婚約者を奪われて傷心状態な最強おっさん魔導士、10年前に育てた【弟子魔女】たちに何故か婚姻届を突き付けられる   作:メソポ・たみあ

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第2話 おっさんのヤケ酒

 

「ううぅ~~~……ちくしょ~~~……!」

 

 俺は飲んだくれていた。

 ウジェールに婚約者(タイーシャ)を寝取られ、軽く一時間以上はその場に放心していた俺であったが、どうにか意識をハッキリさせるや酒屋に直行。

 大量の酒を買い込み、ヤケクソになって自宅で飲み散らかしていた。

 

 外はすっかり暗くなっており、ロウソクに灯された小さな炎が空の酒瓶を照らしている。

 もう既に度数の強い酒を何本も空けており、目の前はグルグル回って酩酊状態。だがこんなモンじゃ終わらんぞ。今日は吐いてぶっ倒れるまで飲み続けてやる。

 

 やってられるか。もうなにもかもやってられるか。

 やっと見つけたんだぞ。俺が不幸にせずに済む女性が。

〝呪われた血〟で死ぬことない――俺を孤独から救ってくれる女性が。

 

 なのに……なのに……!

 

「ふざけんなよぉ……。どうしてウジェールなんかに……」

 

 タイーシャ、どうしてだ? どうしてウジェールなんかに靡いた?

 

 ……いや、考えるまでもない。

 アイツはギロウ子爵家という貴族出身の金持ち。それに魔導士としてそれなり実績もある。女性の立場からしてみれば、あらゆる側面において俺なんかより魅力的な男だ。

 

 ウジェールは無駄にプライドの高い奴だ。それに目立ちたがり屋で、常に自分が一番でないと我慢できないような性格。

 俺とアイツの因縁は、かれこれ十五年前まで遡る。

 とある田舎の村のすぐ近くにゴブリンが集落を作ってしまい、村人や農作物がゴブリンの被害に遭うようになったため、村人たちは駆除のために魔導士――つまりウジェールを雇ったのだとか。

 

 しかし思いの外集落のゴブリンの数が多かったようで、ウジェールは苦戦。

 そこに、たまたま全く無関係の仕事で村を訪れようとしていた俺が鉢合わせる。

 俺はウジェールに加勢し、ゴブリンの集落を壊滅。無事に村人たちは救われたワケなのだが――彼らはウジェールではなく、加勢した俺の方に感謝の念を向けてしまったのだ。あまつさえ用意していた報酬をウジェールではなく俺へ渡そうとしてきたほどで……つまり俺は意図せずウジェールの仕事を横取りしてしまったのである。

 

 勿論俺は報酬を受け取らずウジェールに支払うよう村人たちを説得したのだが、どうやらそれが余計にウジェールのプライドを逆撫でしてしまったようで……。

 

 それからというもの、ウジェールは俺のことを目の敵にして、ことある事に因縁を吹っかけてきた。

 嫌がらせの類もまあまあ受けたし、確証はないが俺の魔法道場からどんどん門下生が減っていって最終的に畳まざるを得なくなったのも、アイツが裏で悪い噂でも流してたんじゃないかと思っている。

 もっとも、俺がいつまでも結婚せずにいたのが一番の原因だってのは間違いないから、そこはとやかく言うまい。

 

 だがまさか、ようやく見つけた婚約者を寝取るような真似までしてくるなんて……。

 

 正直に言って、めちゃくちゃ恨めしい。ぶっちゃけ報復してやりたい。

 だけど……そんなことをしても、タイーシャは俺の下へは帰ってこないだろう。むしろ余計に嫌われるだけだ。

 

 それにアイツの家は権力のある子爵家。おいそれと手出しはできん。

 結局のところ、俺は泣き寝入りするしかないのだ。

 

「くそぉ……俺は所詮、孤独に生きるのがお似合いってかぁ……?」

 

 ハハ……もう笑えてくるね。

 先祖の身勝手で継がれた〝呪われた血〟は、文字通りどこまでも俺を呪ってくるってか。

 

