CODE EATER:Cross Blood~改稿版~   作:Sillver

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探索2 祝福と10秒後の地獄

 ティモ君に攻撃があたる直前、用意していたスタングレネードを投げる。それは狙い過たずにオウガテイルの目の前で発光する。眩しい光と音が辺りを包む。その隙に、私は銃形態にしてオウガテイルを撃ち、ティモ君から距離を離す。

 

「大丈夫?」

「だ、大丈夫っす。先輩、ありがとうございます」

 

 ティモ君は青い顔をしながらも、しっかりと返事が出来ている。さっと彼の全身に目をやり、怪我がないことに安心する。この様子なら、オウガテイルを倒しきるまで相手をしてもらっても大丈夫だろう。

 

「弱い部類のアラガミだけど、油断すると危ないよ。あと、バーストは基本的にどんなアラガミでもしておいた方がいい。それだけで、攻撃も防御も強くなるから」

「りょ、了解っす!」

「じゃあ、奴さんもまだやる気みたいだし第2ラウンドと行こうか」

 

 飛び下がって私は射線を確保する。敵味方識別信号のおかげで味方からの誤射はある程度ダメージが軽減される。とはいえ痛いものは痛いし、それによって動きが鈍ると、どんな時でも致命的なことは起きてしまう。そうならないように動くのはガンナーの基本だ。逆に、前衛はガンナーの元へアラガミが行かないようにダメージを与えて、その場に釘付けにするのが仕事だ。

 その点、ティモ君は本当に優秀だ。初めての実戦で体がすくみ、棒立ちになってしまって一時戦闘不能状態に追い込まれ、同行している先輩にリンクエイドされる新兵も多い中、きちんとダメージを与え、その上で回避や盾による防御も出来ている。

 

「うおりゃぁぁぁ!!」

 

 裂帛の気合と共に、ティモ君はブレードを大きく振りかぶり、オウガテイルの首筋に斬撃を放つ。アラガミは、オラクル細胞が集まった群体生物の癖に、本物の生き物のように弱点などが存在する。ティモ君は、上手くそこに当てたようで、オウガテイルは一瞬大きく体を震わせると地面に倒れ伏して動かなくなった。

 しばらく静寂が流れる。ティモ君がこちらに視線を寄こしてきたので、笑顔で彼を促す。彼は神機を捕食形態にすると、倒れ伏したオウガテイルに喰らいつく。バキバキという大型動物が骨などを物ともせずに食事をしているような音が辺りに響く。ややあって、神機が元の形に戻る。

 

「おや、レアモノだ。幸先いいね」

 

 神機で倒したアラガミを捕食すると、素材を得られる。その時、コアの光り方で得た素材のランクを知ることが出来る。

 

「俺、本当に、本当にアラガミを倒したん、すよね……??」

「そうだよ。ほら、見て」

 

 ちょうど、ティモ君が倒したアラガミが霧散していくところだった。アラガミは、倒してしばらくすると、その体は勝手に霧散し、跡形もなくなっていく。そして、再びどこかでアラガミとして再生する。

 ティモ君は、アラガミが霧散し終わるのを見届けると、急にブルブルと震え始めた。戦闘中にどこか痛めたのかと焦っていると__。

 

「ぃやったぁぁぁぁぁあ!!アラガミ、倒したー!!うおおおお!!やれたんだ!俺、やれたんだ!!」

「そうだね。初めての実戦なのに、ちゃんと動けてたよ」

「そうですね、こちらからの観測でもよい動きをなさっていました」

「ありがとうございます、アルジェ先輩!フウラさん!」

 

 どうも、実感と喜びが表に出てくるまでのタイムラグだったらしい。怪我はないようで安心した。

 

「俺、めちゃくちゃ緊張してたんすよ。けど、先輩が笑わせてくれたから、リラックス出来て。他にも、俺が戦いやすいようにサポートしてくれて。本当にありがとうございます!俺、先輩みたいなゴッドイーターになれるように頑張るっす!」

「おや、嬉しいことを言ってくれるね。ありがとう。……この先、この仕事を続けていったらしんどいこともあると思うけど、いつでも相談してきてね。一人で抱え込まないように」

「はい!」

「じゃあ、帰投じゅ」

 

 私の言葉を遮ったのは、耳につけたインカムから響くひどく焦った声だった。それまでのゆったりとした空気が一瞬で凍り付く。

 

「緊急連絡です!!想定外の大型種がそちらへ接近中!あと10秒です!……どうして、こんなに近づくまで反応が……!?」

 

