じゃあ俺の代わりに人生やってくれ 作:水溜まり
要らない邂逅
「うん。正式に採用するね。いつも通り頑張って」
十日程お試しを終えて、僕は正式にここで働くことになった。
仕事は何をやっているかというと、宿掃除をしている。僕を採用した男が経営していて、人の出入りはそれほどあるそう。儲けも、少し余裕で暮らせるくらい稼げていると言っていた。他に働いている人もそこそこ居て、人に困っているとは思えなかった。ボロボロの布を着た子供を採用するなんてお人好しでも程があると思う。詐欺に騙されたりしないか?大丈夫なのかこの店は。
あと寝食付きとかやばいだろう。この時代、こんなに良くしてくれる店はなかなかない。
男だけでなく、周りのヤツら全員優しい。僕を蔑ろにする人間もいない。
……僕が詐欺にあってる?
まあ、仕事ガチャ大成功と思っておこう。
僕が働く理由は一つ。
金が欲しいから。
生きるために一番必要なのは金だ。何をするにしても金があった方がいい。だから働く。
今みたいに強要されようが、金さえ貰えればなんでもする。それ相応に見合えばだけど。
「ね? ええやろ……私君の顔好きやねんな」
「申し訳ございません。そういうのはやってませんから━━」
「━━ええやん、別に。家畜みたいな女に手出すより、私みたいな別嬪の方がよっぽどええやろ?」
困ったな。
認めたくはないが獪岳は顔だけはいい、残念なイケメンだからモテるのも仕方がない。
……この女、ショタコンか? そうなるよな。
僕はおねショタが好きかと言われたら好きとも嫌いとも言えん。普通だ。ましてや僕自身がショタになっておねショタになるのは論外。
だが金には変えられん。
「なんぼでもあげるからお願い。気持ちよくさせてあげるから」
「それなら━━」
「━━━少しは躊躇えよ! こんの大馬鹿小僧。こうなるなら、その前に止めとけば良かった!! 」
「ぐぇっ……え」
漫画やアニメでしか見たことない派手髪に思わず声を出しで吃驚してしまった。
本当にこんな色をした髪を持つ人間なんているんだ、と思いながら派手髪さんに首根っこを掴まれ引き摺られた。
「全く、最近の子供ってのは━━━」
(思わぬ出会いだな。僕は運がいいのか悪いのか。……獪岳が運がいいのか)
その後は派手髪に説教され、店を経営してる男にも説教され、女将にも説教された。
特に派手髪と話すことも無く、時が経っていつの間にか派手髪は居なくなっていた。まぁ、これでいいのだろう。獪岳とあの人は関わりはないだろうし、変に関わって未来に影響が出たりしたら厄介だ。
それにしても煉獄家の血と言うのはすごいもんだな。確か、継国縁壱が居た時代にも似たような髪を持つ人間がいたよな。
この頃はまだ酒柱じゃないんだ。
手を繋ぐことは出来ない
まだ正式に働いて一ヶ月も経っていない頃。僕は思わぬ邂逅をした。
煉獄槇寿郎のこともそうなのだが、まただ。
獪岳は運がいいのかもしれない、再びそう思った。
「あそうそう。獪岳君にお願いがあるんだけど……」
「お願いですか? 」
「ここから離れたところに山があるでしょ、そこにある茸を取ってきて欲しくて。あの茸人気なのよ〜、名前は忘れちゃったけど絵を描いたからお願い。」
「わかりました。準備してきます」
仕事なら仕方がない。山か……ん待てよ。あの山めっちゃ遠いぞ。
歩いていけと?
……仕方ない。金のためだ。
何故獪岳は鬼殺隊に入ったんだろうか、鬼殺隊なんて死ぬためにやっている仕事みたいなものだろう。
山は凄く遠いので、歩きながら考察をしようと思う。あとこれからについても考えようと思う。
このままでは計画も無しに原作に突入してしまうことになる。獪岳を演じるならば、いつどこで何があったかをちゃん思い出さないと。全部が台無しになってしまえば終わりだ。
……どうして僕は獪岳に成ったのかな。ふと思った、何故この僕が獪岳なのかを。別に主人公でもいいじゃないか、なんで獪岳なんだよ。
なんでクズに成ったんだよ。そもそも転生?すること自体最悪だが、獪岳に成るのはもっと最悪だ。僕あんなに拒絶したはずなのに、なんで?
確か、俺様! とか俺認めるやつが善で認めないやつ悪なとか言ってたよな。我妻善逸は獪岳は幸せの箱に穴が空いてるんだって言ってて埋めようとしてたな。僕はシアワセの箱に穴は空いているのか? 獪岳だから……でも代わったのは中身だし、シアワセの箱は普通だろうな。
獪岳は、我妻善逸の引き立て役でしかなかったのかな。もし、獪岳の幸せの箱に穴が空いていなかったらどんな感じなのだろうか。
きっと獪岳は寺に鬼を招き入れないだろうし、鬼にもならないかもしれない。我妻善逸と桑島慈悟郎と家族として一緒に暮らしてたのかもな。
━━━鬼か、そういえばそろそろ日が沈むような……
夜は鬼が出る。
殺される。
死ぬ。
やばいなこれ。まずいぞかなり。
藤の花は持ってるけど、こんなちっぽけなお守りじゃ撃退出来るわけない。
どこか寝泊まりできそうなところ……ない!
山はあるけど僕が目指してた山じゃない。
周りは田んぼ、詰み!
