婚約者を奪われて傷心状態な最強おっさん魔導士、10年前に育てた【弟子魔女】たちに何故か婚姻届を突き付けられる 作:メソポ・たみあ
結婚って、憧れるよな。
寂しい一人暮らしから脱却して、可愛らしい奥さんと一緒にテーブルを挟んで食事し、他愛もない会話で笑い合う……。
そんな小さな贅沢を夢見るのは、なにも俺だけではないだろう。
俺の名前はマーヴィン・ブラッド。
年齢は今年で三十八歳。社会的にも肉体的にも、立派な
老人扱いされるにはまだ幾らか若いとは思っているが、そろそろいい感じにくたびれ感が出始めてきたお年頃な中年である。
俺は〝魔導士〟と呼ばれる仕事をやっている。魔法使い、魔法師、ウィザード……呼び方は別になんでもいい。とにかく魔力を用いて魔法を発動し、それを世のため人のために役立てる仕事だ。
この世界『アルカディア』では一般的に、魔法を専門に扱う男性のことは〝魔導士〟、女性のことは〝魔女〟と分けて呼ばれる。
魔法は人間が生きていく上で欠かせないモノだ。町の中での日常生活、医療、農業や畜産業、はたまた凶悪なモンスターとの戦闘など、あらゆる場面・分野において魔法は用いられ、重宝がられる。それでいて魔法は誰にでも扱えるワケじゃないから、発動できるだけで大事な存在として扱われる。
故に、魔導士や魔女は人々にとって花形職業でもあるのだ。
そんな花形職業に就いていれば、さぞ異性からモテモテだっただろうって?
ハハハ、そうだったならどれほどよかっただろうな。
……残念なことに、ひっじょーに残念なことに、俺は異性から全く、完璧に、これっぽっちもモテなかった。
若い頃から恋人すらできたことはなく、気が付けば女性経験のない三十八歳中年オヤジが出来上がってしまっていた。こんなに悲しいことってあるかよ。人生って残酷すぎるだろ。
いやまあ、俺が異性にモテない――というか恋人ができなかったのには、ちょっとした〝
……しかし、しかしである。
そんな俺にもやっと、ようやく、長い時を経て、
遂に……遂に俺にも
お相手の女性の名前はタイーシャ・エルマン。美しい金髪を持つお淑やかな人で、年齢は三十歳。俺には勿体ないくらいの美人さんだ。
約半年の交際期間を経て、彼女は俺との婚約に合意してくれたのだ。あと半年経ったら挙式して、正式に夫婦になりましょうと。
やった……! これで俺も孤独な独身生活から脱却できる……!
そう思って、浮かれ切っていた。
それが――ほんの数秒前までの俺の姿である。
「よく聞けよマーヴィン。お前の大事なタイーシャは
「……は?」
俺は目を丸くし、思わず腑抜けた声を出してしまう。
ある日、タイーシャが「大事なお話があるの」と言って俺を呼び出したので、なんだろうと思いつつ約束の場所へ行ってみると――そこには赤髪の男に肩を抱かれた
コイツの名前はウジェール・ギロウ。俺と同じ魔導士であり、貴族出身の男。昔からなにかにつけて俺に因縁を吹っかけてくる嫌な奴で、有り体な言い方をすれば商売敵だ。
「え、あの、タイーシャ……? これ、どういうこと……?」
「ごめんなさいマーヴィンさん。でも私、気付いてしまったの。ウジェールさんの方が、あなたよりずっと素敵な人だって」
ウジェールの腕に抱かれてうっとりとした顔をするタイーシャ。
そんな婚約者の顔を見た時、俺の脳内で〝バリーン!〟となにかが粉々に砕け散った音がした。
「ギャハハ、残念だったなぁ! ま、〝呪われた血〟を持つお前なんかが幸せになれるなんて思うことの方が、おこがましいってことさ」
勝ち誇った顔をして高笑いを上げるウジェール。
――〝呪われた血〟。
そう、それだ。俺が全く異性にモテず、ずっと恋人ができなかった理由は。
俺は――俺の身体に流れる血は、呪われている。
そして「ブラッド家の血は呪われている」というのは、俺の住まう国である『カウロネイア王国』では少しばかり有名な話なのだ。
ブラッド家にはとある伝承がある。
その昔、一人の男が神に祈ったそうだ。「我に大いなる魔力を与え給え。その代わり、我が身体に流れる血に末代まで続く呪いを受けよう」――と。
この祈りを受けた神は男に絶大な魔力を与え、同時に末代まで続く呪いもかけた。
そうして偉大なる大魔導士として『カウロネイア王国』の歴史に名を残したのが、俺のご先祖様。