 長くオペレーターをしているフウラさんが焦っている。これは、並大抵の大型種ではないのだろう。けれど、ここでフウラさんが焦ったままだと、最悪が起きてしまうかもしれない。10秒という短い時間を有効に使わねば。

 

「落ち着いて、フウラさん。大型となると、私1人じゃ手が回らない。大至急、応援を。あと、帰投準備も急いで!」

 

 ティモ君は先程までの喜びの表情が一転、今は困惑に彩られている。急な落差に対応しきれないのだろう。それでも、自分がどう動くべきかを必死に考えようとしていた。

 

「せ、先輩……?」

 

 そんな若い芽を、ここで潰えさせるわけには行かない。新人は、未来への希望。明日を繋ぎ、不可能を可能へと導くかもしれないのだ。

 彼の不安を和らげるように、穏やかに告げる。

 

「今日の君のお仕事はここまで。ここから先は、私と他のゴッドイーターの仕事。君は、生きて帰ることだけを考えなさい」

 

 ティモ君が了承し、動き出そうとしたときに、そいつは高台から睥睨するように現れた。エジプトに伝わるスフィンクス。それから神聖性を剥ぎ取り、醜悪に歪む老人のような顔。漆黒の虎のような胴体。__間違いない。第1級接触禁忌種、ディアウス・ピター。近頃、目撃情報が上がるようになったアラガミだった。

 

「特別手当に期待、かなぁ。フウラさん、ティモ君に帰投ポイントの指示を。私は、ちょっとでっかいにゃんこの相手をしてきます。応援部隊は到着次第、このあたりの民間人の避難誘導をお願いします。多分、そこまでの余裕はないから」

「了解しました……!どうか、ご武運を!!」

 

 戸惑ったまま、ティモ君が声を投げかけてくる。私は高台に目をやったまま答える。

 

「先輩……」

「さ、ティモ君。君は今からフウラさんの指示で動くんだ。いいね?」

「民間人の避難誘導なら、俺にだって!」

「黙りなさい。今日が初陣の新兵に、混乱を起こさずに大勢の人間を移動させられるとでも?……はっきりいいます。貴方は、足手まといです」

 

 ピターの両足に力がこもる。様子見をしていたのは、あちらもこちらも同じだったようだ。神属性の弾を銃身に込める。オウガテイルだから、お気に入りのサベージヘイルでも構わないだろうと思って持ってきていてよかった。おかげで、ディアウス・ピターに対して優位に立てる。

 

「行きなさい!あいつは私が相手をする!!」

 

 言うが早いか、サベージヘイルから弾丸が飛び出す。一撃は重くない連射弾だが、連続でヒットさせると当たったアラガミを怯ませる効果がある。私はティモ君や外壁から離れるように移動しながら、銃弾を浴びせていく。

 

「先輩、絶対、絶対生きて帰ってきてください!」

 

 言いながら帰投ポイントの方へと駆けだしたティモ君を確認する。怯みから復帰したディアウス・ピターは低く唸ると、私に狙いを定めたようだった。グッと重心を低くし、全身のバネを活かして飛び掛かってくる。高台からの高低差もあり、そのままでは大ダメージを喰らうだろう。

 私はステップを踏んでその場から離れる。ディアウス・ピターが着地した瞬間に、近接形態に戻したプロトルシアで斬り付ける。軽くついた傷跡を抉る様に捕食。神機を解放し、バースト状態へ。深追いしすぎると攻撃を喰らってしまうため、一度離れる。

 

「アルファ1、バースト状態へ移行しました!応援部隊は、20分後に到着予定です。なんとか、持ちこたえてください!」

「了解。ティモ君は?」

「順調に帰投ポイントに向かっています」

 

 ティモ君がきちんと帰投ポイントに向かっていると知って安心する。心置きなく、ディアウス・ピターと戦える。やつは、体をブルブルと震わせるとこちらを見た。まるで、『お前の攻撃など、なんの痛痒も感じない』と言わんばかりに。

 

「Gyaaaaaaaa!!!!!」

「!!」

 

 雄たけびを上げると、こちらに突進を仕掛けてきた。装甲を展開して防ぐが、一撃が途轍もなく重い。その重量に押されて、足元が滑る。地面に2本の線を刻みながら、ようやく止まる。その隙をついて、ディアウス・ピターの腹の下をステップで搔い潜り、背後を取る。

 

