*あなたは蟻のフン以下だ。*   作:一般通過ピアニスト

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第八話

 

とてもつらい。今にも閉じそうな両眼を開け続ける事が。

 

とてもつらい。激痛の走る腕でペンを走らせ続ける事が。

 

とてもつらい。朝の九時から夜の九時近くまでぶっ続けで課題をやらないといけない事が。

 

何故こんな事になってしまったのか。それはこの週末がマジでヤバかったからだ。余りのヤバさにもうマジパネェ。

 

もう本当にしんどい。そのせいか、あなたの語彙が終末を告げている。……週末だけに終末ってか。マジ笑える。あははは。

 

……なぜこの週末がマジでヤバかったのか。詳細な説明をしよう。

この週末で、あなたはノースティリスの自宅のそばにある倉庫にレールガンを取りに行く約束をしていたのだが、数学の教員がよりにもよってこのタイミングで本当に頭がどうかしているとしか思えない量の課題を出しやがったのだ。

別にあなたの頭が悪すぎて普通の量の課題をとんでもない量の課題と錯覚している訳では無い。その証拠に、この課題が発表された時には教室内でちょっとした暴動が発生した。

 

土曜日は件の用事で一日潰れ(この件に関してはまた今度の機会に話す事にする。今はちょっと語る気にはなれない……。)、日曜日を丸一日課題に費やしてなおこの有様。〈知者の加護〉の魔法(習得・魔力・読書スキル上昇)のストックも知恵の巻物も使い切った今、もう自力で頑張るしか無い。……のだが。

 

正直もう駄目だと思う。もう腕が痛すぎて動かない。目を開けるだけで精一杯だ。それに課題も、後ノート1ページ分で終わる。ここは少しだけ仮眠をとって後で何とかしよう。そう、仮眠だ。別に寝る訳では無い、あくまでも仮眠をとるだけだ。ノースティリスで旅をしていた時、何度もやって来た事。大丈夫大丈夫、ちょっとの間目を閉じるだけだ。

 

───お、おやすみのキスなんて……絶対にやだからね!

 

目を閉じた瞬間、あなたは女神からの電波を受信したような気がした。

 

 

 

 

  《自然治癒力の向上》

 

 

 

 

身体が妙に火照ってあなたは目を覚ました。気がつくと、腕にあった傷跡が完全に消えていた。

 

 a よし

 

あなたは治癒の技術の向上を感じた。

 

 

 

 

  《成長のきざし》

 

 

 

 

長年の鍛錬の成果が実ったようだ。なかなか眠りにつけず考えごとをしていたあなたは、ふと、自らの技術に関する新しいアイデアを思いついた。

 

 a よし!

 

あなたの交渉の技術の潜在能力が上昇した。

 

 

 

 

  《呪いのつぶやき》

 

 

 

 

どこからともなく聞こえる呪いのつぶやきが、あなたの眠りを妨げた。

 

 

 a 眠れない……

  

あなたの硝子のスピードの指輪は黒く輝いた。

 

 

 

 

  《信仰の深まり》

 

 

 

夢の中で、あなたは偉大なる者の穏やかな威光に触れた。

 

 a 神よ

 

あなたは信仰の技術の向上を感じた。

 

夜が明けた。 9時間眠った。 あなたはリフレッシュした。 心地よい目覚めだ。 潜在能力が伸びた(計5%)*保存*

 

 

ノースティリスの自宅から持ち込んだ幸せのベッドから起き上がったあなたは、起きるや否やどうしてこうなってしまったのだろう、とうなだれた。

 

……まあいいや。一時間もあれば残りの課題は十分に終わるし、提出は今日の午後の授業だ。まだ何とかなる。ひとまず制服に着替えて机に向かおう。

 

立ち上がって、着替える為に寝巻きを脱いだあなたは───

 

───ブンッ、という音と共に、突然消失した。

 

 

 

───ここで、一度イルヴァという世界での睡眠と装備の呪いについて触れておこう。

 

あなた達イルヴァの住人は、生物である以上睡眠を取らなければ生きていけない。しかしながら、あなた達イルヴァ人は睡眠を通して様々な現象を引き起こす事がある。

例えば身体が変異したり、身体の治癒力が上昇したり、装備品が呪われたりと言った所だ。装備品が呪われると、とても厄介な事になる。生き血を吸われたり、突然ランダムなテレポートに巻き込まれたり。

 

そう。ランダムなテレポート。

 

どこに再び現れるのか、全く予想はつかない。……だが。

 

 

