疲れと共に胸内を動悸のような痛みが襲った。
それなのに胸の内で存在を主張する心臓以外の『何か』からは絶えず莫大なエネルギーが身体に供給されている。もし完全に身体が動かなくなったら制御を失ったこのエネルギーは一体どこへと向かうのだろうか。
貴方は想像もしたくなかった。
『次の一撃で決めないと・・・ッ!』
だが、その一撃を叩き込むためには、遠距離攻撃手段を持たない貴方はその身一つでこのビームの中を突っ切らなくてはならない。
思考を遮る様に再び殺到するビームを、貴方は宙返りで回避した。
『q@ed@(4iq@ed@(4xyq@ed@(49yfZd'──hqf@;!!』
翼からの砲門は牽制に過ぎない。
本命の頭部の主砲は、絶えずこちらをロックオンして目線を外そうとしない。
それは終末獣に刻まれた兵器としての本能か、それとも内から湧く激情によるものか。
『ッ!? しまっ──!?』
そして遂に、四方八方からの光線に囲まれて対処しきれなかった貴方は遂に被弾し、その動きを一瞬止めてしまう。
視界の端に無防備を晒す自分を捉えた終末獣の頭部が一層その光を強めたのを見て、貴方は今瞼が無いのを忘れ咄嗟に目を閉じる。
死の瞬間は直ぐそこまで迫っていた。
『v)4wgd'we:yue──fZd'Z!?』
『!?』
予想した閃光は来なかった。代わりに、終末獣が背後から何らかの衝撃を受けて仰け反る。
発射元は宇宙ステーション。そこから、無数の対空砲火が実弾、エネルギー弾問わず、終末獣の身に次々と降り掛かった。
一つ、簡単な質問をしよう。
これまで散々反物質レギオンにやられた宇宙ステーションが、ハッカーの手によってダウンしたその防衛能力を取り戻したらまず何をやるか。
「決まってるでしょ、『報復』よ」
普段明るく気さくな所長のお嬢様は、ある防衛課の責任者いわく珍しく怒り心頭だったという。
今までの自分がやってきた事が帰ってきたとばかりに終末獣はその身を砲火に晒される。
宇宙用ミサイルが攻殻を貫き、最新型の熱線兵器がその中身を焦がす。どれも致命傷には至らないものの、全く無視できるものでも無く。
ミサイル迎撃のため、終末獣の意識と砲門はそちらへと向いた。
それを見て容赦が無いなと若干不憫に思う貴方だったが、終末獣の意識がこっちに向いていない事に気づき、チャンスとばかりに接近する。
『サンキュー! 宇宙ステーション!』
自分より年下っぽい所長が主制御部分でグッと親指を立てているのを幻視しながら、貴方は体内で荒れ狂うエネルギーを腹部の核を叩き壊すため右の拳に収束させる。
すると、貴方の思いもよらぬ事が起こった。エネルギーがその右手から伸び、貴方のよく知る『あの形』に収束していったのだ。
『銀河打者の一撃を食らえぇっ!!』
貴方が愛用する雷を纏いながら青く光輝くバット──の形に成形されたエネルギーの塊を手に構え、ようやくこちらの接近に気づいた終末獣の無防備な腹部のキューブを捕捉する。
『d(-4gyg(4fZd──e7tev─』
『これで・・・終わりだぁっ!』
悪足掻きのように放たれたビームが貴方の頭上を掠める。
しかし、貴方が全力を込めて振りかぶったその一撃は、寸分の狂いも無くその腹部のキューブに吸い込まれるように直撃した。
核を守る攻殻が薄氷のように砕け散る感触をその腕に感じながら、貴方は加速の勢いそのままに終末獣の真横を通り過ぎる。
停止した貴方が後ろを振り向くと、核を砕かれた終末獣は動きを硬直させた後──全身が罅割れ、そこから青白い光を無数の針のように漏らした後、派手に爆散して宇宙の塵と化した。
『へへ・・・どうだ、俺の、か、ち・・・』
それを見届けた貴方は、ふらりと脱力し無重力の世界にその身を委ねた。
胸の内から溢れ出るエネルギーを放出していた『何か』は既にその存在を消している。先の一撃でそれも力を使い果たしたのだろう。
もっとも、それは貴方の体も同じだが。
『あぁ・・・宇宙って・・・』
もはやステーションに帰還する余力も、思考する事も出来ない程に限界を迎えた貴方はゆっくりを首をもたげ、この戦いを見守っていただろう、遠くから光を放ち続ける星々に思いを馳せた。
『ひろいんだな・・・』
視界の端に連なる黒い何かが接近してくるのを捉えた瞬間、貴方の意識は闇へと堕ちていった。
