リグルドは宣言通り、昼までに準備を整えた。ドワーフの王国に向かう者の選抜も、抜かりなく行っている。自分の息子であるリグル筆頭に、計5組。あとは、俺とリムルさんとランガ。ところで、リグルには隊長としての仕事を任せなくてもいいのだろうか?少し心配になったが、本人達は納得している様子。リグルドも、若返った感じでやる気に満ちているし、俺が心配しすぎなのかもしれん。
さて、荷物を受け取ると、俺はブーストレイズバックルを取り出しブーストスロットルを捻ると………
BOOSTRIKER
ブーストライカーを召喚しブーストライカーに跨る。荷物の中身は、お金と食物だ。食べものは三日分。それ以上日数がかかるなら、自給自足する予定。日持ちするのを持って行ってもいいが、かさ張るのを避けたい気持ちがあった。俺が等スキルを使えばいくらでも持てるのだけど・・・。甘やかすのは良くないだろう。自分に食事の必要が無いからこそ、冷静に判断したのだけどね。お金は、銀貨が7枚に銅貨が24枚。まず間違いなく、大した額ではない。期待するのは辞めた。後は、着いてからどうするか考えようと思う。それでは、出発である!
ドワーフの王国は、ゴブリンの足で歩いて二ヶ月の距離にあるそうだ。森の中を流れるアメルド大河。これを辿っていくと、山脈にでるのだとか。その山脈に、目指すべきドワーフの王国がある。東の方にあるという帝国と、ジュラの森周辺にあるらしい複数の国家。この間を隔てるのが、カナート大山脈である。故に、貿易するルートは三つに別けられる。一つはジュラの大森林の中を通り抜けるルート。そしてもう一つが、大山脈を越えていく険しい登山道。最後に海路。本来、ジュラの大森林の中を通り抜けるルートが最も最短で安全なのだが、何故か余り利用されていない。
主に、大山脈を越えていく険しい登山道が主流となっている。海路については、コストがかかる上に、海の魔物の脅威もあるらしい。故に、最も利用の少ないルートだそうだ。今回は、帝国に用事があるわけではない。東に森を抜ければ帝国だが、北上し、カナート大山脈を目指すのだ。山頂まで登る必要はない。ドワーフの王国は、アメルド大河の上流部であるカナート大山脈の麓に、その領土を構えている。山脈の、自然の大洞窟を改造した、美しい都。それが、ドワーフの王国なのだ。
俺達は予定通り、アメルド大河に沿って北上していた。川に沿っての移動なので、迷う事もない。念のため、脳内に地図も表示しているけどね。案内は、一度ドワーフ王国に伝令に行った事のある者がいたので、そいつに頼んだ。俺の前を、先導して走っている。しかし、黒狼(=嵐牙狼族)に進化した牙狼達だが、早い!しかも疲れを見せない。移動開始して3時間程になるが、一度も休憩を入れていない。にも関わらず、時速80km近い速度で走り続けている。でこぼこした岩場とかもあったのだが、お構いなし。乗っている者を振動で疲れさせない走り方をした上で!である。何というか、非常に楽だ。このペースだと、一週間も必要ないかもしれない。まあ、無理せず行けばいい。衣服や住処は早く用意しておきたいところだが、慌てても仕方ない。
サオリ「おーい! あんまり無理はしなくていいぞ!」
と、声をかけておいた。何故か、若干速度が上がった。この3時間、普通のバイクよりも早いスピード感や、流れゆく風景を楽しんでいた訳だが、そろそろ暇になってきた。この速度で、会話するのは至難なのだが、俺には『思念伝達』がある!皆で仲良くお喋りしながら、この旅行を楽しむのもいいかもしれない。そう思い、皆と思念のネットワークを組む。さて、何から聞くかな・・・。
リムル「リグル君。そういえば、君のお兄さんは、誰に名前付けてもらったの?」
リグル「は!私など、呼び捨てで構いません!で、兄の名前ですが、通りすがりの魔族の男に付けて貰ったそうです。」
サオリ「ほう。魔族がゴブリンの村に来たのか?」
リグル「はい、十年前程になります。私がまだ子供の頃に・・・村に数日滞在し、兄に見所があるから、と。」
リムル「へえ。いい兄貴だったんだろうな。」
リグル「はい!自慢の兄でした。その魔族ゲルミュッド様も、いずれは自分の部下に欲しい!と、仰って下さっていたほどです。」
リムル「その時、連れて行かれたりしなかったんだね?」
リグル「はい。兄もまだ若かったですし、何年かしてより強くなった頃にもう一度来ると仰って、旅立たれました。」
サオリ「そうかそうか。今度来たら、様子が変わりまくっててビックリするだろうな!」
リグル「そうですね! しかし、今はリムル様に仕える身。栄えある魔王軍とはいえ、ゲルミュッド様について行く事は出来ませんが!」
サオリ「魔王軍・・・。あったんだな、そんなの。てか、誘ってくれるか判らんのに、自信ありげだな???」
リグル「ええ、自信というか、確信です。兄もネームドとして進化しておりましたが、ここまでは変化しておりませんでした。明らかに、進化の格が違います。"世界の言葉"など、一生聞く事は無いと思っておりました!」
