CODE EATER:Cross Blood~改稿版~   作:Sillver

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序章
探索1 ようこそ、クソッタレな戦場へ


「アルファ1!バイタル危険域です!撤退してください!!このままでは」

 

 そう告げてくる耳元のインカムを投げ捨てて、私は神機を片手にアラガミへと向き直る。第1級接触禁忌種、ディアウス・ピター。醜悪な老人のような顔に、漆黒の身体を持つ。

 どうにかして、動きを止めさせて尻尾を結合崩壊させたはいいものの、そこからは怒り狂って手が付けられなくなった。ヴァジュラのように強力な雷属性の攻撃をしてくるくせに、背中から生えた刃翼という刃のような翼での斬撃も早い。

 アラガミは基本的に、生物の枠から外れて「冗談でしょう!!」と言いたくなるような事をやってくるが、コイツは本当に禁忌指定されているだけあって別格だ。完全に不意をつかれたせいで、私も連れていた新兵も大ダメージを負ってしまった。そのまま戦闘に入ったものの、携行品は尽きるし、体力も限界で撤退を促される始末。

 

「ああ、慣れないことなんてするもんじゃないなぁ……」

 

 ぼやきながら、振るわれる刃翼を躱す。何故、こんな事になっているのか。少しばかり時間を戻そう。

 

__2時間前。フェンリル・フランス支部、出撃準備ロビー。

 

「んーん。良く寝たぁ~。命のやり取りってやっぱ疲れるね。フウラさん、今日は何か軽めのミッションないです?」

 

 私は、大きく伸びをしながら、このフランス支部のオペレーター兼、ミッションの受発注システムを担当してくれているフウラさんに話しかけた。フウラさんは、金髪碧眼のとても綺麗な人だ。あまり、笑ったりしているところを見ないが、そのやり取りはいつも神機使いへの気遣いにあふれている。

 

「寝癖くらい、直してからここへ来てくださいといつも言ってますよね?第1部隊のアルジェさん」

「え、そんなに寝癖がついてますか?」

 

 呆れた、という顔をしながらフウラさんは私の横髪辺りをさす。その辺りは、時折はねる場所だ。

 

「思いっきり、アホ毛が飛び出てますよ。また、鏡を見ずに結んだんでしょう」

「あっちゃぁ~」

 

 ささっと寝癖を直そうと格闘していると、後ろから話しかけられた。

 

「仲がいいのだな、お前たちは。それはそうと、アルジェ。ミッションを受けてくれ」

 

 そのまま振り向くと、極東から一時派遣されているカオル・梅宮教官だった。なんでも、フェンリルが神機使いを募集し始めた最初期の人で、とても強かったらしい。五体満足でゴッドイーターを退役出来るのも中々珍しい。それだけではなく、豊かな黒髪、完璧なプロポーション。口元のほくろがとてもセクシーで、ゴッドイーターとしても女性としても私の密かな憧れだ。

 フェンリル極東支部は、アラガミ動物園なんて揶揄されているが、その分神機使いの練度は高い。そのため、他の支部もそれに続くべく極東から時折人員を派遣してもらって、訓練を受けているのだ。いつ、自分たちの支部がアラガミの大群に襲われてもいいように。そうした際に、少しでも被害を抑えるために。

 

「内容はなんでしょう?」

「新兵と一緒に、討伐に行って欲しい。外部居住区近くの防壁にオウガテイル1体が出現してな。訓練後の実践にはうってつけだ」

 

 オウガテイル。割とどこでも見かけ、そこまで動きは早くない。新兵が初めての実戦をするのに丁度いいアラガミだ。もちろん、油断すれば大怪我は必死。悪くすれば、二階級特進の憂き目に遭うだろう。

 

「私は新兵の指導役、初めてですよ?」

「だとしても、いつかはやらねばならん事だ。指導補助にはいつも入っていただろう?それに、貴様が運用データを集めているプロトタイプにもちょうどいい」

 

 私は、他の神機使いとは違う神機を使っている。『プロトタイプ』と呼ばれる可変式神機だ。神機には世代があって、それぞれ第〇世代と呼ばれており、番号が若いほど初期のものになる。第1世代の剣型神機と、それに組み込まれている盾。第2世代のオラクル細胞を銃弾として打ち出す銃型神機の2つに分けられている。剣型神機には、斬ったアラガミからオラクル細胞を奪ってアンプル化する事は出来ても、それを受け渡すには双方が近寄る必要があった。銃型神機使いは、事前に用意したオラクル細胞のアンプルを使い切ってしまえば、剣型神機使いからの補給を待つしかなく、それまで援護することが出来ない状況だった。

