じゃあ俺の代わりに人生やってくれ 作:水溜まり
申し訳ございません!
悲鳴嶼行冥が盲目というの忘れてました!!
人生はそう上手くいかない。
ちゃんと道に沿って歩いていたはずなのに、いつの間にか迷子になって、森の中で彷徨ってしまう。
獪岳はさ、生まれた環境が悪かったんだろうな。育った環境が悪かったからあんな歪な性格になってしまった。あの女鬼と男に拾われなければ……いい人に拾われていたらもっと優しい少年だったのだろうな。
僕は普通に育ったから、普通の人間でどこにでも居そうなやつだ。獪岳に成ろうとも、それは変わらない。僕は普通の人間であり続ける。
それは突然のことだった。いつも通り、起きて顔を洗って、服を着替えて仕事に取り掛かろうと思った時だった。
「あんた! 騙したのね!! 」
僕が、あの女鬼に育てられた事がバレてしまった。
最初僕は何を言っているのか分からなかった。お前もあいつらと一緒だとか、気持ち悪いだとか言われてようやく思い出した。忘れていたのだ、いや正確に言うと忘れようとしていた。思い出すと嫌悪感が止まらなくて、頭の中でぐるぐると映画のように育てられていた頃の記憶が流れてくる。だから忘れようとしていたのに。
「今すぐに出ていけ! バケモノ!! 」
僕が怪我を負わされて助けを求めた時は、人達は何も思わず接してくれていたが、女鬼に育てられたとバレれてしまえば僕も同じと思われきっと処分される。
僕をあいつらと同じにしないで欲しい。あいつは鬼で、僕は人。あの男は糞野郎で、僕は子供。同じじゃない。
こんな店こっちから願い下げだ。
僕は荷物を抱えて仕事場を飛び出した。
しばらく走って、遠くまで行く。足が疲れようと走る。
「わっ、ぶ……」
転けたって、歩ける。
アイツらも、あいつらも皆同じだ。信じられない。
……人間不信になりそう。
元々、人と関わるのは苦手だった。
第一印象を良くしたいから、頭をペコペコして笑顔を装って、つまらない話をして仲良くもなりたくないのに仲良くなって。
要らなくなったら捨てられて。
利用されるだけされて、裏切られる。
……ちゃんと分かり合える友達はいるからな。
ただ、そういう人が多いってだけだ。
友達なんて居なくてもいても変わらないのかもしれない。
人間一人で生きていけない、そうだと思うよ。
僕は家族に恵まれて生きてきたし、愛情をわかってる。立ち止まっても背中を押してくれる人が居たから僕は成長出来た。
…なぁ、獪岳。……お前は本当に幸せなのか?
何も上手くいかない。
店を出て行ってから、何度働き口を探して、働きたいと言っても断られる。それもそうだろう。こんなボロ布を着た子供が働きたいと言っても断るのが普通だ。あの店が異常だっただけだ。
悲鳴嶼行冥も見つからない。
全てが上手くいかない。焦りは禁物だ、落ち着いて行動しろ。わかっている……でも焦らないやってけない。落ち着けない。
お金もそこを尽きてしまった。これからどうすればいい? ずっと働き口が見つからなかったら? 悲鳴嶼行冥が見つからなかったら?
……悲鳴嶼行冥が見つかっても、僕は子供達を見殺しにしなくちゃいけないのか?