 ああ、やめだやめだ。考えるだけ胸糞悪くなるだけだ。

 今夜はとにかく飲むんだ。飲んで飲んで忘れる努力をしよう――。

 

 そう思って、俺がグラスに注がれた酒をグイッと呷った――そんな時だった。

 

 

〝ドンッ、ドンッ〟

 

 

 誰かが、俺の家の玄関ドアを外から叩く。

 

「んお……? 誰だぁ、こんな時間に……」

 

 はた迷惑な奴だな、こんな夜更けに人様を訪ねてくるなんて。

 

 今日はタイーシャ以外に誰かと会う予定なんてあったか……? いや、なかったな。うん、ない。

 だったら無視して居留守使ってもいいだろ。どうせしょうもない勧誘かなにかだろうし。

 

 つーか、訪ねてくるならせめて昼間に来いよ。もし俺に妻と幼い子供がいたら、そろそろ子供を寝かしつけてる時間帯だぞ。

 ……いかん、想像したら余計に悲しくなってきた。そういう温かい未来をつい数時間前に失ったのに、なんで自分で自分の心の傷をえぐるかな、俺は……。

 

〝ドンッ、ドンッ〟

〝ドンッ、ドンッ〟

 

 居留守を使うつもりだったが、訪問者はどうやら諦めるつもりはなく、しつこくドアを叩き続ける。

 

「ああもう、しょうがないな……」

 

 こうなったら直接追い返してやる――と思った俺は、イライラを募らせながら玄関ドアの前まで歩いていく。

 そしてドアの取っ手を掴み、勢いよくガチャリと開いた。

 

「おい! いったい今何時だと――ッ!」

 

 思ってんだバカヤロー! ……と怒鳴り散らしてやるつもりだった。

 ――しかし、ドアの向こうに立っていた人物の姿を見て、俺の声は反射的に喉奥へと押し込まれた。

 

 そこに立っていたのは――大きな大きな三角帽子を頭に被った、長い金髪を持つ女性。

 身長は俺よりだいぶ低く、160センチあるかないか。澄んだ水のように淡い青色の瞳を持ち、とても端正な顔立ちをしている。

 地面スレスレまで丈がある紺色のローブを羽織い、身長と同じくらいの長さの大きな杖を持ったその装いを見れば、誰もが一瞬で理解するだろう。

 

 ――〝魔女〟。

 彼女は間違いなく、魔女と呼ばれる魔法使いだと。

 

 年齢は……たぶん二十歳くらい? いや、ひょっとするともう少し若いかもな。

 こんなお若い別嬪さんが、どうして夜も更けた頃合いにおっさんを訪ねてきたんだ……?

 

 俺が釈然としないでいると、

 

「……お久しぶりです、マーヴィン師匠(・・)

 

 彼女は俺を見て、小さな口を開く。

 

 マーヴィン……師匠……?

 そう呼ばれた直後、ようやく俺はハッとする。一瞬で酔いが醒めたような気さえした。

 この金髪、この青い瞳。

 もしかして――

 

「もしかして……セラフィナ(・・・・・)か?」

 

 俺にとっては随分と――本当に随分と懐かしい名前を呼んでみる。

 すると、彼女はパアッと表情を和らげた。

 

「! 覚えていてくれたのですね、私のことを……!」

「そりゃ覚えてるさ。でも随分と見違えた。すっかり大人になって……一瞬誰だかわからなかったよ」

「それは大人にもなります。私が師匠の弟子だった頃から、もう十年(・・)も経ってるんですから」

 

 十年――。

 そうか、もうそんなになるのか。

 俺が魔法道場を畳んで、門下生たちに別れを告げてから……。

 

 この子の名前はセラフィナ・トワイライト。

 かつて俺が魔法道場で魔法の指南をしていた教え子だ。

 

 ――この世界において、魔法とは学問である。それも中々に難しい学問だ。なので誰もがおいそれと気軽に扱えるというワケではない。

 習得するには小難しい勉学をこなせる頭脳が必要とされるし、自らの持つ魔力をコントロールする術も必要とされる。

 

