Duel Masters Resister 作:六角ベンゼン
プロローグ:百獣の襲来
ここは、新京極。
京都の四条河原町近くに位置する繁華街である。
繁華街であるからには、当然様々な店が立ち並んでいる。飲食店やアパレルショップなど立ち並ぶ中、一人の少年はある目的地に向けて歩いていた。
少年…龍堂晴人は、夏休みに入ったばかりの高校1年生であり、そしてデュエマのプレイヤーでもある。
そんな彼の目的地といえば、やはりカードショップ。勝手知ったる商店街の中を突き進み、定期テストから解放された喜びのもと、カードを購入しに向かう。
いつものように特価コーナーを確認し…そしてガッツポーズを浮かべる。
その場にいた店員に頼み、ショーケースより購入したそのカードは、音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ。革命チェンジで現れて呪文を封じる強力なカードであり、晴人の用いるデッキ…白赤緑ボルシャックにも入ることが多い。やや値が張るカードであるため、特価で買えたのは幸運である。
デッキを入れ替えたあと、冷房の効いた店内から出た晴人は、まず独り言ちた。
「暑っつ…」
京都の夏はとても暑い。盆地に位置するため熱が篭もりやすく、この日も天気予報では35℃を超える気温が予測されていた。
しかし、それを考慮しても、外は暑すぎた。普段の暑さとは違う、まるで火山にでもいるかのような感覚…
あいにく手元に温度計を持ち歩いているわけもないため、気のせいだと判断した晴人は、一刻も早く涼しい家に帰るため、駐輪場を目指して歩き出そうとした。
その刹那。晴人の目の前で、唐突に炎があがった。
「おわッ…な、何で…?」
驚いた晴人は腰を抜かして転んだ後、疑問を口にする。
それは、ただの火事とも思えなかった。理由は単純…炎があがった地点が、他になにも置いていない道路の上だったから。可燃物があったとも思えないし、ガスの臭いもしなかった。
それを皮切りに、あちこちで炎があがる。騒然とする人だかりのなか、"それ"は、炎の中から現れた。
人に似たフォルムに黒褐色の皮膚…しかし顔はほぼトカゲであり、両腕には巨大な3本爪が生えている異質な姿。しかし晴人は、それをある意味では見慣れていた。
その姿は、赤単速攻永遠の一番手、生涯現役とも称される1コストクリーチャー…凶戦士ブレイズ・クローそのものであったから。
ブレイズ・クローはしばし周囲を見渡す。キョロキョロとしているうちに…ふと、晴人とブレイズ・クロ―の目が合った。
一瞬、沈黙が走る。そして…
ブレイズ・クロ―は突如として爪を振りかざし、晴人に飛び掛かってきた。
「やっぱり!?」
クリーチャーと殴り合って勝てるわけもない。即座に逃走を選択した晴人だが、如何せんただのインドア派オタクが速く走れるはずもなく、あっさり追い付かれて抑え込まれてしまう。
牙をむき出しにして明らかに殺る気のブレイズ・クローに対し、必死で抵抗しているうちに、鞄がその爪で破れ…デッキケースが転がり出た。それは、晴人の足にぶつかり…
その瞬間、眩く発光した。
突然の閃光に驚き、力を緩めるブレイズ・クロー。その隙をついて晴人は拘束を逃れ、デッキを拾うが、光は弱まる様子もなく、むしろ強まる。
そして、やがて光は寄り集まると、竜の形を成しはじめ…光が収まると、見慣れた竜がそこにいた。
燃えるような緋色に煌めく全身に、太陽を背負ったかのような翼、そして燃え盛る巨大な爪。
白赤緑ボルシャックの誇る切り札…竜皇神 ボルシャック・バクテラス、降臨!!