……何も隣の部屋のベッドの上になんて転移しなくたっていいじゃないか。

 

 

あなたは現在、隣人のベッド───正確には、眠っている隣人に覆いかぶさっている。

 

とてもマズイ状況だ。服を着ていない、下着姿の人間が睡眠中の人間に覆いかぶさっている。これはもう言い逃れが出来ない程度には紛れもない性犯罪の現場である。

 

もうめっちゃヤバい。とんでもない。顔が近すぎる。ギリッギリで鼻先が触れるか触れないか程度の距離。隣人の吐く寝息が、あなたの唇を優しく撫でている。

いや何だこの表現は。これではまるであなたが───

 

「んっ……うぅん……」

 

もうめっちゃヤバい。とんでもない。隣人が今にも起きそうだ。どうしてよりにもよってこのタイミングなんだろう。

 

もしもこのまま彼女が目を覚ましたら───

 

 

『キャーーーッ!? ガード!ガード!!!』

 

懸命に衛兵を呼ぶ隣人。押し寄せる正義実現委員会。犯罪者扱いされるあなた。そして投獄へ……。

 

そこまで想像した瞬間、あなたはこの場から逃れるために周囲の空間をねじ曲げた。

 

ブンッ、という音と共に、あなたは再び消失した。

 

次にあなたが現れたのは、人気のない廊下だった。

見覚えのあるような気がする。丁度いい、この場で呪いを解いてしまおう。また変な場所───いや、別に隣人のベッドの上も隣人の上も変な場所では無いが、とにかくまた事故が起こる前に対処しなければ。解呪の巻物───はバックパックごと部屋に置き去りなので使えないので、仕方なくあなたは魔法で解呪を試みる事にした。

 

───あなたは《解呪》の魔法を詠唱した。装備品の幾つかが浄化された。

 

よし、何とかなって良かった。後は《インコグニート(変装)》の魔法などを駆使して部屋まで戻るだけ───

 

「ふふっ……あらあら♡」

 

ああ終わった。さようなら、楽しかった学園生活よ。

 

声のした方向をギギギギ、という軋んだ音が聞こえてきそうなぎこちない動きで振り返って見ると、曲がり角からピンク色の長髪の少女があなたを覗き込んでいた。

いつから見られていたのだろう。転移の瞬間を目撃されていたら凄くめんどくさい事になるのだが。

 

「ふふっ……『ちょうど今』ですよ。曲がり角の先で何かをつぶやく様な声が聞こえたので、覗き込んでみたら……驚いてしまいました♡」

 

なるほど、《解呪》の魔法の詠唱を聞かれたらしい。それくらいならまだ何とかなるか。

 

「ふふっ……それにしても、まさか貴女の様な方とお会いできるなんて、今日は素敵な日になりそうです♡」

 

と言うと、彼女は曲がり角からその姿を現した。

 

彼女はとても豊満な身体つきの少女だった。

 

あなたは彼女の胸部にて圧倒的な存在感を放つ*Superb*なそれを目撃した。

 

あなたは視線を真下に下げた。

 

あなたは自分の足のつま先を目撃した。

 

あなたはとても悲しい気持ちになった。

 

 

……いやちょっと待て、そんな事はどうでもいい、いやどうでもよくは無いがそんな事よりも───

 

「いやぁっ♡ そんなにじろじろ見ないで下さい♡ 恥ずかしいですっ♡」

 

……わざとらしく恥じらう彼女は、服を着ていない。

 

繰り返す。彼女は服を着ていない。

 

紛れもない事故でこうなってしまったあなたと違い、彼女はたぶん自分の意思でこの姿で出歩いていた。彼女は本物の変態だった。あなたの所属するクラスの誇る、例の変質者もびっくりの、『ガチ』の人だった。

 

そう認識したあなたは、全速力でもって自室まで一気に駆け抜けた───!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

お金が欲しい。

 

結構切実に、たくさんお金が欲しい。

 

とにかくいっぱいお金が欲しい。

 

放課後の寮の自室で、あなたはそうつぶやいた。

 

……だったら稼げ?

とっくにピアノの演奏でそれなりに稼いでいる。自慢するつもりは無いのだが、演奏スキルには自信がある。ヴェルニース名物の一人、『吟遊詩人デストロイヤー』ことロイターさんを満足させられるくらいには。

 

しかしながら、それでも演奏で貰えるおひねりのみでは大量の水を買いつつ生活を維持するだけの稼ぎが足りないのだ。

 

……が、解決策はある。部活動に所属する事だ。

 

というのも、何らかの部活動や委員会に所属し活動していれば、部費としてなんやかんやで学校からお金が貰えるらしい。今のところは、救護騎士団か正義実現委員会への所属を検討中だ。さてどちらに入ろうか……。

 

「かーばーんちゃーん! あーそびーましょー!」

 

うるさい黙れ変質者。

……変質者? 変質者!?