 特に魔力量というのは個人差が大きい。中には強大な魔法を三日三晩発動しっ放しにできるほどの魔力を持つ者もいれば、少し消費量の多い魔法を一度発動しただけで魔力切れを起こしてしまう程度の魔力しか持たない者もいる。

 つまり魔法には先天的な才能というのが存在するのだ。

 

 魔法を扱う者には、頭脳も才能も求められる。どちらか片方だけではダメ。故に、魔法に精通し、魔法を扱いこなせる者というのは重宝がられる。

 

 だからこそ魔法を会得し、魔法を使いこなす者たちのことを、世間は尊敬と畏怖の念を込めて〝魔導士〟や〝魔女〟と呼ぶのだ。

 

 しかし――魔法を独学で会得するというのは非常に難しい。

 知識に関しては本などからある程度は得られるが、魔力のコントロールはそうもいかない。特に魔力量というのは個人差があるため、例えば魔力量の少ない者が下手に出力の多い魔法を発動し、魔力を枯渇させてしまったりすれば、それこそ命にかかわる。

 

 だから、教える人間(・・・・・)が必須となる。

 つまり〝先生〟が。

 

 俺が師範を務めていた『ブラッド魔法道場』では、主に魔力のコントロールを教えていた。勿論座学――つまり知識に関しても教えていたが、なによりも〝生徒一人一人が魔力量という絶対的な才能の限界を知り、その上で成長していける〟ことを大事にしていた。

 

 魔法には魔力量という生まれついての才能がある。魔力量はその人間が生まれた瞬間に決まってしまう。

 魔力量が多ければ才能があると言われるし、少なければ才能がないと言われてしまう。

 

 では、魔力量が魔法使いとしての人生を決めるのか?

 ――俺はそうは思わない。

 

 魔力量というには指標の一つでしかない。魔力量の多さよりも「どう使うか」の方が俺は大事だと思っている。

 

 だからこそ、自分の才能の限界(・・・・・)を知るのは大事なのだ。

 限界を知ってこそ人は成長する。そして成長とは工夫である。

 そう信じて、俺は門下生たちを指導してきた。その考えは今でも間違ってはいないと思っている。

 

 ……俺がセラフィナの先生をやっていたのは、彼女がまだ九歳だった頃。六歳の時に魔法道場に入門して、それから三年間彼女は俺の下で魔法を学んだ。

 

 セラフィナは魔法の中でも火属性の魔法を得意とし、特に〝火属性の攻撃魔法〟の出力に関しては目を見張るモノがあった。

 とはいえ当時はまだ幼かったので魔力のコントロールがおぼつかず、下手に高度な魔法を扱わせるのは危険だったため、俺はあくまで初歩的な魔法や基礎知識なんかを教えるに留まっていたが。

 

 それでも彼女はとても賢かったので教えたことはすぐに覚え、こと火属性の魔法で教えたモノを発動できないことは一度もなかった。同年代の子供たちと比べても、その一点に関して明らかに秀でていたのは間違いない。

 

 俺としても、もしかしたら彼女は将来大物の魔女になるかもと期待していたのだが……年を追うごとに門下生たちが辞めていき、いよいよ魔法道場の運営を続けられなくなって、中途半端なところで指導を放棄せざるを得なくなってしまった。

 最後まで先生としての役目を果たせなかったのは、俺にとって大きな心残りだった。

 

 ――なにもかも懐かしい。

 俺が魔法道場を畳むその瞬間まで道場に残り、最後の最後まで俺を師と仰いでくれた生徒は、セラフィナを含め全部で五人(・・)

 あの子たちは今頃どうなっているのか……。

 

 この十年間連絡を取れず終いだったが、まさかこうしてその内の一人――セラフィナが会いに来てくれるとは……!

 

「本当に大きくなったなぁ……立派になって……グスッ」

「な、泣かないでください。それよりお尋ねするのが夜分遅くになってしまって……お邪魔でしたか?」

「とんでもない! すこし散らかっててすまないが、どうぞ入ってくれ」

 

 俺はセラフィナを家の中へと招き入れる。

 

 

 

 ――この時、俺は気付いていなかった。

 我が家の中に入ったセラフィナの口元が、どこか艶やかな笑みを浮かべていたことを。

 

 




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