*あなたは蟻のフン以下だ。* 作:一般通過ピアニスト
「無事にたどり着けてほっとしたよ。 また機会があれば頼む」
依頼を終えたあなたの足元に、報酬の金貨や家具類などが転がってきた。それを回収したあなたは、膨れ上がった財布を眺めてとても良い気分になった。
あなたはノースティリスの冒険者だ。
主に配達や簡単な護衛の依頼で収入を得ている、駆け出しの冒険者である。
この地で活動を始めて約一年。少しはこの土地にも染まってきたかも知れない。
あなたは必要に迫られれば躊躇の末人を殺せる様になったし、死んだ後に這い上がる事も苦では無くなって来た。
しかしあなたは未だ完全には染まりきってはいない。
あなたは遊びで町を核兵器で吹き飛ばす事も、町中で終末を起こす事も、少女を殺してその死体を料理して食べる事もした事が無いし出来ないしするつもりも無い。
奇跡的に、あなたは比較的に『まともな感性』を残していた。少なくとも今はまだ。
そんなあなたは最近、とても調子に乗っている。しかしそれも仕方の無い事。
あなたは餓死と無縁になった。
飢えに苦しむ余り、腐った食べ物やかき集めた雪を口に運ぶような事はもう無い。
あなたの装備は強くなった。
幾つか、☆付きの高品質な武具を入手している。そのおかげで、あなたは幾つかのネフィアの攻略に成功した。
あなたは速くなった。
エーテル病で生えてきた背中の羽や先述の装備品の効果で、あなたはとても速くなった。その速度を活かして行う配達依頼は、現在のあなたの主な収入源だ。
他にも、色々な事が出来る様になった。
初歩の初歩レベルとは言え、あなたは魔法を使うことが出来る。
あなたは簡単な鍵なら解錠する事が出来る。
バックパックに大量の荷物を詰め込んでも、ある程度は持ち運ぶ事が出来る。
強敵や野盗と遭遇しても、持ち前の速度と空間歪曲、《ショートテレポート》の魔法などを駆使して何とか逃げおおせる事が出来る。
かつてあれ程悩まされた装備品の呪いは、今では簡単に解呪できる。
税金だって、余裕で支払える。
つい最近、あなたは自宅に加えて倉庫を購入した。
何かの間違いで犯罪者になっても、あなたはダルフィで地道に依頼達成を重ねて罪を雪ぐ事が出来る。
……とは言え、個人的には余りダルフィには行きたくないのだが。あなたは見た目も中身も齢十五の少女である。昼間から道端で性別問わず*過酷*が行われている様な町で過ごすのは御免被りたい。
とにかく、あなたは冒険に慣れてきた。万事が順調だった。
言い換えれば、あなたは慢心していた。
そしてそんな慢心した駆け出し冒険者から酷い目に遭うのがここノースティリス。
いや───
ある日、あなたはヴェルニースという町で透き通る様な青色のムーンゲートを発見した。
ムーンゲートとは門の一種で、異界に繋がっているとも平行世界に繋がっているとも言われる不思議な物体だ。
今までは見つけてもスルーしていた。
あなたは自分自身がどれ程弱い存在かを良く知っていた。余計な事はせず、目先の目的に必死で走っていた。
しかし、あなたは慢心していた。
それ故に───あなたは考えてしまった。
自分ならあのムーンゲートをくぐっても平気だ。
自分なら何かあってもなんとかなる。
それはなんの根拠も無い、余りにも愚かで浅はかで傲慢な考えだった。
あなたは意気揚々とムーンゲートをくぐった。
気付けば、あなたはドアを開けていた。
それは煌びやかな庭園に繋がっていた。
そこでは、二人の少女と一人の幼女が優雅な茶会を開いていた。彼女らの内二人はエーテル病でも発症したのかそれとも翼を装備しているのか、あなたと同じく背中に羽を生やしている。そしてもう一人は狐の様な耳と尻尾を持っている。そして彼女らは全員、謎の光輪を頭上に浮かべている。
侵入者であるあなたを認めると、彼女らは困惑した様に声を上げた。
「……どちら様でしょう? 招待状を出した覚えは無いのですが」
「えっと……他の学園の子、だよね?
そんな中、狐の様な耳を生やした金髪の少女が銃を抜いてあなたに向けた。
「……君は一体何者だい?」
「ちょっとセイアちゃん!? 別にそこまでしなくても……」
「……ミカ、君は実に愚かだね。……私の記憶が正しければ、あんな所に扉なんて無かった筈だが。それに多くの警備が居るにも拘わらず『迷って入る』なんて事は有り得ない」
「……っ!」
対してあなたは余裕綽々、『セイア』と呼ばれた幼女の問いに返答した。
自分はノースティリスの冒険者である、と。
「……ノースティリス。そこが君の通う学園かい? 冒険者、と言うのがそこでの君の役職、という事かな。生憎、ここは他校の生徒が入ってよい場所では無い。速やかにご退出願おうか」
その発言に、思考が若干ノースティリスに染まりかけているあなたは、彼我の実力差すら分からない程に慢心して眼を曇らせたあなたは、きっぱりと否を突きつけようとした。
追い出したければ、自分をぶっ飛ばしてみろ、と。
そう言いかけたあなたは、その時ようやく気づく事が出来た。
ターゲット:聖園ミカ (距離5)
*相手を巨人とすると、あなたは蟻のフン以下だ。*
あなたはまるで《アイスボルト》の魔法でも食らったかの様に凍り付いた。同時に、あなたは自分の中の何かがぽきりと折れた様に感じた。それは慢心により天狗の様に伸びきった鼻か、それともあなたの心その物か。
あなたは頭から冷たい水を被った様に錯覚した。あなたは急に現実を突きつけられた。慢心して浮ついていた心が、急速に萎んでいった。あなたはしばらく呆然とした。
「えっと……もしもーし? 大丈夫ー?」
その桃色の髪の少女の発言で、あなたは正気を取り戻した。
主人公と同じ様な慢心してたらカルマが-100になった挙げ句に大事な装備をロストしたので書いて見ました。
反響が良ければ続きとしてエーテル『病』を察知した団長に追いかけ回されて盾の一撃でミンチにされる主人公とかを書くかも知れません。
★ヘイロー
それはあなたの頭上に浮かぶ、雨雲を象った光輪だ
それは炎では燃えない
それは酸では傷つかない
それはあらゆる属性のダメージを大きく軽減する