 

何であの変質者がここに居るんだ。

ここは寮の自室であり、彼女がここに居るという事はあなたの安全地帯である自室の場所があの変質者にバレてしまったという事。最悪だ。これから毎日教室でも部屋の中でも変質者に四六時中絡まれる事が確定してしまったのだから。全く、今日は厄日か。今朝の一件と言い、今日はやけに変態共に絡まれる。

 

 

あなたは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の変質者をのぞかねばならぬと決意した。しかしあなたにはどの辺までの攻撃が『正当防衛』にあたるのかが分からない。あなたは、ただの一般生徒である。よく学び、ピアノを弾いて暮らしてきた。彼の変質者に自ら裁きの鉄槌を下す為、正義実現委員会への所属があなたの中で決定された瞬間である。

 

まあそれは一旦置いておいて、今は扉の向こうにいる変質者の対処をしなければ。あなたは連絡先を交換した正義実現委員会に所属しているクラスメイトに電話をかけ、事情を説明した。

電話を終了して一分と経たずに、彼女はすっ飛んで来た。

 

「御用だ! 大人しくお縄につきなさい!」

「いやだ! ここまで来て諦めきれるかっ、せめて顔だけでも……!」

「……お前さ、いい加減にしろよ? 本当に迷惑なんだよ。あの子にとっても、いちいちお前を取り押さえないといけない私らにとっても。分かる? お前が気持ち悪い絡み方する度、あの子本当に嫌そうな顔してるんだよ?」

「マジトーン真顔の説教が私の心を撃ち抜く!……分かりました、もうあの子に付き纏うのはやめます、今まで本当にすみませんでした」

「……分かれば良いよ。じゃあ、あの子に謝ろっか?」

「……うん。 じゃ、私今度からおたくのコハルちゃん狙うから……」

「テメェ何も反省してねぇじゃねぇかよ!矯正局に突き出してやろうか? それとも今から私がアンタをボコボコにしてやろうか!?」

 

部屋の前で乱闘が発生する気配を感じたあなたは二人の争いを止めるため、扉を開けてにっこりと微笑みながら声をかけた。

 

正義実現委員会に所属したいのだけど、と。

 

「えっ……ええっ!? ほ、本当に!?」

 

……なぜそんなに驚くのだろうか。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『クソザコナメクジのお前が正義実現委員会になんて所属してやって行けるのか』───そんな声が聞こえた気がするので言ってしまおう。

 

多分やって行ける、と。

 

具体的には背中の翼と大鎌を使う。

 

作戦はこうだ。

 

 

まず、隙を伺って空高く飛び上がる。

 

次に、落下の勢いと大鎌の重さとあなたの全体重……全体重…………。

なんだか恥ずかしいので具体的な数値は言わないでおく事にしよう。

とにかくそれらを乗せた渾身の一撃を脳天に叩き込む。

 

結果、相手は悶絶する。

 

どうだ、この作戦は。

 

自分には、欠点は『自分が最も習熟している武器は長剣であり、それですらかたつむりや麻痺して動けない敵に攻撃をかわされる程度の腕前である』という一点しか思い当たらない。完璧だ。

 

ちなみに、あなたはキヴォトスでは人前で魔法を使わないようにしている。

 

というのも、魔法の存在しないこの世界でそんなものを使ったが最後───《英雄》や《知者の加護》といった余り目立たないものはともかく、《魔法の矢》や《ライトニングボルト》などの魔法が特に───確実にめんどくさい事になるからだ。具体的には凄まじい質問攻めに遭遇する事になるだろう。『それはどこで学んだのか』だの『私も使ってみたい』だの───想像するだけでめんどくさい。それにとんでもなく目立つ。

 

まあとにかく、この世界では魔法はできる限り使わずに過ごしていこう。実際、あなたはここ数週間人前で魔法を使っていな───

 

 

「トリニティから忌まわしい()()を追放せよ!」

「穢らわしい魔女を許すな!」

「魔女に正義の鉄槌を!」

 

 

……ほぇっ?

 

 

 

 







俺はもうヤバいと思う。
新ストーリーでミネ団長がとんでもないので俺はもうヤバいと思う。
まだ読んでない人は……読もう! 面白いよ、Vol.6!
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