 その不便かつ危険な状況を打破するというコンセプトで考えられたのが、今、私の持つプロトタイプだった。神機との接続を深くすることで、剣モードと銃モードを切り替える事が出来るようになっている。得たオラクル細胞を使ってリンクバースト弾という、当たった神機使いをバースト、もしくはバーストレベルを引き上げる効果のある弾を発射出来る。これにより、神機使いの攻撃力と防御力を高めて、少しでも死亡率を減らそうという狙いだ。

 

「それと、連れていく新兵は1人だ。訓練ではいい成績を出していた。これが、奴の資料だ」

「拝見します」

 

 資料によると、新兵の名前はティモ・ルヴェル。男性で、ロングブレードにバックラーの、基本に忠実、回避やジャストガードを積極的に狙っていくタイプのようだ。少々前に突っ込みすぎる事があるようだから、そこら辺を指導していけば立派な前衛になるだろう。

 

「将来有望って感じの子ですね」

「お前も言うようになったな」

「フランス支部の第1部隊の隊長を仰せつかってますからね」

「ふ、励めよ」

 

 ニヤッとカオル教官は笑うと、手のひらをひらひらと振って去っていった。別の人にミッションを依頼したり、新人を教育しに行くのだろう。私はティモ君と合流した。

 

「やぁ、初めまして。君が、ティモ・ルヴェル君だね」

「は、はい!ティモ・ルヴェルっす!よろしくお願いするっす!!」

「うん、元気があっていいね。私が今日の実践訓練を担当するアルジェ・リュミエールです。よろしくね」

 

 出撃準備ロビーにある一角。そこは、それぞれのチームが出発前にブリーフィングが行えるように机とソファが置かれている。私は、ティモ君を茶色のソファに座らせてお茶を渡す。

 

「はい、お茶。それを飲みながらでいいからね」

「ありがとうございます、ええと……」

「君の呼びやすいようにで良いよ」

「じゃあ、アルジェ先輩って呼ぶっす!」

 

 自己紹介をしあい、程よく緊張が抜けてきた所で、作戦会議に移る。

 

「さて、ティモ君。君は今回の作戦概要を聞いているかな?」

「はい。カオル教官から聞いてるっす。外部居住区の防壁近くに、オウガテイルが出たんすよね」

「そう。そのオウガテイルを倒すのが今回のミッションになるね。数は?」

「1体っす!」

 

 私と居ることに慣れてきたのか、生来の表情の豊かさが出てきたティモ君。段々と、大きな犬を相手しているような気持ちになりつつも、注意事項を伝える。

 

「いいね、ちゃんと覚えてる。とはいえ、現地に着いたら情報と違っていたりする事もある。その時は、私の指示に従うように」

「了解っす」

 

 事前に得ている情報と食い違っている時のことを想像したのだろう。ティモ君は微妙な表情をしている。一応、群体生物が形を成したモノといえ、生き物であるアラガミを相手にしているのだ。多少は仕方ない。ゴッドイーターをやっていれば、嫌でも慣れる。

 

「最後に、なにか質問は?」

「先輩の神機は剣型っすか?それとも、銃型っすか?」

「私?私のはプロトタイプ。聞いたことない?」

「ないっす」

「あら、そうなのか。じゃあ説明するよ。剣型の神機の種類覚えてる?」

「新しく増えるらしい、開発中のやつがちょっとうろ覚えっす」

 

 聞くと、ふるふると首を横に振る。きちんと覚えていなかったりする事を正直に言えるのは良い事だ。

 

「ええっと、今あるのはショート、ロング、バスターっすよね」

「そうだよ」

 

 剣型神機は、小回りがきくショートブレード・基本的なロングブレード・重量で押し切るバスターブレードの3種類しか今までは無かった。けれど、今回の開発で新たに3種類増えることになっていた。

 

「そして、今開発中でプロトタイプが稼働中の、ヴァリアントサイズ、ブーストハンマー、チャージスピアだね」

 

