CODE EATER:Cross Blood~改稿版~   作:Sillver

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第1部 血を喰らう者 第1章 崩壊都市地下
探索4 白い少女との出会い


 目を覚ますと、知らない少女が声をかけてきた。感覚から察するに、私は少女に膝枕をして貰っていたようだ。目を瞬かせていると、最初はぼやけていた視界が段々とクリアになってきた。

 少女は、フードを被り、白髪と金の目をしていた。ずっと見ていると引き込まれそうな瞳から目をそらして起き上がる。何故、こんなことになっているのかを思い出そうとするが、上手くいかない。それに、酷く『渇いて』いた。

 

「気分はどうですか?」

 

 少女が声をかけてくれるが、答えようにも酷く掠れた声しか出ない。このままでは会話が不可能だと判断した少女は歩き始めた。どこか、水場にでも案内してくれるのだろうか。酷く渇いて、動かしづらい体を無理やり動かす。ノロノロとした私の歩みに怒ることなく、少女は私に寄り添って歩いてくれる。

 あちらこちらをきょろきょろとしている私を見て、少女は言った。

 

「私も覚えていないのです」

 

 私も、ということに疑問を覚えつつも歩いていくと、少し離れた所に白い木が見えた。その木を見ていると、より渇きが酷くなった。まるで、その木へ行けば渇きが癒えることを知っているかのように。

 ノロノロとした動きでも、動き続けていると目的地には辿り着く。少女は、しゃがんで白い木に触れると予想していた、というような表情をした。

 

「どこも皆、渇いている……」

 

 少女から少し離れていた場所に立っていた私は、呼ばれて白い木に近付くと突然、今までよりもずっと激しく、苦しい渇きを覚えた。そして、その中で脳裏にこの場にいる少女ではない少女と差し伸べられた手が浮かぶ。

 

「大丈夫」

 

 何が大丈夫なのだろうかと思いつつも、苦しさでうめき声しかでない。このままでは、苦しさのあまり少女を襲ってしまうんじゃないかと考え始めた時だった。彼女は、私の腕を取ると噛みついた。血が地面に落ちる。すると、木が輝き始めた。輝きが収まると、木は赤い雫型の実をつけていた。

 

「これをどうぞ」

 

 差し出された実を口にする。てっきり、固形物だと思っていたが違った。中にあったのは、液体だった。人の血のような味のそれを口にしたとたん、渇きが癒されていくのを感じた。体のだるさもどんどんとなくなっていく。夢中になって飲み干すと、私はそれまでの疲れからか、座り込んでいた。

 

「さっきの赤い実は一体?」

「これは、『血涙(けつるい)』と言います。私達、『吸血鬼(レブナント)』が人の血の代わりに糧と出来るものです」

「吸血鬼?」

 

 そこから、私は自分が何も覚えていないことを悟った。どうして町がこんなことになっているのか。これについては、少女も良く分からないらしい。彼女は私の隣に腰を下ろすと、吸血鬼や血涙の他にも、自分の使命は覚えているのだと教えてくれた。

 

「吸血鬼は、人とは違い、食事や睡眠を必要としません。心臓に埋め込まれたBOR寄生体の働きによって、死すらも克服しています。その代わりに、渇きを覚えます。この渇きは、吸血鬼が血に飢えると発生します。吸血鬼は、人の血、あるいは血涙を摂取しないと自我を保てないのです。自我喪失を起こしたものを堕鬼と呼びます」

「じゃあ、血涙を定期的に摂取していれば大丈夫なんだ」

「そうです」

 

 私のさっきの状態は、自我喪失しかかっている寸前で、危ないものだったのではなかろうか。内心、冷や汗を流しつつ、彼女が傍に居てくれたことに感謝をする。しかし、気になることもあった。

 

「死を克服って?」

「吸血鬼は、心臓にあるBOR寄生体を破壊されない限り、真の意味では死なないのです。このBOR寄生体が生きている限り、ヤドリギで何度でも死に戻る事が出来るんですよ。ただ、この生き返った時に記憶が欠損している事があるので、やはり、死なないに越したことはありません」

「うん、やっぱり上手い話には裏があったか。安全な拠点を探さないといけないね。こうも荒廃していると、人も吸血鬼も荒んでそうだし」

 

 起きたばかりで、知った驚きの事実。私、人間をやめていたらしい。なんてこった。とはいえ、不思議とそのことにショックはなかった。人の血のような味の血涙を、人間であれば飲み干したり出来るはずもない。そもそも、泉――少女が言うには、正しくは血涙の泉を、己の血を垂らしただけで急成長させるなんて事、出来るはずもない。渇きに襲われていたが、中々ファンタジーな現象だった。

 

「私の使命は、貴方に寄り添うこと」

「寄り添うって言われても。私は何も覚えてないから、何も返せないし。それよりも、ここから逃げて安全に暮らせる場所を探したほうがいいんじゃないかな?」

 

 私の言葉を聞いて、彼女はわずかに悲し気な表情をする。どうしたって、私と行動を共にするつもりのようだ。

 

「分かった。けれど、私が逃げろと言ったときはちゃんと逃げて。庇えるかどうか分からないけれど」

「構いません」

 