以後ブラッド家の人間は代々強大な魔力を持って生まれてくるようになった。それは俺も例外ではなく、俺が魔導士として食うに困らない生活を送れているのがその証拠だ。
そんなワケで、俺はブラッド家の末裔として国の中では幾らか名が知られている。今はもう畳んでしまったが、十年くらい前までは小さな〝魔法道場〟を持って門下生たちに魔法を教えていたくらいだ。ブラッド家の人間に魔法を教われると、一時期は人気道場にもなったくらいだったよ。
まあ、昔の話だけどな。今の俺は実質なんでも屋のような仕事をしているから。
ともかく俺はこの〝呪われた血〟によって魔導士としての人生を歩めてはいるが――同時に呪いに蝕まれてもいる。
俺の先祖が力の見返りとして受けた呪いとは――〝愛する人が早逝する〟という呪い。
ブラッド家の血が流れる人間と愛し合い、契りを交わした者は早逝する。男であれば妻が、女であれば夫が。
いずれにしても子供が生まれて一年以内には、確実に相手が死亡する。そして生まれた子供にも呪いが受け継がれていくのだ。
仮に子供を作らなかったとしても、俺の知る限りブラッド家の人間と結婚して十年以上長生きした者はいない。いずれにせよ、早死にされるのは避けられないのである。
この質の悪い呪いは国内ではそこそこ有名で、俺が全く異性にモテなかった理由もココにある。
そりゃそうだろう。「コイツと結婚したら早死にする」と知ってれば、誰だって避けるのが自然だ。
俺自身としても相手が早逝するとわかっているため、安易に恋人を作る真似もしなかったし。
そんなはた迷惑この上ない最悪な呪いを受けても、ブラッド家はこれまでどうにか血筋を紡いできた。
こんなクソみたいな血なんてさっさと途絶えさせてしまえばよかったのにと個人的には思うが、『カウロネイア王国』において血脈を絶やすというのは最大の恥とされており、それだけは避けるべきという風潮が極めて根強い。だから俺の両親も祖父母も、その上のご先祖様たちも、どうにか子孫を残してきたワケで。
その風潮というのは周囲からの圧力もあり、男であれば二十になった頃には知人や親族がお相手を半ば力ずくで見繕ろおうとし、さらに二十五歳を過ぎても結婚せず独り身でいたりすると、かなり奇異の目で見られ始める。
いい歳して結婚もしてないなんて、アイツは変な奴だ、ヤバい奴だ、みたいに思われ始めるのだ。最悪である。
……若い頃は賑わっていた魔法道場を閉めることになったのも、その辺が関係してたりする。
とはいえブラッド家の人間には大きな魔力があるため、変人だと思われつつもどうにか食いっぱぐれていないのは不幸中の幸いだがな。
もっとも、そんな〝呪われた血〟を引く俺とて、結婚それ自体を完璧に諦めていたワケでない。
この世界には
ありとあらゆる呪いを無効化できる体質の持ち主――〝聖血〟と呼ばれる血が身体に流れる者が。
だが〝聖血〟の持ち主は極めて稀少であり、少なくとも俺のご先祖様たちは巡り合うことはできなかった。正直、俺としても出会うことなど絶望的ではあった。
だが変人として奇異の目で見られながら、それでも諦めず三十八歳になるまで探し続けて――ようやく見つけたのである。
〝聖血〟の持ち主で、未婚の女性で、俺と結婚してもいいと言ってくれる――そんな理想的な女性を。
その
彼女となら老後まで幸福に添い遂げられる――。〝呪われた血〟で愛する者を不幸にすることもなくなるんだ――!
……そう、思ってたのに。
俺からタイーシャを奪ったウジェールは「ククク」と笑い、
「マーヴィン・ブラッド……忌々しい〝呪われた血〟め。お前はずっと目障りな奴だったよ。ちょっとばかり魔力があるからって、デカい
恨めしそうに俺を見ながら、奴はタイーシャの顎を指先でクイッと上げる。
「タイーシャは宝石だ。お前なんかに〝聖血〟は勿体ない。とっとと新しく適当な女でも見つけて、早死にしてもらうんだなぁ、ギャハハハハハハッ!」
そう言い残し、ウジェールはタイーシャを連れて俺の前から去っていく。
「ま、待ってくれ、タイーシャ……!」
思わず、俺は彼女を呼び止める。
しかしタイーシャは振り向くことはなかった。
去り行く婚約者の後ろ姿を目に焼き付け――俺はその場に崩れ落ちることしかできなかった。