クソっこんな所で終わってたまるか。
全力疾走だ!!
「はぁ……はぁ、あのっ!ここで一晩泊めてくれませんか!!」
「あいわかった」
「何勝手に了承してんだよ!馬鹿ジジイ!! 」
山の麓にポツンと一軒家が建っていた。押しかけてみるとそこには青年とじいさんが喋っていいた、ので大声で先程の事を言った。
「ありがとうございます!」
「お前は話を聞けよッ!!」
どうやら泊めてくれるらしい。良かった、良かった。
「うあああ!!猪のバケモノがいるぅぅぅ!」
「あ?なんだお前」
体が人間で頭が猪のバケモノは初めて見た。
……あれ。
まさか、嘴平伊之助が居た山の近くだったとは思いもしなかった。そしてここに嘴平伊之助が言葉を教えてもらった人達が住んでいたとは。
確か青年の方の名前は……たけし?
「たかはるだよ! こっちは俺のじいちゃんね!そして猪は嘴平伊之助! あんたは!!」
「獪岳だ。急に押しかけて申し訳ない」
そうだ、たかはるだ。
はぁ……どうして原作に関わりがあるヤツらに会うんだ。どうするんだよ、もしこれで流れが変わったりしたら。
僕の責任か? 獪岳の責任だな。
「おいもみあげ!勝負しろ!」
もみあげは酷い。もうちょっとなんかないのか。勾玉野郎とか、クズとか、土下座リンとか……桃先輩とか。
勝負はしない。
痛い。頭突きするな。
「たかはるさん、藤のお香ってあるか?」
「ん?あぁ、あるけど。好きなのか藤の花」
「いや別に……嫌いだな」
確か悲鳴嶼行冥のところは鬼の伝承があり、夜は藤のお香を焚けみたいなのがあったよな。もしかするとその情報で悲鳴嶼行冥の位置がわかるかも……しれない。
「ありがとうございました。この恩は必ず返します。」
何事もなく一泊終えた、と思う。強いて言うならば、嘴平伊之助が猪突猛進と勝負だとうるさかったことだけだろう。
ここから早く去ろう。この人達に関わってもメリットはないだろうからな。嘴平伊之助に関わること自体がデメリットだし。
「……どうしてこうなる。獪岳全部お前のせいだからな」
煉獄槇寿郎に会ったのも、嘴平伊之助に会ったのも、茸を採っていたら熊か何かに襲われたのも、それで足が滑って落ちて背中を打ったのも全部お前のせいだから。
僕がお前に成ってなかったらこんなことなんてなってない。獪岳はクズだし働かない、獪岳はプライド高いし助けても恩を仇で返すやつだ。僕は獪岳とは違くて、働くし、プライドなんてものは高くもなく低くもなく普通だし、恩は返すし。だからこうなってしまった。
もし僕が獪岳みたいなやつだったらこうはならなかったんだろうな。
もし獪岳なら、今頃泥水でも啜ってるだろ。
あぁ背中が痛い。
立てない。
死にはしないだろうけど、死ぬほど痛い。
死にたくは無いが、死ねば楽になれるのか……死ねば、元に戻れるのかそう思ってしまう自分がいた。
「あう」
「う、えう」
……いつの間にか気絶していたのか。それにしてもここはどこだろうか。目が開いているのに視界は真っ暗だ。なんか顔面になにか当たってるような。なんて言えばいいんだ、すごく温かい何かが僕の顔面に当たっている。
それとその温かい物から、声らしきものが聞こえるような。
「あ!」
「痛っ、」
「まぁ!無一郎、有一郎何やっているの。ダメじゃない怪我している人を叩いちゃ」
無一郎。有一郎。
まさか!
「━━━急に起きちゃ駄目ですよ! 背中がまだ痛いはずですから」
ガバッと布団から起き上がると、傍には二人の赤ん坊がこちらを見上げていた。目の前には赤ん坊の母親らしき人物が慌てている。
二人の赤ん坊をよく見ると、僕が思っていた人物そのものだった。
時透無一郎と時透有一郎。
双子がこちらをずっと見上げている。同じ色をした瞳で、顔に穴が空くほど見てくる。
この山に住んでいたのか……
「━━━うっ……」
「まだ背中の怪我が治っていないんですから、安静にしてください! 」
「……ありがと、ございます」
「あう?」
可愛い赤ん坊が十代で亡くなってしまうのは考えたくもないな。鬼滅の刃の作者って鬼じゃないか。しかも上弦だろ。
「有一郎、無一郎。大人しく寝んねしましょうね」
「うー」
「やっ!」
……ガキは嫌いだけど、赤ちゃんは可愛くて好きだな。
おかしいな。僕、この人達を見殺しにするってのに。僕も獪岳も何も変わらないじゃないか。
「…」
「う?」
「ぅあ?」
ほら、仲良くしろよ。
二人仲良く手を繋いで
という思わぬ邂逅をした。
原作に深く関わっている人物達に会うことはあまり良くないと思う。だが状態を確認することも大切なので、会ってしまったらモブAとしての立場くらいにはなっておこうと思った。
これから先何があるかは分からない。人生そう上手くいくものじゃない、原作どうりに進むなんて分からない。
僕は背負いたくもない、重い運命を背負ってしまった。
採ってこいと言われたのは松茸です。
嘴平伊之助と時透無一郎は出身地が近いので遭遇してしまいました。
酒柱は任務地だったことにしておいて下さい。