ブレイズクローは驚いたような表情で立ち尽くすも、やがて再び飛び掛かってくる。
しかしバクテラスはパワー17000。パワー1000のブレイズ・クローとのバトルで負けるはずもなく、バクテラスの爪に貫かれ、爆散して消滅する。
勝利したバクテラスは、晴人の方を振り返る。
何も言わないバクテラスだが、晴人には感じ取れた。
このバクテラスは、きっと自分の相棒だ。
歩み寄り、その手に触れてみると…バクテラスは晴人をつかみ上げ、背に乗せ、飛翔した。
竜の背に乗って空を飛ぶことになるなど想像もできず、しばし興奮していた晴人だが、眼下の光景を見て、現実に引き戻される。
あちこちで、クリーチャーが暴れている。ブレイズ・クローの他にも、一撃奪取トップギア、轟速 ザ・レッド、超音速 ターボ3…間違いなく、赤単バイクの面々だ。
クリーチャーが、そこで生きる人々を蹂躙する。ただ逃げ惑うばかりのその光景を見ていられず、晴人は、バクテラスに言った。
「…行こう。みんなを助けに!」
それを聞いたバクテラスは、咆哮をあげ…真下で暴れていたターボ3に向かって突撃する!
空からの一撃。さすがの轟速の侵略者であろうと対処が追い付かず、少女を追っていたターボ3は爆散する。それを確認したバクテラスは再び飛翔すると、今度はトップギアをロックオン。天空から突撃し、爪で薙ぎ払う。
その姿、まさに暴竜。みるみるうちにクリーチャーが殲滅され…晴人はついに、それを見つけた。
紅い塗装に、両腕両足に装着されたタイヤ。頭上の排気筒が火を噴けば、凄まじい速度で駆け巡る。
赤単バイクの切り札…轟く侵略 レッドゾーンだ。
その傍らには、サラリーマンのようなスーツ姿の男が立っている。眼前で暴れるレッドゾーンから逃げる様子も一切なく、襲われることもない。
状況からして、つまり。
「あいつが原因か!バクテラス、降下頼む!」
その男を倒せば襲撃も終わると判断した晴人は、バクテラスに指示し、男の前に降下する。
近くで見たその男は、やはりサラリーマンのように見えた。出方をうかがっている晴人の姿を確認すると…男が口を開く。
「どうやら私のクリーチャーを倒したのは貴方のようですね。」
怒りもなければ悲しみもない、喜びもない。ただ無感情に言った男に警戒を強めつつ、晴人は返す。
「ああ、俺のバクテラスが倒した。そうなりたくないなら、今すぐレッドゾーンに乗って逃げ帰ることだな。」
これ以上襲撃するなら容赦はしない、と言外に告げて牽制する晴人だが、男はそれを意に介していないようで。
「それは不可能です。」
きっぱりと返される。
「むしろ貴方こそお引き取り願いたい。今大人しく引くのならば貴方は見逃します。」
今度は男からの交渉。襲撃を妨害しないのならば見逃す…そんな選択肢は晴人にはなく。
「断る。お前が襲撃をやめない限り引くつもりはない。」
もはや、話し合いの余地はなさそうだ。レッドゾーンによる攻撃に備えて身構える晴人だったが、男は鞄に手を突っ込むと…デッキケースを取り出した。
ケースの中には、デュエマのカード。一見すると緊迫した場面で突然遊び始めたようにも見えるが、デュエマの漫画も大体把握している晴人は、その意味を悟った。
デュエマの漫画には、真のデュエルというものが存在する。そこでは、クリーチャーとシールドが実体を持ち…割れたシールドの破片はガラス片のごとく人を傷付ける。
そして、ダイレクトアタックではクリーチャーの攻撃を直接受ける、命を懸けたデュエルである。
男が始めようとしているのは、きっと真のデュエルのようなものだ。
「交渉決裂ですか。ならばデュエルで決着を付けるのはいかがでしょうか?」
男の前に、水色のガラス質のシールドが、5個展開される。
「上等だ。」
ここで逃げたら襲撃は止められないし、何よりもう逃がしてくれるのかすら定かではない。覚悟を決めた晴人は、そのデュエルを受諾。デッキがシャッフルされ、5枚のシールドが展開される。
晴人にとっては初の、真のデュエルが始まろうとしていた。