 自分が出来ること。戦うことは出来る。それだけは覚えていた。少女が戦えるか分からない。それでも、彼女が私よりも長く生きられるように頑張ろうと思った。よりによって、ほとんど何も覚えていない私に寄り添うだなんて使命を与えたモノに、少しばかり怒りを覚えた。とはいえ、この荒廃した町でずっと怒りを抱いていても始まらない。何か、少しでも建設的なことを考えたほうがよさそうだ。

 

「あ、ねえ。貴方、お名前は?お互い、記憶喪失といえど、名前くらいは思い出せないかなって思ってさ」

 

 そこで思いついたのが、互いの名前を思い出すことだった。これから、どのくらい長く付き合うことになるか分からないが、一緒に過ごすのに、相手の名前が分からないのも味気ない。そう思っての提案だった。

 お互いに唸る事しばらく。口を開いたのは、白い少女だった。

 

「私の名前は、イオ……だったような気がします」

「了解、イオ。私の名前は、アルジェ。思い出そうとしたら、なんかこれが思い浮かんだんだ」

 

 それ以降もとりとめもない会話を重ねていく。物静かだが、聞き上手なイオとの会話は楽しい。しかし、体は堕鬼化しかけていた影響か、かなり疲弊していた。段々と瞼が重くなっていく。眠気に抗っていると、イオはじっと私を見つめてきた。

 

「眠いのですか?」

「……そうだね。何だかとても眠い」

「お休みになってください。私が周囲を見ていますから」

「うん、ごめん……」

 

 起きたら、彼女にお礼を言おう。そして、イオにも休憩してもらおう。そんな事を思いながら、私は眠りに落ちたのだった。

 

 

side:イオ

 

 

 自身の記憶がないのだと言いながら、それでもにこやかな方だ。ここに居るからには、常識であるはずの吸血鬼の情報もなく。だというのに、情報を得て、私の使命を話すと、己よりも見知ったばかりの私を優先する。死を克服し、代償があるがヤドリギで死から復活できること知っても。

 艶やかな黒髪、黒と灰が混じった瞳。全てを染めてしまう色を持ちながら、そうはしまいとするかのような振る舞い。きっと、彼女は人であった時からそういう人物だったのだろうと思わせた。

 

「荒廃したこの世界ですが、今だけはゆっくりとお休みになってください」

 

 するりと流れ落ちる黒髪を撫でながら、周囲に目をやろうとした時だった。複数の足音が耳を叩く。そこには、浄化マスクで顔を覆った二人の吸血鬼がいた。が、どうも友好的ではなさそうだ。彼らは、手にした武器をこちらに向けた。

 

「新しい泉に、労働力。ハッ、ツイてるな」

「立て、仕事の時間だ」

 

 言っている事の意味が分からず、思わず首をかしげてしまう。彼らの属するコミュニティに所属した覚えはなかったからだ。

 

「早く立て、いくら死に戻れると言っても、痛い思いはしたくないだろう?……なんなら、そこでのんきに寝こけてやがる奴だけ連れて行って、あんたはヤドリギ送りにしたっていいんだぜ?」

 

 せっかく、渇きから解放されて穏やかに眠り始めたアルジェを起こすのは忍びない。起こさないようにそっと背負う。彼らはこちらの行動に満足そうに頷くと、先頭に立って歩き出した。

 

「起こさなかったことを、貴方は怒るでしょうか……」

 

 私の呟きを聞きとがめたらしい。茶髪の吸血鬼は不機嫌を露にして来た。が、隣にいた金髪の吸血鬼に宥められて再び歩き出した。

 

「あの泉があれば、今度の血税の徴収日には間に合いそうだな」

「そうだな。シルヴァの野郎、人間を独占したあげく、血涙まで……。サーベラスさえ居なけりゃ!」

 

 二人にも何かしら事情があったようだ。だが、それは私とアルジェには関係がないように思えた。しかし、武器もない私達には抵抗のしようがない。何より、アルジェを起こすのは嫌だった。

 彼らの会話を聞くともなしに聞いていると、不意に立ち止まった。目の前には、比較的しっかりと形を残した建物があった。ここが目的地らしい。促されるまま、梯子を降りていく。そこには、捕らわれたらしい吸血鬼が何人もいた。

 ガガッという音がしたかと思うと、梯子が引き上げられていた。他に出られそうな所はないかと探すが、破れた窓は、赤い霧に接している。あの霧は、触れると鋭い痛みと恐怖をもたらす。なるほど、これではここから脱出するのは難しい。

 

「暫くは休憩だ。そこで大人しくしているんだな」

 

 アルジェを背負ったまま、どうしたものかと思っていると、声をかけてきた吸血鬼がいた。

 

「そこの柱のあたりにでも座ったらどうだ?立ったままだと疲れるだろうし、お連れさんもずっと背負ってるわけにもいかんだろう?」

「そうですね。ありがとうございます」

 

 勧められた柱に彼女を下ろす。そして、私も座る。座ると、どっと疲れが押し寄せてきた。柱にもたれさせたアルジェを見ると、険しい表情をしていた。嫌な夢でも見ているのだろうか。そっと、自分の膝に寝かせる。すると、夢の内容が変わったのか、穏やかな表情になった。

 

「大切な人なのかい?」

「はい」

「そうか。このご時世だ。そんな奴に出会えるなんて幸運だったな。……あんたも、寝るといい。疲れた顔だ。そんなんじゃ、お連れさんも心配するぜ?」

 

 話しかけてきた彼に、うなづきを返す。アルジェの髪に触れながら、私も目を閉じた。

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