周りで話を聞いていたホブゴブ達も、そうだそうだ! とばかりに頷いていた。そんなモノなのか?名前を付けたら進化する。ただし、名付け親によって進化の程度も変化するのか・・・。今度、比べる機会があったなら、実験してみるか。しかし、魔王軍。やはりあるのか、この世界には!魔王が攻めてきたりするのだろうか? というか、その時どっちの味方をすれば???まあ、攻めて来た時に考えよう。幸いにも、"勇者"という存在もいるらしいし、魔王の相手は勇者がするというのは常識だ。300年経って、勇者が生きているかは疑問だが・・・きっと転生なりなんなりして、元気に修行でもしてるだろう。一応、記憶の片隅にメモっておく。
さて次の話題は・・・、
リムル「ランガ、私って貴方の親父さんの仇って事になるよね?その辺気にしなくていいの?」
と、リムルさんがえらく懐いてくれている黒狼に問いかけた。
ランガ「正直、思うところはあります。しかし、戦いにおいての勝敗は、魔物にとっての必定。例え、どのような戦いであれ、勝てば正義と心得ております。負ければ、何も残らない…。されど…、我が主は、我々を許したのみならず、真名まで授けて下されました!感謝こそすれども、恨むような事はありません!」
リムル「ふむ…。もし、リベンジをしたいのなら、何時でも受け付けてあげる。」
ランガ「フフフ。進化して、よりハッキリと認識出来ております。前の戦いの時、もし本気を出しておられたならば、我々は皆殺しとなっておりました!そうなっていれば、種族の悲願であった進化を行う事もなく散っていたのです。我らの忠義は、我が主、唯おニ人のものでございます!!!」
何を言ってるのやら…。確かに、領域展開したら全滅させる事も出来たかもしれないが、そんな危険な賭けする気にならない。こいつは、過大評価しすぎだな。まあ、勘違いしてくれる分にはまったく困らないか…。
サオリ「わかるか…。お前も成長したようだな!」
ランガ「はは!有難き幸せ!」
適当に話を合わせて、頷いておいた。まあ、親を殺されている訳だ。恨みが無いと言えば、嘘になるだろう。ランガの奴が、いつか俺等にリベンジに来たとしても、快く受けてたってやろうじゃないか。それまでに、確実に強くなっておく必要がありそうだ。何しろ、どう見ても、今では黒蛇並に強くなっていそうな感じなのだから…。
そんな感じで、話をしながら旅をする。途中、魔物に襲われたりといったイベントは発生せず、順調に行程を進んでいた。三時間毎に30分休憩を挟み、14時間経過したら7時間の睡眠時間を含めた休憩を取った。ちょっと急ぎすぎではないのか?と言ったのだが、
リグル「大丈夫です! 我々、進化のお陰か、それ程疲れなくなっております!」
と、リグルが答え、
ランガ「我等の事は心配なさらないで下さい!我が主のように、睡眠が不要な訳ではありませぬが、長時間は必要ありませぬ!食事も、頻繁に必要という訳ではなく、無くても支障はありませぬゆえ!」
などと、ランガも追随して答えた。他の奴らの様子を見ても、皆やる気に満ち溢れている。これでは、一番何もしていない俺等が、一番やる気がないみたいに見えてしまう。まあ、皆のやる気があるのなら、とそのペースで進む事にした。一日に12時間は走り続けている事になるのだが…、こいつら本当にタフになったものだ。二日目の終わり、就寝前の食事を摂っている時に、
サオリ「ところで、ゴブタよ。あと、どのくらいか判るか?」
案内のゴブリン=ゴブタに聞いてみた。
ゴブタ「は、はいぃぃ!!!恐らくですが、明日には到着出来るかと思います!大分山が大きく見えておりますので!」
俺に声をかけられ、緊張半分喜び半分で焦ったのだろう。 舌を噛んだのではないか?という程、慌てて返事してきた。なるほど、言われて見れば、山が大きく見えている。昨日までは、その姿も見えていなかったのだが、とんでもない移動速度だ。そういえば…、
リムル「ところで、ふと気になったのだが、何しにドワーフの王国まで行ったのだ?たまに行商に来るのだろ?」
と質問してみた。ゴブリンの王国についてリグルドに聞いた際、行商のコボルト族がいるという話を聞いていた。わざわざ、2ヶ月もかけてドワーフ王国まで出向くのも変な話である。
リグル「はい!魔法の武器や防具はですね、ドワーフ族が高値で引き取ってくれるのです!とはいっても、道具類で支払ってくれるのですが…、行商の者に持たせて運んでくれるので、助かっていたのです!それに、村周辺の魔物には武具を使える者は居りませんし…」
なるほど。たまに、冒険者が持っている武具を売りに行っていたという事か。どおりで、碌な装備が残っていないと思った。コボルト族には物の良し悪しが判らないので、わざわざ出向いたのか。もっとも、ゴブリンに倒されるような者は、初心者が森で迷ったようなヒヨっ子だろう。大した物を持っていたとは思えなかったが…それなのに、道具を融通してくれるとは…、ドワーフとは案外、親切な種族なのかもしれない。上手くいけば、友好的な関係を築けるだろう。というか、ぜひ上手くいって、良好な関係になりたいものだ!
そして。
旅に出てから、丸三日経過した。カナート山脈の麓に広がる、牧草地。山脈の、自然の大洞窟を改造した、美しい都。大自然が創造した、天然の要塞。武装国家ドワルゴン。
ドワーフの王国に到着したのだ!
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紫髪の女性「後もう少しであのお方にお会いできる!」
白髪の女性「……面白そうね、私もお会いに行くわ」
金髪の女性「見てやる、どのくらい強いかをな!」
と召喚された時の準備をしていたのである。