 全ての神機の中でも稀有な、神機を伸ばすことで間合いを自由自在に変えられるヴァリアントサイズ。叩き潰す事に特化したブーストハンマー。貫く事に特化したチャージスピア。

 先にあげた3種類が増える事で、剣型神機は総称となった。代わりに、従来のショート、ロング、バスターはブレード型。新しく増えるものはポール型とまとめられるようになった。

 

「それで、先輩はプロトタイプのどれっすか?」

「私はヴァリアントサイズ。いやー、大鎌ってロマンだよね!こう、死神っぽくてカッコいいし。何よりも!どの神機にもない間合いを変えられる機構!!私、ゴッドイーターになって良かったって思ったよね」

 

 目を丸くするティモ君。それを見て、私はつい熱くなってしまった事を悟る。

 

「……こほん。開発陣はプロトルシアって名付けてるみたい。君のは?」

「俺のは、ブレードっすね」

 

 微妙に生暖かい視線を送られつつも、作戦会議の纏めに入る。

 

「じゃ、あとは実際のアラガミの様子を見て、軽くブリーフィングして討伐しよう。回復アイテムとかの携行品を確認してね。5分後、出撃ゲート前に集合で」

 

 きちんと時間通りに出撃ゲートに来た彼を連れて歩くこと10分。私は外部居住区の防壁の上に立っていた。防壁はとても高く、遠くまでよく見渡せる。少し辺りを見回していると、しきりに牙を防壁に突き立てているオウガテイルを発見する。防壁を破壊しようとしているのだろう。私は引きつった顔でオウガテイルを見ているティモ君の方へと向き直った。

 

「よーし、それではブリーフィングを始めます」

 

 ティモ君は緊張した顔で頷く。確かに緊張は必要だが、極度にという形容詞がつく状態は頂けない。私は、おもむろに横髪を鼻の下に持ってくると言った。

 

「ヒゲ」

 

 呆気に取られてポカンとするティモ君。上官の唐突な奇行に驚く余裕はあったらしい。そして、そのままツッコミを入れてきた。

 

「ぷっはははは、何やってんスか」

「何って、緊張ほぐし。初任務で緊張するのも分かるけれど、し過ぎは宜しくないよー。緩みすぎも良くないけれどね」

 

 そう告げると、納得と同時に笑いを収めて真面目な顔になる。程よく力が抜けて、いい顔になった彼に作戦を聞いていく。

 

「さて、ティモ君。現状、私達は目標に気付かれてないね。君ならどう動く?」

「ええと……。現状、気付かれてないから、背後から強襲をかけて一気に倒すのがいいと思うっす」

 

 緊張した顔をしつつも、しっかりと自分の考えを発言するティモ君。カオル教官がいい成績を出していたと褒めるだけの事はある。

 

「いいね。ちなみに、強襲を掛けるのは誰?私?君?」

「俺っす!だって、俺の実戦訓練っす。だから、先輩は俺が危ねぇ時のフォローをお願いしたいっす!」

「OK、ちゃんとこのミッションの意図を分かってるね」

 

 初陣だと、ついつい先輩に先陣を任せたくなるだろうに、それをきちんとねじ伏せていた。そんなティモ君に私は笑みを浮かべながら、散歩でもしに行くように告げた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 そう告げると、高台から飛び降りて戦場へと向かう。ゴッドイーターは、その偏食因子の作用によって、体がとても頑丈になる。それこそ、ヘリから飛び降りたり、高台から飛び降りたくらいでは、傷ひとつつかないほどに。

 

「部隊の降下を確認。計器に異常はありません。どうぞ」

 

 身につけたインカムから、フウラさんの声が聞こえてくる。どうやら、今のところ通信環境は良さそうだ。

 

「それじゃ、作戦通りやるっす!」

「了解」

 

 ティモ君がオウガテイルに向かっていくのを眺めつつ、私は周囲を警戒する。ティモ君は上手く背後を取り、神機を大きく振りかぶってオウガテイルの背中に叩きつけた。途端に上がる大きな鳴き声。オウガテイルはティモ君に振り向きざま尻尾で攻撃しようとするが、彼が距離をとる方が早く、当たることはなかった。

 ティモ君はそのまま冷静にオウガテイルの動きが止まるのを見計らって、再度突進して攻撃を仕掛ける。しかし、今度は相手の方が一手早かった。

 

「ティモ君!!」

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