「ヴァジュラ系のアラガミって、尻尾が弱点なんだよね!!」

 

 飛び上がって、バースト状態で可能な二段階目のジャンプを行う。すると、目の前には太くゆらゆらと揺れる尻尾があった。プロトルシアはヴァリアントサイズ。大鎌の先端で攻撃するときに最大の威力が出る。私は、尻尾めがけて思いっきり横薙ぎにする。

 今までの軽い手ごたえとは異なる、重たい感触が帰ってくる。これは、きちんとアラガミの弱点を捉えたときに起こるものだ。その感触に手ごたえを感じていると、周囲が青白く光る。

 咄嗟に装甲を展開しようとするも、ディアウス・ピターの方が一歩早かった。周囲に電撃が走る。

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

 中途半端に展開しかかっていた装甲をしまい、そのまま雷撃を喰らいながらもディアウス・ピターの攻撃範囲から脱出する。しかし、その場で動けなくなってしまう。

 

「スタンか……」

「アルファ1!」

 

 麻痺して動けなくなった私に、ピターの爪が迫る。反応の鈍い体を動かして、なんとか直撃は免れる。しかし、アラガミの膂力で体は簡単に鞠のように地面をバウンドしていく。

 

「アルファ1、バイタル危険域です!」

 

 神機を杖代わりにして立ち上がる。お気に入りの服はあちこち破けていた。腰につけているポーチを探って、回復錠・改を取り出して飲み込む。オラクル細胞が活性化して、傷を急速に癒していく。

 

「回復錠、残り使用回数9回です」

「やれやれ、参ったね。応援は残りどのくらい?」

「すみません、向かっている最中に別のアラガミと交戦状態になりました」

「本格的にツイてないね」

 

 ぼやいていても仕方ない。私は、私のやるべきことをやらねば。このまま、もっと防壁からディアウス・ピターを引き剝がしておかないと、民間人に被害が及ぶ。

 

「アルファ1、まもなくバースト解除です」

「バースト切れたら、こんなのの相手してらんないよっ……!!」

 

 傷が治っていくのに任せて、再度肉薄。痛みを無視して今度は正面から捕食。ディアウス・ピターはまた大きな鳴き声をあげる。その声を無視して、ステップを2つ踏んで少し離れる。

 神機との接続を深くする。すると、コアが淡く光った。この光り方は、特殊機構の制御が可能になったことを示す。私が、あえてディアウス・ピターと離れたのもこのため。いっそう神機を強く握って一閃する。プロトルシアは、私の意図を汲んで柄を伸ばしていく。禍々しいまでの刃たちが、ディアウス・ピターに届く。ガリガリと鎧のようになった前足を削った刃先をそのまま持ち上げ、まっすぐに降り下ろす。仕上げとして、伸ばした神機を元の形状に戻して相手の出方を伺う。

 

「Gyaaaaaaaaa!!」

「そんなに叫ばないでよ。民間の方々が怖がるでしょうが」

 

 口では余裕を装うが、実のところそんなに余裕ではない。傷は回復錠で癒せても、痛みは残る。どんなに訓練を重ねて、痛みを無視できるようになったり軽減できても、ふとした時に足を引っ張ってくる。

 彼我に僅かに距離ができる。私も向こうも、本気の間合いだ。プロトルシアを構えて、即座に動けるようにする。ピターの足に力がこもるのが見えた。しかし、これはブラフだったらしい。

 

「アルファ1!上です!!」

 

 上という指示に、その場から全力で後退る。それと同時に、高エネルギーのオラクル弾が私のいた位置に着弾する。

 

「うーん、中々賢いやつだなぁ。フウラさん、ありがとう」

「いえ、これがオペレーターの役目ですから」

「Gurururururu」

 

 だまし討ちをしようとしたのに、上手く決まらなくて不満げなピターから目をそらさずに状況を確認していく。こちらの反応をうかがっているらしい。アラガミの癖に、どうにも人間臭いやつだ。

 

「私のバイタルは?」

 

 そんな奴の様子を良いことに、確認すべきことをしていく。

 

「まだ、継続戦闘可能時間残ってますが、30分くらいです……」

「オーケィ、それだけあればどこかの部隊が合流できるでしょう。まあ、万が一の時は私一人で倒すつもりで行こう。なぁに、極東支部だとヴァジュラを一人で相手どれて一人前とか言うらしいし」

「本気で言ってます?」

 

 私は見えてないのを承知で笑って言う。

 

「ゴッドイーターだからね」

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