何か別の方法は、でも、もし原作が変わったら。駄目だ。死んでしまうかもしれない。
こんなことに、なるなんて思ってなかった。
あぁ、いやだ。あいつとやってること同じじゃないか。泥水を啜るなんて、一番やりたく無かったのに。喉が潤いを欲して、いつの間にか手でお椀を作って、零さないように泥水を掬っていた。
前言撤回はしないぞ。拷問を受けようが。
「そんな物を口にしたら…腹を壊してしまう。やめた方がいい、もし困っていることがあるなら……私と共に来ないか? 」
「ぁ…………」
ボタボタと泥水が零れていく。
服に模様をつけながら、手にあった泥水は全て零れた。
ぽたぽたと服に模様をつける。
それは泥水なんか汚い物じゃなくて、透明な綺麗な液体だった。
頭に大きな手が乗っけられて、優しく左右に動かされる。その手は、とても温かくて岩のようにゴツゴツとしていた。
女鬼に撫でられたことを思い出すこともなかった。ただひたすらに優しかった。
涙が止まらない。今までの疲れが、全て流れてきているのだろう。
少しくらいは、休んでもいいだろうか。
「私の名前は悲鳴嶼行冥だ。寺で身寄りのない子供達と家族のように過ごしている」
「獪岳、です……」
「獪岳」
「はい…………」
獪岳の頭に手を乗せて優しく撫でる。
そうすると、鼻を啜る音が聞こえた。泣き声も我慢して、喉の奥に閉じ込めているのだろう。
辛かっただろう。寂しかっただろう。
これからは……私を何度でも頼って欲しい。
「先生。そいつ誰だ?」
「目がおっきくて猫みたい!」
「…」
「動きが固まってる。緊張してるのかな?ふふ」
「うわっ!汚っ。着物も洗わないと…いや変えないと駄目かもな」
「皆に紹介する、この子は獪岳。皆仲良くするように」
「……よろしく」
これでいいのだろうか。
本当に、ここにいていいのだろうか。
僕は……この温かさを殺して、捨てて。何も思わずに生きていくのか。
先のことを考えたくなかった。
今は、今だけを見ていたい。
「獪岳綺麗になったね! 髪もいい感じ」
「早く飯にしようぜ、俺腹減った〜」
「獪岳!こっちだよ」
「あぁ……」
俺はこいつらを殺す。獪岳だから。
仕方の無いことなんだ。
「あ! 獪岳って左利きなんだね。珍しい」
「左利きってふけつ? らしいな? 」
「それを言うなら不吉だよ。不潔は汚いこと、不吉は縁起が悪い事だな」
「そうなのか……?」
直した方がいいのか?
でも右手じゃ、食べにくい。慣れか。
「無理に直そうとしなくていい……やりやすい方を選べばいいのだ」
……なら別にいっか。
美味しいな。久しぶりにまともな食事を食べたかもしない。ちゃんとした栄養や量がある訳では無いけれど、食事ができてよかった。
「ご馳走様でした」
「獪岳ダメだよ! みんなで言わないと!! 」
「えっ」
「合唱……」
『ご馳走様でした!』
「ご、ご馳走様でした」
「獪岳の首につけてある、勾玉すごく綺麗だよなー」
「わかる。獪岳にすごく似合ってると思う」
「貰ったのか? お守りかー、俺もなんか作ってみようかな」
「ありがとう。これは貰ったものなんだ、綺麗だよな」
「なんか猫みたいだね。可愛い!」
「獪岳ー! 洗い物手伝ってー!! 」
「今行く」
「獪岳って働き者だね。そこの誰かさんと違って」
「な、俺だって、ちゃんとやる時はやるさ!」
「えー? 本当かな? 」
「獪岳ー! 俺も手伝う!! 」
「先生!獪岳が一番大きな魚を釣ったんだ、見てくれよ! 」
「自分の事のように自慢してるじゃん。獪岳、良かったね」
「そうか……頑張ったのだな」
「…」
「あ、ずるい! 私も撫でて!! 」
「俺も! 俺も! 」
「なぁ、先生にお腹いっぱいに飯食わせたいよな」
「うん、そうだけど。 でもお金がないから」
「うん……」
「ならみんなで貯金しようぜ! この壺にお金を貯めていくんだ。もちろん先生に内緒で」
「それいいね! 私、私ね、これ売ってお金にしてくるよ」
「俺も! 」
「魚とか売ればお金になるよな! 」
「獪岳はどうするの? 私はね……獪岳?」
「……な、なんか言ったか?沙代」
「あ、えっと、やっぱりなんでもない」
「そうか…………」
幸せを自分の手で壊すなんて、よくあることだろう。
何を焦っている。落ち着け。
「獪岳……目の下に隈があるよ。寝れてないんでしょ? 」
「……夜更かししただけだ。心配しなくても大丈夫だ」
「お前最近おかしくないか? ご飯あんまり食べねーし……先生も心配してるぞ。俺も、心配だから、何かあるなら相談してくれよ」
「ありがとう。大したことじゃないんだが、凄く臭い魚の匂いがまだ鼻に残ってて……」
「うわ……それは食欲失せるよな。 鼻よく洗えよ」
「ありがとう…………」
「獪岳、こっちに来なさい」
「はい……」
「最近様子がおかしいと、皆が心配している。何かあったのか? 話せるのなら……話して欲しい。何か力になりたいんだ」
「悲鳴嶼さん……」
「どうした? 獪岳」
「頭を撫でて欲しいです…………」
「……あぁ」
獪岳ってプライド馬鹿高いですよね。
でもそこがいいんですよね。
寺にいた時幸せそうに笑ってたけど、あの笑みは本物なのかな?