数時間経って目覚めた貴方を待っていたのは、目一杯の歓待だった。
いつの間にかなのかや丹恒と同じサイズに戻っていた貴方はあの時の事は夢かと疑ったが、現実である事を裏付けるかのように数々の証言と映像記録が突きつけられる。
貴方は確かに終末獣の光線を受けた後に巨大化し、宇宙を鼯の様に飛んでバットで打ち倒したのだ。
ついでに、胸に埋まっている『星核』という爆弾の事も知らされた。
そんなこんなで人々からはステーションの英雄、救世主と持て囃され、時には宇宙ステーションの所有者ヘルタ(の少女時代の姿をした代理の人形)から貴重なサンプルとして研究対象にされかける危機に陥りつつも、勝利の余韻に貴方が浸る中で、自分を呼ぶ単語の中に一つ気になるものがあった。
「ウルトラマン──この名前に、聞き覚えはあるか?」
貴方が光線から丹恒達を庇った事で身動きが取れない時に駆けつけてくれたヴェルトの問いに、全く聞き覚えのない貴方は頭を振った。
「そうか・・・。そういえば君は記憶喪失だったか。不快にさせてすまない」
「気にして無いから別にいいよ。それで、ウルトラマンってなに?」
聞き覚えこそないがその名前には酷く興味を惹かれた。
無意識に目をキラキラさせていたのだろう、ヴェルトは大人の余裕の笑みを浮かべて、こう答えた。
「君のような人々──そう、正義のヒーローの事だよ」
貴方は再び宇宙ステーションの港に立っていた。
終末獣が直接乗り込んできたにも関わらず修繕は殆ど終えており、星穹列車も問題なく出発出来るとの事だ。
そして貴方がここに居るのは、決して星穹列車の出発を見送るためではなかった。
「ねぇ、アンタどうして列車に乗ろうと思ったの?」
フカフカな事に定評のある列車のラウンジのソファに並んで腰掛けながら、高過ぎる天井を見上げでいた貴方はこれから仲間となる少女、三月なのかから声を掛けられる。
貴方がきょとんとしていると何を勘違いしたのか、なのかは弁明するように両手を振る。
「あ、もちろんウチは大歓迎だよ? でも、あれだけミス・ヘルタから熱心なラブコールをされてるのに、何の迷いもなく姫子に列車に乗る選択をしたって聞いて気になってさ」
「そりゃ、俺の記憶の事もあるけどさ、気になるじゃん。その『ウルトラマン』って奴ら」
ヴェルトからウルトラマンの事を聞かされた貴方は、あの広大な銀河に広がる星々の中に自分と同じウルトラマンになれる人間がいるのではと考え、群星を目指す列車に乗る事を即決した。
無論、ヘルタの出してきた条件に魅力が無かった訳ではないが、これから訪れるだろう幾多もの星での出会いと冒険とは比べるまでも無かった。
「だが良いのか? あれからお前があの巨人の姿になったのを見ていないし、『開拓』の旅には常に危険が付き纏っているんだぞ」
そう言って戻ってきた丹恒が手に持った人数分のティーカップをテーブルに置く。
貴方は礼を言いつつすっとソファから立ち上がると、足を広げ両拳を腰に当て、胸を張るポーズをとった。
「大丈夫! 俺は銀河打者で、ウルトラマンだからなっ!」
「銀河打者? なにそれ、センスな・・・」
「はぁ・・・」
宇宙ステーションの職員のように喝采が来ると思いきや、真反対の呆れたような反応が返ってきた事に、貴方はしょんぼりする。
星穹列車は走る。ナナシビトを乗せて。銀河に広がる星々を巡る旅を。
「私たちの次の目的地は、とても小さな惑星よ。コードは『ヤリーロⅥ』。あんたにとっては初めての開拓になるわね」
「その星にもウルトラマンいるかな・・・?」
「アンタみたいなのがそうそういる訳ないじゃん! もうっ!」
「はぁ・・・・・・能天気が過ぎる」
「ははは。いや、行ってみないと分からないものさ」
想定外の事態により光の巨人を乗せた列車は、星々を繋ぐ軌跡を引いていく。
その果てか、道中か、はたまた道の外にあるだろう運命の出会いへの期待に、青年は胸を膨らませた。
「さぁ、跳躍の準備だ──」
お付き合いありがとうございました。この小説はウルトラマンアーク、オメガに触発された事で生まれた小説で、ウルトラシリーズと崩壊スターレイルは親和性もあると思い、記憶喪失キャラで主人公の開拓者にウルトラマンに変身してもらいました(あと不穏パロスしんどい)。
短編のつもりですが、反応があれば続けようと思いますので、よろしくお願いします。